第1話 ビューティー仮面登場
穏やかな昼下がりの公園で、若い男女のカップルが仲睦まじく寄り添いながら、周囲を散歩している。
「本当にいい天気だね、アマ子ちゃん。こんな日にアマ子ちゃんとデートが出来てとてもうれしいよ。」
「そうね、たかし君。たかし君の日頃の行いが良いから晴れたんだよね、きっと。」
「いやだなあアマ子ちゃん、アマ子ちゃんの日頃の行いがいいからだよ、きっと。」
「もう、たかし君ったら!」
二人しかいない広々とした公園で、恥ずかしそうにお互いを見つめる。
「ねえ、ほら見て!アマ子ちゃん、あの噴水。あの噴水にコインを投げて願い事をすると、願いが叶うって言われているんだよ。僕たちもやってみようよ。」
「そうね、やってみましょう!」
噴水の前で立ち止まる二人。たかしとアマ子はそれぞれ小銭を一枚投げ入れて、手を合わせて願い事をする。
「何の願い事をしたの?」
「え?何って・・・アマ子ちゃんと幸せになれますようにって。」
「ええ!?もう、いやだわ、たかし君ったら。」
「アマ子ちゃんは?」
「私はね、たかし君が早く会社を辞めないかなって願っていたの。」
「え?どうして?!アマ子ちゃん。それは酷いよ。」
「だって仕事辞めないと、うちの会社を継ぐことが出来ないでしょ?だから早くやめろーって願ったの。」
「アマ子ちゃん・・・もう、アマ子ちゃんが世界で1番可愛いよ!」
「もう、たかし君ったら。さっき食べた秋刀魚のしっぽが顔についているぞ。」
「あ、本当だ!もう、アマ子ちゃん、もっと早く教えてくれればいいのに〜。恥ずかしいじゃな〜い。」
ドーン!と、突然、噴水の中で大きな音がする。二人が驚き、物怖じしていると、噴水の床の部分に大きな亀裂が入り、中から恐ろしい魔物が勢いよく飛び出してくる。
「きゃー!助けて〜たかし君〜」
そこには青い顔をした恐ろしい目つきの怪物が佇んでいた。手足は青く胸や胴回りが暗い灰色で、尖った耳に赤いしっぽを持っており、アマ子の肩と手を掴み、奪うように引きはがして、たかしの方を睨みつける。
「誰だ!お前は!」
「グワッガッガッ、男と女に欲望アリ、煩悩の影に悪魔アリ。俺様は己心の魔に住み着く闇、魔狗瓶様だ。悪の想念が幾重にも積み重なり、千年の眠りからようやく復活をすることが出来たのだ!たかしという小僧よ!お前の悪の想念が最後の一念となってこの俺様を呼び起こしたのだ!礼を言うぞ!」
「訳のわからないことを言いやがって!おい!アマ子ちゃんを離せ!」
「グワッガッガッ、何を言うか!お前のこの女に対して放った嘘が暗闇の想念を放ち、俺様を解き放ったのだ!」
「嘘を言った?何言ってんだお前!僕のアマ子ちゃんへの気持ちはなあ、純粋な気持ちで満たされているんだよ!嘘なんかついていないよ!」
「フッ、お前こそ何をほざいていやがる!お前はな、この女の実家のお店なんて継ぎたいとなんて思っていないんだ!その偽りの心が最後のトリガーになったのだ!」
「え?たかし、どういうこと?本当なの?」
「違うよアマ子ちゃん!そいつが嘘を言っているだけだよ!」
「アマ子という女、この男はなあ、お前んちの吹けば飛んでいくような駄菓子屋を継ぐ気持ちなんて微塵も持っていないっていないんだよ!なあ、たかし!」
「何を勝手なことを言っていやがる!そんな今にも消えて無くなりそうな駄菓子屋だなんて思ってなんかいないよ!騙されないでアマ子ちゃん!」
「・・・たかし君。」
「く!駄目だ!アマ子ちゃんが悪魔みたいな化け物に騙されている!誰かー!誰か助けて〜!」
「トォーウ」
眩しい光と共に、マント姿の男が彗星のように現れる。流線型をした白が基調の服装に赤いガーベラの花が装飾されたマスクをした男が、たかしの前で仁王立ちしている。
「誰ですか?」たかしが目の前に現れた謎の男に話しかける。
「美しきは人を愛し、人を許す心。醜きは曲がった美しきを愛する心。美と愛の戦士、ビューティー仮面、見参!少年よ!私が来たからにはもう大丈夫だ!安心したまえ!」
「ビューティー仮面?え〜と、僕はもう25歳なんですけど。まあ、とりあえずいいとして、僕の彼女のアマ子ちゃんを助けてください!あの化け物をやっつけてください!」
「ハッハッハ!任せたまえ!たとえお前のブサイクな彼女のためであろうと、私は愛と正義の名のもとに恥じぬよう、彼女を救って見せよう!」
「誰がブサイクだこの野郎!ふざけんじゃねえよ、おい!・・・まあ、今はいい。とにかくあの化け物をやっつけてくれよ!」
「グワッガッガッ、なんだこのナルシスト野郎!俺様に勝とうなんて100年早いわ。これでも喰らえ!メタボリック・シンドロームビーム!」
ネバネバした粘液を筒状に放射するが、ビューティー仮面はマントをなびかせさらりとかわして見せる。
「おお!やるじゃないか、ビューティー仮面!」
「今度はこちらの攻撃だ!醜き悪魔よ、これを受けてみよ!ビューティー・スクランブル・アタック!」
仮面の手から泡状の光線のようなものが怪物に直撃する。
「グギャー!」悪魔は電流が走ったような衝撃を受ける。
「おお!やっつけたか!?」
「グッ・・・グワッグワッガッー!」
悪魔はグッと耐えて、再び戦う姿勢を構える。
「ビューティー仮面!ダメージが当たっていないじゃないか?ぴんぴんしているぞ!」
「ハッハッハ!果たしてそうかな?奴をよく見てみろ!」
「よく見ろって・・・は!そういえば、さっきと雰囲気が違う!」悪魔の佇まいの変化にきがつくたかし。
「鋭い眼差しの中に潜むニヒルな瞳、滑らかなあごのラインと輪郭線、それに厚めの唇を引き立たたせる端正な鼻筋、悪魔がイケメンになっている!」
「ハッハッハ!たとえ醜い魔物であっても、私の手にかかれば美しくなるのだ!」
「いや、違うだろ!倒しくてくれよ、あの化け物を!悪魔が美しいとか美しくないとかどうでもいいから!・・・て、駄目だアマ子ちゃん!そんな化け物に惚れるんじゃない!そいつの身なりを見て!口元から牙が出てるから!しっぽが生えた化け物!どうしてくれるんだビューティー仮面!」
「ビューティー・スカイ・キャリブレーション!」
ビューティー仮面がおでこに両手の人差し指と中指を添えてビームを発する!
「グワッガッガッ!そんなものこうしてやる!」
怪人は腕をつかんでいるアマ子の後ろに回り込み、アマ子を盾にする。
「アマ子ちゃーん!・・・お”い!ビューティー仮面!どうしてくれるんだ!?アマ子ちゃんが・・・」
「ハッハッハ、心配はいらないさ、クソガキ。彼女をよく見てみな。」
ビューティー仮面の放ったビームのしぶきが収まり、アマ子の姿が良く見えるようになる。
「アマ子ちゃん!大丈夫?!」
「たかし君!大丈夫よ!それより、ちょっとなんか、体が変なんだけど・・・」
「体が変?・・・アマ子ちゃん、背中だよ、背中!背中がまっすぐに!猫背が治っているよーっておい!変態仮面!さっきから何やっているんだよ!お前は!早く助け出せよ!いい加減にしろ!」
「クワックワックワ、どうやら正義の味方ではなく、アホの変態コスプレ野郎に過ぎなかったみたいだな!今度こそ受けてみよ!メタボリック・シンドロームビーム!」
「ふん!同じ攻撃をして来ても無駄だ!」
再びひらりと体を入れ替えて華麗にビームをかわすが、かわしたビームがたかしに当たりドロドロの泡まみれ状態になる。
「たかし少年よ、大丈夫か?」
「・・・さっきから何をやってくれているんだ?スゲー気持ち悪いんだけど。お前なんかを頼りにした俺が間違っていたんだな。」
「よし、わかった!決着をつけよう!ビューティー・ハイパー・キャノン!」
空から3mにもなる巨大な大砲が突如として現れる。
「なんだそれは!そんなものどこに隠し持っていたんだ?う・・・なんだ?体が引き寄せられていく・・・」
魔狗瓶はハイパーキャノンに引きづり込まれるようにして中に入り込み、アマ子はようやく解放される。
「さあ、悪魔よ!美しく羽ばたくのだ!発砲!」
掛け声とともに怪人は美しい弧を描くようにして、遥か彼方へ飛んでいく。
「クェー!なんてこった〜、覚えていろよ〜」
星のように光って悪魔は完全に姿を消す。
ビューティー仮面はたかしの方に振り向き、ドロドロの泡の中から引っ張り出し、たかしは解放される。
「ありがとうビューティー仮面!最初からそのキャノン使えよって思ったけど、アマ子ちゃんを助けてくれてありがとう。さ、アマ子ちゃん、もう大丈夫だよ!」
「ハッハッハ、ビューティー仮面には有終の美こそが似合うのだ!それではさらばだ!またどこかで会おう!」
ビューティー仮面がその場を去ろうとすると、アマ子が腕をつかんで引き止める。
「お嬢さん、お怪我はないかい?」
「思い出したぞ!さっき、散々酷いこと言っていたじゃねえか!アマ子ちゃん!もう終わったからそんな奴ほっておいて行こうよ!」
アマ子は右手でたかしを指さしてビューティー仮面に話しかける。
「さっきの技でたかしの顔をイケメンに変えて!」
「いい加減にしろこのブスが!」