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匿名[i]  作者: 神奈
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罪責

部屋に戻り、匿名掲示板[i]の動画サイトを見ながら仕事をしようとパソコンの画面に目をやる。自分のアイコンに赤い通知マークが付いていることに気づいた。




ダイレクトメール、普段は通知が来ることがほとんどない芳人のアカウントに見慣れないDM①の数字があった。




「まさか...上司にバレたか!?」




冷や汗が身体中を巡る。上司や会社への悪口を書いたこのアカウントを仮に上司に見られたのなら、職を失うことは不可避だろう。恐る恐るDMを開く。差出人は【カエデ】と名乗る人物だった。その内容は芳人を別の意味で焦らせた。




[谷口芳人様


こんにちは。いきなりですが、あなたの娘さんを誘拐させて頂きました。あなたの娘さんは今ここにいます。返して欲しければ9時30分までにここに来てください。警察などに連絡をすれば命はないと思ってください。]




現在時刻は9時15分。指定された場所は自宅から10分あれば着く距離だった。方向的に瑠璃の登校経路だった。




誘拐犯の目的は何なのだろうか。金の請求はなかった。大急ぎで準備をしながら思考を巡らせる。足元に置いてある昌子の買ったであろう見覚えのないよく分からない宗教の分厚い本に足をひっかけ、頭を強く打つ。いつもならまた新しい本を買ってきたのかと説教を垂れるところだが、そんなことはいまはどうでも良い。




車を走らせ、目的地へと向かう。一般道の法定速度を大幅に超え、アクセルを力いっぱい踏み込む。駐車場に着くなり、車を乗り捨てる勢いで降りる。今は使われていないその工場は埃っぽく、廃材などが散らばっていた。工場の真ん中に小さな影がふたつあり、そこには椅子に縛られ意識を失っている瑠璃と仮面を被った小柄な人物が包丁を持って瑠璃の前に立っていた。




芳人は近くの置いてあった鉄パイプを手に取り、仮面の人物に走り出す。今やらないと瑠璃が死ぬかもしれない。ガーンという鈍い音が鳴り、血が地面に染みる。その死体には全く興味を向けず、急いで瑠璃のもとへ向かう。




瑠璃の意識はまだ戻らない。椅子に縛られた瑠璃の紐を解き、救急車を呼ぶ。救急車が来る前に急いで死体を隠すことにした。地面に流れた血は木の厚板を乗せて隠した。病院には昌子が行ってくれるらしい。救急車を送り出し、死体をどうするか考えていると後ろから物音が聞こえてきて、芳人の心臓は悲鳴をあげた。




「あの、もしかしてあなたもDM貰った方ですか?」


「そうですけど、あなたもですか?」


「そうなんですよ。よかったひとりじゃなくて...」




華奢な体つきで、見るからに不健康と言った感じだった。きっととても綺麗な人だったのだろう。だが今は疲労で今にも倒れそうなイメージだった。名前は熊澤律(くまざわりつ)というらしい。お互い同じ【カエデ】という人物からのDMが届いたということで掲示板アカウントのフォローをすることになった。



熊澤は5年前、木曽のログハウスで起きた【木曽事件】と呼ばれる未解決事件の被害者の母親だった。16歳の誕生日、スキー旅行に長野県木曽町に友達3人と行き、一泊してくる予定だったが、宿泊予定のログハウスで事件が起きた。




チェックアウトの時間を過ぎても鍵を返しに来ないのを疑問に思った管理人がログハウスへ行くと、3人の生首がダイニングテーブルの椅子に置かれ、3人の人肉でできたスープがテーブルの上に乗せられていた。現場に残った指紋を確認しても怪しいものは見受けられなかった。




結局、犯人は捕まることなく現在も逃走を続けている世紀の未解決事件として知られていた。




芳人もその事件についてはよく知っており、当時は震え上がったものだ。少しずつ打ち解けていると、さらに【カエデ】からのDMを受けたという人が後から3人集まってきた。




1人目は塚本紗枝(つかもとさえ)という警察官だった。熊澤に比べると大柄だが、芳人に比べると小柄に見えた。警察官なのに制服を着ていなかったので聞いてみると、今日は事件で来たのではなく、あくまで個人的に送られてきたDMだったのと、興味がわいてしまったのだそう。




2人目は吉岡蒔野(よしおかまきの)という鑑識員だった。警察官に鑑識員。あまりにも都合が悪い面子である。仕込まれたとしか思えないような面構えに動揺が隠せず、目が泳ぐ。吉岡は塚本と幼少期から仲が良く、お互いに警察官として働く夢を目指していたらしい。そのため再会してから二人でずっとしゃべり続けている。




吉岡は財閥の一人娘だったが、17歳の時父親が行方不明になってしまった。行方不明になった父親を探すために警察官を志し、鑑識員としての一面と、個人捜査としての二面を持つエリート鑑識員だった。




最後に現れたのは志摩佐紀(しまさき)という編集者だった。心霊や未解決事件について調べているらしい。やはり精神的にきつい仕事らしく、病院にも通院する程だという。




 全員と連絡先を交換し、後日また何か発展があれば連絡するという。何があるかわからないため一か月の外出を禁じられた。会社には脅迫文が届いたと伝え、テレワークの許可をもらった。




どういう共通点で呼ばれた面子なのかは分からなかったが、この死体をいち早く片付けなければいけない。しかし、全員が謎の【カエデ】と名乗る人物にDMを送られていたこともあり、この工場を1度捜査すると言い出した。死体がバレれば間違いなく芳人が疑われる。芳人たちはその場では解散をし、吉岡と塚本はこの場に残るとの事だった。



 「谷口さん。ここは私たちが調査しますので一度自宅にお戻りください。身の安全が第一です」


 「わかりました。よろしくお願いします」




家に帰り、芳人はうなだれる。死体がばれれば間違いなく逮捕だ。瑠璃の命は救うことが出来ただろうが、自分を助けるために父親が人を殺したとなると今まで通りではいられないだろう。これから逃亡生活が始まるかもしれない。そう思い匿名掲示板[i]に逃避する。ふと、開きっぱなしだった【カエデ】のアカウントが目に付く。最終ログイン時間は、




________5分前だった。





13万字も書ける気がしません笑

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