プロローグ
匿名掲示板[i]。
日本最大の匿名電子掲示板である。全年齢対象のこのサイトは様々なサービスがあり、そのため利用者は国内最大を誇る。毎日いろんな人間が匿名でやり取りを行い、無料でのメール、通話なども可能であるため、このサイト一つで一般家庭から大企業まですべてこのサイト内で完結できる。
ごく普通の社会人、谷口芳人も特別掲示板[i]のユーザーであった。そして何も変わらぬ日常に飽き、生きがいを求めるうちの一人であった。
朝6時に起床、7時に出勤をし、20時に退勤、帰宅し、24時に眠る。そんな生活をかれこれ5年。二個下の谷口昌子という女性と結婚し、瑠璃と朱里という子供もできた。間違いないブラック企業で働いており、昌子もパートで働いているとはいえ、稼いだお金が生活費にどんどん飲まれていく。そんな毎日だった。
「結局学生の時と変わらないな」
大人になったら自由になれると思っていたのに、結局は何かに縛られ、追われ、自由など存在しない。と身に染みて感じる。そんな芳人の逃げ口が匿名掲示板[i]だった。会社での愚痴、社会への不満などの言の葉を永遠書き連ねる。
[はぁ~あ。あのくそ上司は何を考えてやがる。二日後締め切りの仕事を回してくるなよ。]
片手にビールを持ち、がさつにキーボードを叩く。明日は久しぶりの休みだったのに、上司のせいで思うように休むことができないことが決定した。幸い、明日は出勤しなくても良い。明日は夕飯でも作ってやろうと思って寝床に着いたのだった。
「行ってらっしゃい。気をつけて行くんだぞ?」
「はーい見送りありがとう。いってきまーす」
「もういちいち見送りなんかしなくていいから。パパは仕事してね!」
珍しく今日は家族全員を玄関で見送った。妻の昌子は昨日から親戚の葬式で実家に帰省している。そのため、家事は高校2年生の瑠璃と中学3年生の朱里に任せていた。次女の朱里は絶賛反抗期に入っていた。
少し寂しいものの、娘の成長を見守るのはとても有意義な時間だった。誰もが何も変わり映えしない一日が始まると確信していた。玄関の閉まり始めるドアの隙間から心地よい春風が入り込み、窓からは【安全】の花言葉を持つ仙人草のつぼみが揺れていた。もうすでに物語が始まっているとも知らずに...
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