勇者パーティ
2年前、激戦の末、勇者パーティが魔王を討伐した。
それによって世界に平和が訪れた。
魔王を討伐する3年前、魔王は魔族たちを率いて無差別に人間を襲ってきた。魔族よりも弱い人間に魔族を追い返す力などなく被害は拡大し、人間の国の半分は魔族に支配された。
人間の中にもそれなりに戦うことができる者がいたが、状況を変えることができる者はいなかった。
しかし、ある日を境にして状況は一転した。魔族に対抗できる人間たちが現れたのだ。
それが勇者パーティ。
勇者、戦士、魔法使いという3人で構成された最強のパーティだ。
勇者キョウスケは最初からそう呼ばれていた訳ではない。元は冒険者で魔法と剣を扱う数少ない魔剣士。勇者パーティのリーダーであるあの人によって多くの人が救われた。他の冒険者が逃げて行く中、勇敢に立ち向かい魔族を倒す。だから、あの人は勇者と呼ばれるようになった。それが勇者の誕生だ。
勇者を中心として戦うのが勇者パーティの戦闘スタイルだった。
そんな勇者パーティでの各自の役割は、
勇者は魔法と剣を自由自在に操り攻める勇者パーティのメインアタッカー。
戦士は身体よりも一回り大きな大剣を振り回す冒険者で勇者パーティでは守りと攻めをこなしている。魔法なしならば勇者にも勝てる最強クラスのアタッカー兼タンク。
魔法使いは複数の魔法を操る冒険者で複数敵や大型敵との戦闘の際にアタッカーとして戦う。最初のうちは支援魔法もこなしていたアタッカー兼サポーター。
こんな感じだ。
見ればわかるようにアタッカーしかいない勇者パーティ。そんなパーティだからこそサポーター、支援魔法使いと回復魔法使いが必要だった。だから、魔族を倒しながらサポーターを探した。
そして、見つけた。なんでも癒すことのできる僧侶を。俺の幼なじみであるアユミを。
一対一ならば俺でも勝てた。だが、その時は数が多かった。なんとかしてアユミを逃がそうと俺が魔族に戦っている時、勇者は突然現れ、一瞬で俺たちの周りの魔族を倒すと村の方に消えて行った。
俺たちも自分達の傷を癒やし村の方まで走って行く。村に着く頃には魔族はもういなかった。
村の人達は大怪我していた。だからすぐに僧侶であるアユミは魔法を使い一瞬で村の人達の怪我を癒した。それを勇者は見ていた。
人間の中で回復魔法を使える人は貴重だった。勇者パーティの魔法使いだって回復魔法だけは使えなかった。
そんな回復魔法を使える幼なじみに勇者は自分のパーティに入って欲しいと頼んできた。
俺はそれを止めた。
世界平和のためとは言え、魔族と戦ってほしくなかった。最強の勇者パーティであってもアユミを確実に魔族から守れるとは限らないから。
そんな俺に対して、アユミは頼みを受け入れた。
必死になって止めた。でも、気持ちを変えることはなかった。だから、俺は勇者に自分も連れて行ってくれと頼んだ。
自分でアユミを守るために。
勇者は俺の同行を認めた。
そして、勇者パーティは勇者、戦士、魔法使い、僧侶、俺という5人のメンバーで構成された。
アユミは僧侶で回復魔法しか使えないが多くの人を一瞬で癒すことのできたヒーラー。
俺は魔剣士で魔法と剣が使えるだけの勇者の劣化のような存在。魔法の火力は魔法使いに及ばないし、近接戦闘では戦士に及ばない。そのため元々、魔法使いが行なっていた勇者が使えない支援魔法を使った。魔力の温存や少しだけ俺の方が支援魔法が上手く扱えたから。
そして俺は三年間、支援魔法によるサポートと火力調整。そして、僧侶のボディーガードとして剣と魔法を使い戦った。
それ以外は本当に何もできなかった。足手纏いだったと思う。
そんな俺にパーティメンバーは助かっていると言っていたが、勇者だけでなく魔法使いや戦士の足りない部分を補う程度でしか戦えないため魔剣士のくせに完全にサポーターいう感じだった。
勇者パーティは5人となって各地の魔族を倒して行った。そして、それから2年半程の月日が流れ魔王を討伐した。
魔王を倒したことで魔族との戦争は終わり、支配から解放された。
勇者パーティが国には帰還した際、
全員に貴族の地位と報酬、そして
魔法使いは国立魔法大学の教授、
戦士は宮廷騎士団の団長、
アユミは王都最大の病院の先生という職を与えらた。
単純に国が人間にとって最大の戦力を手放したくなかったから職と地位を与えて管理しようとしただけだが。
魔法使いは自由に魔法を研究できるからと
戦士は長年の騎士団に所属することが長年の夢であった為、
それを受け入れたがアユミは自分には合っていないと断った。そもそもその時アユミは16歳。まだ責任を負う仕事ができる年齢ではない。だから、村に戻った。
ここで気になると思うのは勇者に与えられた物だと思うが、
勇者は魔王討伐直後に姿を消した。その為、何もない。
残る俺はパーティにいただけで何も貢献できなかったと全てを断った。それに勇者パーティにいたのはアユミを護る為であり、自分の為だ。何かを貰えるようなことはしてない。
ちなみに与えられる予定だったのは剣及び魔法使いの育成学校の教師。そんなもの俺ができるわけがない。俺もアユミと同じ16歳。子供だ。
全てを断った俺は冒険者になった。無理な依頼は受けずにしっかりと一人でこなすことができる依頼のみを受ける。今はそんな感じで活動している。
「今日の依頼を頼む。」
と笑顔で立っている受付嬢に掲示板の張り紙を剥がして持っていく。
依頼内容は
『岩猪3体の討伐』
岩猪は中級者クラスの魔物で一人でも余裕を持って倒せる魔物だ。
それなのに報酬は良いので出ていたら基本受けてしまう。
「あ、カナデさん。岩猪討伐の依頼ですね。期限は3日以内です。無理はしないようにしてくださいね。」
そう言って依頼書の下に俺の名前と日にちを記入する。
「はい。」
と返事をし依頼が受理されたこと確認してギルドから出て行く。
向かうは街の外の少し離れた森だ。
そう思いながら走ること数分で目的の森にたどり着く。森に入ったばかりで周囲に岩猪はいない。
さて、探すか。
そう呟いて周囲に広範囲の索敵魔法を展開する。半径100メートル内の情報を一気に把握できる。勇者パーティで索敵を使いまくっていたからその精度は高い。勇者はそんなのなくても敵の気配に気づいてたので念のためくらいの気持ちでしか使わなかったけど。
周囲に数体の魔物の気配がある。一匹だけ岩猪の反応がある。
「よし。」
そう呟いて左手に雷を発現させる。
『雷拘束』
程よく発現し終えたらそれを思いっきり岩猪に飛ばす。雷属性は速い。なので簡単に避けることはできない。
岩猪に当たると電流が岩猪の全身を流れ、そのまま地面に倒れる。岩猪は硬い岩に覆われている。しかし、皮膚を覆う岩と岩の間に隙間が存在する。岩によって電気が伝わりづらいがその隙間から相手を痺れさせ行動不能にすることは難しくない。
岩猪は中級者クラスの魔物というだけあって高い攻撃力、機動性を誇る魔物だ。だが、それ以上に厄介なのが防御力。普通の剣では傷ひとつつかない。
まあ、戦士と魔法使いは一瞬で消し飛ばしたたし、勇者は普通に剣で戦っていたが。
上げなくなった岩猪を確認して留めの魔法を展開する。右手を前に突き出し、その掌の前に氷の球体を生み出す。
なるべく圧縮して氷のを溜め込むようにし、限界まで溜め込んだ氷の球体を放つ。
『氷槍』
勢いよく飛ばされた球体は痺れて動けなくなっている岩猪に当たった瞬間、煙と大きな衝撃波、衝撃音を立てる。煙が晴れた時には氷が岩猪を串刺しにしていた。
魔物は魔石を残して消えて行く。魔物が消えると同時に氷も消える。
魔石を拾い
「あと2体か。」
そう呟いて残りの2体を探すために移動する。移動時常に索敵魔法を使う。
今は討伐対象外の魔物しかいない。
もっと森の奥まで入るか。
移動しながら両手に魔法を展開しておく。右手に氷、左手に雷だ。
俺が得意としているのは水と雷。水は特に派生である氷の魔法。元々、使っていたというのもあるが敵の拘束が出来ると言った点で僧侶を護るのに有効だったため得意になった。魔法は魔法使いに教えてもらったのでそれなりに使えると自負している。
森を素早く移動していると岩猪が索敵範囲に入る。それも2匹だ。
「ラッキーだな。」
距離を縮めて両手の魔法を放つ。
移動中、常に魔力を溜め込んでいた為、一撃で敵を葬れる威力の魔法。
まずは左腕を水平に振って2本の雷の槍にして放つ。槍に当たった2匹の岩猪は先程同様、痺れて倒れ込む。
『雷拘束(槍)』
そして、右手で地面を触って氷の魔法を放つ。
『氷棘山』
氷の魔法は岩猪の方に無数の巨大な棘を発生させながら地面を伝わって行く。その棘は止まることなく岩猪に近づいていき、岩猪の腹部の下まで辿り着く。勢いよく発生した棘は動かなくなっている岩猪の岩を砕き体を貫く。
近くまで走って行くと、岩猪は完全に消えていてその下に魔石が落ちていた。
「依頼完了か。」
氷を解き魔石を拾い上げギルドまで戻る。
これが今の俺の日常。冒険者としての仕事だ。
ここまで読んでくださり大変ありがとうございます!
「もう少し読んでみたい。」と少しでも思っていただけたら、
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