「なんでやねん」を始めよう。
スポットライトが当たった舞台とセンターマイクが見える。俺は緊張で汗ばんだ手をなけなしの金で買ったスーツで拭う。ネタの自信はないが練習だけは、めちゃくちゃやってきた。相方もかなり緊張しているようだった。顔色がかなり悪い。俺たちの不安をよそに、出囃子が鳴る。
「はいどうも、アポカリプスです。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いしまーす。」
「いやー、寒いですねぇ。」
「まぁ、寒いな」
「お客さんも、今日はえらい厚着してきたんちゃいます?
服も化粧も分厚ぅしてきたんちゃいます?」
「はははは・・・
それおもろい?ネタまだ?」
「おい、やめろ。初ステージで緊張してんねんから、アイドリングや。アイドリング。」
「ああ、なるほど。」
「まぁ、言いましたけど、僕ら初ステージでねぇ。名前だけでも覚えていったって下さい。」
「ええっ?」
「おお、おお、どないしてん?」
「名前覚えられんの怖ない?」
「いや、そういう商売や!」
「ああ、それもそうか。」
「えぇ、まぁ、こんだけ寒いとコンビニの肉まんなんかおいしい季節ですわな。」
「いや、俺はチキンの方がええわ。」
「何言うとんねんアホんだらぁ、チキンなんて年中食えるやろ!」
「ああ、それもそうか。」
「やっぱり冬限定のものなんかは、どうしても買ってしまいますな。」
「ああ、アメリカンドックとかな」
「だから、年中食えるやろ!それも!
ほんで、なんやアメリカンドッグって?お前あんなもん食てんのか!」
「うまいやん。アメリカンドッグ。」
「あほかぁ、あんなもん。食事なんかデザートなんかもよーわからん。
ほんで、たまに、パーキングエリアで買ってみるけど、なんか失敗した気ぃになんねんあれ。」
「ああ、それもそうか。」
「話し戻しますけど、コンビニのレジの横にある。肉まんってのは、買うつもりないのに、つい誘惑に負けてしまいますね。」
「ああ、缶コーヒーとかな。」
「肉まんやぁ、いうとるやろ!
確かに、肉まんの逆サイドにあるけどな。あの、あったか~いの棚に入っとるやつな。おっさんがよぉ、たばこのついでに買っていくやつな」
「あれ、めっちゃ誘惑されるやん」
「あほか。俺らまだ20代やぞ。たばこも吸わんし、あの棚にお世話にならんのや。てか、なんでおっさんは缶コーヒー買うんや。レジでカップもろたら、もうちょっとええコーヒー買えるやろ。」
「いや、あれはちょっと量が多い。」
「知らんがな!ってか、なんでお前、おっさん代表でしゃべっとんねん。おまえも20代やろ」
「ああ、それもそうか。」
「下がるなよ!さっきから、めっちゃ引き下がるん早ない?おっさんとか、アメリカンドッグ好きが泣いとるぞ。」
「ああ、それもそうか。」
「下がるな!いうてんねん。ほらもっと、あるやろ、あのー、カップのコーヒーほどええやつ飲みたい分けちゃうねんとか」
「それは、違うと思う。」
「どこで反撃しとんねん!立場逆になってまうやろ!お前俺にやられっぱなしやないか。俺いじめっ子か思われるぞ。」
「ああ、それはそやな。」
「えっ、お前俺の事いじめっ子やおもてたん?」
「いや、頭叩いてくるし。」
「そういう商売やっちゅーねん!
あかん、なんか俺の方が傷ついてしもた。
この際や、なんか俺に言いたいことあんねんやったら言うといてくれや」
「・・・。
人間やのに、アイドリングって何?」
「どこ気になっとんねん。もうええわ。」
「「ありがとうございましたー。」」
舞台袖で水を飲み干す。何をしゃべってたのか全然記憶にない。ただ、俺たちはやり切った。少しだけ達成感みたいなものが、胸にともっていた。俺が呆然としていると、相方がハンカチで汗を拭きながら言ってきた。
「あのさぁ、なんで、デパートの職業体験コーナーでお笑い芸人選ばなあかんの?
俺、パティシエコーナーでホットケーキ焼きたかってんけど?」
相方はやる気のない奴だが、この芸能界汚い芸能界ではこういうやつが、のし上がっていくのかもな。俺は、ちらりと見えた。明るい未来に笑った。
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