表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「なんでやねん」を始めよう。

作者: 梅丘泰芽

 スポットライトが当たった舞台とセンターマイクが見える。俺は緊張で汗ばんだ手をなけなしの金で買ったスーツで拭う。ネタの自信はないが練習だけは、めちゃくちゃやってきた。相方もかなり緊張しているようだった。顔色がかなり悪い。俺たちの不安をよそに、出囃子が鳴る。


「はいどうも、アポカリプスです。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いしまーす。」

「いやー、寒いですねぇ。」

「まぁ、寒いな」

「お客さんも、今日はえらい厚着してきたんちゃいます?

 服も化粧も分厚ぅしてきたんちゃいます?」

「はははは・・・

 それおもろい?ネタまだ?」

「おい、やめろ。初ステージで緊張してんねんから、アイドリングや。アイドリング。」

「ああ、なるほど。」

「まぁ、言いましたけど、僕ら初ステージでねぇ。名前だけでも覚えていったって下さい。」

「ええっ?」

「おお、おお、どないしてん?」

「名前覚えられんの怖ない?」

「いや、そういう商売や!」

「ああ、それもそうか。」

「えぇ、まぁ、こんだけ寒いとコンビニの肉まんなんかおいしい季節ですわな。」

「いや、俺はチキンの方がええわ。」

「何言うとんねんアホんだらぁ、チキンなんて年中食えるやろ!」

「ああ、それもそうか。」

「やっぱり冬限定のものなんかは、どうしても買ってしまいますな。」

「ああ、アメリカンドックとかな」

「だから、年中食えるやろ!それも!

 ほんで、なんやアメリカンドッグって?お前あんなもん食てんのか!」

「うまいやん。アメリカンドッグ。」

「あほかぁ、あんなもん。食事なんかデザートなんかもよーわからん。

 ほんで、たまに、パーキングエリアで買ってみるけど、なんか失敗した気ぃになんねんあれ。」

「ああ、それもそうか。」

「話し戻しますけど、コンビニのレジの横にある。肉まんってのは、買うつもりないのに、つい誘惑に負けてしまいますね。」

「ああ、缶コーヒーとかな。」

「肉まんやぁ、いうとるやろ!

確かに、肉まんの逆サイドにあるけどな。あの、あったか~いの棚に入っとるやつな。おっさんがよぉ、たばこのついでに買っていくやつな」

「あれ、めっちゃ誘惑されるやん」

「あほか。俺らまだ20代やぞ。たばこも吸わんし、あの棚にお世話にならんのや。てか、なんでおっさんは缶コーヒー買うんや。レジでカップもろたら、もうちょっとええコーヒー買えるやろ。」

「いや、あれはちょっと量が多い。」

「知らんがな!ってか、なんでお前、おっさん代表でしゃべっとんねん。おまえも20代やろ」

「ああ、それもそうか。」

「下がるなよ!さっきから、めっちゃ引き下がるん早ない?おっさんとか、アメリカンドッグ好きが泣いとるぞ。」

「ああ、それもそうか。」

「下がるな!いうてんねん。ほらもっと、あるやろ、あのー、カップのコーヒーほどええやつ飲みたい分けちゃうねんとか」

「それは、違うと思う。」

「どこで反撃しとんねん!立場逆になってまうやろ!お前俺にやられっぱなしやないか。俺いじめっ子か思われるぞ。」

「ああ、それはそやな。」

「えっ、お前俺の事いじめっ子やおもてたん?」

「いや、頭叩いてくるし。」

「そういう商売やっちゅーねん!

 あかん、なんか俺の方が傷ついてしもた。

この際や、なんか俺に言いたいことあんねんやったら言うといてくれや」

「・・・。

 人間やのに、アイドリングって何?」

「どこ気になっとんねん。もうええわ。」

「「ありがとうございましたー。」」



 舞台袖で水を飲み干す。何をしゃべってたのか全然記憶にない。ただ、俺たちはやり切った。少しだけ達成感みたいなものが、胸にともっていた。俺が呆然としていると、相方がハンカチで汗を拭きながら言ってきた。


「あのさぁ、なんで、デパートの職業体験コーナーでお笑い芸人選ばなあかんの?

 俺、パティシエコーナーでホットケーキ焼きたかってんけど?」


 相方はやる気のない奴だが、この芸能界汚い芸能界ではこういうやつが、のし上がっていくのかもな。俺は、ちらりと見えた。明るい未来に笑った。


読んでいただき、ありがとうございます。

感想などいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ