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 子供たちが集まる広場。きゃっきゃと騒ぐのは、幼い子供たちだ。

 因みに親は少し離れたところで見てる人もいたり、完全に放任してたりと様々。そういうこともあって、ここへの警備は結構しっかりしているらしい。

 あとは子供でも、どちらかというと年上になる子たちが見ててあげたりとかしている。別に言われたからじゃなくて、暗黙の了解というか、ここを利用する上の常識というか。

 そんな感じで、ここでの法則も覚えるというよりも、身についた私も、気付けば年齢が二桁となった。

 二桁って言い方だとわかりにくいか。要は十歳になったという話。


「え? 妊娠?」

「そう」

「へえ~! おめでとう! ……何複雑そうな顔してるの?」

「……いや、下が増えるのかぁ、と」


 広場の一角。花壇のふちのスペースに腰を掛ける私は、隣で壁に寄りかかっているデュークからデュークの母親が妊娠した話を聞いていた。

 内容としてはおめでたい話なのに、何故か複雑そうな顔をしているデュークに首を傾げる。

 ははーん……この顔は、わかってはいるんだけど、私的な理由も捨てきれない自分の気持ちを上手く整理し切れなくて私に話したって感じだな……。


 デュークは平民ではあるが、比較的収入の安定している、平民の中でも上流辺りの家の三男だったりする。

 なんか、色んな事業に手を出しているとか。商会を作ったり、狩りを安定させるために私的な猟友会みたいなのを作ったりとか、その他にも色々。

 ちゃんと領地を管理するところに許可を貰い、何なら連携とかもしているから問題は無いらしい。が、何が特に不思議かというと大体作ってその事業が安定すると、それを信頼できる人達に権限を譲ってしまうのだ。

 なので、デュークの家って何をしてるお家なの?って訊くと、デュークも首を傾げてしまう。

 因みに、デュークの一番上のお兄さんはそんなお父さんと同じように色々手を出しているが、二番目のお兄さんは庭師を目指しているんだとか。

 父親と長兄のことを語ることが大変な反面、一つの夢を持っている次兄はデューク的に話しやすいらしい。次兄の話を聞き過ぎて、庭師について知識だけ凄い増えたって笑っていた記憶がちょっぴり懐かしい。


 そんな三男であるデュークだが、下には一人女の子の妹がいる。身体を鍛えることが好きで、町を守る衛兵を見て目を輝かせてあれになりたいと言って家族みんなを震撼させたという話は、デュークと知り合ってからあった出来事だ。

 ……アルマちゃん、可愛いんだけどなぁ。お姉ちゃんって懐いてくれてるし。

 ただ、ムキムキのお兄さんを指差して「アルマ、あれになりたい!」って言うので、どう返事したらいいかいつも悩むんだけど。


 で、今回さらにデュークに弟か妹が生まれることが判明したわけで。

 まぁ、デュークの気持ちもわからないでもない。

 父親と長兄はまるで根無し草のような生き方をしてるのに、何だかんだ上手く事を済ませているが周りから見たら不安は拭えない。

 次兄は庭師を目指しており、妹だって、内容はあれどなりたいもの一点に夢中。父親と長兄に比べれば安心はあるが、どうやらその傾倒加減は不安を抱かせるものらしい。


「……俺の家系、これだ、って決めたら形振り構わずそれを貫き通すからさ……」


 と、遠目になってしまうデュークに何とも言葉が出てこなかった。

 そろそろ一つの仕事に落ち着いて家族を安心させてくれ、という言葉に対して「俺達はこの生き方しか出来ない」と言い切る父親と長兄。

「庭師になれないなら、職無しで構わないから町を彩る花達を愛で続けたい」と言い出す次兄。とどめには「あわよくば騎士、次点で傭兵か自衛団。それが無理なら冒険者になるから旅に出る!」と言って着実に外でも生きて行けるようにと早々に働きに出てしまった妹。

 そんな兄妹ばかりだと、次生まれて来る子は今度は何を言い出すのか。

 それに不安を覚えて素直に喜べないのも、無理はない。


「でも、そんなこと言っても、アルマちゃん可愛いがってるじゃない」

「そりゃ可愛いからな」

「だから次生まれてくる子もデュークは何だかんだ喜んじゃうし、可愛がっちゃうんだから、もっとドーンと構えておこう?」

「そう……だな」


 どうせ、デュークのことだから私に話を切り出した時点で整理はしたかったけど、答えは決まっているのだろう。変に言い聞かせるよりもは、大丈夫だと一言言ってやるのが吉だ。

 手を伸ばして、上にあるデュークの肩をぽんぽんと叩いてあげる。本当は頭を撫でてあげたかったけど、座っている私に対してデュークは立っていて出来なかった。撫でるためだけに立ち上がるのは、ちょっと気恥ずかしい。


「ありがとな」


 大したこと言ってないのに、そうお礼を言って目を細めて笑うデュークに、私はただ笑みを浮かべる。

 上辺だけじゃない。デュークはちゃんと本心からそう思って言ってくれてるってわかるから、私は安心して素直にそれを受け入れられる。


 ――デュークは、これだ、って決めたものとか無いのかな。


 不意にそんなことが頭を過った。けれど、それを口にすることは無い。

 何度も思い立ったことがあることだ。 ただ、それを訊いて「ある」と言われたくないから、訊かないだけ。

 何かに夢中になって、私との時間が減っちゃうのが嫌だって思ってるなんて、ほんと我儘だなぁと思う。



 ◆




「で?」

「で? ……いや、それだけだけど」

「……はあああ? 他のことに夢中になってるデュークを知りたくないなんて我儘だよね、とかルルに言われても知らないわよ!」

「で、でも」

「でもじゃない! そうねって言ったら凹むし、違うんじゃない? って言っても「でも」とか「だって」って言い返す癖に! うだうだ女々しいのよ気持ち悪い」

「ひゃ! つめた、冷たいよルル!」

「邪魔!」


 ジョウロから出ている水を顔面にかけられて、その冷たさに顔を振る。

 目の前のルルは大分不機嫌そうで、その原因は間違いなく私だ。申し訳なくて徐に凹んだ様子を見せてしまうが、それもまた気に食わないらしくさらに水を顔面に当てられる。冷たいけど、直ぐ乾くぐらいの量で調整してくれるから、何だかんだ優しい。


 彼女はルル。商店街にある花屋の娘だ。三年前、デュークが初めて広場に案内してくれた時にデュークが言っていた、いつも遊んでいるグループの中にいた女の子の一人だ。

 あの後、紹介されて色々とあったが今じゃ友達である。……友達、だと私は思っている。顔に水を掛けられるが。

 今ルルの親が経営している花屋の前にいて、家の手伝いで花に水をやっているルルと話をしていた。

 内容は、デュークのこと。

 自分勝手だって言うことなかれ。ルルだって、私に話をしてくる時はルルの好きな人の話ばっかりだ。だからお互い様なのである。

 ……デュークのこと、好きかどうか、正直私はまだよくわかってないんだけど。


「それもまた腹立つわ。 そこまでデューク、デュークって言っておきながら好きなのかって訊いたらわからないって」

「……その、デュークは初めての友達だから、だから特別って言われちゃえば、そうなのかなとか」


 あと、前世でのゲームのこともある。

 正直、もう魔法学校とか行きたいとも思ってないし、ゲームのような恋愛をしたいとも思っていないけど、ゲームの強制力……みたいなのがあるかもしれないと考えると、何とも踏み出せないわけで。


「もっと、こう、自分に自信が持てるようになれないかな!?」

「無理じゃない? あんたうざったいし」

「ルルー!」


 毒舌オブ毒舌!

 でも、正直ルルの言うこともわかる。七歳の時、デュークと出会ってから今まで何の進展も無いこともあって、思考が大分消極的になってしまった。

 自信たっぷりお花畑ガールだったのも黒歴史だが、こうやってうじうじしているのもどうかとは思ってはいる。

 ……けど、どこかで本当に自信が欲しいというのも事実だ。

 前世の乙女ゲームでは私はヒロインというポジションだったけれど、この現実において、私は攻略対象者のヒロインである可能性はあっても、好きな人のヒロインでは無い可能性の方が高い。

 もっと自分に自信が持てて、もしかするとあるかもしれないゲームの強制力にも負けず、振り向いてもらえるよう頑張れたら。

 その時には、私のこのどうしたらいいかわからない気持ちも、整理がついているだろうか。


「…………」

「……はぁ」

「あだ!」


 つい、考え込んで無言になってしまっていたらしい。

 黙って私の様子を見ていたルルが、大きなため息を吐いて軽く私の頭を叩いた。

 ルルは直ぐに手が出る。周りが男の子が多かったかららしい。私の周りに叩いてくる子はルルぐらいだけど。


「あんまり考え込まなくていいよ。 変に考えてるとデュークにバレるよ」

「うー……うん」


 頭を押さえながら、頷く。デュークは察しが良いので、悩んでいるとバレてしまうのは間違いない。

 それに、確かに考えていても仕方ないのだ。

 結局私は、デュークに核心づいた質問をするだけの気持ちをまだ持っていない。


 まるで、何かに遮られているような。

 この気持ちと向き合ってはならないと、言われているような。


 そんな、意味の分からない感覚を拭える時を、私は待っている。

 ――それこそが、可笑しいんだと今の私が気付くことは無い。




 

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