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「……あーあー……がっつり破れてらぁ……」


 ボロボロの教科書を持ち上げる。

 いかにも人の手で裂きましたと言わんばかりの教科書は、見るも無残な状態だ。


 ……魔法を使えば、もっと簡単だったんじゃないかなぁ……。

 手にある紙くずと化した教科書を見ながら、ここまでやる苦労を想像する。


 学校での魔法の使用は禁止されてはいないが、常識の範囲内というか、全て自己責任となる。

 ここで魔法を使わなかったのは、魔法を扱う者としてのプライドだろうか。


「まぁ……ならやるなよって思うけど……」


 そういうわけにもいかないのだろう。



 取り敢えず、教科書に修復魔法をかける。

 すると、破れていた教科書はみるみる内に元に戻っていく。


「これ便利だよなぁ」


 修復魔法。 名の通り、物を修復する魔法だ。

 この魔法のベースは土属性になっている。因みに、これに水属性を付加させると治癒魔法になる。

 ようは無機物の回復は土属性だけ、人体とかに関わる怪我などの回復は土属性に加えて水属性が必要になるのだ。


 ――私にはあまり関係ないんだけどね。


 そもそも、この修復、回復系の魔法は光属性の分野である。

 しかし、光属性持ちは希少。故に先代の人達は持てる力でどうにか出来ないかと編み出したのがこの魔法だとか。


 だから光属性の魔法を扱える私は、こんなボロボロの紙くず状態になった教科書だって簡単に直せてしまう。

 修復が完了した教科書はビリビリに破かれていたのが嘘かのように、綺麗な状態だ。

 そっと中を開いて、中身もきちんと修復されているかを確認する。



 貴族達の通うこの魔法学校に編入して、三ヶ月ほど経過した。

 まず編入までに約四か月ほど公爵邸にて準備をさせられた。最低限の学力があったって、貴族の当然を全く知らないままというわけにもいかない。

 必要最低限の、最早付け焼刃のようなマナーとか、常識とかを叩きこまれた。

 どうして短期間でこんなことをさせられたかというと、魔法学園は本来は十三歳から入学して三年間通う学校だ。

 そのため、私の年齢の関係で、どうしても最終学年からの編入になってしまう。

 なので一般的な勉強だけでは無く、魔法についての大前提とかを知らないままにはいかなかったようだ。

 まぁ、それでも思いの外時間が無かったからか、魔法についての勉強ばかりが優先されて、貴族のマナー的なものに時間を中々割けなかったりしたのだが。


 しかし、そのおかげで、ほんの少しだけ私自身も魔法を扱えるようになった。

 貴族であれば、子供でも扱えるような魔法をちょっとだけだけど。

 修復魔法もその中の一つ。これに関しては、そもそも光属性の分野なので、他の魔法よりも多く練習したおかげで大分精度が高い。



 教科書が完璧に修復されているのを確認し終え、私は早々に教室から立ち去ろうとする。

 今は放課後だ。帰るために荷物を纏めようとしたら教科書が破れていたのだ。

 しかしその教科書が元通りになったなら、私はここに留まる必要は無い。


 教科書を鞄に仕舞い、廊下へと繋がる扉へ向かおうと足を進めようとした瞬間だった。


「アイヴィー?」


 ――嘘でしょ。さっきまで誰も来る気配なかったじゃん。


 そんな教室に入って来て、更には私の名前を呼ぶ声が響いた。

 しかも、聞こえた声で誰かわかってしまって、足を止める。いや、寧ろ数歩下がりそうになった。


「……どうかしました? 殿下」


 最悪だ。


 そんな気持ちが頭の中を過るけれど、私はそれを表情に出さないことに努める。

 私の目の前には、この国の王子であり、王太子でもあるフィランダー・セス・ヒュドラルギュロス第一王子が、真っ直ぐにこちらを見ていた。


「いや、帰ろうとした時に、君が教室へと向かっているのを見かけてな。 どうしたのだろうと思って来てみたんだ」


 それって一歩間違えたらストーカーでは?

 殆ど上げてもいない口角がぴくりと震えた。暴言にもなりそうなこの本音を吐き出さなかっただけ褒めて欲しい。


「そう……ですか。 私はこれから帰るところです。 失礼いたします」


 遠回しというよりもは最早直球で「君に会いに来た」みたいなことを言われたような気がするが、ここは聞かなかったことにするのが正解だろう。

 大人はずるいし、貴族もずるい。都合の悪いことは聞かないふりをするのだ。

 なので私もそれをする。目上? 知らん。


「そうか。 まだ明るいとはいえ、女性一人で帰るのは危険だろう。送っていくよ」

「いえ、迎えの馬車がありますので……」

「じゃあ馬車まで送るとしよう」


 もっと都合の良い耳をお持ちの方が目の前にいましたよ。



 彼、フィランダー・セス・ヒュドラルギュロスは前世でやっていた乙女ゲーム『光のメルヴェイユ ~ 奇跡の花束を~』の攻略対象者でさらには、メインヒーローでもある。

 メル花……あ、ゲームの名前の略名ね。メル花では、とても誠実的な性格で、正に王子様っていうタイプだった。


 王道の中の王道と言った感じの存在。特に光に反射すると淡く輝くほどの綺麗な白銀の髪が特徴的だった。

 エメラルドのような緑の瞳も綺麗ではあるのだが、彼のイメージカラーである白を彷彿とさせる髪色の方が印象強い。

 ゲームでは、学校生活ではいつも気張ってばかりの生活の反動で、平民出身であるヒロインの振る舞いや性格に惹かれる。

 ヒロインと共に過ごしていくことで、少しずつ自分の本音を出せるようになり、時には子供のように笑って、遊んだりすることで本当の自分というものに気付いてく。

 そしてラストには、ヒロインに向かって一緒にこの国を支えていこうと手を取り、微笑む。

 その姿は年齢不相応とも言われるぐらい大人びてて、様々なお姉さま方がその学校生活で見せていた雰囲気とのギャップにやられていた。

 前世の私もその中の一人で、彼が一番好きだった。


 もうゲームのイベントなどの内容は大分朧気で曖昧だけど、前世のゲームでの知識による私の中の彼のイメージはそんな感じだ。



 しかし、目の前の彼と言ったらどうだろう。


 まず、私はゲームでの、俗に言うフラグというものを立てる気が無かった。

 だから、彼らと接触する気も無く、ただ大人しく一年を過ごそうと思っていた。


 そもそも、私は変わらずデュークのことが好きだ。

 どうにかこの一年大人しく過ごして、平民に戻る方法を探すつもりなのだ。



 そんな私に対して、何故か彼、いや彼だけでは無く、ゲームでの攻略対象者達全員が、私に対して好意を向けている。

 私は何もしてない。 いや本当に。

 それこそ、最低限笑いかけることもしない。社交辞令さえも最低限どころか、寧ろしないに等しい態度を取っている。

 なのに、それを照れ隠しだの、まだ貴族の生活に慣れてないだけとかよくわからない解釈をし始めるのだ。

 しかも避けようとしても向こうから接触してくる。それに加えてその好意というものを隠そうともしない。


 否定しても無駄。

 だからと言って放っておいたら、今度は他の貴族令嬢から嫌がらせがスタート。


 信じられなくない?

 流石に初めてノートが破かれてた時は泣きそうになった。

 

 しかもどうやら、平民出身でありながら、後ろ盾に公爵家。

 さらには私自身が本来のゲームでのヒロインと違い、何事にも冷めきったような雰囲気を纏っていることが偉そうに気取っていると捉えられてしまっているらしい。

 それを知った時は呆然とした。なんじゃそりゃ。


 冷めきった雰囲気とか、そりゃ望んでもいないこの生活でへらへら出来るわけなくない?


 それを知ってからか。最初は結構ショックを受けた嫌がらせも、段々とあまりの理不尽さとやられている内容の子供っぽさに、馬鹿馬鹿しくなってしまった。

 デュークだったら「くだらねー」って言って一蹴するんだろうなぁ。

 そう思ったら、途端にどうでも良くなった。壊されても修復できるし、怪我しても、癒せる。

 よくよく思えば、私はあの人達に何も奪われることは無いのだ。

 だってもう奪われて、何も残ってないんだし。



 だが同時に、あまりのゲーム的展開になろうとしているこの世界が恐ろしいとも思うようになった。

 そうじゃなきゃ、説明が出来ない。


 攻略対象者があんなに盲目的に私を好く理由が、それ以外に無い。

 本当に私のこの態度で惚れたと言うなら、普通にやばいと思う。



 

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