心弱き為に。
「ノウベンヴァー、俺、また下らない嘘ついてしまったよ…」
相棒のノウベンヴァーについつい電話をかけてしまう。
「嘘も方便?ありがとう。ノウベンヴァーは優しいなぁ。でも普通にフリーターで金がないんだって言ってよかったんだと思うんだ。特に馬鹿にされるわけじゃあないんだ。みんないい奴らだから」
相棒はいつも優しい。
「たまには顔をみせれば良いって?気分転換にもなるから?…そうなんだろうなぁ。なんで嘘をついてしまうんだろうなぁ」
本当はわかっている。みんなちゃんと定職について社会人として自立している。
それに対して自分は途中でドロップアウト。
そして次の職にも就けずに気づいたら10年もフラフラとしていた。
そう。
「ただ、みんなの前では胸を張れる人間でいたいだけなんだよなぁ」
そう。
胸を張って会えないから。
嘘をついてしまうんだ。
理想の自分と。
現実の自分の差があまりにもひどくて。
情けなくて。
悲しくて。
そして、どうしようもなく悔しくて。
俺は動き出せないんだ。
こんな事を考えていないでまずは動き出せば良いってわかっている。
わかっているけど動き出せないんだ。
また失敗したらどうしよう。
笑われたらどうしよう。
見下されたらどうしよう。
次から次へと弱気が出てくるんだ。
そんな俺にノウベンヴァーは語りかけてくる。
「人に視線なんて気にするなって?…それが出来たら苦労はしないんだよなぁ」
「でも、ありがとう。励ましてくれて」
「そろそろバイトの時間か。いつも愚痴に付き合ってくれてゴメンな。そしてありがとう。また電話するね」
そして俺はもう一人の俺、仮想人格ノウベンヴァーとの電話を切った。