第95話 帝国崩壊 その1
第95話を投稿します。
騎馬隊・・・情報は大事ですね。
帝国第1師団、第2師団本隊を攻撃した航空自衛隊は、次の攻撃で帝都制空権を取り戻して帝都上空は陸自の航空機以外飛ぶものはなかった。
北から要塞都市バロッサ、交易都市ドミニク、要塞都市ミルドの帝都に近い、各都市と協力関係?を得られたドーザ方面隊の第2師団、第5師団、第7師団は所定の作戦どおり、帝都に近い各都市の防衛を始めた。
統合幕僚監部は、ドーザ大陸東の拠点防衛の為に、本土から3個普通科連隊と支援隊に防衛監察本部から1個監察隊の派遣を決めた。まだ戦闘の危険はあり、警察庁に任せるには早いと判断していた。
ドーザ方面隊はドフーラ郊外の駐屯地および短長距離滑走路を持つ航空基地を完成させ、方面隊本部の転進を完了させていた。この航空基地は宗谷特別行政区航空基地のF-2、F-15J、E767及びOP-3Cをはじめとした攻撃を転進させる目的で3000m級滑走路2本と1000m短距離滑走路に航空管制塔、整備格納設備及び燃料タンクと弾薬庫を備えたドーザ大陸本格航空基地として機能を始めていた。
この航空基地はドーザ大陸に平和が訪れた時には、重要なハブ空港として民間に払い下げられる予定である。
ドフーラ駐屯地には方面隊本部とヘリポートを6つ備えたチロルの森駐屯所の1.5倍もの敷地面積を持つ駐屯地建設が終わり、ドーザ方面航空隊の第1対戦車ヘリコプター隊、ドーザ方面ヘリコプター隊と特別救難隊が常駐している。
また、駐屯地には無線中継施設が設置され、日本山山頂中継所とドフーラ航空基地および駐屯地を各種無線で繋ぎ、作戦展開の為の情報通信網の構築が完成している。補足ではあるが、帝都一帯のGPSについても交易都市ドミニクに協力を得られた事で、帝都東山脈上にGPSと中継アンテナを設置できる見込みができた。
交易都市ドミニクに対しては郊外の荒れ地に前線航空基地と第2師団駐屯地の建設を始めていた。
ただし、ドミニクからは山脈が障害となり、特科群で帝都を直接狙う事は出来ない。
その為の前進基地であり、必要なら帝都に対する往復爆撃もA-1軽爆撃機で可能な様に準備をしていた。
要塞都市バロッサを陥落させた陸自第5師団は、要塞都市バロッサとムリナ街の間に前線を想定し、国境検問所を作り、街道を一時的に封鎖している。
同じく要塞都市ミルドに対して武力による制圧を行った陸自第7師団は、同じくミルド、交易都市リリコネの間に前線想定し、国境検問所を作り同じく街道封鎖を行っている。
陸自第5師団第5偵察隊は次の街、ムリナ街に向けて、同じく陸自第7師団第7偵察隊は、交易都市リリコネに向けて出発していた。
帝国第1師団の騎馬隊はムリナ街に戻り、馬と資材の調達を行っている為、無駄に時間を取られていた。
その間に帝国第1師団が空爆を受けた情報を入手して、今後の対応を検討している。
「第1師団が攻撃されたようだ」と情報収集をしていた騎馬副隊長のリエラが報告する。
「ご苦労、して被害は如何ほどなのだ」と騎馬隊長のエル・トーマス男爵が聞く。
「詳細については不明ですが、5日前トロル街を出た師団本隊は狙ったかのように空から爆撃を受けて、本隊の約30%が死亡負傷していると連絡が、トロル街からムリナ街に魔道通信で入っています。その結果、師団はトロル街に戻り、燃えた資材などの補給を待っているとの事です。
また、先ほど入った情報ですが、帝都に向かった師団付ワイバーン隊も残らず全滅したとか、その詳細はまだ入手できていません。これは帝国から来た商人達の情報だそうです」と副隊長が報告する。
「こんな短期間に次々と攻撃されるとは、情報が洩れているとか考えられん。我が隊は今から情報制限をかけて、夜に紛れてドフーラに向かうぞ」
「いえ隊長、街道途中の要塞都市バロッサも敵の手に落ちたと聞きます」
「なに、バロッサが落ちたとな、馬調達も無理か。軍馬はここムリナでは調達できん。せめて丈夫そうな馬でも居ればと思い調達をしていたが・・・敵の進行速度は想像以上だ、だとすれば途中に検問が作られているはず、夜に紛れて少数で抜けるのが得策か、はたまた全員で強硬突破か、バロッサを陥落させるほどの軍事力では騎馬隊では無理があると思う」
「隊長、朝一で幹部を集め、検討してはいかがです」
「して何か案はあるか?」
「もしもですが、途中検問等があれば、遠くからでも確認できます。検問があればバロッサ行きを諦めて帝都に向かってはと思います」
「そうか、先ほどの話でそれも考えたが、陛下の命令書がある限り何としてでもドフーラに向かわねばならん。儂は少数を商人に化けさせて先行、バロッサを迂回できる道を探そうと思っている」
「いや我々の地図では迂回路は見つかっておりません。もし森の中を行くのであれば別ですが、森は魔物と遭遇する確率が高いと判断します」
「うーん困ったな。であれば無謀と言われ様とも強硬突破するしかなさそうだ。何人かは抜けられるだろう」
「隊長それは、更なる情報収集を行いますので、それから判断をお願いします。むやみに突撃して全滅しては、結果として皇帝陛下の命令に背くことになります」
「そうだな、とにかくリエラ、隊員を何人使ってもかまわん、もっと情報を集めるのだ。必要なら何人かを帝都に向かわせて敵とワイバーン隊の情報を集めてくれ。その間、理由をつけて出発を遅らせる」
「その様に手配します」
帝国第1師団精鋭と言われる騎馬隊の隊長と副隊長は情報収集すると結論を出した。これが彼らの全滅を防ぐ事になるとは知らずに・・・
帝国第2師団騎馬隊は帝都目前のソミリア街にて宿泊して寝ている所を早馬で現れた伝令により眠りを妨げられ多少不機嫌になっていた。交易都市リリコネにて軍馬を全員分調達して資材も十分に帝都に向けて出発しようとしていた矢先である。
「隊長、おはようございます。出発の準備が整いました。途中で敵日本軍が要塞都市ミルドから帝都に向かう街道に検問を行っていると情報が入りましたが、敵は少なく60名程度と思われます。我々騎馬隊総勢500名ですから、突破や撃破は簡単に行えるものと思います」と帝国第2師団騎馬隊副隊長のトリルは力強く言う。
「途中で検問とは、笑止。我が軍の力を見せつけようぞ」と隊長のドン・キルリル男爵は簡単に突破できると信じていた。帝国第2師団が爆撃にあった事はまだ知らない。第2師団は情報を軽視する伝統があり、力押しの軍団であった。
もう少しで帝都に着く筈であったソミリア街にて、急遽伝令により行き先をドフーラに変更され、隊長は不機嫌であった。自衛隊に対する情報収集をする事無く、要塞都市ミルドに向かう分岐点に向けて全軍を出発させていた。
ソミリアから要塞都市ミルドに向かう分岐点まではわずか200Kmである。軍馬でも休憩しながら15時間程度で到着する計算であった。早朝9時に出発をして、夜0時から1時には検問所に到着予定である。
「皆聞け、敵が検問所を作っていると聞く、我が隊は夜間に敵と遭遇する事になる。それまでは馬の体力を温存しながら敵検問を目指す事にする。良いか、くれぐれも敵の目前で馬の体力が無くならぬ様に注意を怠るな。さすれば敵は恐れ四散するであろう」と隊長のキルリルは皆を鼓舞して進軍する。
「おーーー」背中に隊員達の雄叫びが聞こえる。頼もしい限りである。
要塞都市バロッサ同様に要塞都市ミルドを武力にて領主を拘束し、陥落させた陸上自衛隊第7師団は、要塞都市ミルド内部に師団本部を置き、帝都からミルドに向かう街道に第11普通科連隊第5第6普通科中隊を検問に、戦闘力と前線防衛の為に第73戦車連隊の第4戦車中隊と第5戦車中隊を出して広範囲を警備させていた。
第11普通科連隊は陸上自衛隊通常呼称で呼ばれているが、全て89式装甲戦闘車と22式装輪装甲車による機動化部隊となっている。
第7師団の戦車連隊は90式戦車(一部10式戦車)を拝領しており、元々は某大国の侵入に対し打撃を与える、北海道防衛の要とされていた。
第7師団は展開を早めるために全ての部隊を機甲化部隊として組織され、短時間展開を可能にしている陸上自衛隊最強の師団である。なにしろ戦車連隊だけで3個連隊(1個連隊は戦車約200両弱)も配属されている。それがそのままドーザ方面隊第7師団として転進されていたのだ。
ミルド西の検問所は要塞都市ミルドより街道に沿って西に250Kmの位置に置いており、帝都方面、ミルド方面の検問を行っていた。
第4戦車中隊と第5戦車中隊は街道沿いの北森と南荒れ地にそれぞれ隠れており、検問所を武力で抜けようとする勢力に対しての予備兵力としていた。
なお、陸上自衛隊第7師団の特科連隊、高射特科連隊と各支援隊は検問所付近に展開する為に向かってはいるのだが、まだ到着していない。
自衛隊検問所は見た所、普通科隊員と装輪装甲車が多少見える程度で少ない様に見えている。これも偽装の一種である。
ミルド西検問所は街道の両幅200Kmにも及ぶ検問所で、要所を90式戦車と22式装輪装甲車で警備しており、道を逸れて抜けようとしても森や南の荒れ地に隠れた90式戦車によって阻止されてしまう。
街道には対戦車障害を置き直線には進めない様に工夫されている。
もちろん対人障害や赤外線カメラやセンサーを置き、夜間監視も実施している。
その時は突然やってきた。
月光でも監視できる長距離監視カメラに騎馬隊が映る。
帝国第2師団騎馬隊のキルリル隊長は検問所の情報を入手して、その手前3Kmで隊員と馬を1時間休め、交代で食事を取らせて気合十分である。
夜間に大勢の馬と鎧をまとった部隊をモニターで確認した検問所監視係は警報を鳴らし、警備する各隊に無線で警報と情報を流している。
「監視所より警報、総員起こし。騎馬隊らしき者帝都方面より急速接近中、帝国軍と思われる鎧と剣を着用。戦闘用意。普通科隊員は着剣」
宿舎には緊張しながら準備を行う隊員達がいた。全員の準備が整ったところで・・・
「続いて報告。敵総勢約500名。進行方向検問所。各員対処用意。距離1.5Km」
無線を合図に89式装甲戦闘車、22式装輪装甲車、90式戦車に次々と火が入り始動する。
検問所では対戦車障害に22式装輪装甲車で閉鎖を行い、砲塔を街道西側に向け、対人用砲弾を装てんする。
その両サイドでは旧式ではあるが現役の89式装甲戦闘車の砲塔に搭載した90口径35mm機関砲KDEが敵を捕らえて準備を完了している。35mm機関砲など当たったら人間が消し飛んでしまう威力である。
89式装甲戦闘車は対人用にHEI(焼夷榴弾)を選択している。
帝国第2師団騎士団はキルリル隊長を先頭に徐々に速度を上げ検問所に向かっていた。
「抜剣」とキルリルは叫び、いつもの戦闘が繰り返されることを信じていた。
検問所に騎馬隊が1Kmの距離にまで近づいて来た。
剣を抜いて戦闘態勢に入った事を確認した小隊長は無線で各隊に「対処用意。武器使用は無制限。繰り返す。武器使用は無制限。対処開始」の合図で各装甲車や戦車から一斉に砲弾が騎馬隊に吸い込まれていく。
先頭のキルリルを掠めて砲弾が後続の部下たちに当たる。「うぉーっ」途中で声が途切れる。
所々に砲弾・・・90式戦車より発射された多目的榴弾が炎と爆風をもたらす。
それでも訓練された騎馬隊は仲間の死を胸に走り続ける。彼らに浴びせられる砲弾は止むことはなかった。
次々と仲間を失いようやくキルリル隊長一行は対戦車障害まで来ていた。
「真直ぐに行かせてくれない様だ」と言うと最初は右に、1つ目の障害を越えると左に方向を変えた。
検問所正面とその両サイドに陣取る装甲車からの砲撃や12.7mm重機関銃M2からの攻撃が始まった。
「くそ、届かん」と隊長は言い残し、上半身が消える。馬も見事なほどの爆発を起こして分解して行く。
帝国第2師団騎兵隊は無謀な突撃により、その殆どの人命と馬が失われていた。
「状況終了、武器収め」と無線が入り砲撃銃撃は止む。静寂が夜を支配する。
「第5普通科中隊状況確認」と無線が入り、検問所正面を封鎖していた22式装輪装甲車が道を空ける。
「第1小隊から第5小隊、乗車。状況確認。進め」の合図で第5普通科中隊は一斉に22式装輪装甲車と89式装甲戦闘車に乗り込み、装甲戦闘車の半数が動き出す。
検問所付近の死体は第6普通科中隊が一人一人丁寧にシートに包み、73式中型トラックや73式大型トラックに載せていく。
その後に第5普通科中隊は検問所を抜けて、最初の戦闘が発生した場所に迂回しながら向かっている。
なにしろ街道には帝国第2師団騎馬隊の死体や馬が無残に転がっており、進めるものではない。
「帝国兵士はあまりにも無謀だ。人の命が簡単に消える」第5普通科中隊の隊員は手を合わせながら呟く。こんな戦闘早く終わらせたいと願うのであった。
シートにばらばらの遺体を集めて乗せ、第5普通科中隊も73式中型トラックや73式大型トラックを待つ。
遺体を回収したトラックは南の荒れ地を少し進んで、遺体を重ねガソリンを撒いて火をつけ、全員で黙とうした。
馬の死体は、街道脇に集め同様にガソリンで燃やしている。
一帯には死体が焦げる匂いが充満して、自衛隊員のやるせない気持ちを包んでいた。
こうして無謀な突撃を行った帝国第2師団騎馬隊は全滅していた。一人の生存者もいない状況に対峙した隊員も怒りが沸いてきている。「無能な指揮官に仕えると、こうなる。怒りしか沸かない」と。
あたり一面に消石灰をまいて、匂い消しと消毒を行った自衛隊員は、荒れ地の砂利を撒いて街道補修をしながら、この検問所の重要性を改めて認識するのであった。
ありがとうございました。
この前からバロッサをバルバロッサと書きそうなり苦労しています。
第二次世界大戦のドイツ戦車マニアとしてはバルバロッサと書きたくなる事はsagaでしょうか(笑)