第94話 ミソラ・ロレンシアの冒険 その8 ドーザ大陸東南冒険記
第94話を投稿します。
ミソラ達の冒険も本格的になってきました。
すいません。また長くなってしまいました。トホホ
ミソラ・ロレンシア達の冒険は今のところ順調であった。
ドーザ大陸東側を南下して行き、現在は自衛隊が深部調査した入り江にて野営をしていた。
次の朝。
「ねぇミソラ、このまま南下で良いの?」とミリナが不満そうに聞く。
「どうしたの、ミリナ」
「だって、あの河、幅が広いし、ぬれるの嫌だな」
「そうね大河があるのは地図で解っていたから、でも越えて向こうに行くわよ」
「えーーぬれたくないな」とミリナは我がままを言っている。
入り江には幅40kmの大河が流れており、海側の流れは緩やかで深さもさほど無い、自衛隊の深部偵察も海側を渡って向こう岸に行ったことから、人でも渡る事はできるとミソラは判断していた。
「ドネルグなにか乗り物ある?」とミソラが聞く。
「はいよ、お嬢、王国で使ったカヌーがあるよ」とカヌーを収納から取り出し岸に並べる。
「これは、王国でルミー湖の魔物退治に使った奴だな」とトムス。
以前魔物退治を依頼された時、王都東のルミー湖から出てくる蛇の様な魔物「レイクスネーク」に挑んだ時使ったものだった。その時は手製の爆弾(手りゅう弾?)を作って湖に投げ入れて、ひたすら「レイクスネーク」が浮いてくるのをまっていた。
やがて「レイクスネーク」は怒って浮上して、かまえていたソラの氷矢が刺さり、湖面をのたうち回っているところをトムスとタトルの2艇に切りつけられ、岸に逃げた所をミルネの火魔法とミソラの炎を纏った剣により切断され燃やされた。
燃え残りの頭蓋骨を証拠として持ち帰り、住人から大絶賛を受けた討伐劇であった。この魔獣討伐によりミソラ達冒険者の評価は一気に上がったのだった。
「よっしゃー」とミリナが喜ぶ。
「水深浅いから歩けるのに・・・」とトムスが不満そうに言った。
「ならトムスとタトルは歩けば」とミリナは悪びれず言う。
「まいったな」とタトル。ぬれたくないようだ。
「まっ訓練だと思って、全員でカヌーを使って向こう岸に向かうよ」とミソラ。
「はーーい」とミリナは機嫌が良くなった。
ドネルグは岸にカヌーを6艇ならべると、オールを取り出し各艇に置いていった。
「お嬢、もうすぐ昼だぞ」とドネルグ。
「向こう岸に着いたらお昼にしましょう」とミソラ。
「了解、一番乗り」と言いながらトムスは最初に漕ぎ出す。ついでに「ミリナ遅れたら昼抜き」と言いながら笑う。
「ずるい、ひどい」とミリナは文句を言うが自分で言った手前、ゆっくり漕ぎ出す。
河幅は広いが、流れはゆっくりしていてカヌーの訓練には最適であり、みんな苦もなく向こう岸に到着した。河幅も広いが岸も海岸と一体になって、砂が広がっている。
「みんなお昼にしますけど、こちら側も「ネルラ」に注意してね」とミソラが警戒を促す。
「今日は、以前日本で買ったパンと目玉焼きとコンビーフにウインナーの軽い食事だよ」とドネルグ。
「えーシチューが食べたい。ビーフのやつ」とミリナ。
「シチューはもっと先に行ってからよ。ミリナ。それに「ネルラ」が来るかもしれないから、すぐ動けるようにしたの」とミソラ。
「はーい」とミリナは不満そうだ・・教会で修業したはずなのに煩悩が勝っている。
ミソラ達は昼食を済ませると早々に冒険を続けた。
「お嬢、この先は自衛隊も探索してないんだよな」とタトル。
「その筈よ。なにがいるのかもわからないわ」とミソラ。
「なら、隊形組んだ方が良くないか?ミソラ」とトムス。
「そうね、対魔物用に陣形組みましょう」
ミソラ達は、剣士2人を先に、魔導士を次に、ヒーラーと荷物持ちを最後にして、その後ろを後方警戒のミソラが歩く。
「おーいミソラ。この先、川が流れているから、森に入るぞ」とトムス。
「良いわよ。警戒を怠らずにね」とミソラ。
ミソラ一行は、森の木を倒して3本を縄で縛り、簡易な橋を作り渡る。大河からの支流が流れていた。少し深いようだ。
一行は海岸、半島と川を避けて森の中に入っていく、来るときは自衛隊が作った森を切り開いた道を歩いて来たのだが、この先は自衛隊も未調査の領域であるから、道もなく一面深い森が広がっている。
しばらく行くと、森の中に獣人達の村が見えてきた。
「あれ、地図には無いぞ、あの村」とトムス
獣人達は、見た事無い人々が村に近づいてくるのを、唸りながら警戒している。
「ありゃ、歓迎されていないようだな」とトムス。
「ミソラ、獣人語は解るか?」とタトル。
獣人達の村は、簡素な杭を立てた広場に藁ぶき屋根を持つ住居が、6つあるだけで、周りには畑が広がっていた。
一人の獣人が近寄って来た。老人の様だ。
「あんたがたは、どこから来たんだ」と大陸語で話をする。
「良かった、言葉が解るのね」とミソラ。
「当たり前だ、儂らは元々ドーザ大陸のフローダ半島に住んでいたのだが、獣人狩りにあって逃げたのさ。おまいらは帝国の人間か?」と警戒しながら長老が言う。
「有難うございます。私はミソラと言います。こちらは冒険者仲間です。元はアトラム王国ですが、今は日本から来ました」と丁寧に説明する。
「なに、アトラム王国からとな、アトラム王国がドーザ大陸に攻めてきたのか」と長老。
「いえいえ、長老、私たちはアトラム王国から西海を超えてドーザ大陸東を目指していたのですが、途中に日本と言う高度文明の国を見つけ訪れて、良くして頂きました。そして元が王国での冒険者でしたので、ドーザ大陸東側を南下してここに至ります」とミソラは説明をする。
「なに、この北には国があるのか、帝国の衛星国なのか」
「いえ長老、日本は別の世界から来た国らしいです。本人たちも解らないと言っています。そして帝国と戦争中でして、山脈を戦争を理由に越えさせていただけないので、こうして南下しています」
「そうなのか、その国は・・日本はどの様な国なのか」
「日本は、全ての人に公平で国自体は平和ですよ。そうだ、この北には人とエルフ、ドワーフに獣人の大きな町がありますよ、それも日本と言う国が作りましたよ」
「なに、獣人の街があるのか、まるで昔のルミナス王朝みたいだ。詳しい話を聞きたい、儂の家に迎えよう」と長老は粗末な村門を開けさせ、ミソラ達を迎え入れた。
広場の奥に、他より少し大きい家があり、そこが長老の家らしい。
長老の家に招かれたミソラ一行は、椅子も無いので囲炉裏の周りに自由に座っている。
「ミソラ、早く先に進みたい」とミリナは退屈そうだ。
「ミソラ、せっかく火もあるから、紅茶でも飲むかい」とドネルグ。
「そうね、日本の物を飲ませれば、話が早くなるかしら」とミソラ。
突然扉が開き、「またせた。村の長たちと若き村長を呼んできた」と長老を先頭に4名の獣人が入って来た。
「長老、せっかくなので紅茶・・お茶でも飲みますか」とミソラは言うと、ドネルグからやかんを受け取り、水を入れて火にかけた。
「おおお、あんたは収納の持ちなのか」と長老。
「いえ、収納持ちは、このドネルグですよ。多少なら食料もあります」とミソラ、この機会に日本で貰ったお土産を少し置いていこうと思っている。
「お茶か・・・約40年ぶりだな、ここで作ろうと思っていろいろやったのだが、お茶の種が見つからずに諦めだのだよ」と長老はため息をつく。
「ではお湯が沸くまでお話を続けましょう。
私たちはアトラム王国で冒険者をしてました。
私、魔法剣士のミソラ・ロレンシアと剣士のトムスと同じく剣士のタトル、魔導士のソラにミルネ、荷物持ちのドネルグに、ヒーラーのミリナがメンバーです。
アトラム王国で、「神々の洞窟」の噂を聞き、ドーザ大陸東山脈のどこかにある洞窟を求めてスメタナ王に許可と支援を貰い、王国から西に航海して、日本に来たのです。
実は私たちも、一緒の船乗り達も、日本と言う国があるとは知らずに来ました」
「日本はそんなに技術が進んだ国であったのか?」
「はい、アトラム王国が子供に見えるくらいの、技術が進んだ国でした。
日本は、教育も素晴らしく、子供は幼稚園、小学校、中学校、高校に大学と言われる教育機関が整っていて、希望すればその先の大学院にも進めます。
工場は人が少なく、機械で物を自動で作っています。
街にはビルと言う高い建物にたくさんの人が中で仕事をしていて、自動車と呼ばれる人を載せて走る機械や鉄道と言われる早い乗り物があったり、船も大きな物が沢山海に浮かんでいます。
この先はご自分の目で確かめられると良いと思います」
「聞いただけでは想像もできん。だが・・・・昔先祖が話していた神の街に近いな、今は失われたと聞いていたが」
「神の国ですか・・日本は、私たちも行くまで想像もできませんでした」
「そう、神の国と街は、ここを東に海を越えた先にある大きな島だとか、そこは、人も動物も平和に暮らす街と国があり、すごい文明を持っていたとか。今から3000年以上も前の話だがな。本当にあるのかもわからん」
と長老は獣人に伝わる話を伝える。
「良い話を聞けました。お湯も沸いたようですのでお茶にしましょう」とミソラはドネルグから紅茶を貰い、やかんから茶器にお湯を注ぎ、紅茶を淹れてみんなに渡す。
「良い匂いじゃ」とライオン顔の長老は、すこしにやけながら飲む。
続いて一緒に入って来たゴリラ顔の人、ウサギ耳を持つ人二人、の3人にも紅茶を渡す。
ドネルグは、収納から「萩の月」を20個出してみんなに配る。ミリナは5個確保する。
「これ大好き」とミリナは大喜び。ソラもミルネも3個確保する。
言うまでもなく、「萩の月」は仙台銘菓である。松島公園に野営した時、菓子会社から大きな段ボールでひと箱貰っていた。20個入りが20箱も入っていた。
まだ・・・20個入りの箱が12個もある。無限収納は時間が止まるから賞味期限や消費期限はない。
(ほしい・・・)
「うぉぉーー」とゴリラ顔の人が吠える。うまいらしい。
「こんな甘い物、40年ぶりだ・・・迫害を受けて放浪していた儂たちにはごちそうだよ」
「まだありますから、甘くない日本茶とお菓子を村人分置いていきますね」
「それは助かる」
「他にも必要な物ありますか」とミソラは尋ねる。
ミソラ達は長老から村に必要な物を聞き、持っている物で使わない物を寄付した。
その後簡単な地図を描き渡す。
「もし日本の街に行きたいのであれば、この地図通り北上してください、ただし途中魔物がいますので、剣などは必要ですよ」とミソラは村の現状を見て、親切に案内をする。
「日本は儂らを受け入れてくれるだろうか」と不安を口にする長老。
「大丈夫と思います。大三角州にいた獣人達は帝国に迫害を受けて、日本に助けを求めて来た人たちですから、大三角洲の大きな街で日本に協力して働いていましたよ、大丈夫。必要であれば予備の剣を置いていきましょう。3本しかありませんが」とミソラは親切だ。日本を旅してみんなに親切に対応された事を思い出しながら、獣人達にも親切をおすそ分けしている。
「そんなに何から何までありがとう。みんなで話して、日本に行こうと思う」と長老。
長老達獣人は、しばらくして畑から収穫して、旅立つ準備を終えて日本に向かって旅立っていった。
のちに、彼らは入り江を開発する為の重要な人材となり、日本に大きな貢献をするのだった。
ミソラ達は、獣人長老から貰った地図を自衛隊の地図に照らして、この先に人の住む漁村を確認した。
漁村まで、500Km程度ありそうだ、ミソラ達の足で10日以上かかる計算だった。
「元気に行くよ」とソラが声をかける。
「はーい」とやる気のない返事はミリナだ。
この先は獣人達が通って来たとは言え、40年も前の話だ、道などは無い。
「ミソラ、漁村行くなら海岸沿いに行くか?」とトムス。
「そうね、森中も海岸も危険だから・・・・森を行きましょう」
「そうだな、あの大ミミズの「ネルラ」は嫌いだ」とトムスは本当に嫌そうだ。
ミソラ達は森の中を海岸から10Km程度の距離を保って南下を続けていた。
それから3日後・・・
深夜寝ていると、突然大きな動物?魔物?がドネルグのテントを襲った。
「うわっ」とドネルグは飛び起き、テントの裏から逃げ出す。
声を聴いたトムスとタトルとミソラは急いで装備して、テントを出て魔物を探していた。
ドネルグはテントから出てミソラ達の元に走って来た。
「寝ていたら、突然動物が入って来て、夕食の残りが目当てだと思う。すまん収納に入れておけば良かった」
「焚火も炊いているのに変ね。魔物かしら」とミソラ。
ドネルグの一人用テントが中から揺れている。
「みんな距離を取って囲むよ」とミソラ。
突然テントから、それが飛び出してきた。
「うぉーーー」イノシシ見たいな、手足が長く・・・獣人みたいな人が飛び出してきた。
「獣人かな」とミソラ。剣は炎を纏って戦闘態勢で言う。
「話が通じるのか?」とトムス。
「うぉうぉ、どるぐるぐる」と獣人語らしき唸り声が聞こえる。
「困ったな、話通じないみたいだぞ」とトムス。
「仕方ない、ドネルグお菓子なんか投げてあげて」とミソラ。
「はいよ、ポッキーだぞ」とひと箱、獣人の前に投げた。
獣人はポッキーの箱毎くわえて森の闇に消えていった。
「どうする、追うか?」トムス。
「うーん、危害は無かったし、いいよ、森は暗いから見失うだけでしょ。それに知性があれば向こうから来るよ」とミソラ。
「それもそうだな。ドネルグ被害は夕飯の残りだけか?」とタトル。
ドネルグが自分のテントを調べる間、周囲を剣士たちで警戒する。ソラとミルネも起きて集まってくる。
ミリナはまだ寝ている様だ・・・
「大丈夫でした、夕食の残りだけです」とドネルグ。
キャンプでもテントに飯の残りがあると、熊が入ってきたり鹿やイノシシもいるから危険なのだが・・
「不注意だぞ、ドネルグ。ドラフマだったら間に合わなかったぞ」とタトルは怒っている。
「心配かけてすまん。収納に入れようと思っていて、そのまま寝てしまっていた。本当にすまない」
「もういいよドネルグ、次は気を付けてね」とミソラ。
「姉御、面目ない」
「さて、さっきの獣人だけど戻ってくるかしら」とミソラ。
「来るよ」とミリナ。やっと起きたらしい。
やがて、獣人の親子がゆっくり歩いて現れた。
「先ほどはすいません」と獣人の奥さんらしいウサミミの兎人が謝っている。
大陸語が話せるらしい。
「どうしたんですか突然」
「はい実は、帝国の迫害から逃げて来て、西の山の洞窟に隠れ住んでいたのですが、この辺は食料不足で食べる物もなく、海に行って魚を取ろうと、夫だけで行かせました」
「それで、途中匂いにつられて来たわけですね」
「お恥ずかしい話ですが、子供たちに分ける食料が無くなり、この人もお腹が空いての行動だと思います」
「そうでしたか、子供たちはお腹を空かしているのですね」
「はい」と言うと森の中から子供の獣人が二人現れた。
一人は男の子でイノシシ顔の父親似、一人は女の子で母親似の可愛い兎人であった。
「それは大変でしたね、食料ならありますからどうぞ」
ミソラはドネルグに言うと無限収納から直ぐに食べられる餅とサツマイモを出して、焚火に置いた。
ミソラは焼けて来た餅に醤油と砂糖をかけて、獣人家族に渡す。「熱いよ」とトムスが付け加える。
「良かったよ、もう少しで討伐するところだったよ。腹減っているなら声をかけてくれれば良いのに」
「多分主人は帝国兵の追手と思ったのではと思います。だから食料を奪おうとしたのではと思います」
「そうなのか、ここでも帝国の迫害による被害者か」とタトル。
「ところで西の洞窟は、あなた達だけなの」とソラ。
「はい、実は西の山脈沿いに逃げて来て、途中に手ごろな洞窟を見つけて、この子達を産みました。それまでは木の実を沢山集めて逃げて来たので、何とか食べられていましたが、今はこの子達の分も無いのです」
「泣ける話だ、今から料理するぞ。なぁミソラ」とドネルグは食材と調理器具を取り出し、料理を始める。
「周囲の警戒を頼める。タトル、トムス」ミソラはドネルグと共に料理を始める。
子供たちがお腹を空かしているのだ。ソラとミルネはサツマイモが焦げないよう、焚火から遠ざける。
「夜中なんだから、魔物に気を付けてね」ミルネがまずい雰囲気を察知して告げる。
「来た、四つ足、小さい、たくさん、ひだり、来る」とミリナ。
「うぉ」トムスが声を上げながら、その狐のような、小型のハイエナの様な動物を切っていた。
「多いな、ミソラ援護頼む」とタトル。数が多すぎて対応が追い付かない。
すると、獣人の旦那が雄たけびをあげて、動物達をつかんで木に投げつける。
「すげ速さだ、体力あるじゃん」と何か「じゃん」付けでトムスが言う。横浜っ子なのか。
「トムス、これは獰猛な狐だな」とタトル。
「ミリナ、ドネルグに障壁を、ソラとミルネは少し下がって抜けて来た魔物をお願い。トムス、タトル大丈夫?」と言いながらミソラは炎を纏った剣を一旦しまい。日本刀を抜いた。
ミソラの一振りで、狐の魔物は数匹が体を切られ、あたりに転がる。
「お嬢、相変わらず凄い剣だな」とトムス。「剣じゃないよ日本刀よ」とミソラ。
戦闘の最中も余裕がある。
「ミソラ、なんか大きいの来た」とミリナ。
狐たちが一斉に逃げ始めた、途端に大きなドラフマ(くまもどき)が現れた。
二本足で立ち上がり威嚇している。大きさは立つと5m近くあるようだ。
「ドラフマ来たよ、最初は任せる」ミソラが言うとトムスが切りつけ、その後ろからタトルが剣を腹に刺すが脂肪が厚く通らない。
「くそ、通らん、次は背中から刺す」
タトルは正面をトムスに任せて横から後ろに回り、比較的脂肪がなさそうな肩のあたりに剣を突き立てた。
ここも、硬く剣が通らない。「くそ、ここもダメか」と言うと同時にドラフマが後ろのタトルに上半身を捻り腕を振った。鋭い爪がトムスの胴着をえぐる。血も出て来た。
「タトル、トムス下がって」ミソラは日本刀をドラフマに向けて斜めに切る。いわゆる袈裟斬りである。
脂肪が厚く内部まで届かないが、皮は切れた。ドラフマは咆哮する。
ソラが切れた皮に向けて氷矢を放つ、3本刺さる。トムスは飛び上がり氷矢の矢じりを蹴る。
ドラフマは更に大きな咆哮をあげて、トムスに掴みかかろうとするが、トムスはステップで避け、右に移動する。ドラフマの正面が再度空いた。ソラがすかさず氷矢を飛ばす。今度も刺さる。
だがドラフマの体力はまだあるようで、腕で刺さった矢を振り払った。
トムスが「ミルネ頼むぞ」と言いながら、ドラフマのめくれた脂肪に剣を付き刺す。すかさずミルネが火球を剣に投げつけ剣が過熱する。トムスは飛び上がり剣を蹴ってさらに刺す。
タトルは負傷したので下がってから、ドネルグの方に走って行く。
その時、獣人の旦那が雄叫びをあげて、トムスが刺した剣に体当りを行う。
「ウボー」と変な咆哮をドマフラは発した。効果があるようだ。
ミソラは左側から小気味よいステップで日本刀をドマフラの右腕に振り下ろす。
剣先が見えない。ドラフマの腕は繋ぎが壊れたかの様に、ポトリと落ちる。ドラフマも何が起きたか解らない。いや痛みが無いのだろう。一瞬で切られていた。
続いてミソラはドラフマの右足を横に薙ぎ払う。骨が太く一度当たるが、引いて再度薙ぎ払うと右足が切り離された。ドラフマは大きな音を立てて横倒しになる。
ミソラは飛び上がり、ドラフマの横胴に日本刀を振りかぶって切る。血と内臓の一部が飛び出た。
頃合いを見ていたトムスは飛び上がり、左目に剣を突き立てる。
獣人の旦那は腕でドラフマの首を抑え、横に捻ろうとする。
ドラフマは旦那の腕に噛みつき、引きちぎろうとする。ボキっと音がする。
ミソラは手で獣人を制して引き離し、首を目掛けて日本刀を振る。ドラフマは左腕でガードするが、半分切られて咆哮をあげる。
ミソラは日本刀を鞘にしまい、自分の剣を抜き炎を纏わせると再度首に、今度は突き立てる。
トムスは飛び上がり、ミソラの剣を踏みつける。何か嫌な音がする。
トムスは右目を狙い剣を突き立てる。
ドラフマは左右に転がり避けている。
治療が終わったタトルは細身の剣を腹に刺し、気をそらせて、トムスが左目を突くと刺さった。
ドラフマは目が見えなくなり、やたらと転げまわっている。
落ち着いてきたミソラ達は目で合図をすると。三人一斉に首を狙い切りつける。
一度では切り落とせない。2度3度と切りつけると、ようやく首の骨に当たる。
トムスは剣を首に当てたまま、タトルが剣を蹴り上げる。骨が砕かれた。
続いてミソラがジャンプして剣に体重を乗せて首に切りつけ、着地後すぐに剣を首に刺したまま火力をあげる。剣は炎で赤くなりドマフラの首の周りから嫌な匂いと煙が上がり始めた。
「姉御、食事前だぞ」とトムスは軽口をたたく。「ごめんなさい」とミソラは謝っている。
「なら俺が仕留める」と言いながらタトルはジャンプして切られた胴に剣を突き立て、心臓を狙う。
一回では死なない。「さすが5mのドラフマともなると脂肪と肉が厚すぎて心臓まで届かないぞ」
「剣がダメになるかもだけど、ミルネ頼む」「いいの?」と言いながらミルネは目を細めて火球をタトルの細身の剣にぶつけて、すぐに赤く剣が焼ける。同時に肉の焼ける匂いもしてきた。
タトルは熱された剣を深く刺すと、心臓に向けて移動させる。「ジュジュジュ」と嫌な音がする。
ようやく心臓に達した所、ドラフマの胸から大量の血が噴き出す。
「うへー生臭い」とタトルは血を浴びながら閉口している。
タフなドラフマも動かなくなってきた。
「トムス首落とす必要ある?」とミソラが聞く。「姉御、必要ないな、心臓だけでもうすぐ死ぬはず。それに血抜きしても脂肪ばかりで旨くないぞ、日本で狩ったツキノワグマがまだあるから、こいつは要らねぞ」
「うーん、そうね、獣人さん達にあげましょう」と言いながら日本刀に持ち替えて、料理の要領でドラフマを刻む。小さい皮つきの肉塊にしたところで、「ソラ冷やして」と頼む。「はーーい」と言いながらソラは水魔法の氷でドラフマだった肉の塊に氷をかける。
「しばらく冷やして置くと、臭みが取れるのよ」とミソラは言うが、獣人の子供たちは引いている。
獣人の旦那をミリナに連れて行くと、「あら骨の一部が砕けてる。動かないで、魔法かけるから、少し・・・いや大分痛いよ。トムス、タトル抑えてて」ミリナは骨接ぎを行う。獣人は痛さのあまり大きな声で吠える。「次は筋肉と皮膚の殺菌ね」これも吠える。沁みるようだ。
「男の子なら我慢ね」とミリナが言うが並みの痛さであるはずがない。
「最後は筋肉と皮膚の合成と縫合」
ミリナはヒーラーでも冒険者に特化して、傷や骨折も治せる程に成長していた。普通のヒーラーは病気で弱った体力を回復したり、薬草で薬を作ったりするのだが、ミリナは直接体を透視して、傷なら治癒を病気なら弱っている内臓に対する薬を調合する。アトラム王国でも3人しかいないヒーラーとなっていた。
どうにか大騒ぎの中ドネルグはシチューを作り、ご飯も炊いていた。
「さっみんな集まって夜食よ」と食事の用意を手伝っていたミルネが大きな声で皆に伝える。
「なっお願いミリナ、クリーンかけてくれ、生臭くて食事どころではないぞ」とタトルが必死にお願いする。
「えー腹減った」とミリナ。「そんなこと言わずにお願いだよ」タトルが更にお願いする。
「じゃ街に出たらケーキ買ってくれる」
「なんでも買うからお願いだよ」
「えーと、イチゴのショートケーキがミリナ欲しいな」
「買う、お腹いっぱい分買うから、お願い」とタトルは涙目になる。
「しかたないね、イチゴのショートケーキ約束だからね」とミリナは言いながらクリーンをかける。
治癒魔法の派生で、殺菌程強くない魔法であり、しばらく風呂に入らなくても匂いや汚れが落ちる。ミリナしか使えない魔法であった。
「おれは、タトルがイチゴショート買うまで監視するから、血だけ取ってくれ」とトムス。ずるいぞ。
「二人とも、血は避けるものよ」とミソラ。血はついてないらしい。
「姉御・・・・」二人同時に絶句する。
「はい、寸劇はおしまい、冷めてしまうよ」とミルネは締める。
獣人家族と共に夜食を食べ、奥さんに洞窟も良いが北に行くと獣人達もいる街があると伝え、「冒険者のミソラに聞いた」と言えば検問入れてくれると伝える。地図も簡単に書いて渡すが、途中に獣人の村もあった事を伝える。ただし日本に向けて旅立った後かもしれないと伝える。
ドネルグは日本で貰ったリュック2つにソラに凍らせてもらったドラフマの肉をいっぱい詰めて夫婦に渡す。ついでに火打石も渡した。
獣人夫婦は何度もお礼を言い、子供たちは手を振って洞窟へと帰っていく。
「なんか良い事した気分」とソラは言いながら居眠りする。
「みんな、ひと眠りしてから出発よ」とミソラはテントに戻り、寝ようとする。
ありがとうございました。
帝国の迫害、至る所に影響を及ぼしていて大変です。
誤字脱字よろしくお願いします。長いので2回見直して、校正もかけましたが漏れがあるかもです。