第91話 帝都攻防戦 その1
第91話を投稿します。
非常に長くなりました、2話に別ければ良い物を・・・・と言う事で約1万文字の文章です。すいません。
3つ話が同時に進みます。
ここで少しミソラ達の冒険の一部をお話ししよう。
ドーザ大陸東南を冒険しながら歩くミソラ達は、途中ドラフマや赤ウサギを狩ながら南下を続けていたが順調であった。
大きな入り江に着いたミソラ達は、「ここで宿にする」とミソラが言い、各自手分けして準備を進めていたが、この周辺までは自衛隊が調査をしており、未知の生物等は確認されていない。
だが安全と言うわけでは無い。
特に海からの来訪には最大限の注意が必要だった。自衛隊の隊員が話していたが、砂浜には巨大ミミズに、海からやってくる四つ足のシャチもどきなどがいると聞く。
特に巨大ミミズは振動を敏感に感知して集まってくると聞いていた。自衛隊はあらかた駆除したと言っているが油断はできない。
いつも通りトムスとタトルとミルネがテントを設営、ミソラとソラにドネルグは食事の準備だ。
なぜか一人ミリナは遊んでいる・・見張りと言う名の仕事の筈なのだが・・・
「んっミソラ何か来る・・・地下」とミリナは遊んでいてもサーチを発動していた。
「トムス、タトル、ミルネ、ソラ来るよ、戦闘準備」と剣を抜きながらミソラは叫ぶ。
砂浜が盛り上がったと思うと、巨大ミミズが1匹頭を出した。
「こりゃー「ネルラ」だな」とトムス。アトラム王国でも海岸には巨大ミミズが時折現れて旅人を食ってしまう。その巨大ミミズをアトラム王国では「ネルラ」と呼ばれ恐れられていた。
巨大ミミズは大蛇と同様に人に巻き付いて絞め殺して、その後に消化液を出しながら丸呑みしてしまう。この消化液は攻撃にも使われ、強力な酸性により人体も鉄も溶けてしまうのだ。
「みんな、前と同様に頭を狙え、砂に潜り込ませるな」とトムスは、アトラム王国でミソラ達パーティーが砂浜で「ネルラ」退治した事を思い出していた。
「ネルラ」を自衛隊なら無限軌道(キャタピラーは登録商標・・蛇足)でひき殺してしまうのだが、ミソラ達はソラが水魔法の氷の矢を浴びせ引き寄せて、ミルネが火球をぶつける。「ネルラ」は火に弱い。
すかさずトムスが両手剣でふりかかり切る。トムスの後ろからタトルが剣で2つ衝きを繰り出し、3つ目の衝きで頭に近い胴体を突き刺す。
タトルが剣で抑えている時に、トムスが頭を切り離すため胴に剣を突き刺し、横に払う、トムスの筋肉が盛り上がる。ミルネはトムスの剣に火球をぶつけて加熱させる。
巨大ミミズはくねくね逃げようとする。
トムスが抑えているうちにタトルが剣を抜くと再度も剣を頭に刺し、引き裂こうとする。
トムスは加熱した剣を足で蹴り、切断しようとするが「ネルラ」の筋肉に阻まれて切断できない。
「いまだ、ミソラ」とタトルが言う。
ミソラは走りながら、自分の剣をしまい、横浜で買った日本刀(日本軍軍刀)を抜き横に薙ぎ払う。簡単に頭が胴と離れくねくねしている。そこにミルネは再度火球をぶつける。ミソラは剣を自分の細身剣に持ち替え、魔法剣士らしく火を纏わせて再度切りかかる。頭らしきものは2つに裂けた。
タトルはすかさず剣を胴に突き刺し、砂から引きずり出すと同時に、トムスは剣で胴を細かく切り刻み再生できない様にする。
「ネルラ」の残骸をトムスとソラは一か所に集めソラが凍らせる。その後ミルネが火焔魔法を使い、一気に温度を上昇させて「ネルラ」を粉砕していく、これで残った胴体から再生はしないだろう。
「ふう。おつかれさん」とトムス。
「トムス、タトル、感は戻ったかしら」とミソラ。
「すげーなその日本刀、一撃だな」とタトル。感は戻ったようだ。
「みんなご苦労様。こいつは食べられないのが残念だけど」とミソラ。「ネルラ」は何にも使う事が出来ない所謂害虫であった。
「食事の準備ができたよー」とドネルグが呑気に言う。
まだまだミソラ・ロレンシア達の旅は続く。
アトラム王国との交渉は両国による国交条約締結の正式調印目前であった。
個別条約では国交を、通商条約に相互交流協定を結び、アトラム王国使節団は防衛省により、東富士演習場に集まっていた。ホテルから防衛省にバスで向かい、そこから空自のUH-60Jに乗りこみ東富士演習場まで1時間の旅であった。
アトラム王国交渉団一行はゾリアス公爵を含め5名である。
東富士演習場に急拵えの貴賓席が用意されて、アトラム王国語を話せる通訳がスピーカーを通じて説明をする。
最初に戦車群をお披露目する、前にも軍事デモンストレーションを見た元冒険者艦隊船長ゾメアのテンションが上がり喜ぶ。
「ゾリアス公爵、これです。戦車です」と嬉しそうに伝える。
そこには、アトラム王国戦車がおもちゃに見える、堂々とした10式、90式、74式が隊列を組んで進行し、一斉に転進して、5Km先の的に向かい一斉に発射した。すごい音と振動で公爵は「ひっ」と声を飲む。
次は10式だけ残り、3両連携により的を次々と撃ち抜く、しかも動きながら・・・
「これは・・・」とゾリアス公爵はもはや言葉にならない。「こんな事、王国の戦車では無理だ」とかろうじて声に出す。
アナウンスが入る。「10式戦車は120mm滑空砲と自動装填装置により、連射が可能であり、射撃管制装置により走行中でも目標に対して撃破が可能です。また、「C4I」装置により敵情報を共有して、各個撃破を実現しています」と説明がされるが、ゾリアス公爵は何の事か理解できない。
「ゾメア、どういう事だ」
「はいゾリアス公爵、上空のヘリや戦車1台が敵を発見すると、全ての戦車に情報が伝わり、相手が複数であれば、個別に効率よく撃破できると言っています。しかも上空の目では各戦車の熱などを見て伝えるために隠れても無駄と言う事です」
「なんと恐ろしい・・・そう言えば神々の洞窟ではアトラム王国の最新戦車がほぼ紙の様に燃えたと聞いているが、これなのか・・・」と公爵。
「私は神々の洞窟には行っておりませんが、見てきたミソラ達の言う事には、扉からアトラム王国の戦車が現れ、陸上自衛隊の持つ対戦車ミサイルと装甲車による攻撃だと聞いております」とゾメアはミソラ達の話を思い出しながら説明する。
「ミサイル?装甲車? なんだそれは」
「待っているとみられると思いますよ」とゾメア。
アナウンスが入る。「続いて87式偵察警戒車と空挺団による降下と01式軽対戦車誘導弾による模擬戦を行います」
「公爵、これです。8何とか式と言ってました。それにまるひと・・何とかがミサイルですよ」
「空に大型ひこーきがくる。なんか落ちた」と交渉団の一人がのんびり言う。
ゾリアス公爵はこいつが嫌いだった。なにしろタイラグ宰相の人選であり、伯爵には口をはさむ権限はなかった。他の仲間には、奴は暗部ではないかとも言われている。
第1空挺団の精鋭がV-22Jから降下してくる。01式軽対戦車誘導弾も降下させる。続いて向こうから教導隊の87式偵察警戒車が1台近づいてくる。
空挺団は素早くパラシュートを畳むと、01式軽対戦車誘導弾の模擬弾を組み立て87式偵察警戒車に向かって撃つ。模擬ミサイルが飛び87式偵察警戒車の車体に当たる「判定、撃破」とアナウンスが流れる。
「あの装甲車と言うものだけでも、アトラム王国戦車の敵ではなさそうだ」とゾリアス公爵は唸る。
「ええ、ミソラ達の話では、あの装甲車からの1発でアトラム王国戦車の砲塔は飛び上がり弾薬に引火して爆発したとか聞いてます。あのミサイルも1発で・・・・」
「もう良い。わかった。どうあがいてもアトラム王国軍は勝てないとわかった」とゾリアス公爵はため息交じりに言うが、本心であろう。
「私も初めて見た時はたまげました。こんなおとぎ話に出てくる神の武器が実在する事に、あの01式軽対戦車誘導弾と言うのは、狙った獲物に必ず当たるらしいです、たとえ逃げても・・」
「逃げても追ってくるのか・・」
「ええ、ここは地上部隊ですが、艦隊はもっとすごい物を持っているとか、100Km先からでも当たるらしいです」とゾメアは公爵を脅す。
「第2艦隊が無残にも全滅したと聞いているが、そんな武器があれば、いとも簡単だろうな」
「ええ、日本で知り合いの隊員から聞いた話では、1発も日本には当たらなかったと聞きます」
「そりゃ当然だろう、我が国の砲はそんなには飛ばない。100Kmとは・・我が国の砲の4倍の距離だぞ」
「ゾリアス公爵、私は民間人ですが日本とは敵対しない様にお願いします」とゾメアは心から思う。
使節団に対する軍事プレゼンスは成功した。ゾリアス公爵は国王にありのままに伝えると心に決めた。
防衛省からは昨年の富士総合火力演習DVDを渡された。
「アトラム王国に向かった日本使節団は再生できる装置を持っています」と言われ渡された。魔法盤だと思いゾリアス公爵は大切にする。
その後、今度は海自のMCH-101に乗りこみ、横須賀に向かっていた。
アトラム王国交渉艦隊が眼下に見える。大きく立派なのだが、ゾリアス公爵は憂鬱な気分である。
アトラム王国が誇る最新艦のコルグ・スメタナも簡単に沈められてしまうのかと思う。同型1番艦のエコーリア2世は反撃もできず沈んだと聞く。恐ろしい現実を見せられて震えていたが、ここ横須賀に来た目的は、硫黄島沖からアトラム王国交渉艦隊に同行してきた、第1護衛隊が模擬演習を見せる為であった。
一行は、旗艦 DDH-183「いずも」に乗せられ、 DDG-171「はたかぜ」、DD-101「むらさめ」、DD-107「いかづち」と共に出港していく。東京湾沖合200Kmの訓練海域にて訓練が開始された。
最初にDDH-183「いずも」からF-35Bが1機飛び立ち、続いて判定の為にSH-60Kが飛び立つ。
遅れて訓練支援艦のATS-4203「てんりゅう」が目標を曳航しながら現れた。
「てんりゅう」は訓練支援艦「くろべ」と比べると排水量は少し増えたクラスではあるが、速度などは早い為、「てんりゅう型1番艦」とされている。本来の使用目的は乗員の訓練、特に各種兵器の修練ではあるが、今回は第1護衛隊用に目標を曳航しているだけであった。
「てんりゅう」は浮き目標を後方5Kmに曳航している。
F-35Bは転回して目標に対し対艦模擬弾を発射する。
「いずも」からのアナウンスでは「目標に対して対艦模擬ミサイルを発射します。今回の距離は30Kmですが、最大射程100Km以上です」と誤魔化しながら説明する。どうも模擬弾はASM-3(改)の様だ・・最大射程は400Kmにもなる日本の切り札だった。
「続いて DDG-171「はたかぜ」による対艦訓練です」
甲板に並んだアトラム王国交渉団は、隣の艦からなにか発射される所を見た。
垂直に上り、やがて横になり進んでいく、点になり見えなくなった。
「ただいま発射した物は「ハープーン」ミサイルと言います。最大射程は100Km以上です」
「また100Kmだと・・・空も海も100Km・・・・ダメだ・・・」とゾリアス公爵は頭をかかえる。
ゾメアも艦上訓練は初めてだった。想像以上の迫力に声も出ない。
その後、食堂にて海自の食事を一緒に食べ、模擬戦の感想などを述べたゾリアス公爵は、更に驚いた。
「この食事が水兵にまで振る舞えるのか・・・完全に負けている」
アトラム王国と言えど、水兵と幹部は食堂も内容も違うものだった。水兵は持ち場でカタパンと水と軽い惣菜程度で、士官は士官食堂でコースがでる。もちろん士官にはワインも。
ゾリアス伯爵は何から何まで関心していた。兵士の士気の高さに訓練。何一つとしてアトラム王国に勝ち目はない。ホテルに戻るとぐったり疲れてはいたが、タイラグ宰相に連絡をした。見た地上軍の凄さに海軍の長距離攻撃・・・言う毎にゾリアス公爵は興奮してきた。それだけアトラム王国にとっては未知の兵器、神の兵器と言っても良い程の実力を見せつけられたのだ。興奮せずにはいられない。
タイラグ宰相は朝の4時からゾリアス公爵の興奮した話を聞かされ、すこしウンザリしていた。
だが、普段冷静沈着なゾリアス公爵がこれほどの興奮をするとは、状況を少し理解した。
ドーザ方面隊は「きつつき作戦」第2弾を確実に、そして静かに実行していた。
小規模要塞都市ドフーラ郊外に簡易的な飛行場を完成させ、プレハブの駐機場と整備場を完成させている、まだ簡易滑走路は長さ1000m程度だが、滑走路用に加工した特殊鋼板をつなぎ合わせて短距離用の滑走路を造っていた。その隣には3000m級の旅客機も着陸できる滑走路を造る。その後にもう1本3000m級を作る計画である。
ただし、1000m滑走路では最大重量のジェット戦闘機には少し短い。輸送機や軽爆撃機等は普通に運用でき、軽装備であればジェット戦闘機でも離陸はできるが、緊急着陸基地としての運用となる。
(F-16やF-2は運用できるとの噂も・・・)
日本山飛行場からA-1軽爆撃機が25機到着した。これで帝都上空の制空権は完全に自衛隊が抑えていた。
A-1軽爆撃機はプロペラ機体に対空ミサイル2基と500kg爆弾3個を搭載できるのだが、対空専用としてなら対空ミサイル5基を装備できる。ただし斜度機関砲は直線に撃てないので、機銃を撃ち合うドッグファイトは不向きである。
この場合は上空から一撃で狙う必要があり、機関砲についたガンカメラで目標を狙う事ができるが、飛んでいる物に当てる事は不得意である。
帝国第1師団および第2師団は皇帝の命令により、騎馬隊やワイバーン隊を先行させて帝都を目指していた。
ワイバーン隊は、時速400Km程度で距離1000Km毎に5時間の休憩が必要であった。もちろん夜間は眠らせなければならない、飛び続ける事は出来ない、元が生き物なのだ。
騎馬隊も馬が弱っており、15Km/hで走ると30Kmでの休憩が必要である。早馬車などは馬を交換して走り続けられるが、鎧を着た兵士を載せると馬の消耗は激しく、馬が嫌がって止まってしまう。
苦労しながら兵士達は、帝都近郊の北の第1師団騎馬隊とワイバーン隊はトロル街まで来ていた。帝都まで750Kmである。
南側は第2師団の一部が小規模都市ハリタまで転進していた。帝都まで1100Kmであった。
偵察衛星にて小規模部隊の移動を確認した統合幕僚総監部は陸上幕僚総監部を通じてドーザ大陸方面隊に警告を発していた。
OP-3Cを宗谷特別行政航空基地から2機飛ばし、それぞれ帝国第1師団と第2師団の方向に向けて偵察を開始した。データは日本山航空基地(滑走路を2本にして基地となる)の中継施設を通して防衛庁とドーザ大陸方面隊本部に画像として送られていた。
分析したところ、師団の移動ではなく一部部隊の移動であった。先遣隊のずーと後方に本隊が見える。
突出した部隊は帝都に1000Km程度に接近しているが、本隊はまだ2000Km以上も距離がある。
総監部の分析では、守備隊と親衛隊がほぼ壊滅したので、第1師団と第2師団から移動の早い部隊を先んじて帝都に迎える予定らしいと解析した。
これらの予想は当たっていたのだが、こんな状態で帝国は日本と戦うつもりなのかと疑問に思っている。
その様な差し迫った状況でも、第101特殊普通科連隊の第1中隊は手分けをして各都市に潜り込んでいた。
その後に来るであろう陸自各師団の偵察隊に情報を渡すためである。
第101特殊普通科連隊の馬車に扮した荷車には無線機を搭載している。いざとなれば89式5.56mm小銃や5.56mm機関銃 MINIMIを使う事もできる。元帝国兵士であり志願兵の第101特殊普通科連隊は良くやっている。
第101特殊普通科連隊の無線機に帝国師団の一部がトロル街と小規模都市ハリタに現れたと連絡が入った。
「トロルとハリタか・・まだ500Kmはあるな、とりあえず交易都市リリコネとムリナ街に潜入するぞ」
第101特殊普通科連隊の本部は帝都の比較的治安の悪いスラム街に本部を構えている。
近くの、ならず者やスラム街を仕切っている一団(ナムニ団:帝国語で暴力団となるが・・)が、本部を設置した翌日に「みかじめ」料を要求してきた。
第101特殊普通科連隊は本部隊員だけでスラム街を調査して、対抗集団のアジトを探し当てていた。
警備隊と親衛隊を失った帝都は、いかがわしい一団が実質やり放題であり、帝都民は・・特に貧困層は逆らう事が出来ない。なけなしの食料や金子を取られ貧困層の怒りは大きいのだが、逆らうと殺される恐怖もある。
そこに帝都攻撃を成功させた第101特殊普通科連隊が宿を引き払い、本格的な本部をスラム街に構えたのだ。当然ナムニ団の標的になるのは想像も容易であった。
「なんか怪しい集団がボロボロの大屋敷を買い取って住んでいるそうだよ。近づくなよ」と住人の評判となる。ナムニ団は獲物が自分から来たと喜び、下っ端2人を「みかじめ」料と偵察の為に送り込んだのだ。
第101特殊普通科連隊は丁寧に対応して「自分達は交易都市ドミニクから来た商人で、東が戦争で騒がしいから帝都まできたのです。商売で・・」と言っておいた。
ナムニ団の頭領ハボルは手下から聞いて「これは金儲けのチャンスだ」と仲間を集め、用心棒も20人程雇い入れた。「おまえ達、あいつらを襲えば金と商材が入るぞ、活躍した者から分け前を出すからな、一人残らず殺せ」と鼓舞していた。
第101特殊普通科連隊は本部屋敷に25名いたが、屋敷の敷地にセンサーを仕掛け、窓には厚めの木材を張り付け矢に備えている。なにしろ本部要員25名は全て89式5.56mm小銃を装備しているのだ。
屋敷の2階には各種センサーの端末と長距離通信装置と偽装したアンテナがある、2階には無関係な者を上げる訳にはいかない。
ナムニ団の手下が来た翌日、早朝、屋敷の門に設置していた防犯カメラが次々集まってくる輩を確認していた。第101特殊普通科連隊本部全員にボディアーマー3型(防弾チョッキ)と89式5.56mm小銃を持たせ、窓には5.56mm機関銃 MINIMIを置き、侵入者を待っていた。
ボスが到着した。
「お前たち、このお屋敷はお宝がいっぱいだぞ、一人残らず殺せ、いいな」頭領ハボルは言うと門のカギを壊し一斉に中に入らせた。
近隣の家族たちは気づいてはいるが関わり合いになりたくないので通報もせずに家に閉じこもっている。
第101特殊普通科連隊本部隊員は2階に2名を残して残りは1階に集合している。
日本山麓での日本国境を襲撃した帝国第5師団第2歩兵中隊第1小隊の生き残りと、中隊参謀であるマラルは陸自第101特殊普通科連隊本部の参謀長に就任していた。早くに捕虜となった為に皆より早く陸自訓練に志願でき、役職を拝命できた。
マラルは「総員準備」と号令を発し、3名で1つの班に別けて屋敷1階の全ての窓に張り付かせた。
2名は屋敷の裏扉を警戒させる。
一団が屋敷庭に入り込んで来るのを確認していた。
そして一団が玄関に押し寄せるのを待っているのだ。
やがて玄関前に頭領ハボルと手下、用心棒を合わせて60名以上にもなっていたが、陸自隊付きの参謀マラルは「各自対処用意、連射を許可、捕虜は要らない」と指示をする。秘密本部であるから捕虜は必要ない。
マラルは頃合い十分と判断して、部下2名に玄関を開け放ち、勢ぞろいした輩に対して一斉に89式5.56mm小銃による連射を、各玄関に通じる窓から5.56mm機関銃 MINIMIも連射する。
各所から撃たれた頭領ハボルとナムニ団は突然の攻撃に次々と倒れていくが、何が起きているのか解らなかった。
男たちは突然の攻撃になすすべなく、逃げる事も敵わずその場に倒れていく。
「タタタタ」と小気味よいリズムが起こる度に人が倒れる。
頭領ハボル以下、もう立っている者は一人もいない、近隣の家は離れているのもあるが危険を察知して誰も見に来ない。
「状況終了」とマラル参謀は宣言をして、銃に安全装置をかけて確認をしていく。
「すごい人数だな」と言いながら「馬車を用意して運び出すぞ」と指示をする。
遺体を手分けして偽装馬車に積み込み、帝都郊外の元ワイバーン隊宿舎があった所まで往復して60数名を運び出す。ガソリンをかけて木組みと共に燃やす、あたりには異様な匂いが立ち込めているのだが、ワイバーンが燃えた匂いが強く気づかれる心配はない。
しかも宿舎は完全に燃えており、帝国人は近寄ったりしない為に彼らの行動を見ている者は皆無であった。
帝都ではある日突然、頭領ハボルとナムニ団が消え、しかも貧民街の宿泊所を根城にしていた怪しい用心棒達も消えた。貧民街では喜び噂にはなったが、帝都全体に伝わる事はなかった。
マラル参謀は近所に「お近づきのしるし」と言いながら陸自保存食を配り歩き、簡単な傷薬も分け与えた。
そして・・・「私たちは旅の商人です。ここに滞在している事は内密にお願いします。知られれば悪人共が押し寄せて皆さんにご迷惑をおかけします。くれぐれも秘密でお願いします」と言うと「もし具合の悪い方がいられたら、簡単な治療はできますから裏から入って来て下さい」
マラル参謀は大きな屋敷の裏を治療室にして、近隣住民の治療を衛生兵に任せた。住人は感激である。なにしろ帝国で薬や治療は金持ちしか受けることができずに、貧民層は「耐える」だけであった、そこに裕福そうな商人が近隣住民の治療を買って出たのだ、住民はこの商人達を守るために皆で集まり、秘密を誓い、帝都の情報を逆に商人達に伝えると言う約束をした。
近隣都市に派遣されていた第101特殊普通科連隊第1中隊の各小隊は北側をムリナ街と要塞都市バロッサに潜り込み、南側は要塞都市ミルド、交易都市リリコネに、連絡用として第5小隊を帝都に近いソミリア街に置いた。
各小隊は商人に偽装して各都市で売り買いを積極的に行い、怪しまれない様に偽装馬車に商材を満載していた。予定の街に宿を取り、長期宿泊といって、そこを拠点に情報活動と市場への出店を行っていた。宿屋や市場の他の商人から怪しまれる事はなかった。北のムリナ街と南の交易都市リリコネでは、帝国師団が戻ってくるとの噂が流れ、事実2日後には帝国師団の先遣隊が街に入ってきた。
第101特殊普通科連隊第1中隊の小隊はその様子を動画と写真に収め本部に送る。本部は日本山中継所からドーザ大陸方面軍に情報提供していた。
街にやってきた帝国兵士は疲れ切って、街の広場に集まり座って休憩をしている。
同じくワイバーンも街郊外に着陸して、街から餌と水を調達して、与えている。
領主達の使いがやって来て兵士達に水や食料を渡し、幹部は屋敷に招待して宿泊している。
それらも全て記録されていた。
ドーザ大陸方面隊では「きつつき作戦」を完了させ、できる限り陸自との戦闘を避ける目的で戻りつつある帝国師団に対し師団本体への空爆を予定していた。
ドフーラ臨時航空基地から飛び立ったA-1軽爆撃機20機は帝国第1師団先遣隊がムリナ街に到着した事を受けて、師団本体がトロル街を出た郊外をA-1軽爆撃隊が22式500KG焼夷弾を囲うように投下して行く、帝国第1師団はその火の壁を超える事が出来ない、つづいてA-1軽爆撃機に搭載された斜度機銃から12.7mm対地用弾(炸裂弾)が帝国兵士に浴びせられる。ドフーラ臨時航空基地から1800Kmを飛んできた彼らに燃料の残りは少ない、早々に切り上げて、帝都東側山脈の向こうに待機している空中給油機にて次々と給油を受け、ドフーラに到着して弾薬と22式500KG焼夷弾と燃料を補給すると今度は南側小規模要塞都市ハリタに向かい、帝国第1師団と同様に第2師団も焼夷弾で囲み、その中を斜度機銃で兵士、物資、火薬などを狙い撃ちにする。
帝国第1師団と第2師団はA-1軽攻撃機の活躍により、その兵力が2/5に減少する。100万を誇った帝国師団もいまや10万人程度の死者と同じく30万人程度の負傷者を出していた。おまけに資材や食料、弾薬も燃えて手が付けられない。各師団は街に戻り手配をして再度行軍できるように物資を待つ事となった。
その日、トロル街と小規模要塞都市ハリタの郊外では、大きな山火事が報告された。それに帝国兵士が巻き込まれたと各領主は魔道通信で帝都に報告していた。郊外の平原に山火事が2つ同時に起こる事など不可能なのに山火事で通していた。帝都もそれを信じていた。宰相は報告されたままを皇帝に報告しているが内心では「いよいよきたか」と思っている。腹心と直属の暗部に帝都脱出のルート確保に食料、資材の備蓄。それに貴重品等の換金を指示している。逃げ出すつもりなのか・・・
帝国第1師団と第2師団の先遣隊として出発したワイバーン隊と騎馬隊は師団本体が攻撃を受けた事を知らず、自分達が孤立している事も知らさせていない。一刻も早く帝都に向かう事だけが使命となっていた。
ありがとございました。
次も長くなる予定・・なのかな
左腕が痛くてどうしようもないのですが・・何とか打つ事は出来ます。
遅くなりますがよろしくお願いします。(痛い詳細は活動報告をご覧ください)