第90話 帝都攻略 その2
第90話を投稿します。
2月21日に左足の小指を痛め、新年会ではお酒を一滴も飲みませんでした・・・残念。
コロナが流行っているので、お店も空いているのかなと思いましたが、横浜でも北部に位置する我が街では宴会自粛もなく、普通に賑やかでした。ただし行き帰りは全員マスク姿です。
皇帝への脅迫は帝都攻略の第一歩です。帝国艦隊も苦労しそうです。
陸自第2師団は当初の予定通り、小規模要塞都市ドフーラの郊外に大規模な基地建設を続けている。
計画では、ドフーラ郊外の基地、駐屯地に航空基地3000m級滑走路2本を建設し、平和が訪れたら宗谷特別行政区に作った空港兼航空基地のようなハブ空港にする予定であった。
このドフーラ郊外は宗谷特別行政区空港から1500Kmの距離、日本で言えば羽田から沖縄那覇空港の距離に近い。更に帝都までは1100kmの距離であり制空権を空自が抑えるには最適の位置と試算されている。
各第5師団第5施設大隊および第7師団第7施設大隊もドフーラ郊外に合流して、ドーザ大陸方面隊の駐屯地と病院、航空基地と補給廠を建設していく。まだ荒れ地の飛行場にはC-2が引っ切り無しに飛んできて資材や重機に弾薬等の補給物資を次々と置いていき、資材が山積みとなっていた。
小規模要塞都市ドフーラの領主であるミトラーラ伯爵は帝国占領後に領主としてドフーラを守ってきたが、帝国の指示に従い陸自第2師団第2偵察隊との小規模戦闘になり、87式偵察警戒車の上部に取り付けられた74式車載7.62mm機関銃より北門守備隊隊員は全滅し、続く第2戦車連隊の90式戦車が火を噴き北門を1発で破壊、続いて90式戦車による体当りで門が粉砕した。
そして街中に戦車を先頭に部隊が到着して、伯爵邸を包囲し捕獲したのだった。伯爵は抗えない戦闘力に震え自衛隊の言われるままに触れを書いて貼り出した。
しかし伯爵の驚きはその後も続き、大型重機が次々到着してドフーラ郊外に大きな敵城を建設しているのである。しかも通常6か月はかかる堀の構築もたった2日で終わる。一晩経過すれば壁が建ち居住できる宿舎が次々と完成していく、大きな空飛ぶ機体の「ゆそうき」と呼ぶらしいものが沢山飛来して次々と荷物を置いていく、そうするうちに重機と呼ばれる機械らしき物が次々と増えていき、それに従って建設中の城はどんどん大きくなる。
伯爵は小規模要塞都市ドフーラ程度なら、やつらは何日で作り上げるかと思うと心底恐ろしさを感じた。
遡る事5日前、帝都では皇帝ガリル3世が城から元老院議事場を見つめていた。
日本がビラで撒いた日時である。
「こんなビラ嘘に決まっておろう。日本に死傷者がいないなどと「でたらめ」ばかりではないか、サイネグ宰相、違うか」
「皇帝、お恐れながら・・・報告では一方的に・・・相手の姿を確認すら出来ずに師団は壊滅したとあります。本当なら恐ろしい事です」とサイネグ宰相は怒りにふれまいと言葉を選んで進言する。
「陛下15分前です」と御付きの者が告げる。
すると前にも聞いたことのある異様な音が一帯に響き渡った。今回の帝都に妨害できる直上護衛はいない。
宗谷特別行政区空港から空中給油機とF-15Jを伴ったF-2が2機翼下に前回同様GBU-12(Mk82 500ポンド爆弾:通称ペイブウェイ)を4基と増槽2つを装備していた。護衛役のF-15Jは模擬爆弾を2基装備している。なんの為に・・・
F-2は目標に照射されたレーザー反射を捕らえ、大きく帝都上空を旋回して爆撃コースに入った。
帝都ではビラに書かれた予定時間なので、ビラは回収されたが人々の記憶を消すことはできない、大勢の帝都民が外に出て、元老院がある小高い丘の上の皇帝居城から少し離れた建物を見ていた。
「きっきたぞ」「静かにしろ」「見つかったら重罪だぞ」「・・・・」
だが。帝都を取り締まる予定の守備隊はごく少数しかいない、急遽周りの都市から守備隊を帝都に派遣させていた。かれらもビラに書かれた通り丘の上を見ている。
「皇帝陛下ここは危険です、お下がりください」とサイネグ宰相は皇帝を説得する。
「ばかを言え、あんな上から当てられるものか」と皇帝は上空からの爆撃は帝国のワイバーンをもってしても至難の業だと承知している。
「いえ陛下、あ奴らは我々と違う技術を持っています。お願いですからおさが・・・」サイネグ宰相が全部言う前に皇帝はサイネグ宰相を張り飛ばした。サイネグ宰相は床に転がる。
「お前はあいつら・・日本の味方なのか」と皇帝は激怒する。
か細い声で「陛下・・・」とだけ言う宰相。
「陛下時間です」とお付きが言うと同時に爆裂音と閃光が同時に襲ってきた。
皇帝の居城から50mしか離れていない元老院の建物が大きく火を噴いたと同時に一部が崩れ落ちた。
F-2は誘導レーザーに向かって8基全てのGBU-12(Mk82 500ポンド爆弾:通称ペイブウェイ)を放った。
ほぼ同時に建物上部に着弾したペイブウェイは大きな爆発を起こし、屋根と壁を破壊し内部に引火した。
その衝撃波が皇帝居城を襲う。
帝都市街からでもはっきりわかるほどの火柱と遅れて届く破壊音に帝都民はその場でしゃがみ込み両手で頭を押さえる。「神の怒りだ」「女神様の怒りだ」「これでこの世も終わりだ」などと口々に呟き震えている。
予告なしの最初の攻撃は、結果しか見ていないのだが、今回は予告がある上にほとんどの帝都民が外で見ている。そこに絵にかいたような攻撃が目前に繰り広げられたのを見て、神の所業と思うのも間違いではない。
なぜなら高度3000mからピンポイントに攻撃をして、なおかつ高速で飛び去ってしまったのだから・・
続くF-15Jは上空に障害物が無い事を確認して、F-2に対する妨害を阻止すべく帝都上空を旋回するが、F-2の攻撃完了を受けると、皇帝の居城に向けられたレーザー反射波を捕らえ、爆撃コースに入る。
このF-15Jは近代化改修を受けた機体であるが、対地攻撃能力を強化する為に日本が独自に解析し改修の追加を行った機体である。F-15ストライクイーグルの様に対空対艦対地能力を強化した機体である。まだ2機しか用意できていない。
追加機体や改修の発注が難しくなった事を受け国産化の研究をしていたが、コンピュータと観測機器などを国産化して対地能力を強化した機体に改修された。FA-15Jとでも呼ぶべきなのか、それともF-15EJと呼ぶべきなのか、空自は限定的にF-15J改と一時的に呼んでいる。
爆撃コースに入ったF-15Jは目標レーザーに向けて模擬弾2発を投下した。
居城から元老院爆破の様子を見ていた皇帝は、どうにか立ったままを保ったが、気を抜くとへたり込みそうになるのを堪えていた。皇帝謁見室にそろった幹部達は全てへたり込んでいた。
一人が気づいて「皇帝陛下、窓からお離れ下さい」と言いながら皇帝を後ろに連れて行く。
途端に居城の壁面に2発の模擬弾が突き刺さる。
石造りの居城は大きく揺れ、火をつけた多数のランタンも大きく揺れる。幾つかは落ちて燃え広がるが、要所においてある消火用の毛布を掛けて消火する。
やがて親衛隊長(元副隊長)から、城の壁に2本の太い矢が刺さっているとの報告を受けて、皇帝は急ぎ庭に出て見上げる。確かに城の側面に何かが刺さっている。石の壁を壊して刺さっているのだ。
「これは・・・お前たちをいつでも攻撃できるのだぞと言う事なのか・・・」と皇帝は絶句する。
サイネグ宰相は声には出さないが、「帝国は終わりだ」と思うのであった。
皇帝ガリル3世はしばらく絶句したままであったが、しばらくすると謁見室に戻っていった。
「サイネグ宰相、師団はまだか・・・奴らが攻めて来るぞ」と怒鳴り声をあげる。
「各師団が到着には後5日はさいて・・・・」
「馬鹿者。来れる者だけでも先に、来させろ。走らせろ。騎馬隊はどうだ」と喚きながら言う。
「はい、直ちに連絡を」とサイネグ宰相は言いながら、心で舌打ちをしてエルフの部屋に向かった。ほっとした。
「お前たちも下がれ」と皇帝は言い。一人になった。
その頃、親衛隊は壁に刺さった模擬弾を取るべく建物内部を調べ、外部では足場を作り取り去ろうとしている。やっとの思いで模擬弾を取った親衛隊は爆発する恐れを感じながら庭の中央に、それを置いた。
トネグ親衛隊副隊長改めトネグ親衛隊長は皇帝謁見室に行き、日本の矢を回収したと報告した。
「爆発の可能性がありますので、庭の中央に保管しています」と報告。
「開けよ」と皇帝。
トネグは聞き違いかと思い「開けますか・・・」と聞き直す。
皇帝は何も言わなくなった。
トネグは戻り、大きく太い矢を見つめていた。
先端は壁にめり込んだ為に大きく潰れていているが、胴体は残っている。
胴体中央に矢印と線が描かれており、いかにもここを回せと言わんばかりに書かれている。
トネグは爆発の危険もある事から、部下を下げて一人で胴体を回そうとする。
動かない・・・
見かねた部下が数人、先端と後方を持ちそれぞれ矢印の方向に回すと簡単に回る。
そこ迄を見たトネグは再度部下を下げ、一人で最後まで回して矢を二つにした。
中に紙が入っている・・・・
そこには、「皇帝に告ぐ、次は皇帝に直接当てる。どこに逃げても無駄と思う事だ」と脅迫文が入っている。
トネグは考えた。皇帝に渡すべきかと・・・
サイネグ宰相はエルフのいる、通称「通信部屋」に行くと、帝国第1師団と第2師団に連絡を入れた。
「帝都が攻撃され皇帝陛下が狙われた。急ぎ来れる者は何を置いてでも来るように」と連絡をする。
そこに、ドアをノックしてトネグ親衛隊長が入ってくる。トネグは紙をサイネグ宰相に見せる。
サイネグは「これは・・・」と絶句して、預かると言い他言無用とも言う。
解体した矢に危険はあるかと聞き「無いと思います」と確認して、皇帝に現物を見せなさいと言う。
「皇帝陛下、これが刺さっていた矢です」と言いながら親衛隊員とトネグが分解した模擬弾を持ち込む。
皇帝は一瞬「ひっ」と言ったが、親衛隊員は聞こえていない振りをする。
「皇帝陛下半分にしましたが危険はありません」とトネグが報告すると皇帝は安心したように近寄ってきた。
精密な加工がされ、紅白に塗られたペイブウェイ模擬弾は見事なほどであった。
見れば帝国との技術格差は一目瞭然なのだが、皇帝ガリル3世は「捨ててしまえ」と憎らしげに言うだけであった。
トネグは一瞬迷ったが「はっ」と言って部下と一緒に部屋を出た。
戻る途中トネグはサイネグ宰相の執務室に立ち寄り、皇帝に見せたと報告する。
「して如何であった」と聞くがトネグは答えられない・・・
「わかった」とサイネグ宰相は言い、「城の外の堀に沈めてしまえ」と指示をする。トネグはほっとした。
帝国民は、その夜大騒ぎであった。
日本との交渉を行っているアトラム王国は、本国と日本の両方で連絡を取り合いながら交渉を進めていた。
日本側交渉団第1艦隊はアトラム王国南ロータス港に停泊して交渉を継続している。こちらも遠い日本と短波による交信で指示を受ける。
こうして、日本とアトラム王国の「通商条約」と「相互交流協定」が先に締結された。
日本側はアトラム王国で必要な飼料や種に農機具や輸送用のトラックと食料、海自物資を載せ、横浜本牧ふ頭から民間大型貨物船3隻に大型車両運搬船1隻、第11護衛隊 DD-152 やまぎり, DD-153 ゆうぎり, DD-154 あまぎりを伴い出港していた。
次に国会でアトラム王国に対するODAが承認され、佐世保からは、AOE-426 おうみ と LST-4001 おおすみに陸自第8師団第8施設大隊を載せ、同時期にアトラム王国に向けて出港していた。おうみには対潜ヘリであるSH-60Kを1機搭載、おおすみには輸送用として陸自よりCH-47JAを2機分解して載せている。また作業の手伝いと施設大隊の護衛として第8師団の第42即応機動連隊も機材ごと、連れて行く。
日本とアトラム王国との国交は結ばれ、相互に事務所開設を認可された。
因みにアトラム王国東京大使館は赤坂に開設された。一方日本大使館は、アトラム王国の王都ブリシアシティーと南ロータス港に支所を開設していた。これは交渉団として乗り込んだ外務省担当官6名で開設を行っている。ただし本国との連絡は短波による通信で、この点ではアトラム王国に劣っていた。
アトラム王国側の決め手は、交渉艦隊が南ロータス港に到着してから数日後、王城にて日本主催の交歓パーティーが催された時に、日本の海自護衛艦から給養員が勢ぞろいして食材や酒類を持ち込み、アトラム王国に負けないほどの料理と酒を用意して歓待した。
白いコック服を着た給養員は整列して荷物を運び入れ、てきぱきと料理作りを始める。
ただし、いつもはスチーム鍋で煮炊きしているので勝手が違い、かまどに薪と言う昔の日本での調理を強いられていた。だが、経験を重ねていた給養員たちは、無理難題に立ち向かい、料理を次々と完成させていった。見た事もない料理にスメタナ国王はじめ家臣やその家族はその美しさとうまさに驚嘆した。
酒も海上では飲めないのだが、日本酒、ワイン、焼酎、ウイスキー、ブランデーとソフトドリンクを持ち込み、日本の技術の高さをスメタナ国王一同に知らしめた。
特に給養員手作りのスィーツ類は種類も多く、女性達を日本のファンにする事は容易であった、これがある意味、交渉を早めた原因でもある。どこの世でも女性は強い。
「このケーキを食べてしまったのだから、もう食べられないと言う事は無いですよね・あ・な・た・」・・
これは怖い。
スメタナ国王もスフィーナ妃やソフィア王女から言われ、立場が無くなっていた。
こうして日本とアトラム王国の条約は調印され、ODAによるインフラ整備も目途が立った。
特に日本からの貨物船には農業や漁業の専門家に家畜や料理研究家も乗りこみ、アトラム王国に新しい風を送る総合的支援が確立した。
一方帝国に話を戻すと、陸上部隊が全て帝都に向けて出発してしまったおかげで、西側を守るのは帝国第1艦隊と第2艦隊のみとなってしまった。沿岸から離れてしまうと防衛ができない為に帝国艦隊は制限された防衛態勢にならざるを得なく、アトラム王国が虚をついて攻撃する事を恐れていた。
魔道通信のリレーにより、西海岸の南側を守る帝国第2艦隊に、港町ドルステインに日本艦隊を迎え撃つ事になっていると暗部から連絡があるが、帝国第1艦隊同様に西海岸沿岸から動けない。
下手をすると、西側からアトラム王国艦隊、南を日本艦隊から強襲または共襲される危険もある。帝国第2艦隊は第1艦隊以上の緊張を強いられていた。
「提督、これでは岸に張り付いた艦隊ではないですか」と副官のトリムスが帝国第1艦隊司令に文句を言う。
地上軍と違い船に命を載せる者として、多少の軽い愚痴は許容されている。
帝国第1艦隊司令フォン・カメルは副官の愚痴を聞き流し、「アトラム王国に備える為だ、日ごろの成果を見せて見ろ」と鼓舞する。
その頃、帝国第2艦隊から港町ドルステインの状況が第1艦隊にも届けられた。
フォン・カメル帝国第1艦隊司令は、帝国始まって以来の非常事態に緊張する。
「トリムス、良いな第2艦隊が襲われれば助けに行くぞ」
「司令、帝都からの指示で、我々はこの場を動けません」
「そんな事はどうでも良い、第2艦隊だけではアトラム王国に負ける、そして負ければ、我々に向かってくる。さすれば我々も戦力差で負け、帝国を守る艦隊は無くなるのだぞ」
「しかし、司令・・・」
帝国第1艦隊では覚悟を決めていた。助けに行けば皇帝ガリル3世の怒りを買い、行かなければ自分達が死ぬ。どちらも死ぬ運命に違いない。
一方、日本とアトラム王国は合意した条約案を両国首脳により正式調印する運びとなっていた。
これを受けて、日本交渉艦隊の第2艦隊は東側の帝国艦隊を警戒すべく警備行動に移行していた。
衛星写真では帝国艦隊は、それぞれの母港近くで警備行動をしている様に見える。
統合幕僚監はこれを好機と捉え、帝国艦隊に対する作戦立案をしていた。
「きつつき作戦」の第一弾を成功させた、ドーザ大陸方面隊は次なる作戦準備に入っている。
帝都衛星都市の無害化である。
帝国第1師団と第2師団が移動を開始したことは偵察飛行や衛星監視画像で確認している。
ドフーラ郊外の航空基地が完成してしまえば、アウトレンジからの爆撃でほとんどの隊は全滅できる。
しかし陸自が恐れるのは、各衛星都市に散らばる帝国軍が一体化してしまえば、市街戦となり陸自にも犠牲者が増える事である。その為にも先に衛星都市に交渉団を送り、中立、敵対、味方をはっきりさせねばならない。
しかも、味方が寝返る事も考慮しなければならない為に、作戦は慎重かつ大胆に行わなければならなかった。
ここに「きつつき作戦」第2弾が発令された。
「きつつき作戦」とは、陸自と空自が共同で行う作戦で、ビラや領主脅迫・・・領主の協力を得ながら、敵味方に街を別けていき、最終的には全てを味方にしてしまう作戦である。
味方にならない街には容赦なく陸自機動普通科連隊や戦車連隊を送り込んで、陸自による治安を目指していく。途轍もない転移以前には考えられもしない計画であった。
もし必要なら、習志野駐屯地に団を置く、第1空挺団までも出動する体制である。
ありがとうございました。
次回からいよいよ本格的に帝都攻略となる予定です。
お楽しみください。
あれ、日本交渉艦隊の第2艦隊が別行動をとり始めています・・・