第87話 アトラム王国との交渉
第87話を投稿します。
来週水曜日に遺品整理を入れていまして、日曜日から整理に入るので投稿が遅くなります。
そこで先に書きだめた分を全て投稿いたしました。
再来週の日曜日は新年会で、来週から投稿が遅くなる予定です。すいません。
スルホン帝国の帝都が攻撃され、親衛隊と帝都防衛隊が攻撃を受けた。
サイネグ宰相が皇帝謁見間に走りこんでくる。
「皇帝陛下攻撃されています。お逃げください」とサイネグ。
先ほどから帝都にある石造りの居城が爆撃の威力で揺れている。
「先ほどから揺れていたが攻撃なのか・・・」と皇帝ガリル3世は絶句する。
「はい被害報告はまだありませんが、城にいては落下物などで圧死します。お逃げください」とサイネグ。
サイネグ宰相は無理に皇帝を避難させていた。取りあえず城の西門に向かった。
「サイネグよ、帝都が攻撃されるなどあってはならないことだ」とガリル3世。
「皇帝陛下、敵は空から建物を攻撃してきました。我々には防御するすべがもうありません」とサイネグ。
「昨日のワイバーン飛行隊の次は居城の攻撃なのか・・・」と皇帝。続けて「敵は・・いや日本は帝都を知り尽くしていると言うのか・・まさか」
「皇帝陛下いまは逃げることが最優先です。皇帝陛下が無事な姿を見せれば国民や兵士達も士気を取り戻します。それまでのご辛抱を」とサイネグ宰相は必死に説明しながら皇帝ガリル3世を引っ張り西門に向けて走る。
どうにか皇帝ガリル3世とサイネグ宰相は城の西門を抜けて息をついた。
「我が逃げ延びなければならないとは・・・みじめだ」とガリル3世。「絶対にこの恨み日本を滅ぼしてやる」と怒りに変える。
「皇帝陛下、帝国師団も空からの攻撃と地上からの攻撃で壊滅しました。我々にはまだ2百万の兵士と第1第2艦隊が健在ですが・・・・その時間の問題と思います」とサイネグ。
「サイネグ、怖気づいたのか。お前がそんなでは反撃できぬではないか」と皇帝ガリル3世はサイネグ宰相を叱る。
「皇帝陛下、攻撃は終わったようです。まずは城の状態を残った者に確認させますので今しばらくここにてお待ちください」とサイネグ宰相は城の召使やメイドに指示して皇帝を守り、その場に残る。他には城西門警備の親衛隊小隊が皇帝ガリル3世を守るために四方を囲み不審者に備える。
城の点検には各城門警備隊を最少人数で警備し、残った者は点検に回っている。
この時・・・親衛隊が警備担当以外いないことに気づいた。
警備をしていた親衛隊の数名が親衛隊宿舎を確認すべく走っていった。
戻って来た親衛隊隊員は宰相に報告する。「サイネグ宰相閣下、親衛隊宿舎が完全に破壊され燃えております。隊員は数名が怪我をして外に座り込んでおります」と報告する。
「なに、先ほどの揺れは親衛隊宿舎を攻撃した物なのか・・・して何名残っておる」とサイネグ。
「はい、各3ヶ所の門担当で36名・・他は負傷者ばかりで数は不明です。逃れた者の中に隊長と副隊長1名の姿が見当たりません。トネグ親衛隊副隊長は警備責任者で東門に残っておりますが他の者は確認できていません」と報告する。
「なに親衛隊は5千名もおったのだぞ・・たった36名なのか・・・」とサイネグ宰相は大声をあげた。宰相は冷静に物事を深く考える人物で普段は物静かな人物なのにである。特に皇帝の信任も厚い。それが大声をあげてしまった。
それを見た皇帝ガリル3世も異常事態と認識した。
それから2時間後・・・皇帝謁見室に戻った皇帝に、門を警備していた親衛隊員が走り込んでくる。
「ご報告」
「何事だ」とサイネグ。
「空からこれが降ってきました」と隊員。
サイネグ宰相に降って来た紙を渡す。
「ご報告」と通信係が入ってくる。
「何事だ」とサイネグ宰相。もう驚かない。
「主要城塞都市から報告。空から紙が降ってきて「帝国が敗北し、帝国3個師団が壊滅したと書いているそうです。各都市のエルフ達から通信が入っています。なお各城塞都市からの報告も同じ内容です」と通信係。
サイネグ宰相が手にしている物と内容は同じであった。
「皇帝陛下、これをご覧ください。同じものが各要塞都市にも撒かれております」とサイネグ。
「これは、なんだこの紙は薄く丈夫ではないか。帝国ではこんなものは作れん」と皇帝は言うとビラを手に取った。「改めて見ると薄いな・・・上質すぎる」とガリル3世。
サイネグ宰相は何も言わない。すでにこの紙を受け取った時から帝国の敗北を感じてしまったのだ、でも宰相として声に出せない。
「サイネグよ、書いてある事は事実だが・・これを国民が知れば・・・全ての城塞都市に連絡してデマだ、回収せよと連絡して、帝都に撒かれている物は帝都警備隊に回収を命令してくれ」とガリル3世。
「かしこまりました」とサイネグ宰相。心の中ではこれで帝国も終わりかもしれないと・・・
サイネグ宰相は伝令を警備隊に出すように親衛隊の南門担当に命令した。帝都警備隊に一番近いのは城の南門担当だからだ。
しばらくして・・・
「サイネグ宰相閣下、ご報告」と伝令らしき親衛隊員が入って来た。
「帝都南門近くの帝都警備隊宿舎に行きました所、親衛隊宿舎と同様に燃え落ちており、こちらは一人も生き残りを確認できません。近くの宿の主人に聞いたところ、突然宿舎が爆発して、計8回爆発したとの事です。時刻を聞いたところ親衛隊宿舎攻撃とほぼ同時刻とか、追加報告として帝都上空を警備していたワイバーン飛行隊の生き残り4体が、恐ろしく早い鳥に撃ち落されたとか・・そのワイバーンは爆発したとの事です。あれはレッドドラゴンでは無いかと目撃情報があります」と報告する。
「・・・・・」サイネグ宰相は絶句する。「一万人が消えた・・だと・・・」と皇帝。
しばらく無言の時間が流れ、サイネグ宰相が「下がって城南門の警備を続けろ」と言う。
「はっ」と隊員は敬礼をしてさがる。
「皇帝陛下・・・・これは」とサイネグ。
「サイネグよ至急第1師団と第2師団を呼び戻せ」と皇帝。
「皇帝陛下それではアトラム王国に備えることができません。せめて第1師団を残しては」と提案する。
「愚か者め、帝都の防衛が丸裸なのだぞ、敵が来たら守るすべがないのだぞ・・解っておるのか」と皇帝は珍しく宰相を怒鳴りつける。
「皇帝陛下・・紙には明日の夜9時に元老院議場を攻撃するとあります。我々には打つ手がありません」とサイネグ。
「よし明日本当に議場が破壊されるのか見てやろう」と皇帝。
その頃帝都の南門近く大型宿屋のミモザ亭では、宿の主人夫婦がビラを手にして話していた。
「この紙薄く丈夫だ・・こんな高価なものを空から撒くとか・・・日本は帝国以上だと思わないか」と主人。
「あなた、そのとおりと思うけど・・・声に出してはダメ。きっと皇帝の回し者が回収しに来るし、不敬と言って捕らえ投獄されます」と女房。
「そのとおりだな。ルミナス王朝時代はみんなが笑顔で良かった。あんな時代が来ないかな・・」と主人。
「あなた、それこそ不敬罪として死刑です。口にしても考えてもダメです」と夫人。
スルホン帝国帝都はルミナス王朝時代には元王都であり、王と王女が平和で誰でも公平な世界を作っていた。城もそのまま皇帝が居城として使用しており、猜疑心の強い皇帝がルミナス王朝時代の使用人を全て捕らえ殺害していた。
翌朝のミモザ亭は、朝食を食べる宿泊客と来店客で賑やかであった。
ミモザ亭の朝食は質も量も申し分なく、名物でもあった。
朝食を食べに来店した冒険者が仲間と雑談で言う。「なあ昨日の夜、こんな物が降ってきんだぜ」とビラを見せる。「おれも見た、スゲーなどんな大型のドラゴンで運んできたんだ」と人を載せて空を飛ぶのはワイバーンかドラゴンしか知らない冒険者は言う。
隣の席の商人一行は「すまんねあんちゃん、そのビラを見せてくれないか」と宿泊客の商人一行は言う。
「おおさ、これが良質の紙と来た」と冒険者。
商人は紙の品質にも驚いていたが、内容にはもっと驚いた。
商人は書かれた内容を読むと冒険者に紙を戻した。
「冒険者のあんちゃん、悪いことは言わね。その紙すぐに捨てな。持ってると帝国兵士に捕まるぞ」と忠告する。流石商人だけあって各地の情報に精通している。
「なんでさ、こんな薄くて立派な紙は二度と手に入らね。あんたも欲しいだろ」と冒険者。
「いや欲しくない。持ってると良くて投獄、重ければ死刑だ」と商人。
「ひぇぇぇぃ」と紙を放り投げる。
「そう、それが良い」と商人。「皇帝に不利になる物は持っていては、いけないよ。多分回収に動くと思うよ。丸めてその辺に捨てておきな」と商人。
突然兵士が扉をバンと開け「昨日のビラを持っている者はいないかと大声で言う」兵士は2名。
「あんなうその読み物、そこにあります」と冒険者は丸めたビラを指さす。
「よろしい、敵の策略だから気にしない様に」と兵士は言い、そのビラを拾う。
「他にも持っている者はいないか」と言う。
「はい兵士様」と主人が言う。「昨日燃やすにちょうど良い物がふってきまして、今朝の焚き付けに使いました」と主人。本当だ、かまどに紙の燃え端があった。
「良かろう」と兵士。
商人に兵士が近寄り、「お前たちはどうだ」と言う。商人は「朝起きてここで朝食を取っているだけでなにも見ていません」と言う。「本当だな」と兵士。「はい」と商人。
兵は出て行った。
「商人のだんな助かったよ」と冒険者。
「ほらな」と商人は言い、また食事に戻る。
ここは帝都に近い交易都市リリコネ。ある建物の地下に大きな空間がありそこに何人かの冒険者が集まっていた。
「これだよ昨日の紙は」とそこには自衛隊が撒いたビラが5枚程置いてあった。
「この内容が本当だとすれば帝国軍は相当弱体化しているはず。先ほど西の港町ルミネから仲間が魔道通信で報告してきたが、帝国第1師団が移動すべく準備をしているらしい。懇意にしている街の商人が「軍は帝都に戻る」と聞いている」と報告する。
「なに、ではこれは本当の事ではないか」と別の冒険者。
「でも1師団百万人の規模だ、われわれにはかなう相手ではない」と冒険者。
「日本軍に期待だな、これでルミナス王朝のルミサイア王女を擁して再興できるぞ」彼らの思惑も絡まり再度帝国は動き出す。
一方交渉団の話に戻そう。
日本側交渉団は2万kmの距離を進み、アトラム王国のある大陸に近づきつつあった。
「スメタナ国王陛下報告します」とタイラグ宰相が王の間に入って来た。
「報告せよ」とスメタナ。
「はい、西ロータス港と南ロータス港より報告です。沖合に船団を確認したとの事です」とタイラグ。
「なに、帝国艦隊か、まさか日本使節団ではないだろう」とスメタナ。
「いえ国王陛下、日本使節団と思います。艦影が帝国には少なく、しかも速度が見た事無い程に速いと報告が来ております」とタイラグ。
日本使節団は2船団に別れアトラム王国に接近していた。
日本使節団に同行しているアトラム王国使節団の副官アナウムは魔導士では無い為に魔道通信できないでいた。
「儂が直に見てくる。ハイラムを用意してくれ」とスメタナ。
ハイラムとはスメタナ国王専用のワイバーンで他のワイバーンより大きく速度も速いのである。
「スメタナ国王陛下、危険です。南ロータス港から兵士を派遣しています。今しばらくお待ちを」とタイラグ。
「いや飛ぶぞ」とスメタナ王。意外と我がままである。
「仕方ありません」タイラグ宰相は側近を呼ぶと、ハイラムを呼ぶ様に指示していた。
ハイラムが王の間に通じるバルコニーに飛んできた。
灰色に白のラインが入っており、一目で他のワイバーンと違う事が解る。
スメタナ王はハイラムの首筋を撫でると「しばらく飛べなくてすまない。今日は思う存分飛ぶぞ」とスメタナ王は言い。ハイラムは答える様に「キィィー」と鳴く。
ハイラムに跨りスメタナ王は南ロータス方面に飛ぶ。
ハイラムは背中にスメタナ王を乗せ、時速500kmで飛び続ける。王都から南ロータス港は500km約一時間の距離である。
南ロータスの波止場に着陸したハイラムは直ぐに南ロータス港を守る警備隊に囲まれた。
「国王陛下、直々のおいで歓迎いたします。あれが日本の物と思われる艦隊です」と警備隊長が報告する。
「うむご苦労。して早いな」とスメタナ。
突然スメタナ王の懐で魔道具がウィンウィンと鳴る。「タイラグからだな」と懐から出し「なんだ」と魔道具に言う。スメタナ王も優秀な魔道士である。魔法国の王は優秀な魔道士である。
アトラム王国の正式名称はアトラム魔法王国であったのだ。
もう帝国領となってしまったが、マーリック魔法王国とは旧知の中であり、アトラム王国もマーリック魔法王国に応援を出したのだが及ばず帝国に占領されてしまった。
その頃からスメタナ王は魔法だけではなく、武力にも力を入れ、魔道研究と機械技術を組み合わせて帝国と互角なまでの軍事力に育てていた。
「スメタナ国王陛下、ロータスに到着した頃と思い連絡いたしました。冒険者達の話では敵意が無い事を白い旗などで表すらしいです。攻撃されない様にご用意お願いします」とタイラグ。
「有難うタイラグ」とスメタナ王は懐から白いハンカチーフを取り出し手にもって、日本艦隊に向かって飛び立った。
地上では警備隊が慌てて「国王陛下」と叫んでいる。
「ハイラム、艦隊の上を転回してくれ」と言う。
「ハイラムあの大きく変な艦に着陸しよう」と言うとスメタナ王は交渉団旗艦DDH-184「かが」に白いハンカチーフを振りながら着陸する。因みにDDH-184「かが」は全長248m最大幅38m、第2艦隊を形成する旗艦 DDH-182「いせ」は全長197m最大幅33mであり、上空から見ると第1艦隊群の旗艦「かが」の方が大きい。
DDH-184「かが」の飛行甲板中央に着陸したスメタナ王は白いハンカチーフを振りながら銃を持って警戒している海上自衛隊員にアトラム王国語でアトラム王国の人間を頼むと言った。
自衛隊員は艦長に報告し、艦長はアトラム王国交渉団に伝えた。
突然「かが」にアトラム王国語のアナウンスが流れ、飛行甲板に通じる扉からアトラム王国使節団の副官アナウムが飛び出してきた。アナウムはワイバーンと人物を見るとひざまづき最上の敬意を表した。
つづいて外務省政務官の富沢が飛び出し、アナウムに近寄ると「この方を紹介してほしい」とポケット翻訳機で伝える。
「このお方はアトラム王国スメタナ国王陛下です」とアナウムは紹介する。
びっくりしながら、富沢は無線で日本国交渉団司令兼交渉団長に伝えると「かが」艦内は大騒ぎとなった。
無線を受けた富沢はポケット翻訳機で「アナウムさん、艦長よりお願いだそうです。そのワイバーンを向こうの旗を振っている黄色い色の士官の場所に移動をお願いしたいとの事です」と伝える。
アナウムはスメタナ王に伝える。「わかった」とスメタナ王は言うと「ハイラムよ、あの者の傍にて座って待て」と伝えるとワイバーンは羽を広げ、航空機誘導士官のもとに飛び羽を畳んで座り込んだ。
一連のやり取りを見ていた海上自衛隊員も「おぉぉぉ」と言い拍手する者もいる。
「初めまして国王陛下。日本国交渉団の副団長富沢と言います。よろしくお願いします」と富沢は自己紹介を行う。
「うむ、スメタナである」と国王は言い、次の言葉を待っている。
富沢に無線が入る。
「国王陛下、用意ができたようです。ご案内します」と富沢は「アナウムさんもついて来て下さい」
一行は艦内の日本を旅立つ時に急遽作った20名が入れる応接室に案内する。
艦長、護衛隊司令、艦隊群司令の日本国交渉団司令兼交渉団長が一行を待っていた。
「はじめましてスメタナ国王陛下。突然のご来訪歓迎いたします。日本国交渉団司令兼交渉団長の唐沢です」と交渉団長が言う。
「敵意の無い相手を観察するのも国王の役目」と言うとスメタナ王は手を出してきた。
「前に貴国に行った冒険者から、信意の証として手を握ると聞いた」とスメタナ。
「国王陛下自ら恐れ入ります」と交渉団長はスメタナ王の手を握り言う。
「国王陛下、飲み物など如何ですか、アルコール類はありませんが、紅茶、コーヒー、ジュースなどあります。私はコーヒーですが」と唐沢団長は言う。
「紅茶、とかコーヒーとか謎の飲み物だ・・・」とスメタナ。
「では一通りお出ししますので、お口に合うものがありましたら言ってください」と唐沢団長は艦長に目配せをする。「どうぞお座りください」と上座を指定する。アトラム王国にも無い程のふかふかの椅子である。
「すごいな、この椅子は」とスメタナ王、続けて「日本と言う国には驚きしかないな」
すぐに給養員に連絡して一通りの飲み物とイチゴのケーキ(冷凍)を出してきた。
「スメタナ国王陛下、これがコーヒーです」唐沢団長はスメタナ王の前にあったコーヒーと自分のコーヒーを交換して飲んだ。毒など入っていないアピールである。
スメタナ王も飲むが苦いらしい。表情で語っていた。
「こちらがジュース、こちらが紅茶です。コーヒーはミルクや砂糖を入れて楽しんでください」と唐沢団長は説明する。
「私はブラックが・・・なにも入れないのが好みでして」と唐沢。
「スメタナ国王陛下、このジュースと言うのが私は好みです」とアナウム。
スメタナ王はジュースを一口飲み「うまい」と呟く。
「スメタナ国王陛下、紅茶は茶葉から淹れた飲み物です。これも砂糖やミルクを入れて飲みます」と唐沢。
と言うと唐沢団長は紅茶に砂糖とミルクを入れかき混ぜてスメタナ王に出す。
スメタナ王は紅茶を一口飲んで、これも「うまい」と言う。
「どちらがお好みですか」と唐沢。
「紅茶を貰うぞ」とスメタナ。
「一緒にケーキもどうぞ、日本から凍らせて持ってきました。お時間を頂ければ当艦で作った物をお出しできます」
「ケーキ職人も乗艦しておるのか」とスメタナ。
「いえいえ給養課で作ります。専門の職人ではないのですが当艦の給養員は優秀ですから、おいしいお菓子も作ります」と唐沢。
日本国交渉団司令兼交渉団長の唐沢は、元は第4護衛隊群司令ではあるが、今回の特別任務で日本国交渉団司令を拝命していた。
「さて、話をしよう。これもうまい、紅茶とやらもうまい。我が国は武力も味覚も貴国に勝てるところが無いと言う事だな」とスメタナ。
「いえいえ、これで計られては給養課が泣きます。後日貴国との交渉の場にケーキをお届けします」と唐沢。
「そうか、今日は様子を見に来ただけである、アトラム王国は貴国と貴殿たちを正式に使節と認め、歓迎しよう。ついては南ロータス港に入港を許可する」とスメタナ王は言う。
「有難うございます。早速貴国の元船乗り達をパイロットとして、南ロータス港に入港いたします。本日はおいでいただき隊員一同感謝申し上げます」と唐沢団長は丁寧に礼を述べた。
この後スメタナ国王は愛機ハイラムに跨り王都に飛び去って行った。
海上自衛隊は祝砲を控え、帽振りだけで見送った。
交渉団艦隊のイージスでは国王が南ロータス港からまっすぐ艦隊に向かってきたとき「アラート」を発令していたのだ。CICはその対応に忙しく、監視員からの白ハンカチ報告がなければ、DDG-178「あしがら」とDDG-176「ちょうかい」、DDH-184「かが」から防衛の為の攻撃が行われるところであった。あぶない。
王都に戻ったスメタナ国王はタイラグ宰相を呼び感想を話す。
「タイラグよ、日本軍の艦隊は大砲が1門しかなかった。あれでは帝国艦隊に勝てるのかと疑問に思う」とスメタナ。
「スメタナ国王陛下。暗部からの報告では、帝国第3艦隊は日本艦隊が見えない内に攻撃され沈んだとされています。ドルステイン艦隊乗務員から聞いた話では、日本艦隊の砲は速射できるらしく、1分で旧式艦が40隻とも50隻とも言われる数が沈んだと聞いています。「未知の敵は侮るべからず」と言うとおり、凄い事かもしれません」とタイラグ。
「そうだった、忘れてしまう所だった。あまりにも戦闘に不向きな艦を直接見たからか、相手の実力を見誤る所だった」とスメタナ王。意外に素直である。
「スメタナ国王陛下、交渉の途中で日本艦隊による模擬戦などを要望しては如何でしょう。我々と違う技術を持った賢い国ですから、今後の参考になれば良いかなと思います」とタイラグ。
「タイラグ良い思い付きだ。儂も実際に見てみたい」とスメタナ。
アトラム王国にとっての接近遭遇はスメタナ王によってなされた。
次回は遅くはなりますが、ミソラ達の冒険話を入れます。
よろしくお願いします。