第82話 対スルホン帝国 日本の決断
第82話を投稿します。
日本国の決断と覚悟があらわされています。
またアトラム王国に日本使節団も送り出しますが帝国との海戦対応としての布陣が見ものです。
誤字脱字報告ありがとうございます。かな文字入力ですのでローマ字には無い間違いが多く恐縮です。
しかも一部手が自動で入力する為にキーがずれて間違いが見つからなかったりと恥ずかしいです。
アトラム王国との交渉は、お互い必要な情報を文書にして取り交わす事に決まり日本側は佐野官房長官を中心に要望を作りお互いに交換をしていた。早速、DDH-183「いずも」に戻った外務省交渉団はアトラム王国から渡された文書を翻訳して首相官邸地下の危機管理室に送った。
内容は予想を大きく超えていた。
「佐野官房長官これは壮大だな」と当壁高雄総理が呟く。
「ええ想定を軽く超えてきましたね」と佐野。
「うむ、ほぼかの国のインフラとロジスティク(物流)を我が国が主導で行うか・・・」と当壁。
「完全にODA(政府開発援助)ですね」と佐野。
「だが・・・帝国と戦争中のアトラム王国に機材のみならず人材も送り出さなければならなくなるし、それに問題は民間人も混ざる事だろう。なにかあった場合の邦人保護に頭が痛いぞ」と当壁。
佐野官房長官は高野防衛大臣を急遽呼び出し対策を考えている。
「高野防衛大臣、アトラム王国からの要望はインフラとロジスティクの整備だそうだ」と佐野。
「それではアトラム王国に駐屯地が必要になりますし、邦人保護の為の艦艇や港、できれば航空基地も・・・とても無理でしょう」と高野。
「普通に考えれば、その通りだ。だが貿易相手がいない世界で企業は国内消費に頼る現状で景気の回復は望めない。もしも・・・もしもだがアトラム王国が誠意を持って接してくれるなら、我が国にとって好機と考えられると思わないか」と佐野。
「ですが・・・スルホン帝国を見ている限り理性的に進められる保証はありません」と高野。
「そうだな世界は広いのに2つしか国家らしい国家もなく、しかも一方は覇権を争って誰でも噛みつく国家、対して人口では帝国に敵わないまでも、本質は平和をアトラム王国は望んでいると思う」と佐野。
佐野は続ける「そうでなければ、この帝国との闘い途中に我々と国交を結ぶ事など考えもしまい」
「ですが、「敵の敵は友」と言う言葉通り、帝国戦が終われば対アトラム王国戦が始まると防衛省では考え作戦シミュレーションを実施しております。提案に乗るのは早計かと思います」と高野は力説する。
「その通りと思っていたのだが、何かを隠している可能性はあるな」と佐野。
「国交を結ぶ前に相手国を視察しないと話ができませんし、国会対策も・・・」と高野。
二人の話を聞いていた当壁が言う。
「高野君の言う通り、相手国の現状を見てみないと国会、いや野党を抑えることができない。ここは使節団を作ってアトラム王国の現状とスメタナ王への謁見を試みるとしよう」と当壁。
「佐野官房長官、さっそく交渉団の本国受け入れと、日本使節団の結成と訪問日程を組んでくれるか」と当壁。
「しかし総理、帝国との捕虜返還でも戦闘が起きました。使節団ともなると安全の保証は・・・」と佐野官房長官は慎重だ。
「言いたいことは解るが、行かない事には何もわかるまい」と当壁。
高野防衛大臣は提案する。
「では総理、相手交渉団を日本に上陸させて一通り見せ、その後交渉団と共にアトラム王国に行くと言うのはどうでしょう。味方は多い方がスメタナ王の内心も解るのではないかと思います」
「うむ、そうだな楽観する訳ではないが、良い方向に転ずるのであれば考えたい。佐野官房長官もそれで良いか」と当壁。
「ええ、総理それでなくても良質な石炭と食料が入れば国内景気や物価も楽になります」と佐野。
「してこちらからの要望は石炭と食料だけかな」と当壁。
「総理、昨日打合せした通り、レアメタル探索と採掘、石油の探索採掘に石炭と食料です」「新大島や南西諸島の天然ガスやレアメタルに大三角地帯で見つかった石油だけでは備蓄に問題があります。これらはいくらあっても良いほどですので引き続き探索を続けたいと思います」と佐野。
「そうだな大陸に石油を見つけなければ日本の石油備蓄は二ヶ月で枯渇する所だったから、忘れてはいない。
それに石炭は輸入できないから国内炭鉱の復活、食料は国内生産を奨励しているが」と当壁総理は思う。
「話は変わるが高野防衛大臣、対帝国戦本当にご苦労様でした」と当壁。
「いえ総理、私よりも現地自衛隊員の惜しみない努力の結果です。日頃の訓練はこのためにあったと言っても過言ではありません。一度奮闘した自衛隊員全員に訓示と祝辞をお願いしたいと思います」と高野。
「あれだけの戦闘で死者も出ていないのだから大したものだと思う」と当壁。
「それは総理、最初人道的に行動していましたので魔獣等を除いて死者が出ていましたが、自衛隊員にも「覚悟」が生まれてきたと見るべきです」と高野。
「そうかも知れないな、戦闘を甘く見ていたとは言わないが、必死の相手に対する姿勢に迷いがあったのではないかと思う。ここに来て大戦力を相手に高野君が言う「覚悟」ができたのではないかと私も思う」と当壁総理は目を細める。
「有難うございます総理、そのお言葉だけで自衛隊員は救われ、新たな任務に向かう事が出来ます」と高野は深々と礼をする。後ろに控えている立川統合幕僚長も高野に習って礼をする。
「高野防衛大臣、統合参謀総監で対帝国をどこまで推し進めるか検討してくれ、特に帝都は皇帝はじめ捕らえ、民主主義に変換させれば、対アトラム王国も順調に進むと思うが、どうだろう」と当壁。
「そうですね、われわれを罠に嵌めて陥れようとしたスルホン帝国ですから、仕置きは必要と思いますので、急いで策定します」と高野防衛大臣が笑いながら言う。
「その際には再蜂起できぬ程のなにかをお願いしたい。それに肝心の帝国国民の支持も必要だとおもう」と当壁。
「ええ、帝都には情報収集の為の第101特殊普通科連隊の中隊も活動を開始しています。特に第101特殊普通科連隊の本部機能は帝都に宿1軒を貸し切り本部として機能させ、駐屯地間は無線で繋がっています」と高野。
「そうだった、密偵を送り込んでいたのを忘れていた」と佐野。
「第101特殊普通科連隊の第1中隊は各5個小隊に別れていて詳細地図作成を完成させました。次に帝都一般市民の動向ですね、本音が知りたいところではあります」と高野。
「次の作戦は帝都に攻める攻めない別にして、帝都に厭戦気分を流せないかな、さすれば皇帝は孤立するはずだから、次の手を撃ちやすくなる連戦連敗だから好機と思うが」と当壁。
「おっしゃる通りです、民衆の厭戦気分が大きくなれば皇帝も簡単に動けなくなるでしょう」と佐野。
「ではメディア作戦を考えましょう。チロルの森から近い城塞都市にチラシを上空から撒いて事実を民衆に知らせる事にしましょう。また帝国民で協力者や都市が協力してくれれば、駐屯地や航空基地を前進させることが可能になります」と高野。
「そうだな、いろいろ手を打って皇帝の出方を観察してみるか。また被害が少なく効果的な爆撃目標があれば「おしおき」したいところだな」と当壁総理は笑う。
「了解しました、さっそく防衛省で作戦検討いたします。よいですね統合幕僚長」と高野は後ろに控える立川統合幕僚長にも伝える。「了解しました」統合幕僚長は答える。
防衛省に戻った高野防衛大臣は幹部を招集し今後の対スルホン帝国との戦後処理と対アトラム王国に対する訪問団の構成について話し合った。
防衛省内部では1.対帝国については残存陸軍兵力2百万人と覇権主義を掲げる皇帝ガリル3世をどうするか、また民主主義プロセスについて話し合われた。
一つのユニークな案としてはアトラム王国と共闘して帝国艦隊の全滅と西海岸に張り付いている帝国2個師団の空爆等がでた。やはり平原での対2個師団戦は自衛隊の被害も大きくなり得策ではない。
しかし前提はアトラム王国の考え方であり、国交を結ぼうとしてる中ではあるが真意は見えていない。
架空の話ではあるが真実味が増している様に思えた。
そこで防衛省としては
1.として対帝国帝都主要施設の空爆(特にワイバーン基地の殲滅)
2.としてチロルの森で帝国3個師団の撃破の宣伝
3.として協力的都市の交流と保護
4.として帝都とチロルの森中間点に駐屯地や航空基地、補給基地の構築を提言
5.として対アトラム王国に対する軍事訪問
6.として可能ならアトラム王国に国際空港と航空基地の作成
7.として、その後駐屯地をアトラム王国に作り、道路水路ごみ処理施設や電力のインフラ整備を実施
8.として可能であれば鉄道や自動車などのODAに都市づくり港づくりを進め、研究者や鉱物などの調査隊派遣と保護
以上を素案として内閣に提案をした。
内閣では対帝国勝利で盛り上がっている国民感情を生かし、防衛省案にそった政策を推し進めていく事を了承した。同時に防衛費の特別予算枠を増やし必要機材や武器兵器の国内調達を増強するとも決定した。
国会では一部野党が戦争継続反対を唱えていたが、世論に押されている内閣や与党に勝てるはずもなく、また転移してからの物価上昇も新大陸やアトラム王国からの輸入も当てにできるなど与党支持の方向で動き出している。
再び総理官邸に集まった官房長官に防衛大臣、農林水産大臣、経済産業大臣に当壁総理は言った。
「転移してからの1年は苦労をかけた。ここが正念場だ。これにより景気が好転し産業輸出も可能となる。好戦的な帝国を押さえ、アトラム王国との貿易に好機を見出そう。またしばらくは苦労をかけるがよろしく頼む」と当壁総理は頭を下げた。
「やっやめてください総理」と慌てて佐野官房長官が総理に近寄る。
「実はみんな、対帝国戦が始まった時、天皇陛下とも話しして、昭和の様な事は繰り返さないと誓ったのだよ、そして戦が始まり自衛隊員の努力と近代兵器の力に助けられ、どうにか本土に攻め込んでくることは避けられた。これはひとえに皆さんの努力と自衛隊員のおかげと思っている。最初は死者やけが人も出たが、戦いが大きくなるにつれ死人もなくなり、自衛隊員は立派に「覚悟」をしたのだなと感涙にむせんでいたのだよ。本当に立派だ、これからは帝都攻めだから内閣一丸となって自衛隊をフォローする。街も作り消防隊や警察隊も必要だろう。場合によっては対テロの警察特殊部隊も投入せねばならない。海上では海上保安庁も派遣するべきと思う。みんなここからはさらなる試練が襲い掛かると思う。どうぞ耐えて最高の結果を残してくれ」と改めて当壁総理は礼をする。
では総理と高野は言い「さっそく帝都爆撃の許可を頂きたい。目標はワイバーン等の航空基地、親衛隊宿舎、首都警備隊宿舎、元老院議事堂、皇帝居城の一部です。同時に帝国市民に向けチラシを上空から配布します」と高野。内閣の会議から1週間が経過していた。予定されていた帝都上空に静止する衛星も投入済みであり作戦行動に使える体制が整ってきた。因みに偵察衛星は5基新地球を周回し、GPS衛星は10基となりドーザ大陸の半分(帝都まで)を網羅している。
「それから今回の作戦には稚内特別自治区航空基地から帝都まで片道3千キロほどあります。OP-3Cでは往復できませんので、今回は航空自衛隊が特別にC-2を改造したRO-2(偵察機)を使用します。これで帝都までのデジタルマッピングが第101特殊普通科連隊の作った地図と合わせれば詳細地図が手に入ります。同時にアトラム王国にもKC-767(空中給油機)を2機随伴しRO-2による地形データを詳細に取りたいと思います。」「これは後の道路鉄道港湾整備で生きてくると思います。アトラム王国までは海が2万キロもあり大陸2つに島ですから時間がかかると思われます。何れも相手を刺激しない様に高度1万メートル以上での探査を実施ます」
「くれぐれも慎重に頼む」と当壁。
いよいよ日本国は対帝都帝国、対王国に動き出したのだった。
「さっそくだが、外務大臣に言って本国迎え入れの準備をさせてくれ。その間に防衛省はアトラム王国からの使者の一部を載せてアトラム王国に向かってくれ、帝国との海戦も考慮した艦隊編成としてほしい」と当壁は気持ちを切り替えて指示を行っている。
アトラム王国使節艦隊は日本へ、速度差がありすぎるのでアトラム王国からの使節の一部を護衛艦に乗せアトラム王国に向かう事を決断した。この内容はアトラム王国施設艦隊から本国アトラム王国に魔道通信で伝えられていた。
護衛艦隊でアトラム王国に向かう人選を施設艦隊はしており、元冒険者船団の一部乗組員と使節団の副団長(ゾリアス公爵の副官)をV-22Jオスプレイで迎えに行き、横須賀に連れていかれた。
ここで各港を発進する第2護衛隊(佐世保)と第4護衛隊(呉)に第5護衛隊(佐世保)、第6護衛隊(横須賀)、第8護衛隊(佐世保)の各艦隊群が合流し、アトラム王国交渉団として日本側からいく事になった。
途中帝都海軍との海戦を想定して2個空母と艦船18隻の大艦隊が形成される。第1護衛隊はアトラム王国交渉団のお守りとして随行する。また第3護衛隊は新大島から南西諸島の警備警戒を行っている。
陣容は次の通りだ
第2護衛隊 DDH-182 いせ、DDG-178 あしがら、DD-102 はるさめ、DD-119あさひ
第4護衛隊 DDH-184 かが、DD-105 いなづま、DD-106 さみだれ、DD-113 さざなみ
第5護衛隊 DDG-173 こんごう、DD-108 あけぼの、DD-109 ありあけ、DD-115 あきづき
第6護衛隊 DDG-174 きりしま、DD-110 たかなみ、DD-111 おおなみ、DD-116 てるづき
第8護衛隊 DDG-172 しまかぜ、DDG-176 ちょうかい、DD-104 きりさめ、DD-117 すずつき
以上20隻にDDG-179 まや、DDG-180 はぐろ、が最終訓練航海を兼ねて同行する。
この新型2隻はあたご型をベースとした新型ミサイル護衛艦 (DDG)であり最終引き渡しが昨年ではあったのだが転移や海戦などにより確認試験が遅れていたのだった。
アトラム王国交渉船団は硫黄島沖から横須賀を目指して航行しており、途中で第1護衛隊の4艦と合流して向かっていた。アトラム王国船団は毎時18ノットと遅いのだが、護衛隊も速度を合わせて進行する。
一方横須賀沖に集合した日本国使節団艦隊は外務省の別担当官、農水省、経産省、警察庁の各担当官を乗せて20ノットでアトラム王国に向かって発進をする。アトラム王国の使節もこんなスピードの艦艇に乗った経験はなく、驚きの毎日であった。来るときは1ヵ月以上もかかったのだが、帰りはなんと22日もあれば到着するとの回答に恐れを感じてしまった。
日本国内では最低限の陸上自衛隊を残し、対帝国および対王国に布陣をシフトしていた。
もちろん新大島や南西諸島、大三角州などの警備も必要あり、日本近海に来る魔獣、特に大海蛇とドラゴン等の対処は必要である。だが対帝国の終盤に差し掛かり、陸上自衛隊第2師団だけでは漏れも出てきてしまうので、国内防御の再編を考え具体的には北海道に1個師団、東北も同じく1個師団、関東は要であるから2個師団、中部、関西も各1個師団、四国は1旅団、中国も1旅団、九州は1個師団と南西諸島用の陽動として1個旅団。沖縄は1個旅団。と大編成を実施しようとしていた。残った全兵力をドーザ大陸に向けようと移動を開始していた。
一方海上自衛隊もレーダー基地を新大島や南西諸島に、また硫黄島のレーダー施設を同時管制もできる最新設備に換装、母島への部隊一部駐留も検討された。現在は父島に救難隊用の補給基地があるのみである。
航空自衛隊はF-4系戦闘機の完全廃棄を決定。(主に機体寿命による廃棄)
新たなる機としてFA-3の早期開発と量産化、A-1軽爆撃機の量産と新型爆弾の開発を同時に行う事とした。
また輸送機C-1は航続距離が短く、米国製輸送機調達も考えられないことからC-1機体の廃止とC-2の増産と派生機の作成。特に空中給油機の一部が寿命となるためにC-2改造の空中給油機を求められている。
またC-2事業者であるK重工業に対して、C-2民間転用輸送機と旅客機の検討を指示した。
陸上自衛隊はWAPC 96式装輪装甲車の後継機として22式装輪装甲車の開発を行っており、予定通り16式機動戦闘車の車体を使用した物になる予定だ。車体幅が問題となっていたが(22式装輪装甲車の車体幅2.98m:道交法では2.5mが最大でそれ以上の場合は許可が毎回必要)主にドーザ大陸などで使用する為にドーザ大陸の道交法を作ってしまうと言う荒業に出るのだった。なにしろこれから道路舗装など行うから問題はなかった。
海上自衛隊はEEZ(排他的経済水域)が事実上2倍以上に拡大(新大島や南西諸島周辺を編入)した事を受け、P-3Cの延命化改修と主力対潜哨戒機するべくP-1の増産化を検討始めた。同時に新大島諸島や南西諸島への海上自衛隊航空基地および接岸港を建設中である。
また、EEZが拡大したことを受けて、護衛艦隊の増加と大型補給船の「ましゅう」同型後継艦の増産と揚陸タイプ護衛艦おおすみ型増産とLCAC(エア・クッション型揚陸艇)国産化の計画をしている。
これによりスルホン帝国の植民地となっているスルホン帝国とアトラム王国の間にある海の各島しょに対する解放作戦が可能となる。もちろん新おおすみ型については回転翼機運用を主に考えられている。
(F-35Bの追加調達が無理であるため)
いよいよ政府はドーザ大陸への本格侵攻を決めた瞬間である。
ありがとうございます。
次回は対帝国や王国に対する政策を中心に行う予定です。
多少のいざこざはあるかもです。