表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘国家日本 (自衛隊かく戦えり)  作者: ケイ
第1章 日本転移と自衛隊激闘編
83/251

第81話 ドーザ大陸大戦 総力戦その3つづき ある戦士の記憶

いつもお読みいただいてありがとうございます。

今回は大戦その8を帝国兵士目線で描いてみました。

あまり私の小説は個人名を使わないのですが今回は個人を目立たせ見たものを書きました。

80話に入れても良かったのですが長すぎる予感がしましたので別けてみました。

予想通り1万語を超えております。別けてよかった。

誤字脱字報告毎回感謝しております。ありがとうございます。

 帝国第4師団第5中隊長のエミルは敵地に入る高揚感と戦闘に対する心配が入交り気持ちが多少浮ついていた。しかし、まだ帝国第4師団の第1中隊が拠点とする地点まで距離にして約1日ある。

 臨時軍団総司令のドメスアルム領主長の話ではキマイ将軍が率いる帝国第5師団が「おとり」として先に到着し波状攻撃をしているとか、第5師団は2個中隊がチロルの山々で日本軍に攻撃をし、壊滅的な反撃を受けて捕虜以外は戦死と言う帝国兵士たちに汚点を残したのだ。

 帝国第5師団のキマイ将軍も必死だろう。今回失敗すれば見せしめの死刑になるのだろうし、そうでなくても軍籍はく奪の上に投獄されるのだ。死刑の方がましかも知れない。


 帝国第3師団はブルーム将軍以下参謀長のフルトハイム閣下も攻撃地点に先に集合して、第4師団と共に戦う予定らしい。つまり200万の軍勢によって相手を蹂躙するのだと聞いた。壮観な光景だろうと思う。

 ただし、第4師団通信係のエルフが逃げてしまった事に一抹の不安を感じるが直ぐに自分の役目を思い出し、他の事は考えない様にしていた。


 特に第3師団ブルーム将軍のエルフに対する扱いは帝国軍にも噂が流れる程ひどいらしく、奴隷以下との評判が立っている。向こうも逃げ出しているのではとエミルは思っている。


 さっきから変な風切り音が遠くで聞こえる。

 各師団には帝国第5師団第2中隊や第3中隊の捕虜になった者たちは軍籍をはく奪されて奴隷として連れてこられていた。敵を知る彼らから情報を聞き出すためだ。エミルは相手の捕虜になって命が繋がって返還され帝国に戻れば軍籍はく奪に奴隷化されてしまう事に危機感を感じている。帝国兵士全員が口には出さないが捕虜とはそういう事になるものと理解している。

 元第5師団第3中隊にいたレゾナがあれはヘリコプターだと言う。

 大きな羽が回転して空を飛ぶそうだ、そんな機械あるわけないだろうとエミルは思う。

 レゾナは日本で何を見てきたのだ。

 もっと役に立つ情報がないのかとイライラする。


 ただ有益な情報もある。敵の持つ銃とか言う魔道は300m程飛ぶらしいとか、そんなものは強弓で狙えば届く距離だ、そんなもの恐ろしくはない。なにを言っているのだレゾナは。だが近づいてはダメだと教訓とした。

 その他はあまり有用な情報を聞き出す事は出来なかった。レゾナは奴隷らしく手枷を付けられ馬車から繋がるロープで歩かされている。転んだらそのまま引きずられる。周りが気づけば止まって立たせるが、そうでなければ引きずられ怪我をする。見せしめとしては最適だ。


 帝国第4師団は合流を果たすべく強行軍で進行している。夜も歩くのだ。

 飲み物や食べ物は各小隊に随伴している糧食隊馬車から手渡しされ、歩きながら飲んだり食べたりする。

 中隊長としては休憩をさせたいが、第4師団長のゾンメル将軍や臨時軍団総司令のドメスアルム領主長に臨時軍団総司令付きの総参謀ナダム閣下が乗る豪華な馬車を守る役目もあるので、幾度か停止休憩を提言したが第1中隊と合流すれば「半日休憩させる」と言われ部下と共に馬で随伴している。

 部下たちには疲労の色が濃い、鎧や大楯に剣を装備してしかもシルバーで統一されており、帝国の威厳を見せびらかすのだと言う。森の中でも目立っている。

 目立っていると言えば夜間は各自が松明(たいまつ)を持って行進する。森の奥からでも見つかるのに体面を気にする幹部達に少し嫌悪感を感じている。ただエミルは歴戦の兵士であり中隊長らしく皆を鼓舞して歩き続ける。


 エミルは元々第2師団第1中隊第1小隊長であり、アトラム王国上陸阻止戦でアトラム王国兵士25名を殺害した功によりスルホン帝国第4師団の中隊長までのし上がれたのだ。しかも今回は幹部護衛の大任を受けている。最初は自然と緊張したのだが、いろいろ話を聞いているうちに「幹部も大したことないな」と思うようになってきた。ただし顔や態度には出さない。


 もうすぐ夜明けだ、第1中隊は近い。


 その時風切り音が複数近づいてくる。レゾナは敵襲だと騒ぐ、そんなわけないだろう。

 ただしエミルは歴戦の兵士らしく警戒体形を取らせた。

 

 エミル達の上空では

「スカイボンバー101より本部、ターゲット確認、アタック開始」「本部了解、ご武運を」

「スカイボンバー101了解、各隊アタック開始、スカイボンバー101隊が先行、スカイボンバー201隊、スカイキラー101隊、スカイキラー201隊と続け、各機同時投下とする」と報告しながらスカイボンバー101は大きく転回してアタック位置に持っていく。

 

 各機のディスプレイには爆撃コースが上空のE-767から指示が入り、各隊は大きく旋回して帝国第4師団第5中隊上空に到達する。先頭のスカイボンバー101が目標到達と同時に全機投下の指示がでる。20機が各3発のMk.82 500ポンド無誘導爆弾を投下する。

 日本山臨時航空基地より飛び立った20機は民間志願兵も交じるために平易な言葉で指揮を行う。


 時刻は05:17となり、東側が少し明るくなってきた。本来なら日を背にして攻撃するのが望ましいのだが、A-1軽爆撃機は5機1隊として3-2編成を取り、第5中隊の列を4隊20機60発の500ポンド無誘導爆弾で同時爆撃を行う。

 エミルは警戒体形のまま行進していた。

 突然空から不気味な音が響き、歩いていた道が爆発した。

 エミルは「警護・・・」と思いながら空を飛び、豪華な馬車を空から見た。馬車は爆発と共に分解されて小さな木片となっていた。その光景を見ながらエミルは「もういいか」と目を閉じた。


「スカイボンバー101任務完了、全機帰投(RTB)」「本部了解」


 続いて宗谷特別航空隊のF-35AとF-15Jの20機はE-767の指示で2つに別れ、第5中隊の後方を付いていた糧食隊にF-35Aがステルス性を無視した35発の500ポンド無誘導爆弾を、第5中隊の前方を歩く第4中隊と第3中隊の一部にF-15J 15機からMk.82 500ポンド無誘導爆弾を90発投下した。

 地上では幹部が爆死した後に、続く第4中隊や第3中隊も道が爆発し、兵士が空を飛ぶ。

 爆発から逃れた兵士も破片により体を切り裂かれる。

 第4中隊長のミハエルも「これが日本・・・」と意識が無くなる。

 第3中隊長のサニラは「森に隠れろと叫ぶ」それを聞いた第4中隊の生き残りも道を避けて左右の森に逃れた。森を北に5km程度走り、航空機をやり過ごしサニラ達はほっとしていた。サニラは帝国唯一の女性中隊長だ。


「生き残れた。あれが戦う相手なのか、絶対的攻撃力で帝国は手も足も出ない。なぜ戦闘になったのだろう」と冷静に考える余裕が出てきた。


 突然兵士が「あれはなんだ」サニラに随伴して森に逃れた兵士達が叫ぶ。森の奥から地を揺さぶる音と振動がサニラ達に近づいてくる。サニラは嫌な予感がして、「分散せよ、固まると狙われるぞ」と適切な指示を出しながら音とは平行に、いや第1中隊のいる東方面に向かって木々の間を徒歩で移動する。

 しかしながら森に避難して、そのまま北方面に逃げた兵士もいる。

 

 まだ成長していない木々を踏み倒しながら陸上自衛隊第7師団第71戦車連隊が北側に抜けてくる兵士達を狙っている。その後ろには第2師団第25機動化普通科連隊の12.7mm機関砲M2を載せた96式装輪装甲車25両が随伴している。

 つまり戦車と装甲車で10kmの壁を作って、それが一定速度で北東に平行移動して兵士達を北東に向かわせる作戦だ。道から逸れて逃げた帝国兵士達を北東に戻させるための罠である。

 上空ではOH-1が1機、常に赤外線カメラ映像をデータ化して統合戦術情報伝達システムに流しているので帝国兵が見えなくても相手の位置は解る。90式戦車も10式と同様な統合戦術情報伝達システムを改修で装備しており10式戦車と同様な目標分散集中が可能であった。96式装輪装甲車は隊長車の4両に装備されているので搭乗人数はその分減らされているが強力な戦力となっている。「連隊長より全車、進行右2km座標201.335地点兵士7名、第4中隊のWAPCに任せる」「第4中隊長了解、第2第3小隊は仰角0から-3右60度距離2キロ、撃て」森に12.7mm機関砲の軽快で重い射撃音が4本の曳光線(えいこうせん)を引きながら森に吸い込まれる。

「ぐぁ」「一人やられたぞ、このまま北は無理だ北東に向かうぞ、急げ」帝国第4中隊の生き残りは戦場を離脱しようと北に向かっていたがWAPC 96式装輪装甲車4両の強力な攻撃に会い北東に転進していった。後進にも伝え第1中隊との合流を目指す。


 帝国第4師団の左側がこんな状態であり、右側も同様に第2戦車連隊と第3機動化普通科連隊のWAPC 96式装輪装甲車25両で同様に東に逃れてきた帝国兵を北東へと誘導する。


 帝国兵は上空から爆撃、左右からは砲撃に機関砲で生き残るには第1中隊との合流しかなかった。

 しかも列後方からは第2偵察隊のRCV 87式偵察警戒車が迫っており、これはエリコンKB 25 mm 機関砲により太い木でも一発で倒せる威力がある。何人かの帝国兵士と糧食隊の荷役が後方に逃げだしたが第2偵察隊が放つ25mm機関砲により、一人が腹に穴が空き、それを見た兵士たちは一斉に「来た方向」戻りに駆け出した。

 25mm機関砲は人に使うとオーバーキルとなるので控えていたのだ。しかし一人が突出したために、狙い撃った。結果は悲惨であった。陸上自衛隊第2師団第2偵察隊第1偵察小隊長の深山は「やっちまったな、夢見が悪い」と言い残し逃げた帝国兵士を追う形で北東にゆっくり移動していった。


 その頃偵察隊を出して失敗していた帝国軍第4師団第1中隊のロメルは信頼していた副官のトリルを敵の城で戦死させた事に罪悪感を感じてはいたが「これは戦争だ」と自らに言い聞かせていた。

「次はトリルの仇、第5師団第2中隊第3中隊の仇打ちだ」と無理に鼓舞する。


 そこに第2中隊が合流してきた。


「第1中隊長のロメルは居るか」と第2中隊長のトリトルが来た。

「トリトル久しぶりだな」とロメルは迎えた。

「ああ、戦は何度か経験したが、今回は何か異様だ。お互い気を付けよう」とトリトル。

 トリトルは古参兵で過去のドーザ大陸統一戦に参加していた。

 つまり皇帝の指揮の元に敵を大群で囲い戦わずに降参させて領土を広げてきたのだ。

 抵抗する相手は首領一族を大衆の面前で打ち首にして晒し、帝国への忠誠を誓わせた。

 そんな輝かしい帝国戦国史に参加していたのだ。


「なあロメル。儂は幾度も戦いに参加してきたが、こんな異様な戦いは初めてだ。相手が見えない所から一方的に帝国軍は攻撃を受けている。現に第5中隊や糧食隊第4中隊に第3中隊も攻撃されている。何なんだこれは」とトリトル。

「私にわかるわけないだろう。だが・・・」とロメルは考え。

「昨晩敵城が明かりを落としたので絶好の機会と思って、偵察隊を闇に紛れて送り出した」「城の手前1km程度で爆発が起こり何人かが負傷し同時に城の上から光の魔道が降り注いてきた。これでも何人かが負傷した」一息ついて「相手はアトラム王国と思うぐらいの長距離魔法を使う。今のままだと近寄ることもできない」とロメルはため息をつく。

「そうだな近寄れないと戦えない我々は不利だな」とトリトル。

「そうだ、だから明日日が昇り明るくなったら強弓隊を城の2kmまで前進させて一斉に城壁内に矢を撃ちこむ。どれだけ有効かわからんがこれぐらいしか手がない。後方から爆薬が来れば敵城の門を吹き飛ばして突入するのだがな」とロメルは一気に言った。

「そうだな、門が壊れないと突入できないからそうなれば我々はここで全滅だな。全滅を待つくらいならおびき出して肉弾戦に持ち込む」とトリトルは教本通りの戦術を展開する。

 ロメルは内心「そんな事ができるくらいなら苦労はしないのだが」と思う。


 突然スルホン帝国第4師団第1中隊宿舎テント付近の上空が異様な音に包まれる。

 ロメルとトリトルはテントを飛び出し外に出る。


「なんだこの音・・・」全て言い終わらない所で地面が爆発した。


 陸上自衛隊第2師団第2特科連隊と北部方面隊第1特科群の砲撃が開始された。A-1軽爆撃機の攻撃と同時に行われている。

 第2特科連隊は駐屯地と分屯地に別れていたが帝国第4師団の第1中隊および第2中隊野営地幅12km奥行3kmの範囲に着弾する様に調整していた。一方日本山特科陣地の北部方面隊第1特科群、第101特科大隊(203HSP)と第102特科大隊(203HSP)も分担して調整をする。203HPSは203mm自走りゅう弾砲の事である。203HPSは防衛大綱から外された場合は新型の自走155mmりゅう弾砲に切り替わる予定でもある。

 第129特科大隊MLRSは主に遠いターゲットを選択している。近いと「ロケットが安定しない」、「不発弾となる」だ、射程10km以上なら問題ないが・・・


 第2特科連隊と第1特科群は異種砲TOTを実施していた。弾着予定は05:17に同時弾着。

 敵野営地の幅12km奥行3kmに満遍なく砲弾を撃ち込むために分担し計算している。

 統合戦術情報伝達システムは既にカウントを開始している。

 そこに各特科隊の射撃時間が-(マイナス)秒で表示されている。各隊が目標地区までの撃ちだし時間である。

 時間となり、見た目はチロルの森が噴火したように見えた。駐屯地も地震が来たように何度も揺れる。10kmは近い距離なのだ。

 こうして「包囲殲滅特-1号」は発動された。

 帝国兵士は爆発により吹き飛ばされる。手足が取れて無残に転がる。さっきまで食事や仮眠をしていたテントは跡かたもなく消え、代わりに大きな穴が地面に開いている。

 帝国兵士20万人近くが一瞬で半数以下に減らされてしまう。運よく生き延びた兵士も鉄片で傷を負ったり爆風で目や耳をやられて、その場でうずくまっている。転がる遺体や取れた手足テントの残骸に大きな穴が幾つも開いている。そこに特科群の第2弾攻撃が来た。今回は指定された地区への自由砲撃である。

 うごめいていた兵士達も見えない。手足も消え一面動くもののない地面むき出しの場所ができてしまった。

 運よく第1撃を逃れた者や爆風で飛ばされて結果逃げられた者などが駐屯地の手前8km程に集まってきた。

 第1中隊長のロメルとトリトルも居る。中隊長のテントは駐屯地が見える最前線に作られていたので、遠い爆風で飛ばされはしたが生きている。それより部下たちの方を見て愕然とした。様々なテントが並んでいた宿泊地は穴だらけの地面となり動くものは居ないのだ。

 生き残りを確認すると1万人にも満たない。9割の兵士が戦死したのかと思い黙とうする。しかも生き残った1万程度の兵の大半は負傷している。動けるのは400名程度だ。

「トリトルここにいてはダメだ、後続を待たずに攻め込む。我々は城の左側門を狙う。貴殿は右門を頼む」とロメルは高揚し、かたき討ちとばかりに言った。

「わかった、我も残存兵を集め右門を攻めよう」とトリトルも言う。


 砲撃は続いている。ロメルは見ていると少しずつ爆発範囲が拡大している事に気づいた。

「これは後続の第3中隊や第4中隊も攻撃されているかも知れない」と思い、第1中隊と第2中隊は後続を待たずに攻撃する事にしたのだ。

 そこに後続と思われる兵士達が駆け込んできて、ロメル達の警告も無視して城の城壁目掛け走り込む。

「後ろから撃たれる。逃げろ」との声でパニックになる。

 一部の兵士たちは駐屯地に向かって走り出す。「待てそっちはダメだ」とロメルは叫ぶ。

 防護壁上部から12.7mm機関砲が次々撃ちだされる。


 第1中隊長ロメル以下50名は壮絶な光景を目にして「ここにいては死ぬだけだ」駐屯地を回り込んで正面左の門を目指すべく走り出した。ロメルは「ここにいては死ぬだけだ、走れ走れ」と叫びながら声をかけて第1中隊の生き残り400名近い人数になる。一目散に駆け出す。

 それを見ていたトリトルも駐屯地正面から右の門を目掛けて同様に叫びながら走り出した。

 こちらも500名近い人数になっている。


 駐屯地では防護壁上部の銃座で第3機械化普通科連隊の第3中隊と第4中隊が守りを固めていた。

「あいつら緩衝帯を抜けてきます」と報告が入る。第3中隊長の東山は「かまわん防護壁に近づけるな、一斉射撃開始」と命令を出す。一斉に銃座に据え置かれた12.7mm重機関銃M2から幾筋もの曳光弾を交えながら向かってくる帝国兵士達に向かって撃ち続ける。

 無線が入る「残弾に注意しろ、すぐ交換装てんの準備せよ」と監視塔の東山中隊長が指示を飛ばす。続いて「第1小隊、対人障害の起動および各自判断で爆破」「了解」有刺鉄線による緩衝帯を抜けた帝国兵士は対人障害Ⅰ型やⅡ型が爆発して無力化していくが、人数が多い。東山中隊長より、「第4中隊長、ハンマー(81mm迫撃砲 L16)と84RR(カールグスタフ無反動砲:愛称カール君)で銃座の援護を頼む」と無線を流す。「村崎了解」「第4中隊村崎だみんな聞いたな、ハンマーを用意している第1小隊と第2小隊は監視塔の指示により迫撃開始、第3、第4小隊は84RRを持って防護壁に登れ、使用弾はHE441B榴弾とする」HE441B榴弾は対人対車輛用榴弾であり、時限信管により手前で爆発し内蔵された鉄球800発を付近にばら撒く、超大型の散弾銃みたいな物だ。フレシェットタイプ弾もあるが射程が短いので今回はHE441B使用とした。


 防護壁上部や駐屯地内部から迫撃弾や無反動砲の榴弾も12.7mm弾に混じり始め、やみくもに掩体壕まで進んでいた帝国兵士は次々と倒れていく。死の行進である。いや走っているから死のマラソンか。


 第1中隊長のロメルは叫びながら仲間を集め、今は600名近い人数で走っている。負傷しながら走っているものが大半である。緩衝帯を右に見ながら門の方向に走る。

 どうにか門に続く道が見えてきた。軽いわだちではあるのだが、そこだけ草が生えていない、駐屯地の車両がわだちを作ったものと考えられる。

「一矢報いようではないか、走れ走れ」とロメルは鼓舞する。

 ロメルは走りながら観察を続ける。門に通じる道の至る所に障害物が置いてあり直線では進めない。

 障害物を避けて走る。

 何人か抜けたところで、最初の障害物が爆発した。仕掛けられていた対人障害Ⅱ型である。無線起爆で門上部の監視塔から起爆をしていた。何人かが全身から血を出し倒れた。対人障害Ⅱ型はクレイモアを手動爆発専門にしたような指向性散弾である。範囲は狭いが強力である。それが障害物の至る所に仕掛けられている。

「駐屯地北門、帝国兵士が5百名程向かってきます」と監視塔から報告が入る。


「なかなかの(つわもの)だな、歓迎しましょう」と幕僚長中野一等陸佐。

「第1対戦車ヘリコプター隊本部、駐屯地北門から南門とその間の掩体壕と緩衝帯および森を抜けてくる帝国軍兵士を掃討せよ」と中野。「第1対戦車ヘリコプター隊本部了解、全機出動する」と本部オペレーターが返信する。途端に駐屯地にブザーが鳴り響き兵舎からパイロットとガナー(射撃手)に整備員が飛び出し飛行準備を開始した。5機づつ飛び立ち計16機のAH-1Sと2機のOH-1が飛び立つ、次に救援用の第2飛行隊UH-60JAが6機準備を始める。1機は隊長機だ、佐野2等陸佐が搭乗する。佐野2等陸佐は平沢陸将から特別な許可を受けていた。それは・・・ヘリ乗りの憧れ大音響のワーグナーだ、帝国陸軍第5師団第3中隊が当時の国境検問所守備隊に戦いを挑んだ際、第3普通科連隊長の北山からこのお願いをされて、当時も第2飛行隊は大音量で流していたのだ、当時はUH-1Jであったが現在はUH-60JAである。佐野は大音量でワーグナー「ワルキューレの騎行」を流しながらドアに取り付けられている12.7mm重機銃M2を撃っている。

 帝国兵士は聞いたことのない音に畏怖を感じていた。

 駐屯地西側の上空をコブラとUH-60JAが飛び回り帝国兵士を駆逐していく。


 ロメルも途中までは来たのだが、対人障害Ⅱ型の一部を受け負傷し、門上部からは12.7mm弾が降ってくると言うより地面に突き刺さる。見たことのない武器でも本能で分かる、これに当たると手足が取れる、それだけ強力である。そこに後ろの方から得体のしれない、奴隷たちがヘリコと呼ぶ魔道機械が近づいてくる。「シューーン」と音がしてから、次に太鼓を打つ軽やかな音が連続して聞こえる。その度に帝国兵士は倒れ死んでいくようだ、「ここで終わりか」とロメルは思う。ふと「トリトルは辿りついたのだろうか」と思うが、「いやここの様にダメだろう」と思い直す。

 無謀にも先頭に立って突っ込んでいったトリトルはあっけなく戦死していた。続く第2中隊も壊滅的であった。

 ロメルはこのまま膠着しても死を待つだけだ、どうせ捕虜になっても帝国では奴隷に落ちるだけだし、行くかと腰を上げ走る体制を取った。さっきから変な音楽らしきものも聞こえる。


「師団長「ワルキューレの騎行」ですか?」と中野。

「うむ第2飛行隊長の佐野君が言うには、以前検問所を日本山の山頂に作った時、帝国第5師団の第3中隊に対し畏怖させる目的で第3普通科連隊の北山君から頼まれて使ったらしいのだよ」と平沢陸将。

「報告では効果的であったとありましたね」と佐藤陸将補が補足する。


「はぁ・・・」「ヘリ乗りはワルキューレ好きなのですかね。映画の影響としか思えませんが」と中野は笑う。「オペレーター、第2飛行隊長の音量を絞ってくれ煩くてかなわない」中野は閉口する。


 オペレーターが報告する。「第2戦車連隊南門まで3キロ地点、第3機械化普通科連隊も続いています」

 別のオペレーターが「第71戦車連隊北門まで5キロ、第25機械化普通科連隊も続いています」

「第2偵察隊駐屯地まで6キロ」「森から追い出された帝国兵士は駐屯地緩衝帯前で停止しています。降伏姿勢を確認」

「了解、ヘリ各隊に連絡攻撃停止、以後武装解除に移れ」と中野、各オペレーターが通信を送る。

「第26機械化連隊に連絡、駐屯地に向かい帝国兵の武装解除」「つづいて第3機械化普通科連隊は駐屯地警備以外は武装解除に参加、同じく第25機械化普通連隊も武装解除に参加せよ」「各戦車連隊は所定行動に従い普通科連隊の警護」「第2施設大隊は捕虜移送の準備に入れ」「第2飛行隊第2輸送中隊は飛行準備に入れ」


「中野一等陸佐、そろそろ頃合いと思うが」と平沢陸将が催促する。

「了解」「オペレーター駐屯地全拡声器に繋げ」続いて「帝国兵の諸君、無駄に命を散らすだけだ、我々の攻撃を受けた貴兵達は解るはずだ。異質な攻撃であると、この防御を突破して門に入ることは叶わない。直ちに交戦を止め降伏しなさい。命は助けよう」と帝国語で中野は放送した。


 崩れ落ちる帝国兵士に対し各機動化普通連隊は武装解除をする。

 戦車や対戦ヘリに囲まれたスルホン帝国兵士達はもう立ち上がる力もない。へたり込み剣を腰から外して放り投げ腹ばいになる。

 第1中隊、第2中隊に続く第3中隊、第4中隊も停止した。


 第3中隊長のサニラは攻撃を避けて森の中を全力で疾走してきて、見通しの良い所に出たと思えば見渡せばスルホン帝国の屍ばかり、膝から力が抜けた。そこに放送である。

 第3中隊の幹部がサニラに駆け寄ってきた。

「遅かったか、もう無理だな」とサニラは笑いながら言う。同時に涙も流れる。


 命からがらチロルの森から逃げてきた第3中隊、第4中隊も駐屯地手前9kmの丘の上で止まる。

 突然森の中から戦車連隊が現れる、第71戦車連隊の1個中隊が武装解除の護衛として現れた。第25機動化連隊の2個中隊も96式装輪装甲車(WAPC)11台が彼らを囲んだ。もうサニラは笑うしかなかった。

 こんな物に追い立てられていたのか、と抵抗しても無駄なのを今知ったからだ。


 武装解除は順調に進み、対戦ヘリも戻り救護用のUH-60JAやV-22Jが平原部分に降り負傷者を運んでいた。

 歩ける者で負傷しているものは(新)73式大型トラック10台に乗せられ駐屯地から山向こうの稚内特別行政区自衛隊病院の屋外野戦病院に連れていかれた。入れ替わりに三角州から第7施設大隊や第5旅団の第5施設隊などのトラックが列をなしてチロルの森駐屯地を目指している。V-22Jオスプレイは稚内特別行政区航空基地に運ばれ同じく自衛隊病院に連れていかれた。


 中野は忙しく次々と指示を出す。

「帝国兵士は武装解除、捕虜は下士官や上級士官に限定、兵士は武装解除後帝都に帰還させろ」

「第2偵察隊はチロルの各村に行き帝国兵が潜んでないか確認及び排除」

「特別行政区航空基地へF-35Aによる偵察を依頼。帝国第4師団の後続が居ないか確認」

「第3機動化普通連隊第1機動化普通科中隊および第2機動化普通科中隊は武装解除を第4普通科連隊に移管、予定通りハイデルバークに行き帝国兵の残党が居ないか監視および排除および街道側入り口の一時閉鎖」

「第25機動化普通科連隊第1機動化普通科中隊は北部街道監視、第25機動化普通科連隊第2機動化普通科中隊はチロルの入り口村にて帝国残党の確認及び排除、村人には丁寧に説明」

「第26機動化普通科連隊は各中隊交代でチロルの森荒野を巡回監視および帝国兵士の排除」

「第2戦車連隊は第4普通科連隊の警護」「第71戦車連隊は分屯地に帰還」「北部方面航空隊第1対戦車ヘリコプター隊は駐屯地帰還、補充および応援要請に待機」

 などである。


 ロメルとサニラは捕えられ駐屯地に連れていかれた。他には小隊長達も生き残っているものは駐屯地へ、一般兵士で武装解除されたものは食料を貰って出身地に戻るように言われた。

 下手に帝国軍に戻ると奴隷落ちになるので、ひっそりと暮らすことを選んだのだ。

 ついで日本軍からは村などを襲って夜盗などになった者は容赦なく射殺すると言われた。

 自衛隊は脅しのつもりなのだが、元帝国兵士達は震え上がった。見えない所から撃たれて殺される恐怖が蘇ってきたのだ。


ありがとうございます。

いろいろ詳細に入れております。(つっこみ歓迎)

最近は税金の準備で税理士先生からいろいろリクエスト頂き手配しております。

間が空きましたが申告が終わればまたかけると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 国ごと転移物で圧倒する戦闘シーンを見ると相手側に「転移してきたのが米中露じゃなくて良かったね」と言いたくなる
[良い点] 帝国側視点、絶望感を味わえる感じで良かったです。 [気になる点] 96式が数の少ないB型ばかりなのは、流石に不自然かなぁと思いました。 あと、人間が25㎜機関砲で撃たれたなら、原形も残…
[一言] スルホン帝国とその国民は、いつになったら気付くのでしょうね? 日本という国には、自分たちの常識が通用しないのだと。 今回の派遣軍に関しても、「何十万人犬死にさせれば気が済むのだ」と言いたく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ