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戦闘国家日本 (自衛隊かく戦えり)  作者: ケイ
第1章 日本転移と自衛隊激闘編
81/251

第79話 ドーザ大陸大戦 その7 総力戦その2

ありがとうございます。

またまた長くなりましたので9000文字を超えたところで一旦締めました。


いつも誤字脱字報告ありがとうございます。見直しとwordによる校閲かけてはいるのですが、助かります。感謝。

 日本国交渉団は予定通りアトラム国旗艦後部飛行甲板にV-22Jを着陸させた。

 耐熱性に疑問があったが下方ジェット流で燃えることはなかった。


 特殊作戦隊員はV-22Jから降り周辺警戒に入っている。


 ゆっくりアトラム王国交渉団の艦長ゾリアス公爵と水先案内人となったゾメア他数人が近寄ってきた。


 外務省担当官が「私たちは日本国交渉団です、アトラム王国旗艦より交渉の意思があると聞きまいりました」とポケット翻訳機を使って伝える。


 アトラム王国交渉団も一人がポケット翻訳機に向かって答える。

「我々はスメタナ王の命により、日本国と交渉に参りました。どうぞ艦内に部屋を用意していますのでお越しください」と丁寧な回答がある。


 外務省担当官は緊張しながら艦内に特殊作戦隊員数名と共に入っていく。


 V-22Jでは同じく特殊作戦隊員が警戒態勢を維持しながら警備を行っている。

 多くの旗艦乗組員が初めて見る不思議な乗り物を取り囲むように集まってきた。

 一人の乗組員が特殊作戦隊員に質問する。

「これはどんな機関で動いているのか」と。


 特殊作戦隊員はポケット翻訳機を出してもう一度言ってもらう。

「このオスプレイは燃料で動いていますが詳細は機密となります」と答えた。


「たまげたものだ、初めて見た。これは良い土産話だ」と船乗りははしゃいだ。


 一方、外務省担当官と特殊作戦隊員は緊張しながら艦内を案内されるままに入り、かなり豪華な一室に案内される。「こちらは貴賓室です用意ができるまでお待ちください」

 直接会議室に案内されると思っていた交渉団は少し意外な展開に対応を迷っていた。

「こんな豪華な部屋、迎賓館並みですよ」と外務省担当官。

「そうですか、迎賓館は入ったことはありませんが豪華ですね」と特殊作戦隊長佐藤一等陸佐が答える。

 外交の通例として相手の管理する部屋や建物に入った瞬間から傍聴されている覚悟を持つことが肝心で、この場合も感想だけでその後の話はない。


 しばらくしてノックがあり、若いメイドが3名でお茶と茶菓子を運んできた。

 もちろん交渉団は口にしない。


 それからしばらくして、先ほど案内した乗組員が来て「準備ができました。どうぞこちらへ」と案内する。

 案内された部屋は、先ほどの部屋の2つ隣である。特殊作戦隊長佐藤一等陸佐は配置を覚えながら周辺に何があるかを正確に把握していた。隊員も同じだろう。緊急の場合の避難経路と敵をさける場合の装備品などチェックは怠らない。


「どうぞこちらにお座りください」と案内してきた


 ここも豪華な長テーブルの部屋で装飾も煌びやかで一見して高貴な方々の会食か会議かに使われると考えられる。

 向こう側、ドアに遠い方に案内されたが、日本で言う「上座」となるがアトラム王国にも風習があるかと外務省担当官は一瞬考えた。

 テーブル奥の真ん中の席を指定され、外務省担当官2名と特殊作戦隊長佐藤一等陸佐の3名が座る。

 ドアに近い側はアトラム王国の交渉団が立って待っていた。その数6名。


 王国側が先に発言してきた。

「本日はようこそおいで頂きありがとうございます。私は王国旗艦コルグ・スメタナの副艦長トフナーと申します。そしてこちらが王国旗艦コルグ・スメタナ艦長にして交渉団団長のゾリアス公爵です。こちらが以前日本国に行った水先案内人のゾメアです」と紹介した。「お久しぶりです」とゾメアは言う。

 外務省担当官の若い女性の方は面識があった。

 担当官も「お元気でしたか」と日本語で言う。


 テーブルの両方にポケット翻訳機がおかれ、それぞれ通訳をする。

 若い女性の外務省担当者はアトラム王国語をすこしなら会話もできるが、ポケット翻訳機での会話を続けた。特殊作戦隊員の4名は席の後方で立って警戒をしている。


「みなさんお気を楽にしてください。お茶でも持ってこさせましょう」と副艦長が言うが日本側は「お構いなく」と断った。


 ゾリアス公爵は「そう固くならないでください。と言い、「さっそく本題に入りましょう」とも言う。


 日本側はほっとした。


「早速ですが、アトラム王国の意思ですが、我々は第2艦隊が撃破された事に恨みはありません。なにしろ我々は帝国と戦争していますから。戦時下ですから発見した日本に対し先に攻撃をしたのではないかと思っています。それについては何度も言いますがアトラム王国は戦時下であり全ての敵に対して交戦権があります。それも面倒な事に帝国の衛星国はアトラム王国の旗をつけて味方のふりまでするので始末に負えません。よって全ての怪しい艦艇に対しては攻撃するのが原則となっています」とゾリアス公爵は一気に話した。


「話は分かりました。貴国の第2艦隊は先の硫黄島に何ら宣言なく砲撃をしました。そこから今回の不幸な戦闘は始まっています。つまり我が国の領地を一方的に攻撃されたので、我々は仕方なく個別自衛権を発動して戦闘になりました」と外務省担当官が説明する。


「そうですか、そんな事だろうと思いました」とゾリアス公爵は言う。

 続けて「我がスメタナ王は第2艦隊をいとも簡単に排除したあなた方の力を知りたいと思っています。そしてできるなら国交を結びたいと」


「お話は解りました、ですが我々は法律により他国への武器や兵器の輸出は制限されています。しかも言いにくいのですが我々はあなた方の文明より高度な文明を持つ世界からこの世界に転移して来ました。ご理解が難しいと思いますが・・・」と担当官が説明する。


「いえ理解できますよ、あの大きな鳥型の飛ぶ機械や、後ろの方々が持っている銃を見ると我々の技術から100年以上進んでいる文明であると理解できます」とゾリアス公爵。

「そんな進んでいる文明なら、武器兵器だけではなく庶民の生活を豊かにする技術や農作物の生育や病気の予防など、教わりたいことはたくさんあります」


「例えばどのような技術が望みですか」と担当官。


「うーん作物ができたとしても大量に高速に移動させる手段がありません。人の行き来も徒歩、馬車が主流で時間がかかります。一番は作物の作付面積が拡大できるなら、貧困の人民に対しもある程度の支援ができます」とゾリアス公爵は力説した。


「作物ですか、我々の人口は1億2千万人おり、農作物の供給ができるのであれば非常に助かります。あと我が国の研究者は貴国で発展している「魔法」などを研究対象にしたく要望があります。軍事技術はダメですがそれ以外の内容であれば政府は許可する方向で考えています。どうですか」と担当官も要望をぶつける。


「アトラム王国は緑豊かな土地が広がり作物栽培は盛んです。貴国が望まれるなら輸出は可能と思います。また「魔法」については王立魔法研究所や王立魔法学院がありますので、希望にお応えできるとは思います」ゾリアス公爵は考えながら言う。


「アトラム王国は2つの大陸と中央の島で形成されていますよね、人口はどのくらいですか」と担当官。


「以前貴国に向かった冒険者から聞いたのですね。そのとおりで、アーリア大陸とアトラス大陸に2つの大陸中央にサービウエル島があります。サービウエル島は古代遺跡が多数あり、我々も全ては調査できていません。人口は両方の大陸合わせて約2億人と言うところでしょうか」とゾリアス公爵が答える。


 担当官は偵察衛星で調べていることを洩らさなかった。


「お話を聞いているだけですが大陸は広大であるとか。だとすればまだ農地にできる所はありそうですね」と担当官。


「ええその通りです、ですが最初の話に戻りますが大量高速輸送手段がありません。それが悩みです。一例をあげると大きな自走荷車はあるのですが、魔法石で動きますので人が走る程度の速度で、作物を保存する為に水魔法石を使って冷やしてはいますが、距離があるので途中で魔法石は力を失い半分はダメになるのです。何としてもこれを解決したい。農作物が無駄になりますので」とゾリアス公爵は真剣だ。


「よくわかります。我が国も2百年前は同様でした」と担当官は江戸時代を思い浮かべながら言う。


「そういう事なら我が国は貴国の役に立てるでしょう、農作物が早く大量に移動できるなら、貴国への送り出しもできると思います」とゾリアス公爵は言う。


「では明日お互いの要求をまとめて文書にして交換いたしましょう。その結果となりますが本国にご案内して最終交渉となります。如何ですか」と担当官。


「異存ありません」とゾリアス公爵。


 アトラム王国とのコンタクトは成功した。翌日お互いの要望をまとめて本国で交渉し外務省が国交の法案を国会に提出する手筈が整った。外務省担当官と特殊作戦隊もV-22JオスプレイにてDDH-183「いずも」に戻っていった。

 交渉の内容は全て政府に中継された動画と音声で分かっていた。


「佐野官房長官どう思う」と当壁総理。

「もっと補償とか重い内容と思いましたが、農作物の輸入に移動手段の輸出ですか、アトラム王国は我々と平和条約を結びたいらしいですね」と佐野。

「そうだな、2方面作戦はつらいからな片方と国交ができるなら大歓迎だ、日本はスルホン帝国に中立をとっていたが、戦争を仕掛けられているしアトラム王国も帝国と交戦状態だし、アトラム王国に日本人を派遣するなら、いつか邦人保護の名目で援軍を送ることにもなるがその覚悟も含めて検討しよう」と当壁。


「ところで高野防衛大臣、チロルの森はどうなっているのかね」と当壁。


 ここは首相官邸地下に作られた、災害対策本部であり本来は全国的な災害の対応を行う場所であるが、転移してからは大きな災害もなく、帝国との戦闘だけなので首相官邸地下の災害対策室と内閣府にある災害対策室は防衛庁と連絡回線を太くして自衛隊が行う作戦の一部を見られるようにしている。


「オペレーターチロルの森駐屯地を頼む」と高野。

 巨大スクリーンに分割された駐屯地や分屯地、日本山臨時航空基地などが分割画面でスクリーンに映し出されている。

「現在までのところ、帝国第5師団を壊滅捕虜約5千名内負傷者350名、稚内特別自治区自衛隊病院にて治療中です。つづいて帝国第3師団ですが、捕虜5万人全て負傷者です。これも重傷者は順次自衛隊病院に送り出していますが、大三角州の港に停泊中のAOE-422「とわだ」AOE-425「ましゅう」に医療ユニットを入れて対応させています。また大三角州に一時収容所を作り治療を、重傷者は本土の自衛隊病院で受け入れております。前回よりはるかに多い捕虜ですから、本土より陸上自衛隊中部方面隊の第3師団や第10師団の一部を割いて東富士演習場の捕虜収容施設を10倍に拡張しております。また大三角州についても東部方面隊第12旅団の全普通科連隊を集め元から受け持っていた北部方面隊第5旅団と共に管理を行っています」と高野は一気に報告した。


「そうか、して我が方の損害はどうかね」と当壁。


「ええ現在のところ軽傷者数名です。ただし大規模砲撃を行いましたので弾薬が不足してきていますので、C-2輸送機で運送しております」と高野。


「して勝てそうか」と当壁。


「はい残りはスルホン帝国第4師団ですが、各砲は無力化しましたが歩兵が百万近く健在で駐屯地と直接対峙する可能性が強いです。これも事前に対応策を立案しています。勝てるかは相手が多すぎるので、どこまで減らせるかにかかっています」と高野。


「そうだな百万の兵は侮れないな、陸上自衛隊第2師団が相手するのだったな、しっかり頼む」と当壁は言うが不安は払拭されない。 


「はい総理のお言葉を伝えます」と高野。


 そのころチロルの森駐屯地や分屯地、日本山特科群に対しC-2輸送機やV-22Jオスプレイによる補給が続けられていた。



 チロルの森駐屯地ではUH-60JAにて運ばれてきた矢が刺さったエルフを急務室に運び入れ女医が手当てを行っていた。傷口を洗浄し矢は浅いので出血は多くなく、抗生薬を処方して鎮痛剤を点滴して安静にさせた。

 そばにはエルフ達が見守っている。

「うーん痛い」とエルフは一時的に目を覚ました。

「女神さまはどこ。ずーと声が聞こえていたの」とエルフ。

「もうじきいらっしゃるわよ」と別のエルフが答える。

 傷ついたエルフは魔道通信で弱弱しくハイエルフを呼ぶと、「大丈夫」と「ひなた」が思念で返してくる。

 傷ついたエルフは涙を流すとそのまま寝込んだ。

 ドアが開き、マリアが入ってきた。

「さあみんな別の建物に集まってね。あなた方の奴隷紋を消します」とマリア。

 エルフ達は顔を見合わせて喜びでいっぱいだった。「奴隷から解放されるのですか」と一人が聞く。

「そうよ。いらないでしょそんな紋」とマリアはドアを開けこっちこっちと手招きして歩き出した。


 2つ先の宿舎に女性自衛官が3名と帝国第5師団や帝国第3師団に帝国第4師団のエルフ達が25名も居た。

「さて魔力が持つかわからないけど始めましょう。一人ずつベッドに横になって奴隷紋を見せて」とマリア。

 そこに「ひなた」も入ってきた。食堂でケーキを食べていたようだ。

「みんな大丈夫マリアねーさんに奴隷紋を消してもらってね」と言うと隅の方に座った。お腹がいっぱいのようだ。



 陸上自衛隊第2師団長の平沢陸将は幕僚長中野一等陸佐に「特科の補給状況はどうか」と尋ねた。

「はい大三角州の弾薬庫からピストンで運んでおります。間に合います。包囲殲滅A-1号と包囲殲滅A-2号については予定どおりの戦果です」と中野。


「慢心はいかん最後の包囲殲滅特-1号はタイミングが肝要だ、正面、側面、遊撃に支援特科群のタイミングが合えば強大な戦力になるが、気づかれて個別対応となった場合は脆くなる」と平沢。


「ええ戦術情報表示システムが機能しないと実現不可能な戦術です。所定条件を変化させたシミュレーションは10回中10回勝利と出ましたが、何が起こるかわからない戦場ですから安心はしていません」と中野。


「正念場だ、これで帝国陸軍戦力の60パーセントは削ぎ取れるから、その後どうするかだな」と平沢。


「ええ、まさか帝都に乗りこめとかは嫌ですよ」と中野は笑う。


「日本政府の意向次第だ、最悪ありうるからな」と副師団長の佐藤陸将補が補足する。


「いやそれは大変ですよ、なにしろ平地で2/5とは言え2百万の軍隊と対峙するなんて悪夢です」と中野。


「そうなると帝都までの街道は2本あるから機械化された2個師団は最低必要だな。今回は守りで良かったと言うべきかな」と平沢。


「でも自走特科使えば何とかなりそうだが」と佐藤。


「その場合補給が問題です、遠いですから。途中に補給所と航空基地を作れば何とかなるとは思いますが」と中野。


「そうだな、戦術爆撃も使えるから便利だな」と佐藤。


「そんな事にならないと良いのですが」と中野。


「確かにそう思う。敵地に乗り込んで武力による占領とか戦後初めての事であるし、やり方は解らん。それに人員が不足しているのと、占領するメリットがないのではないか」と平沢。


「メリットは1つだけあります。再度スルホン帝国を蜂起させない事だけです。帝国人民に支持されないとやりにくいと思いますが」と中野。


「帝国の現状を見ると好戦的だから、中野一等陸佐の言うとおりかもしれない」と平沢陸将は心配している。「命令されればやるしかないが、今は目の前の敵に備えよう」と話題を変えた。


「オペレーター、偵察隊の報告をさせてくれ」と中野は本来の分析業務に戻った。


「中央モニターに出します」とオペレーター。


「こちら第2偵察隊第3偵察小隊、敵は駐屯地に向かい速足で移動中、推定距離は50キロです。翌日には10キロ圏内に入ると思われます」と第3偵察小隊は第4偵察小隊と交代で帝国第4師団をストーキングしている。先のMLRSによる攻撃で撃ち漏らした砲を追加報告もしていた。その時第4偵察小隊は帝国第4師団の右側深くを先行して追い越し、帝国第3師団掃討作戦に参加していた。


「こちらは幕僚長中野一等陸佐だ、偵察隊本部、偵察小隊と直接会話したいが良いか」と中野。


「こちら第2偵察隊本部、問題ありません」と別のスピーカーから流れる。


「第3偵察小隊、帝国第4師団の被害報告」と中野。


「こちら第3偵察小隊、20基の移動砲台は全て木部が破壊され移動不能。臼砲6基も同様であり、火薬に誘爆し現在も小規模な爆発が続いています。人的被害は砲科と思われる4百名程度と帝国兵士と思われる者8百名程度が死傷、服の違いで区別しています。ついでですが、食料等も誘爆に巻き込まれ1/3が使用不能となっていますが攻撃は予定どおり行われると思います。敵将の会話を傍受中」と第3偵察小隊長が報告する。ハイエルフとコンタクトを取り、山の悪魔「トメス」を討伐した小隊である。


「有難う所定の行動に戻れ」と中野は言い偵察隊本部にも連絡した。


「身軽になった分速度は上がると思うな」と佐藤。


「そう思う。変更があれば別だが、明朝からの攻撃を覚悟せねばな」と平沢。


「ええ情報を総合すると帝国第4師団は最前列が駐屯地に45キロで最後尾が75キロとなります、帝国兵士は意地になっているでしょうから、駐屯地が見えるところまで強行軍で来るのではと思います。現在の移動速度で夜半には先頭が10キロ圏内に入ると予想されます」と中野。

 続けて中野は「師団長「包囲殲滅特-1号」の発令宜しいですか。明朝日の出と共に最後列を爆撃開始します」


「そうだな減らさないと如何ともならんな。発令許可する」と平沢。


「オペレーター、明朝より作戦行動に入る「包囲殲滅特-1号」発令。武器の使用は制限せず。だ」と中野が各隊オペレーターに伝える。

 各オペレーターは一斉に各隊本部に連絡。同時に戦術情報表示システムに「包囲殲滅特-1号」が表示される。

 中央モニターに各隊の位置情報が出てかすかに移動している。


「よし最終決戦としたいな」と平沢。


 各隊の役割と敵相対距離による作戦開始時刻が表示される。


「包囲殲滅特-1号」の概要は、帝国第4師団の先頭が駐屯地10km警戒圏内に入り、後続と合流次第、A-1軽爆撃機により最後部から爆撃を行い敵を消耗させる。チロルの森各村が近いので焼夷弾は使えない。Mk.82 500ポンド無誘導爆弾のみの攻撃となる。その後帝国第4師団の左側面から押し出すように第71戦車連隊とその後方から第25機動化普通科連隊が圧力をかけ、前方へと集めさせる。


 第3機動化普通科連隊と第2戦車連隊により右側方から圧力をかけて分裂を防ぎ固定させる。


 続いて第2偵察隊が全ての小隊によって後方から圧力をかけて前方に押し出す。

 特科による砲撃を7kmで加え、駐屯地の12.7mm重機関銃M2にて正面を足止めする作戦である。

 通常なら分散させて個別撃破を考えるのだが、人員があまりにも多く分散してしまうと個別対応が追い付かなくなるのでこの様な作戦となった。


 作戦の要は「如何に分散させないか」に限る。その想定の元、駐屯地の防衛の要である12.7mm重機関銃M2を増設している。降参させたら第2師団の3個機動化普通科連隊が武装解除を行う。人数が多い場合は武装解除してから幹部以外は解放してしまう予定だ。


 いよいよ最終決戦の時刻が迫る。


「やっと見えてきた」と帝国第4師団の第1中隊先頭が報告する。

 中隊長は少し小高くなった丘に腹ばいとなり、魔道具の遠眼鏡で駐屯地を見張る。その距離10kmである。

「エルフが逃げてしまったので伝令を出す」と言うと3名を後方に続く師団幹部に走らせる。

 時刻は夜の8時である。駐屯地は平静を装う為に探照灯をつけて明るくしている。「見つけてくれ」と言わんばかりだ。


「ずいぶん明るいな、相手はバカなのか」と中隊長が呟く。

 陸上自衛隊第2師団と統合幕僚監部によって練られた作戦とも知らず、明かりに集まる虫たちの様に次々と帝国兵士は第1中隊のいる周辺に集まってくる。


 先行する第1中隊には敵城を発見したなら観察せよ、そして後続が到着するまで待て」と命令されていた。威力偵察したいのをこらえている。


「おい火を炊いたりする時は後退して森の中で見つからない様にするのだぞ」と中隊長は注意を促す。


 駐屯地は5ヶ所の見張り台に一人いるだけで警戒しているようには見えない。

 しかし中隊長の心配を余所にチロルの森駐屯地では見張り台に取り付けてある、赤外線スコープや高輝度監視カメラによって、しばらく前から帝国第4師団第1中隊の動向は掌握されており、駐屯地側は気づいてない振りで防護壁上部の配置人員を極端に減らしていたのだ。


「師団長、ついに10キロまで接近中。通常ならここで後続を待ち、自分達は威力偵察を行うものと思います」と中野。


「いや案外後続到着を待って一斉になだれ込んでくるのでないかと思う」と「その戦い方が帝国の教理に基づく方法だからな」と平沢。


「それを忘れていました。すいません」と笑いながら中野が言う。


「監視オペレーター、交代で監視を強化せよ」と中野。「了解」と返ってくる。

 この時点で動きがあれば全て統合幕僚総監部を通して防衛省と内閣に伝えられている。


 日本では深夜12時であるがテレビやラジオに速報が流れていた。


 前回の帝国第5師団、第3師団の時も開戦の速報が流れ、勝利した報も入っていた。

 戦場監視カメラ映像も望遠動画ではあるが防衛省よりテレビ各社に提供されており、一斉に賛否両論の討議がテレビで放送されている。国民は戦闘支持が多少多いようだ。ハイエルフ達がテレビに出た影響なのか。


 帝国第4師団第1中隊周辺に次々と兵士が集まってくる。

 一部は後退して火をおこし糧食準備を始めている。帝国兵の食事は各兵が分散して持つ堅パンと干し魚や干し肉のスープだけだ、香辛料は塩のみとシンプルである、ただしかなりしょっぱい。

 ただ帝国第4師団はチロル入り口村からジャガイモもどきなど野菜を送られていたので、他の師団よりは少し豪華であった。しかも山羊もどきの乳から作られたヨーグルト付きである。


 第1中隊長は伝令の戻りを待っていた。最後部まで20kmの大移動の為時間がかかる。

 3時間程度で伝令は戻り、参謀からの指令を持ってきた。

「明朝には全隊が揃うので、それまで気づかれずに待機、偵察も禁止だ」との事。

 中隊長は隊全員に明朝までの仮眠を指示した。そして中隊長も寝る。やる事が無いのだ。

 

 チロルの森駐屯地では焚火も確認していた。

「これは来ない確率は高いですね。我々も休憩にしましょう」と佐藤。

「そうだな、明日に備えて休ませて貰うよ、みなも無理せず交代で休め」と平沢。


「はっ」と敬礼をし、「オペレーター交代で休憩仮眠」と中野が指示をする。

 各隊にもオペレーターから指示が飛ぶ。


 陸上自衛隊第2師団各員と支援隊は緊張しながらも交代で食事休憩に仮眠を始める。


 一瞬の静寂が各基地を包み込む。

ありがとうございます。

次回は本格戦闘に突入です。日本政府はこの先どう動くのでしょうか、気になります。

次回もよろしくお願いします。

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