第76話 ミソラ・ロレンシアの冒険 その4 三戸-函館
第76話です。戦争は2話だけ冒険話にお付き合いください。
誤字脱字報告ありがとうございました。
キーボードが不調で文字が抜けたり多かったりと交換しました。
本日より有線で繋げています。キーボードは古くなるとキーが反応しなくなるので要注意です。
普通のメンブレなんですが・・・
ミソラ達一行は途中の三戸町観光協会にてお茶とお菓子(名産の三戸城山まんじゅう)をごちそうになりながら、ドーザ大陸で戦争が始まったことを聞いていた。
「戦争ですか」とミソラ。
「ええ聞いたところによると、帝国から割譲された土地を取り戻しに帝国の軍隊が大勢攻め込んできたらしいですよ。なんでも2百万人とか、想像もできない数ですよね。三戸は1万人も住んでいないのですが」と観光協会の老人は、ぼそぼそ言う。
「でも変ですよね、取り戻すなら割譲しなければいいのに」と最年少のミリナがまんじゅうを食べながら言う。
「ミリナお行儀悪い」魔導士のソラが窘める。
ほのぼのした光景に観光協会の老人と事務員のお姉さんが笑う。
「ミリナの言う事は真実をついているかも知れない。なぜなら割譲したと言う事は取り戻す理由がない。だが最初から戦争するつもりで割譲してワザと森や平原に日本の城を作らせたらどうだ、城攻めは昔から「10倍の味方をもって攻撃せよ」と言うではないか。だから帝国はワザと城を作らせ自分の領土で相手にするつもりだったと考えられる」と賢い剣士のトムスが推測する。
「多分トムスの言うとおりと思うぞ」とドネルグが肯定をする。
「帝国の戦い方は「人の波」と聞く、逆に狭い場所や制限される場所での戦いは、一対一に近い形となるから人の波は使えないはず、だからワザとおびき出したと言える」ドネルグが続ける。
「帝国ならやりそうな事よ」と帝国嫌いの魔導士ミルネが嫌そうに言う。
「はい、おしゃべりはこの辺で、そろそろ出発しましょう」とミソラが言う。
「はーーーい」とミリナが残った「まんじゅう」を全部取り、ドネルグに「お願い」と言いながら渡した。
なにも言わずドネルグは収納する。いつもの事だからだ。
「次の目的地は青森市よ、そこから船で北海道に渡るわよ」とミソラ。
みな無言で準備をし、出発準備ができると観光協会の皆に挨拶して出発していった。
観光協会の老人(協会長)はいつまでも見送っていた。
一行は観光協会を出てから国道4号線を西を目指す。
途中から国道4号線は山越えとなり、険しい坂道が続く、途中五戸総合病院で子供たちとふれ合い、先を急ぐ。十和田市に入ると国道102号に変え、十和田湖総合運動公園に少し早いが宿泊する。
「みんな明日はハイライトの八甲田山を超えていくから今日は早めに宿泊ね」とミソラがみんなに言う。
「ミソラいつも以上にお客さんが・・・」と魔導士のソラが周りを見回す。
「十和田市の警察と市からここを使えと言われたのよ」とミソラ。
ただ見学者が200人以上いて、みんなお土産を持参している。ツイッターで拡散している様だ。
「仕方ない、ここで宿泊するわよ」とミソラがあきらめたように言う。
その時、大型バスが公園の外に止まり、一人の若者が走ってきた。
「ミ、ミソラさん達ですよね、十和田湖温泉協会の者です。実は協会長からぜひ温泉に泊まってほしいと、昨日から関係先に連絡して、やっとさっき許可を貰いました」と協会の若者が息を切らせながら一気に言う。
「さっバスでご案内しますので、どうぞこちらに」「お迎えくださった皆様もバスの方にどうぞ、お土産たくさん乗せられますから」と案内した。
「ミソラ、バスだって、温泉ってあの途中で入った大きなお風呂?」とミリナが嬉しそうに言う。
「ミリナ聞いてないけど、どうやらその様だね」とミソラ。
「明日、難所の山越えなんでしょ、温泉泊まろうよ」とミリナはもう決めていた。
「けど良いのかな、市からはここを使えと言われているだけど、・・・」ミソラが持つスマホに電話がなった。「もしもしミソラです」すっかり日本人化したミソラが答える。
「もしもし、こちら十和田市役所観光課です。実は十和田温泉協会から宿泊を是非にと言われまして、お電話しました」と市の担当者。
「それでしたらバスでお迎えが来ているので、どうしようかと思っていたところです」とミソラ。
「もしミソラさん達が宜しければ、温泉協会の方に泊まっていただければ市としてもありがたいのですが」
「なにかあるのですか?」とミソラ。
「有名人が泊まってくれると宣伝になるのですよ、だから宿泊代は必要ないとの事です」
「わかりました、ただしこちらも条件があります。いま運動公園にファンの方が2百人以上来ていますので、どこかで講演をしたいと思いまして、みんな会いに来てくれたのですから」とミソラ。
「わかりました、こちらから協会に連絡します」と担当者。
しばらくして電話がかかってきた。
「ミソラさん手配できました。まず市民センターで講演頂いて、次に奥入瀬ホテル(おいらせ)で宿泊します。それでどうでしょう。市民ホールが空いていましたので」と担当者。
「はい、ご協力感謝します。それで結構です」とミソラ。
つづいて温泉協会の若者にも電話が来た。
「はい、はい、そんなに、はい、はい大丈夫です。はいそうします」と切れた。
若者がミソラの方を向いて、「いま連絡ありました。これから皆さんを市民ホールにお送りして、終わりましたら温泉に向かいます。あまりゆっくりはできませんが、宜しいのですか」
「はい私から頼んだ事ですから、それにこんなに集まっていただいて、お土産貰っただけではなんか申し訳なくて」とミソラ。
その時、市内に市役所から緊急放送が流れた。当然運動公園にも流れる。
「本日、15時から市民ホールにて、冒険者ミソラさん達の講演を行います。無料ですが千人しか入れないので、立ち見も覚悟してください」と流れる。
「うへーミソラ・・・」とミリナ。
「いいじゃないの、恩返しよ」とミソラ。
集まっていたファンに向かって、「十和田市が講演を開いてくれるそうなので市民ホールと言う所に向かいましょう」とミソラは大きな声で言うと歓声が上がった。
「みなさん気を付けて行ってくださいね」とソラも言う。
「さあ、ミソラさん達はバスにどうぞ」と温泉協会の若者が催促する。
バスに乗りこんだ一行は市役所にて担当者を15~6人乗りこませ、市民ホールに向かう。
市民ホール側では準備が始まっており、舞台にはイスとテーブルが並べられて、照明テストの最中だった。担当者たちは市民ホールのエントランスにテーブルを並べ整理券を準備している。消防法で定員以上の入場は禁止されているから、別の大会議室にホールの様子を投射すべく準備をしている。
なんか大がかりな事になってきた。
15時少し前から入場は始まった。十和田市の人口は6万人だが、時間はまだ15時なので仕事の人は多くないと思われたが、なんと十和田ケーブルテレビが録画して明日の午後9時から流すと言う事だ。なんと言う事でしょ。
1000人の席はあっという間に埋まり、ライブモニターのある大会議室もいっぱいになった。
市役所のロビーにもモニターを繋ぎ中継を流す。
ミソラ達異世界の冒険者は、日本での人気はものすごいものがある。しかも田舎を歩いてドーザ大陸を目指しているのだから、都会ならたくさん有名人もいようが、田舎では市や町を挙げての歓迎となる。
ミソラ達はいつものように講演を始めた。
「みなさんいつも歓迎してくれてありがとうございます」とミソラの日本語はかなり上達している。
「ではメンバーを紹介しますね」
「最初は剣士です。トムスとタトル。二人はドラゴン討伐の中心として活躍しました」
二人は向かい合って剣技を始めた。それにミソラが剣に炎を纏わせ参加する。
一通りの剣技が終わるとミソラの解説が始まる。
「トムスはバーク流剣技の達人で免許皆伝されています。彼の剣は細身ですがミスリル鋼で出来ている名剣であり、日本では居合道に近いと思います。つまり一瞬で相手に切りつける見えない剣です」
「つづいてタトルはまだ修行中ですが、アトラム王国では正統派のオーマス流です。この剣は打ち合いをする為の剣であり、王国の兵士はほぼ全てこのオーマス流を習います。この剣技の特徴は一人でも複数でも協力しながら相手に切りつけると言う物です。日本の武道で近いものはないのですが幅広の厚みがある剣で重さを利用して切りつけると言うより殴る感覚に近いです。後は刺します」
「続いて私のロレンシア流ですが、私の祖父が編みだした剣技です。我が家はみんなこれを習います。この剣の特徴はトムスより細身の剣に魔道をのせて切り裂くもので、生身の動物などは一撃です。本来魔道剣士は中途半端で実践的ではないのですがじい様が作った剣技はそれを克服した実用的な剣です」
「剣が触れた相手は傷口を魔道が焼いたり凍らせたりしますので2重にダメージが与えられます」
「私の場合は炎の特性ですから燃えますね」
ミソラは一息ついて、つづいての用意を合図した。
「つづいて魔導士を紹介します。日本には魔法が無いと聞いてます。おとぎ話の世界にはあるそうですが、この二人は魔導士です。魔導士のミルネは最年長で風魔法が得意です。実演してもらいましょう」
舞台に大きな紙が運ばれてきて上から吊り下げられた。
「ではミルネが触れずにこの紙を切り裂きます」
会場に風が起こり、やがてそこだけ空気の流れが速くなり紙に向かっていった。
シュパっと紙が切れていく。ある程度切り裂いて、のこったのは鳥の形をした紙であった。
拍手が起こる。剣士たちの演技は迫力がありすぎて、みんな見入っていたのだが今回は大きな拍手がおきた。
「はいこれが風魔法です。見えない風の力で相手を切り裂きます。一撃で相手を倒すことはできませんが火を大きくしたり、相手を傷つけて動きを遅くしたりします」
「続きまして魔導士のソラです。彼女は水魔法を使います。この場を汚しますのでバケツを用意します」
「用意できましたのでご覧いただきましょう。まずバケツに水を出してそれを空中を飛ばします」
ソラは手を前に出して念じると空中から水がバケツに落ちる。それを再び空中に持ち上げると広い会場をぐるぐると回す。どよめきが起こる。
最後はバケツに水を戻す。
「ソラの水魔法は、直接相手に水をかけて目を一瞬見え無くしたり、矢のようにして相手に刺さったりします。キャンプの時は水汲みが必要ありません」と笑いも取りに行く。
「そして一番若いミリナです。ミリナは王国でも百人もいないヒーラーで大変貴重な職種です。3名程怪我があれば見ましょう。日本では医師免許と言うものが必要らしいのですが、王国ではヒーラーが医者です」
何人か手を挙げる。
「はい、ではあなたとその横の方、そして・・・後ろのあなた。舞台に上がってください」
「はいどこを怪我しましたか」と聞く。「私、昨日階段から落ちて肘と膝に・・・」女子中学生だったらしい。か細い声で言う。
「ミリナお願い」
「はーい。痛くないよ」と言いながら肘の傷口に手を当てると手が光り始める。続いて膝に手をあてる。
「はい終わり。どぉ?」
「あれ傷口が無くなっている・・・痛くない」と中学生は大はしゃぎ。拍手が起こる。
「では次の方」とミソラ。
「はい、この子の姉なのですが昨日、部活で打たれたとこが腫れてしまって・・・剣道なのですが」
姉の方は痛烈な小手を受けたのだろうか、手首が紫色に腫れている。
「はい手当てしますね」ミリナは手を当てると光る。「あれ、折れているよ」
「えっ」「だから手首につながる骨にひびが入っているけど、ここ」「うぎゃー」笑い声が漏れる。
「ひどい」と姉が言う。「大丈夫、魔力全開」とミリナが言うと同時に光がさらに強くなる。
まぶしくて見えない。
「はい終わり」
「触るよ」と言いながらミソラが手首を触る。
「あれ痛くない・・・」と姉が喜ぶ。
「治したけど念のため病院に行ってね」とミリナ。拍手である。
「では次の方」
年は50くらいのおじさんである。
「市役所の観光課で勤務してます。一昨日手伝いで机を並べていたら机の脚が折れて角が足首に当たって歩くと痛いので来ました」
「はい、では靴脱いで靴下も」ミリアは手を当てる。光り出した。
「はい打ち身だけですね。もう大丈夫よ」とミリナ。
「はいありがとうございます。もしこの方たちよりもっとひどい症状の方がいれば、講演後に見ますのでロビーに残ってください」とミソラ。
「あっ宗教でもお金でもありませんからね」と冗談とも言えない冗談を言う。
「最後はドネルグです。世にも不思議な収納魔法が使えます。これは謎の空間に物を格納する能力でドネルグは10メートル四方の能力があります。そしてここに入れたものは時間が経過しないので生き物でも食べ物でも入れられますが、生き物はやめときましょうね。年を取らないものですから・・・みんな入りたいでしょ」とまた笑いを誘う。
「では皆さんからいただいたお土産ですが、一瞬で収納します」
ドネルグが出てきて、並んだお土産を一瞬で収納した。
「またドネルグは何を収納したのかリストが頭に出てくるので、出したいものだけ出すことができるのです。またその際に名前が判らない物も、名前がでて、食べ物か道具か毒物かなども判るそうです。私も収納してもらって(毒物)とか出たら嫌ですから」とお客は大爆笑である。
ドネルグはキャンプ道具を一瞬で出して、また収納する。
「あっ姉御「ばふふ」が居ました。忘れてました」
「出してみる(笑)」とミソラが言うと同時に、いのししもどきの大きな物が出てきた。悲鳴が上がる。
「みなさん落ち着いて、これは王国で食料にするため捕らえて血を抜いた「ばふふ」と言う動物です」
大きさはイノシシどころではなく、高さが2m長さは6mもある。
「忘れていたねーー日本は食べ物が豊富で美味しいから、これいらなくない」とミリアが言う。
「しまいましょう。非常用としてね」とミソラ。
「ではここから質問コーナー」「時間の限りお答えします」・・・・
ようやく終わっった。時間は3時間も経過していた。途中でミリアが客席に降りて傷の治療をしていた。
よくある質問は、お化けはいるのか、魔族はいるのか、ドラゴンは何匹いるのか、この世界は日本以外2国しかないのかなどである。
また魔法を習いたいと言う子供も現れた。前回同様小さいころから専門学校に行かないとだめと諭す。
夜は奥入瀬ホテルで大宴会となった。
観光協会や関係者、市長に警察関係者に偉い人いっぱい集まって宴会と写真大会となった。
ゆっくりお風呂に入れたのは夜の10時頃だった。
「つかれたね」「うん」「でもみんな楽しそうだった」「魔法習えなくて泣いていた子もいるよ」
「きっと将来王国と交渉して人を送りあえれば魔法が使える日本人もでるかもしれないね」「うん」
ミソラとミリナが眠そうに温泉に入っている。
翌日は予定が最初から狂った。
観光協会がバスでフェリーターミナルまで送ると言い出した。
2日分は短縮できる。ミソラは歩きを主張したが、ミリナとミリアの大反対にみんなはミリナ側についた。
ミソラは仕方なくお願いした。
バスに乗って超える八甲田山は思うより険しく勾配もきつい。それに青森市まで遠い。2日では無理であった。距離は65km位と程良いのだが、八甲田の途中でのキャンプは必要だった。
青森市内が少し渋滞していて3時間ほどバスに乗りフェリーターミナルに到着した。早い。
ここから津軽海峡フェリーにて函館に入る。
ここでもミソラ達はVIP扱いで、フェリーのスイート個室を女性2部屋に男子は3名で1室あてがわれた。たった4時間の船旅なのであるが・・・
ミリアとミリネはデッキで海を見ながら大騒ぎで、ソラにトムスとタトルはゲームコーナーで格闘していた。欲しい景品があるらしい。ミソラは函館からのルートを部屋で考えていた。ドネルグも一緒である。
ありがとうございました。もう一話だけ冒険話が入ります。その後は本格総力戦です。
楽しみです。