第75話 ドーザ大陸大戦 その5 総力戦開始
第75話を入れました。
これも少し長くなっています。
アトラム王国の交渉艦隊が硫黄島近くまで来たようです。
アトラム王国スメタナ国王の命により、南ロータス港から出港した王国旗艦コルグ・スメタナを中心とする200m級砲艦4隻に150m級砲艦6隻、そして補給艦(実情は石炭運搬船)が5隻船団を組み日本に向かっている。
速力は18ノットも出ている。時速にすると33.3Km/hであり、南ロータス港と横浜の距離は約1.9万kmで順調にいけば23日の距離であった。アトラム交渉艦隊はその半ばを過ぎて、のこり13日に迫っていった。
元の世界で言う太平洋横断の2倍の距離を船団は順調に航行していた。
交渉船団は横浜から1000kmの位置にいて、まさに硫黄島の沖合にかかりつつあった。
硫黄島は以前アトラム王国第2艦隊が上陸した場所であり、過去話でも説明したが、旅客機の故障等による緊急着陸空港に指定されている為管制塔がある。管轄は航空自衛隊中部航空方面隊隷下、入間基地中部航空警戒管制団の分屯地部隊で硫黄島分屯基地の基地運営は海上自衛隊が行っている。
分屯地には硫黄島基地隊本部、空域監視隊、通信電子隊に医務班があるだが、前回のアトラム王国第2艦隊が違法入国してからは、海上監視レーダーの必要性が認められ、旧式ではあるがJ/FPS-2 3次元レーダーが急遽配備され、人命救助用のUH-60(ブラックホーク救難用)と監視連絡用にUH-60J(JⅡ型)が配備された。
沖合を監視していたレーダー観測員からアンノン船団発見の報が入った。
硫黄島航空基地司令の堂島1等空佐は同じレーダー観測室におり、ここが指令所も兼ねている。
硫黄島管制塔の真下に位置する。
前回の砲撃で破壊された管制塔は補修されており、窓も防弾タイプの強化プラスチックに交換されている。
台風程度ではびくともしない。
「また来たか・・・」「急いで現状を航空方面隊に連絡、同時に上陸に備え各扉閉鎖。外にいるものは避難豪に入り、全隊員手りゅう弾と89式5.56ミリ小銃を装備。海上自衛隊航空機要員はUH-60Jを即時待機後敵船団の監視を実施。整備要員はその後避難壕に退避」
「無線要員はUH-60Jとの連絡を密にとり、逐次航空方面隊に報告。以上訓練どおりやれ」
堂島一等空佐は次々と指示を出し、最悪戦闘も考えていた。
ただし対艦ミサイルなどは無く、近くの自衛隊艦艇が駆け付けるまで手りゅう弾と89式5.56mm小銃で戦うまでだった。祈る気持ちでUH-60Jからの報告を待っていた。
偵察監視任務用のUH-60Jは陸上自衛隊と違いドアに12.7mm重機関銃M2はついていない。乗務した隊員の持つ89式5.56mm小銃が唯一の武器であった。
王国旗艦コルグ・スメタナを旗艦とする交渉船団は硫黄島と母島の間を航行していた。
水先案内人となったゾメアが操舵室でコルグ・スメタナ艦長のゾリアス公爵に、「艦長あれが母島です」
「そろそろ日本国自衛隊が向かってくるころと思いますよ」「自衛隊は優秀ですからね」
バタバタと昔聞いた音が近づいて来た。
「ほら来ましたよ。あれがヘリコプターと言う乗り物です。自衛隊員が乗っているのでしょう」
「ほう初めて見た。あんな物でも飛ぶのだな、しかも早い」と艦長。
「艦長後部飛行甲板に誘導してこちらの意図を伝えましょう。早い方が攻撃されなくて済む」
「この艦を沈める攻撃力を持っているのか。それはいかん」
「いえいえあれは監視が任務でして、そんな攻撃力は無いのですが、後方に控えている船から正確に我が艦に火の矢が飛んできます。逃げても追って来る矢ですから逃げられません」
「そんな事ができるのか・・・それで第2艦隊も・・・我々は交渉に来たのださっそく出迎えるとしよう」
「それが良いと思います」
ゾメアは急いで操舵室を出ると、旗艦のコルグ・スメタナの後部飛行甲板に走り出した。
大きく手を振りここに降下してほしいとジェスチャーで伝え、どうやらUH-60Jにも伝わったようだった。
一方、横須賀所属の第1護衛隊が大島海域で演習を実施していた。緊急連絡は統合幕僚総監部を経由して第1護衛隊所属の横須賀第1護衛隊群司令に伝わっていた。
艦隊本部より「第1護衛艦隊は直ちに訓練を中止して不明船団と合流を果たせ」と緊急連絡が入った。
第1護衛隊司令の富川海将補は「訓練中止、即時指定海域に急行する。いずも回頭120度速力最大、各艦は警戒体系を形成し、いずもに続け」と指令を出す。
第1護衛艦隊はDDH-183「いずも」を旗艦として、DDG-171「はたかぜ」DD-101「むらさめ」DD-107「いかづち」の4隻である。最大速力30ノットで「いかづち」を先頭に「はたかぜ」「いずも」後部を「むらさめ」が守る体制で進んでいく。会敵までは975km、30ノットで17時間後である。
一方コルグ・スメタナの後部飛行甲板ではUH-60Jにゾメアが近寄り、意図を説明していた。
「これから横浜に行って外務省と交渉したいだけなのです。こちらはアトラム王国スメタナ王より全権委任を受けたゾリアス公爵です。本国に連絡を、あっ我々は交渉に来ただけで交戦の意図はありませんとも伝えてください」とゾメアは必死に相手の持つポケット翻訳機にしゃべった。
「ゾメア、それは何なのだ・・・」とゾリアス公爵が珍しそうに見つめる。
「ええ公爵、これは翻訳機と言って、アトラム語を日本語に通訳する機械なのです。意外と正確に伝わります。便利ですよ。そうそうこれから交渉はこの機械で行うことになりますから慣れていただくと便利です」
「ゾメアとやらアトラム王国の意図は解った。本国に連絡しよう。貴殿らは迎えが18時間後に来るので、この場で待機をお願いしたい。それから食料や飲み物、怪我人病人はいるか、いるなら対処するが」と航空自衛隊員が聞く。
「一人。ひどい下痢の船乗りが一人。それ以外は大丈夫です」とゾメアが答える。
「では基地に戻って薬と救護員を連れてくるので待っていてくれ」
「あれですかね・・・その「せいろがん」とか言う苦い臭い薬」とゾメア。「でも効くから気にしないで」
「いや下痢止めはたくさんあるが原因が判らなければ適切な対処ができないので救護員に任せるとしましょう」と言いながらUH-60Jは戻っていった。入れ替わりに救難ヘリのUH-60Jがやってきた。
アトラム王国の交渉団の報は首相官邸にも連絡がなされ外務大臣と対応を話していた。
「総理、アトラム王国の交渉団が向かっているそうです。アトラム王国の船団を沈めた事への抗議でしょうか」と佐野官房長官が言う。内心はそんなことはないだろうと思っている。
「いや官房長官、情報が本国に正確に伝わっていれば国交だろう。あちらにとってこちらは有益だからな」
と当壁総理か私見を述べる。
「もし国交関連なら助かります。なにしろ食物自給率はまだ85%止まりですから食料を輸入できれば助かります」と佐野。
「南海の島々からの供給は順調なのだろう、ならもうじき100%になるのではないかね」
「ええそのとおりではありますが、南国風の芋類と果物ばかりなので、その少々飽きが・・・贅沢なのは解っていますが、そのーー」
「うむ、儂もそろそろ南国の果物類に飽きていたのだよ。日本に四季が無くなり柿や栗がなつかしいぞ、それに「さんま」。さんまがなければ秋が感じられん」
「総理それは贅沢の極みですぞ」
官邸では緊張しながらしょうもないことを言っていた。
チロルの森では帝国第5師団の生き残りを撃退はできたが、引き続き帝国第3師団に無傷の第4師団が向かってくる。油断は出来ない状況である。
現在の相関関係は、帝国第3師団は分屯地北部に約40kmまで迫っていた。
一方、帝国第4師団は砲撃隊や攻城隊の移動をチロル入り口の村人を雇いあげて移動に多数を使っており、移動自体は早い部類である。
ただし、重量物である砲は最後尾を進行し、第4師団の先頭は第1中隊で歩兵勢力、続いて第2から第5中隊。
そして第4師団監部隊に合流した臨時軍団総司令のドメスアルム領主長公爵が率いる統合指令本部に糧食隊。しんがりは砲撃隊であった。
第4師団の第1中隊は先行しており、駐屯地まで60kmの位置に、しんがりの砲撃隊は110kmの位置にいた。
実は帝国第1師団と第2師団は西の海岸に張り付いてアトラム王国の上陸作戦に対応する為に陣をはっており、今回の移動はできない状態である。つまり実戦経験のある帝国第1師団や第2師団は精鋭であり、それに続き帝国第4師団は一部第1第2師団から幹部クラスを入れた実戦型の師団であった。
第3師団と第5師団は強敵との実戦経験はない。
つまり駐屯地に対して帝国第4師団こそが侮れない相手であった。
象徴するように第5師団に南部から囮を第3師団には北部から遊撃を指示していた。
その両方ともに当初目的から外れて戦力が半分以下となっているが、臨時軍団総司令のドメスアルム領主長は気にしていなかった。なぜなら今回の攻撃の中心勢力は、この第4師団であり信頼していた。なので第4師団と共に移動を行っているのだ。
「ゾンメル伯爵、移動が遅くないかね」臨時軍団総司令のドメスアルム領主長が第4師団長のゾンメル将軍に聞く。
「ええ、予定より少し遅いですが、重い砲撃隊を連れていますから仕方ありません。ただし、先頭集団が敵の城40キロまで迫りましたら一時的に砲撃隊を全員で移動させてあっという間に敵の正面に配置します」
「そううまくいかね。この道では敵からも見えてしまうと思うがね」
「ええ、その為に各中隊から1000名程の偵察隊が森の中を移動して敵を排除しています」
「そうかそれなら安心できるな」と臨時軍団総司令のドメスアルム領主長は言いながら不安を感じていた。
「ところで、我々の位置はどの辺だ、森ばかりで距離感がつかめん」
「はい総司令、先ほど魔道通信での確認では、先頭が敵の手前60キロ、砲撃隊は110キロ、攻城隊は130キロとなります。この速度で進めば2日後夕方にはなんとか砲撃を開始できると思います」
「ところで総参謀のナダム。第5師団第3師団からの連絡はあるか?」
臨時軍団総司令付きの総参謀ナダムが答える。
「第5師団は3日前にハイデルバーグ戦闘後、2日前に槍が降ってくるとか言う連絡を最後に通信はありません。第3師団は炎の魔法で攻撃されたらしいのですが、師団の損害は軽微で予定どおり敵の城にたどり着いて先制攻撃をしている頃とは思いますが連絡が取れません」
「エルフどもが逃げたか」とドメスアルム領主長が言う。
「おいナダムとゾンメル伯爵、我々のエルフは大丈夫なのだろうな」
「はい、ドメスアルム領主長様、我々のエルフは奴隷紋に加え首輪をしていますので逃げられますまい」
ひどい話である。
帝国第3師団は生き残りが35万人負傷しているが歩ける者は約5万人もいる。
丘や谷を直進して、なんとか敵城までたどり着いていた。
ただし敵の城と思っているものはチロルの森分屯地ではあるのだが、形は城としては異様な角のとがった6角形であり、塀の高さは4mもある。攻城隊か砲撃隊がいれば一撃なのだが、いまの彼らは砲撃隊が使う予定の爆薬しかない。しかも導火線は皆短く繋いでも20m程度しかなかった。
帝国第3師団師団長のブルーム将軍は参謀長のフルトハイムを呼び、対策を協議した。
敵の城までは約20kmまで近づいている。そして対城兵器は爆薬だけ、それも導火線が20m程度であり、5分で爆発する。導火線を全てつなぎ合わせると100m程度にはなると思うが火薬を砦に近づける事自体が難しい。
フルトハイムは提案する。兵士3名が爆薬の荷車を砦に走らせ、途中で点火させてうまく城門を突破できないかと、ブルームはその案を採用した。無謀である。
帝国第3師団の生き残り35万人から志願者を募り、爆薬を城門に近づける者を選出した。かれらは死を覚悟している。
音を立てず移動して、砦まで10kmにまで近づいて城門突破の準備を始めた。
荷車に積んだ火薬に導火線を刺し、2km手前から3名で押しながら走り、後ろから一人が伸びている導火線に松明で火をつける。と言う手はずだ。しかも夜間は余計に目立つので昼間行う予定となった。
「平沢師団長、分屯地からアラームです。帝国第3師団の生き残りと思われる軍団が分屯地北部10キロまで近づき様子を伺っているとの報告です」
「中野君、彼らは来る気なのかな、35万でも十分な兵力ではあるがね」
「はい、そのとおりと思います。エルフが居ないので第5師団が壊滅したことや、第4師団の位置など全て不明の状態で第3師団のみで攻撃を続行するつもりでしょう」
「よしわかった。攻撃前に殲滅させよう」「日本山駐屯地に連絡、第1特科群の支援を要請。時間を合わせて分屯地、駐屯地の特科大隊も同時砲撃を行う、同時に日本山基地に連絡してA-1軽爆撃機にてMk.82 500ポンド無誘導爆弾を撒いてもらおう」「中野幕僚長、担当区域を分担させて範囲殲滅を図る。その後第25機動化普通科連隊、第3機動化普通科連隊と第71戦車大隊による強襲とする。予定プラン包囲殲滅A-2号発令」
「師団長了解です」「オペレータ全員聞いたな、今から10分後に状況開始だ、プランのとおり担当区域を割り振ってくれ、それと大三角州基地にE-767とF-15の要請、各プラン後は普通科連隊による捕虜確保及び第2飛行隊の救助開始と北部方面隊第1対戦車ヘリコプター隊を全て戦場上空に待機させろ。最初の砲撃で逃げた兵が村に入らぬ様に監視および排除が任務だ。全ての武器兵器の使用は許可する」と中野。
「では10分後特科群から開始」
この指令は同時に北部方面隊本部並びに陸上幕僚監部を通じて統合幕僚監部に防衛省や官邸にも連絡が同時にはいる。
「あっ衛星監視オペレーター、帝国第4師団はどの辺だ」と中野が追加オーダーを出す。
「はい、現在最接近は歩兵団駐屯地に約55kmです、最後尾は100km臼砲の様です」とオペレーターが言う。
平沢陸将が笑う。
帝国第3師団への砲撃とその後の強襲は予定どおりであったが、帝国第4師団後方の砲撃隊や攻城隊にも北部方面隊のMLRS隊3両から対人では効果が薄いM31 GPS誘導ロケット弾を100km先に配達する予定である。
帝国軍は100km先から撃たれたとは思うまい。
「了解した。追加命令「狐突きプランDも10分後同時発動、目標帝国第4師団後部80キロから100キロ付近、GPS誘導はE-767に任せる」
「了解しました。日本山特科群駐屯地に発令、狐突きプランD発動用意、10分後MLRS発動。中間および最終誘導はE-767が行う」
「これで準備は整いました」と中野。
「うむチロルの森が爆発するな、ついでに第4師団の尻に火をつけるか、愉快だ」と
陸上自衛隊第2師団は北部方面隊や第7師団第71戦車隊などの陸上支援に航空自衛隊のA-1軽爆撃機やE-767にエスコートのF-15Jに力を借りて総攻撃第1弾を発動した。
「大三角基地より受電、配達の最終確認はF-35Aが行う。まかせろ。だそうです」
「航空さん張り切っているな、確かにレーダーとガンカメラ連動のF-35Aの方が精密誘導できるだろう」と中野。
「中野君、空自に花を持たそう、提案を受けると打電。予定に変更はあるか?」と平沢。
「まったくありません、より誘導が精密になった事ぐらいですか」と中野もつられて笑う。
「ついでに言うと統合戦術情報伝達システムの整合性テストも同時に行えると言う事です。我々以外の余計な無線はありませんからね」と副師団長の佐藤陸将補が付け加える。
ありがとうございました。
総力戦楽しみです。
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