第69話 ミソラ・ロレンシアの冒険 その3 石巻-三戸
遅れていた69話ができました。書いていると長くなってしまうので三戸で止めておきます。
よろしくお願いします。
ミソラ達は北上川の河原にテントを張り宿泊した。
食事途中で警察官が事故の様子を再確認の為に訪れていた。
「えーと本人から聞きましたが、ミソラさんでしたかが綺麗で見とれてしまって電柱にぶつかったと言うことです。本人は頭をぶつけて血が出たようですが、ミリナさんに手当され脳の検査だけで退院できたとの事です。本当にありがとうございました。後ほど本人からもお礼に来るそうですよ」
「軽傷でしたのね良かった」とミソラ。見とれられて悪い気はしなかった。
「ミリナのおかげ」とミリナが不満そうに言う。
「ええ、ミリナさんの止血魔法と言いましたか、が効果的だったようです。感染などもなくきれいに傷口がふさがって医者もびっくりしていました」と警察官。
「ミリナえらいでしょ」とミリナ。
「自分で言うもんではないけどね」とミルネに窘められた。
「えへへへ」
「では我々はこれで帰ります。この辺はイノシシも出ますからお気をつけて」と警察官は去っていった。
「イノシシってなに」とソラが聞く。
「なんか大型の獣で、やたら走るらしい」とトムスが説明する。
「でもクマ程は大きくないらしいよ」とタトルが補足した。
「さて食べたし、火の始末して寝ますか」とドネルグが提案する。
「はーいみんな、明日は6時に起きて出発よ。一度市内に戻って9時から石巻の小学生に講義よ。次は南三陸町まで55kmね、夜7時には到着したいわ」とミソラいきなり遠い。
「お嬢遠くないか、でもみんなの様子見ていると大丈夫のような気もするが」とトムスがみんなを代表して言う。
「途中に山もあるから早く平野に行きたいのよ。くまもいるしね」とミソラが涼しい顔で言う。
「うへー」ミリナが言う。「はははは」みんなに笑われた。
「でも行けるところまで行きましょう」とミソラ。
翌日は石巻市内の公民館で近くの小学校から400人を集め、冒険の話や魔法の実演などを行った。
前日と同じく大盛況であり、ミソラ達は東北地方では知らないものが居ないほどに有名となった。
結果いろいろな人から「うちの敷地に泊まれ」だの「この畑の好きなもん持っていけ」とか至る所で歓迎を受けた。小学生たちのSNSにより拡散してしまったようだ。
それでもミソラ達は先を急いだ。
南三陸町から大船渡市、釜石市、そして岩手県の宮古市に到着した。ここで国道45号と別れて、内陸を国道106号に沿って盛岡市を目指した。盛岡ではまた講義を行う予定であった。
盛岡市では、前の石巻市などのうわさが伝わっていて、小学生だけではなく中学生や高校生も聞きたいと希望が市に寄せられ、ミソラ達の予定に合わせて急遽、盛岡で一番大きいホールを貸し切り、午前と午後の2部構成で話をする機会が作られた。なにしろ1500人入るホールで2公演である。完全にアイドル化している。
ミソラ達は盛岡市のお客様となり、市内で一番良いホテルでの宿泊となったのだ。もちろん外務省も後援となっている。
第1部は小学生中心で中学生が少しと、2部は中学生、高校生に一部大学生や教授が混ざり大盛況であった。
この公演の様子は全てビデオに記録されて、外務省を通じて文科省に渡され全国の小学校に渡された。
ミソラ達は知らず知らずの内に全国的アイドル? ヒーロー? になっていた。
ミソラ達の冒険旅はまだ続く。
一行は盛岡市から国道4号に沿って西に向かい、危険とされている峠での宿泊をすることになった。
最初の宿泊は奥中山高原であった。幸い町から離れたところに牧場があり、宿泊を許可してもらった。
「なんか懐かしい匂いがするね」とソラが言う。
「本当ね、この匂いはアトラム王国を思い出すわ」とミルネが言う。
「牛と言う生き物だそうよ。ミルクや食肉だそうね」と農場主から聞いたミソラが教える。
「牛かーアトラム王国では見なかったな」とソラ。
「ソラ、ウレストが近いんじゃない。ウレストの牧場もあるし、きっとそうよ」とミルネが言う。
「うーんそうかも」とミリナが入ってきた。
「みんな牧場主さんからミルク貰ったよ。食事の時飲もうね」とミソラ。
テントを張り、食事の用意をしていると、匂いにつられて体長2mの熊が現れた。牛たちは一斉に牛舎に戻っていく。
「ミソラさん達危ないから建物に入ってくださいな」と牧場主が叫んだ。
「食事前の運動と行くか、トムス、タトル行くよ」とミソラは抜剣すると無詠唱で炎をまとわせた。
「あいよ姉御お供しますぜ」とトムスが言う。隣には抜剣したタトルが構えていた。
「行くよ」と短く言い、クマに3人が走って向かっていく。
その様子を見ながらミリナは今日の夕食クマだなと、のんきに思う。
「血抜きしないと食べられないよ」とソラが食欲全開で言った。
「頭落とせば何とかなるさ」とこれまたのんびりドネルグが言う。
戦う3名にぼーと見ている4名。このパーティーはいつもこんな感じだ。
魔物が強いか魔法を使わなければ魔術師やヒーラーの出番はほとんどなかった。
勝負は一撃ではなく、3名が一撃づつで仕留めていた。
「意外とくまは弱いな。運動にもならん」とタトルがこぼす。
「おーい姉さん頭落として血抜きしてくれ」とドネルグが叫ぶ。
返事のかわりに、一太刀すると頭と胴体が離れた。
「あれま、オッたまげた。ミソラさん達強いな。ちょっとまってろ」と牧場主は言いながら、納屋から解体用のナイフを取ってきた。
「サービスで解体するだ」と言うと、腹を割き内臓と肉に別ける。
「んだば、この肉あそこの湧き水で冷やしてくれ。臭みが取れるから」
言われる通りにトムスが肉を湧き水で冷やす。ついでに血も洗い流す。
「肉は30分位つけとくと旨くなるよ」と牧場主が言い。「ほれこれが胆のうだ、これを乾燥させると胃の薬になるだべ」と言い、胆のうを渡そうとする。
ミソラが受け取り礼を言う。内心はぬめぬめで気持ち悪い。
「胆のうも湧き水で良く洗ってから乾燥させっべ」
「ありがとうございます。なにかあれば使います。残りの肉は皆さんでお召し上がりください」とミソラは逃げてきた。
「さあ食事だ食事だ」とドネルグが変な空気を察して言う。
肉の焼けた匂いが一面に漂う。
「くま旨いね。また現れないかな」とソラが呑気に言っている。
「途中でまた現れるさ」とトムスが剣をふきながら言う。
「この肉なら毎日でも大丈夫」とミリナまで言っている。
牧場での野宿では、あれから野生生物は現れなかった。それもそのはずクマの血の匂いが漂っており近づけないのであった。
翌日も晴天であった。
「さて今日は一戸と言う所の病院を訪問してから三戸に向かうよ」ミソラが皆に説明する。
「岩手県から一戸病院の小児科を見舞ってほしいとの要請があって、なんでも小さい子たちがたくさん入院しているらしいから、お見舞いに行こうと思う」
「怪我や病気か、ならミリナの出番だな」とドネルグが収納しながら言う。
「傷なら治せるけど病気は無理かな」とミリナ。
「大丈夫お見舞いだから、旅の話をして早く元気になってもらうだけよ」
「へーい」
一行は国道4号線を西に向かって進む。
一戸病院では大歓迎を受けた。子供たちの間では「冒険者ミソラとその仲間」として有名であった。
特にヒーラーのミリナは大人気で、どこでも引っ張りだこであり、ミリナも小さい子たちと手をつなぎお話をしている。院長から感謝されミソラ達は先を急ぐ。
一戸、二戸を過ぎて山を越えたところが三戸で、やっと青森県に入った。
青森県から特別に三戸城址公園に泊まって良いことになった。どこからか噂が広がり到着した4時には小学生中学生に高校生も交じり大人数が出迎えてくれた。
いろいろな人たちが差し入れを持ってきて、本来花見をする広場に出店まで出ていた。
拡声器もないので、ミソラが地声で挨拶をした。
「えー遠い異国の私たちを歓迎してくれてありがとうございます。この綺麗な公園と皆さまたちの事は良い思い出として機会があれば話をしたいと思います。ありがとうございます」
歓声と拍手が鳴りやまず、落ち着くまで時間がかかった。
人波を整理していた警察官まで拍手している。
誰かが叫んだ。「ミリナちゃーん」と
「おいミリナご指名だぞ」と意地悪くトムスが言う。
ミリナは置いてあった台にちょこんと乗り、挨拶する。
また拍手と歓声が起こる。
「なぁドネルグ、今日ここで泊まれるのか?」とタトルが聞く。「しばらくは無理ですね」とドネルグが答える。「だよな。これだけの人に囲まれては寝られん」
少しすると三戸市長が現れ、「名誉市民賞」なるものを渡した。
一層歓声が大きくなった。
「本日は奥のイベント広場を解放しましたのでご自由にお使いください」「みんなも囲んでいるとミソラさん達が困るから、小学生のみイベント広場に行ってよし」「それ以外の者は解散」「おみやげ有る者はドネルグさんに渡してくださいね。収納魔法は賞味期限も消費期限も関係ないそうだから」
「ええ、収納の中では時間が止まるのでアイスとか言うのも溶けないですよ」
また歓声があがる。やれやれである。
ありがとうございました。
次回は水曜日の予定です。遅れたらごめんなさい。