第6話 異次元 (改)
第6話を投稿します。
なんか異次元の話が出てきます。
虚実入り乱れてます。
2020/05/29 改訂
佐野官房長官「マイクロ衛星とはなんですか?」
「官房長官よろしいですか?」国立天文台代表が遠慮がちに発言を求めた。
「何でしょうか? どうぞ続けてください」
「実は人工衛星の前に、我が国の状況について説明をさせてください。
磁気嵐によるブラックアウトの後に、国立天文台は世界各国の天文台と専用ネットワークで情報交換を試みましたが、全ての方法は失敗しました。
国内の各天文台との通信は正常に作動しております。
また、電波天文衛星の『はるか』にもアクセスできず。
日本からできる方法で地球観測を続けた結果。
磁気嵐前後で判明した事は、地球、便宜上『地球』と呼びますが、水平線の曲率から『地球』の大きさを計算しましたところ。ほぼ地球と同じと判明しました。
ご存じと思いますが天体の大きさによって重力加速度は決まります」
なにが言いたいのだろうと当壁総理は思った。
国立天文台代表は続ける。
「まず1つ目、地球の大きさに変化はありませんでした。つまり地表重力はほぼ1Gで重力加速度もほぼ変化ありませんでした。
これは航空機も飛び立つ際に異常を感じられないことから確実です。
2つ目に、磁極も磁気嵐前後で変化ありません。つまり磁気方位の北に変化はありません。
そこで問題なのは、昨日深夜総理が発表された内容です。
日本の位置がおかしいと指摘された点です。
地殻変動としてもこんな短期間に移動や回転することは考えられません。ましてや、大きな地震もなく変動はありえないのです。
そこで国内の電波望遠鏡19ヶ所と公立、私立、民間全ての天体観測所を国立天文台プロジェクトとして、磁気嵐の前後比較したところ、いくつかおかしな点がありました」
「んっ」当壁総理は息をのんだ
「あるべき星が、説明を簡単にする為にあえて『星』と呼びますが、無かったり、新たな星が発見されたりして、天文的には大きな騒ぎとなっています。
しかも星座が見つからない事が起きています。それなりの位置に星が見つかっても構成する星が足りなかったり、多かったり、位置がおかしかったりと、あり得ない事が起きています。
最初『地球』自体が傾いているのかと疑いましたが、公転、自転、傾きは従来の通りでした。まだデータは少ないですが、従来とほぼ同様な数値をだしております。
つまり日本における1年の日数や1日の時間は同じなのです」
「という事はつまり?」当壁総理は混乱しながら結論を催促した。
「つまり現在我が国は『ありえない』状態にあります」
当壁総理は言う。
「ありえない状態と言うのは判っており、発表したとおりと思うが」
「ええそうなのですが、日本が回転したり、未知の大地が接続したり、星座がおかしな状態だったり、説明がつかない状態であり。
頭を疑われるかもしれませんが、元とは違う世界ではないかと」
消え入りそうな声で伝えた。
「「えっ」」当壁総理と佐野官房長官は同時に言った。
「ご理解いただけないと思いますが、天文学的にはその様な結論に達しました」
「何か説明できる証拠はありますか」佐野官房長官が代弁する。
「現在のところありません。推測だけになりますが、ブラックアウトの時間中、5分程度震度2の地震があったのはご存じですか?」
「うむ、ここも揺れていたから知っている」
「震度2にもかかわらず震源地が特定できていないそうですし、各天文台と連絡を取っている最中に、各天文台や日本全土が揺れていたと報告があります。
これは、後に気象庁に確認をお願いします」
佐野官房長官は早速連絡する。
「続けます。先ほど重力の話をしましたが、実は大きな質量が変動すると重力が変化します。
つまり大きな天体の地表重力は重くなります。
巨大な星、たとえば太陽に降り立ったとすれば、地球の約28倍の重力を受けることになります。質量を構成する物質にもよりますが」
「ここからは推測の推測になりますが、
ブラックアウト時の地震、しかも日本全土にわたる地震。
原因は全く不明であり専門外ですが、これにより重力の変動が日本全土にて発生し、次元を超えたかもしれないと。
信じてもらえないとは思いますが・・・・」
文部科学大臣も驚いていた。
そこまでの打ち合わせはしてなかったか。と逆に当壁総理は冷静になった。
「実は過去に起こった大震災時に不思議な現象が報告されています。
たとえば、阪神淡路大震災時に、神戸から見て大阪城が燃えていたとか、実際には現在の大阪城に異変や火災はなかったのですが。
つぎに東日本大震災時において被災地に入った途端に、江戸時代と思うような農村を通過して、そこの住人と言葉をかわしたとか。
幽霊などの話を除いて、この様な不思議な経験をした方は多いのです」
『量子論における多世界解釈』と言う論文が発表されていますが、その内容は多元的次元中に我々はいるというもので、強大な質量変動により重力変化が起きると、次元を超える可能性があるという事です。
これにより、大震災が起きた場合の不思議な現象の説明がある程度つきます」
当壁総理はこめかみを揉みながら聞いた。
「つまりなにかね、日本全体が揺れたことで、質量変動が起きて重力が影響を受けて、次元を超えたのではないかと言いたいのかね」
「そのとおりです総理。ただし仮説にすぎませんし、例もありません。
ただその理論で説明すると、日本列島全体が同期振動により、次元を超えた可能性があるという事で、過去神話と言われているムー大陸やアトランティス大陸もある程度説明がつきます」
当壁総理はしぼり出すように言った。
「信じられないが、可能性として関係各研究機関に調査させよう」
「本題にもどっ」佐野官房長官の言葉をさえぎって、JAXA理事長が言う。
「我々も報告があります。我々が注目する点は、大気の状態です。
本来は気象庁の範囲ではありますが、ロケットを飛ばすときに大気密度によって、ロケット燃料の消費が変わるために、定期的に大気濃度と密度を調べております。
これによると、以前に比べ大気、特に酸素濃度は高くなっており、逆に大気中不純物の濃度は低くなっています。
単純に言うと、大気は濃くなって、きれいになったと言えます。
短期間でこの状態はあり得ないです。
現在JAXAでは日本上空の静止衛星しか監視できていませんが、故障した衛星以外の人工衛星を確認できていません。地上から日本上空の静止衛星以外は確認、いや存在を確認できない状態であります」
「次元が変わった話も頭が痛いが、人工衛星が日本以外消えたと、さらに頭が痛いな。
単に通信環境の不調と思っていたのだが」
当壁総理は本音を言ってしまった。
「そこで総理、本題のマイクロ衛星なのですが。
以前から大学と民間にて研究をして試作や実際の運用も行っています。
多機能衛星は消費電力も大きくなり、衛星自体の重さも費用も大きくなり、もちろん打ち上げ費用も考えるとハードルが高い物になっています。
そこで、機能を1つないし、2つ程度に絞り、衛星の小型化を目指していました。
一例で言えば、ひまわり1号の地球カメラに比べ、同程度の解像度を持った光学監視カメラに限って言えば、サイズは20分の1にできます。更に解像度の高い物を使用しても費用は1/5程度になります。
費用は1基1,000~4,000万円程度で完成できます。もちろん打ち上げ費用は別ですが。
もっと言えば、イプシロンロケットを使用すると打ち上げ費用は50億程度かかりますが、ペイロードは600kgあり、マイクロ衛星は1基10kgから30kg程度ですので、最大級の30kgでも同時に20基近く衛星軌道に乗せられます。これがマイクロ衛星を推薦する理由です」
「だが衛星を1から作ると時間がかかるのでは」当然のように当壁総理は聞く。
「本来であれば、6月に大学6基、民間4基の10基のマイクロ衛星を打ち上げる予定でした。
これを産業や防衛を最優先として使えるマイクロ衛星に変えてしまおうとの計画です。
これの良いところは、完成している衛星について、周波数を使用者に合わせるだけで済んでしまう所にあります。
たとえば資源探査衛星『ふよう』では、合成開口レーダーに可視カメラ、赤外線カメラ、紫外線カメラなどを積んで、資源探査を行っていますが、これの機能を複数のマイクロ衛星に分担させて、地球局でデータ合成をしてしまいます。最低マイクロ衛星が2機は必要ですが
これにより『ふよう』作成費用の25%程度で完成します。
地球局についても本年2月『GAI-1』が稼働した事により、いままで使用していた『京3』の計算能力に余裕があります。この資源データ合成程度なら『京3』で十分にできます。
また、作成についても過去に2度ほどマイクロ衛星を計5基打ち上げていますので、技術蓄積はあります」
更に『こうのとり9号』については、本年8月にISSに向けて補給物資を送る予定でしたが、ISSが確認できない現在、マイクロ衛星放出に転用しても良いのではないかと思います。
ただし補給が途切れると死活問題となりますので、現在作成中の『こうのとり10号』は補給の予備機として、予定通り作成を続行します」
「イプシロンなら600kgとの事ですが、『こうのとり9号』はどのくらいですか?」
と当壁総理。
「はい。イプシロンの10倍、約6トンです。単純にマイクロ衛星でしたら200基・・・は製作が無理と思いますが、作れればそれなりの数を打ち上げられます。
なので、現在完成済みのマイクロ衛星をイプシロンで、その後作成したマイクロ衛星や地表観測衛星に通信中継衛星に、現在作成中の「みちびき」放出にも使用できると思いますので、『こうのとり9号』の転用と、空白になっている衛星の作成を促進していただければと思います」
佐野官房長官が言う。
「いかがでしょうか、総理」
「いい考えだ、接続した大陸の調査を命じているのだが、地球と大きさが同じという事は、航空機による調査だけでは面積的に無理がある。そこで調査衛星が運用できれば地球調査が可能になるという事ですね」
当壁総理は密かに計算を始めた。
「よし計画を進めよう」決断したようだ。
「各省にて計画している人工衛星を『こうのとり9号』への積み込み。
また、マイクロ衛星の転用についても早急に検討してほしい」
列席の文部科学大臣、佐野官房長官、経済産業大臣、国土交通大臣、防衛大臣に向けて言った。
「佐野官房長官、各省庁合同の衛星調整会議を主催してほしい。緊急事態なので総理権限の一部を委任する」
「かしこまりました」
ありがとうございます