第64話 大戦の足音
いつもお読みいただいてありがとうございます。
ERに連れて行った母の容態も安定しましたので連載を続けようと思います。
ただ前の様に毎日は無理の為(介護の申請とか病院との往復で結構疲れます)
出来る限りで連載します。期待しないでお待ちくださればうれしいです。
そろそろドーザ大陸に大戦が起きる予感です。自衛隊が勝つと良いのですが。
ミソラ・ロレンシア達冒険者を日本に残し、外輪を持った蒸気船はアトラム王国に向けて出港していった。
途中でお世話になった母島に寄港する。
母島沖に停泊してカッター船を降ろして母島の前浜に行くべく進む。
前浜に上陸して小笠原支庁母島出張所の出雲さんに会うために坂道を少し登り、出張所に入った。
ポケット翻訳機を都庁から第三管区海上保安本部経由で渡されていたので、大陸語で懐かしい出雲さんを探すと「私たちはアトラム王国に帰る事になりました。貴重なお水をありがとうございました」
「いえいえ、なーんも出来なくてこちらこそすいませんでした。ところで日本はどうでした」
「あっはい、海上保安庁の皆さんには良くして頂いて、自衛隊と言う所では日本の強さを見ました。ミソラ達冒険者はドーザ大陸を回ると言って日本に残りました。私たちは国に戻ります」
「そうかそうか、気に入ってもらえたならうれしいですよ」
「出雲さんもお元気でお過ごしください。お水のお礼と帰る挨拶と思いまして」
「お国までは遠いのでしょう、お気をつけてお帰りください」
「なごり惜しいですがお別れです。もしもアトラム王国に来る用事があれば、南ロータス港のゾメアを訪ねてください。ご案内しますから」
「ええ、その時はお願いします。あっこれ母島で最近作り始めたラム酒です。3本ありますので皆さんでお飲みください」
「有難うございます。船に乗っている時はお酒を飲めないですが、国に戻りましたら皆で酒盛りします。本当にお世話になりました。それから都庁と言う所からこれをお渡しする様にと」
ポケット翻訳機を出雲に渡す、都庁から母島出張所にメールが入っていた。
「有難うございます、お気をつけてお帰りくださいな」
と冒険者船団の団長をする事になったゾメア船長は出雲さんに別れを告げてカッターボートで黒船へと戻っていった。前浜で出雲さんは手を振っている。島民もつられて手を振っている。
「いやー本当に黒船だな、観光船として欲しいな」と出雲は思うのであった。
ミソラ・ロレンシアは外務省の依頼であるアトラム王国公用語を翻訳機に入れる作業が終わり、そろそろ冒険者としての血が騒いでいた。
「ねえ、そろそろ行きたいよね」とミソラ。
「そうだな、手始めに歩いて北海道と言うとこまで行くのはどうだ」と冒険者仲間の剣士トムスが言う。
「賛成だな」とヒーラーのミリナが言う。
ミソラ・ロレンシアのパーティーは7名である。魔法剣士のミソラだけが貴族出身で苗字付きだ。
他には剣士のトムスと同じく剣士のタトル、魔導士のソラとミルネ、荷物持ちのドネルグは収納魔法が使える、そして貴重なヒーラーのミリナの7名が一緒である。
外務省での仕事最終日に日本を歩いて北海道まで行き、ドーザ大陸に入りたいと希望を伝えた。
「わかりました。冒険者ですから当然ですよね。1週間だけ待ってもらえますか。手配しますので」
「待ちますが、手配とは何ですか」とミソラ。
「はい、皆さんのパスポートと身分証は仮発行ですので、日本を旅するなら正式手続きが必要になります」
「それにみなさんへの報酬金が民間会社から支給されますのでその銀行口座開設と振込をします」
「えっ口座って何ですか」と冒険者達。
「えーと銀行と言う所に口座を作っておくと、日本全国でお金をおろす事ができます。便利ですよ。それに日本はお札が通貨ですから雨に弱いのです」と外務省担当官が笑いながら言う。
「お札ですか・・・初めて持つな」とドネルグが言う。「軽くて良いな。ははは」
「そうか紙だから雨に弱いのか」とソラがわかったふりで言う。
「面白そうだから口座作ろう」とミソラ。
外務省担当官は「わかりました。みなさんの口座をつくりますが、手続きは皆さんがしないとだめです」とクギを刺す。
続けて「明日朝から行きましょう、私が案内しますから大丈夫です」
翌日ハンコ屋に連れて行き、各自のハンコをカナで作成した。
「さてここが銀行です。ちょっと待ってください」と外務省担当官が受付と少し話して、待っていると係員から別の部屋に案内された。
「こちらで手続きしますのでお座りください。みなさんへ申込書をお渡しします」
部屋にはテーブルとイスにATMが1台ある。特別な部屋の様だ。
「うえ、読めない」とミソラ。
「説明します、ここに氏名と生年月日と住所は外務省で登録してください」
といろいろ説明して書いてもらい口座登録をしていく。
銀行担当者が大陸語で説明する「カードをお渡ししますから、無くさないでくださいね」
「代表で、ミソラさんとドネルグさんはATMの使い方を覚えてくださいね。外務省から報酬が入っています。少ないですが」
細かい説明を全員にして、ATMをミソラとドネルグがカードを受け取って1000円を出す操作した。
「こらおどろいた、お金が出てくる」
「口座に入っているお金は出せますよ。カードは人に貸したりしてはダメですよ」と銀行員。
「では、皆さんの口座番号を民間会社に伝えますね、1週間で振り込まれます」と外務省担当官。
「それから買い物でも好きに使ってください。では帰りましょう」
「日本って便利だな、強盗もお金を持っていないと無駄骨になるな」とトムスが言う。
「トムスお前強盗にお金をやるのか。はは」とドネルグが笑いながら言う。
「そうだった、成敗するのが先だった」とトムス。
一行は某大手銀行本店で口座を作り、その日の内にカードを手に入れた。
ミソラは日本の道路地図を貰い、東京から北海道の道順を調べていた。
チロルの森ではスルホン帝国の第3師団はチロルの森北部に陣を構えて、陸上自衛隊第2師団と正対している。
第4師団は要塞都市ドミニク・フーラから東に移動して、チロルの森南部に布陣している。
第5師団は生き残りがチロルの森の山岳近くのバーグの街郊外に布陣している。
第2偵察隊は第1偵察小隊と第2偵察小隊により北部と南部をそれぞれ威力偵察している。
当然、近隣の村や通い商人などから大規模な軍隊の移動情報を事前に掴んでいるので陸上自衛隊第2師団本部では動向の把握などの情報共有を行っているが、その上で第2偵察隊による威力偵察を実施していた。
スルホン帝国第3師団、第4師団共に攻城隊と支援中隊(砲撃部隊)は歩兵隊に対して移動に時間がかかっている様だ。砲撃隊の到着を待つか先手を打つか迷うところだ。
なお、スルホン帝国第5師団第2歩兵中隊から捕虜となり日本に協力を申し出た最初の50名は陸上自衛隊富士学校で普通科としての訓練を受けていて、元が兵士であるために初等課程は難なく終了していた。
この部隊は第101特殊普通科連隊の中隊として先行して活動を開始した。
現在訓練中の510名が訓練課程修了すると第101特殊普通科連隊に配属されて活動する予定であった。
第101特殊普通科連隊 第1中隊50名に下命されたのは帝都の精密な地図作成である。各自に拳銃と予備弾倉2つ、弾は1人1箱(50発)を渡されている。小銃は89式5.56mm小銃の折曲銃床式が各自に支給されている。
チロルの森国境検問所で、各潜入者の為に特殊馬車を作成し、床の下に小銃と弾薬箱を隠せるように細工した。商人と護衛に見えるように10人1チームで馬車1台、馬1頭を5組分バーグの街で陸上自衛官が確保して特殊部隊用に、他は冒険者らしく剣や弓を調達した。
馬車の周りは木とジュラルミンをサンドイッチにした構造で弓矢やマスケット銃弾は通さず、しかも軽い構造とした。これに小隊長と副官が商人役として乗車して、周りに冒険者を装った兵士が8名徒歩でついて行く。これが5組である。ただし彼らは第5師団の第2中隊生き残りなので、バーグ近郊の第5師団に合わせてはまずいから、帝国第3師団がいる北部を迂回してチロル地方の野菜類を帝都に運ぶ組と漁師街で干物を買い集め帝都に入る組、チロルの森からハイエルフ特産の「神の雫」をチロル地方名産の果物として氷河を削った氷と共に帝都に運ぶ組に分けられた。いずれも1小隊10名の構成で、各小隊に1台5.56mm機関銃 MINIMIが配備されている。他にはカラー発煙筒に手りゅう弾20発、これも馬車の床に隠している。
特殊任務部隊は大戦になる前に出発していた、通信機は箱に隠している。
いよいよ大戦が近づいている。陸上自衛隊第2師団も準備を終え、日本山航空基地ではA-1軽爆撃機が習熟訓練と地形把握を行っている。日本山航空基地には出来立てのフレシェット爆弾に焼夷弾が届いていた。
もちろんGBU-38/B精密誘導弾も充分な数が揃っている。
これらの爆弾はチロルの森郊外の丘陵地帯に第2偵察隊が目標を作り、模擬弾で毎日訓練をしている。
第2特科大隊や第1特科団も同じくチロルの森郊外の丘陵地帯に模擬弾を使用して99式自走155mmりゅう弾砲や203mm自走りゅう弾砲にMLRSの試射を実施している。判定は第2偵察隊と同行している各特科隊の本部要員である。これが毎日続いている。第2偵察隊は毎日忙しく仕事をしていた。第1偵察小隊、第2偵察小隊は毎日帝国師団の威力偵察に回っており、砲撃や航空機の攻撃判定は第3偵察小隊と第4偵察小隊の仕事となった。
本格戦闘になれば第2偵察隊は本来の業務に戻り、機械化された第3普通科連隊が威力判定の本部要員護衛を引き受ける事になっている。
もちろん第2戦車連隊と応援の第71戦車連隊も地形習熟訓練を毎日行っているので村人は近づきもしない。
なにしろ鉄の塊が140台近くも毎日敵味方に分かれて戦闘訓練をしているのだ、怖くて近寄れない。
第2施設大隊は各村に避難シェルターを建設していった。
大戦の作戦計画は陸上自衛隊第2師団長平沢陸将に任されていた。もちろん北部方面隊も全面支援をする。
こうして日本側の準備は確実に大戦に向けて進んでいった。
ありがとうございます。
次も書きますのでよろしくお願いいたします。