第62話 チロルの森駐屯地2
第62話を投稿します。
チロルの森に駐屯地が完成しつつあります。
また予想外の来客もありチロルの森は大忙しですよ。
第5師団は皇帝の命令どおり要塞都市ドミニク・フーラからバークの街郊外に転進をしていた。やはりと言うか第5攻城隊の進みは遅く、第4、第5中隊が全員で臼砲などを押していた。だが第5師団支援中隊(砲撃隊)も遅く、こちらは第1中隊が対応している。要塞都市ドミニク・フーラからバークの街郊外までは500kmの距離だ、何日かかるやら。
第3普通科連隊と第2施設大隊が作った野営地に次々と部隊が合流してきた。
第2偵察隊は付近の偵察を定期的に実施している。特にバーグの街も巡回経路の中に入っていた。
「バークの街で商人に聞いたのですが、要塞都市ドミニク・フーラからこちらに大部隊が向かってきているそうです」「ん。帝国軍にしては行動が早いな。一応師団本部に報告しておこう」とハイエルフを保護した事もある第3偵察小隊長が言う。
現在は師団本部が転進中であり、無線は偵察隊と師団ではなく日本山の中継所から北部方面隊本部につながる。
「第2偵察隊了解した。引き続きチロルの森一帯に強行偵察を続けてくれ」と北部方面隊本部より返信がある。
「第2偵察隊第3偵察小隊了解」と返すが、すこしドキッとした。
第2師団第2偵察隊は各小隊が交代でチロルの森北部から南部のバーグの街迄を巡回している。
途中で魔物に遭遇したりはしていないが、帝都方面から来た商人一行や冒険者とはすれ違っている。
ある日、巡回中の第2偵察隊第1偵察小隊は、逃げている人を発見した。
場所はバーグ街北西150kmの地点で、小高い丘になっている場所である。普段なら村民も立ち入らないような荒れた丘陵ではあるが、その人は何かから必死で逃げている様に見えた。
しばらく道沿いに観察しながら見ていると、人の後ろからワイバーンが人を追っているのが見えた。
どうやら野生のワイバーンの様子であり、前を走っている人を餌として見ているのだろうか。
第1偵察小隊は87式偵察警戒車をそちらに向けて、ワイバーン相手にエリコンKB25mm機関砲はオーバーキルであるから、機関砲と同軸についている74式車載7.62mm機関銃にて狙いを定める。やがて走ってくる人と87式偵察警戒車がすれ違ったと同時に空のワイバーンに向けて7.62mm M80通常弾を撃った。3発ずつのバーストであった。2回目のバーストによってワイバーンは死亡したのか地上に落下して動かなくなった。
「この地区にワイバーンとか初めての遭遇ですね」と車長が小隊長に無線で連絡する。
「そうだな、チロル地方の魔物は減ったと聞いていたが、まだいる様だな」と小隊長。
車長が隊員を対処確認の為に後部ドアからワイバーンに行かせる。
ワイバーンには首輪がしてある。
87式偵察警戒車の周りに第1偵察小隊の各車両が集まってくる。走って来た女を確保している。
普通の人間の様だ。人は息を整えながら「有難うございます」と大陸語で言い。「私はここから北の村に住むハイナと申します。実は・・・」偵察隊員がペットボトルの水をキャップを回して渡した。
一気に半分を飲みほす。「有難うございます。おいしい水」と言いながらまた飲み始める。
あっという間に500ml1本が空になる。
「実は私は北の海岸の村「トキシラ」から荷物を持ってハイデルバーク領の村々を回る予定でしたが、途中でワイバーン5匹に追われ逃げたのです。荷物は干した魚でワイバーンはこれを狙っているので、すぐに手押し台車を捨てて一人逃げたのですが、一匹は私を追ってきて、助けて頂きありがとうございました」
小隊長は身なりの貧しい潮の匂いのする様な風貌から漁村の娘であろうと思った。
小隊長は娘の手を見た。
「あなたは余り漁業をしていないのですか」と小隊長が尋ねる。
「えっそんなことは無いですよ、現に売り歩いているのですから」と娘は答える。
「それならいいのですが」と小隊長は答える。
隊員に目配せをして娘を捕らえ、87式偵察警戒車はワイバーンが飛んできた方向に走らせた。
捕らえた娘を73式小型トラックの荷台に放り込み、87式偵察警戒車の後を追った。
すこし行くと、帝国兵士が5人いて抜剣して威嚇してきた。87式偵察警戒車は砲塔を帝国兵士に向けてその足元に74式車載7.62mm機関銃を撃った、土煙が昇る。兵士達は一斉に剣を投げ地面に腹ばいとなった。降伏の姿勢である。タイラップで縛って73式中型トラックの荷台に放り込んだ。
「やはりな」と偵察小隊長。
「流石です」と87式偵察警戒車車長でもある二等陸曹が言う。
「いや偽装が雑だからすぐに誰でも気づくだろう」と小隊長。
「そうですね、漁村の娘ならもっと手が荒れているだろうとは思いました。この娘は貴族の様な綺麗な手ですね」と笑いながら二等陸曹が言う。
「確かにな。どうせ帝国のスパイだろう」「ついでに言うと漁村から着る物を買って着ているのだろう」
「ええ素直に割譲するとは思いませんでしたが、また随分と粗い手を打つものだなと」
「わかりやすくて良いな。さて報告するか」
無線で第2偵察隊本部に連絡して、「連れて帰る」と言ったがその場で尋問して遠いところで解放しろとの話だ、どうも建設中の駐屯地には連れてこられたくないらしい。
「と言う事だ陸曹」
「わかりました。でどの程度やります」
「多少は良いのではないか」
「はは、かしこまりました」笑いながら言う。
何やら法治国家らしからぬ事を言う。
最初は捕えた兵士に向かう。一人を離して尋問スタートだ。
「氏名と所属を述べよ」と通常の質問をする。
答えない。
「1発いけ」と言い。隊員が帝国兵士を地面に蹴り降ろして、足元に1発89式5.56mm小銃から撃つ。大きな音がした。他の帝国兵士はビックリしている。
「次は耳からな」と二等陸曹は大陸語で言い。隊員は頷き小銃を向ける。
「わ、わかった、言う、言うから撃たないでくれ」と帝国兵士は地面にへたり込み言う。
「氏名、所属を述べよ」と隊員は小銃を向けて言った。
「ケリーだ、所属は帝都防衛隊第1中隊偵察隊だ」「偵察なのか」と第2偵察隊の第1偵察小隊隊員は笑う。粗末な偵察にあきれての笑いだ。
「目的は」「日本軍の動向観察だ。でです」と言い直す。
「動向は解ったよな」と言い。遠くに連れて行き座らす。帝国兵は射殺されると思って震えている。
次の兵に移る。最初から蹴り下ろして小銃を向けて同じことを聞く。
やはり、帝都防衛隊第1中隊偵察隊との事だ。これまでに帝国兵士全員、帝都防衛隊第1中隊偵察隊との事だ。
続いて女の尋問だ、こちらは73式小型トラックの荷台から降ろして73式中型トラックの後部に連れて来る。素直に従っている様だ。「所属と氏名を」と偵察隊員が言う。
「帝都防衛隊、第1中隊付きの看護兵です」と一連のやり取りを見てはいないが音で仲間が撃たれたと思い最初から震えている。
「目的は」と小銃を向けられ答える。
「兵士達と日本軍の動向を探る事です。あわよくば潜入を・・・」と言う。
そんな事だろうと思う。
他の兵士が座っている所に連れて行き座らせる。
彼女も撃たれると思い震える。
「さて諸君、我々日本軍は実に寛大だ、解放する」と二等陸曹は言う。「ただし走ってもらう」と続けた。
帝国兵士各員のタイラップをニッパーで切り、立たせて「走れ」と空に向けて小銃を撃つ。
兵士達は急いで自分たちが来た方向に向けて走り出した。看護兵も走り出す。その後を軽装甲機動車が追いかける。ほんの5分も走らせたろうか、第2偵察隊第1偵察小隊は180度転舵して戻っていった。
帝国兵士達はもう立つ気力もない。遠くに第1偵察小隊を見送っていた。
「助かった」看護兵は泣き出した。帝国防衛隊第1中隊長に言われて作戦に参加したのだが、言われた作戦が杜撰ですぐにばれると思っていたのだ。「もういやだ。死ぬかと思った」と本音を言う。
兵士と看護兵は暫くして、立ち上がり「とぼとぼ」と北側街道の方向に向かって歩き出した。
街道では第1中隊偵察隊が待っていた。陸上自衛隊第2偵察隊第1偵察小隊と別れてから180分以上が経過していた。
「どうした、何故お前までいるのだ」
「中隊長、作戦は失敗しました。設定が安易すぎたと思います」
「なんだと、私の作戦に問題があるとでも言うのか」
「ですが看護兵の手でバレました」
「手だと、見せて見ろ」「これが何だと言うのだ」
「漁村から売り歩くにはきれいすぎる手だとすぐにバレました」
「そう言われればそうだな」
「だが、陛下からの命令だ。次は成功させるぞ」
「はい・・・」
「何か文句でもあるのか」
「いえ滅相もございません。ですが、次は簡単にバレない方法をお願いします」
「うーん」
とあまり良くない(頭が)話は続く。
チロルの森に建設中の駐屯地は早くも外壁が完成していた。
施設大隊は外堀を現在掘っている最中である。同時に特科大隊用の分屯地も建設が進む。これは五稜郭と同様の5角形で出入口は2つである。かなり大きい。
第2施設団は第303ダンプ車両中隊もいるので、さながら工事現場の様相を呈している。あながち間違いではないが、大規模公共施設工事などと同様な喧噪である。
特に第14施設群はチロルの森北方にある湖から運河を作り、特科分屯地と駐屯地の堀に水を引くべく護岸工事の最中である。チロルの森の湖は透き通って、滝もあり豊富な水量がある。
分屯地や駐屯地には飲料水用のろ過装置が設置され、外部から水路に毒を入れられても、ろ過器で毒が除かれいつでも飲水できるようになっている。工事も最初に、ろ過器が設置され、チロルの森からポンプで水を引いて供給している。工事に水は必要不可欠である。飲料水だけではない。
城壁工事は民間から借り上げたコンクリートミキサー車で強化コンクリート(遅延接着などの溶剤とグラスウールの混合コンクリート)を作成し、型枠に鉄筋を入れ1m×1m×15mの塊を作成して、クレーンで吊るし接着剤で5mの壁を積み重ねる方式、つまり日本山国境検問所を作った手法で進んで行く。早い。8角形の外壁がもう完成した。基礎工事からわずか3週間である。現在は外壁に沿って幅20m、深さ5mの堀を掘っている最中であり、もうほぼ完成している。堀の強化と橋の取り付けが残されているだけである。8角形の外壁には正面に鋼鉄の門と鋼鉄の橋が作られ、3ヵ所に鋼鉄の扉と跳ね上げ橋が作られている。後ろが日本山に通じる道路である。
日本山への道路には両脇に5mの擁壁が作られ外部から駐屯地や日本山への侵入は出来ない様になっている。
幕僚長の見積もっていた2ヵ月は前倒しできる目算が立っている。これならば帝国軍の来襲前に駐屯地は完成して万全の防御で対峙できる環境が整う。帝国兵も6ヵ月先を見越して移動しているのでどうなのやら。
第2施設大隊は日本山の余計な擁壁を破壊する作業をしている。滑走路を造るには正面の跳ね上げ門が邪魔となり、それらを破壊して滑走路に、それより小さな門をチロルの森から登る坂道に付け替える工事である。
もともとこの日本山国境検問所はストーンゴーレムの村を改造して作られた分屯地で、広さだけなら横幅は2kmに長さは3kmもあり、滑走路を3つ持つ≠の形に変える物である。分屯地の一部城壁も取り壊す予定になっている。
ここに駐機スペース、機体保管庫、ヘリポート4つと隊員用の宿舎に簡易管制塔兼発令待機所を作り、3つの洞窟に作られた2つの戦車待機壕を機体整備ハンガーへと変え、1つの洞窟はヘリ待機所としてそのまま使用する。
早く工事を終わらせないと、宗谷特別自治区航空基地に到着している真新しいA-1軽爆撃機を拝領できないので、突貫工事を行っていた。
検問所前の広場の丘側に建つ4mの山側擁壁も取り壊し、第1特科団の203mm自走榴弾砲M110A2や多連装ロケットシステムMLRSや特科団用の設備を作る予定がある。1km×1kmと狭いが対空設備は航空基地側に設置するので問題はない。
日本山とチロルの森は陸上自衛隊の突貫工事により駐屯地などが完成しつつあった。
ありがとうございました。