第58話 東海事変1
第58話を投稿します。
海戦が始まってしまいました。
防衛省より命令書を受け取った第2師団長の平沢陸将は、幕僚と副師団長を呼び出した。
「佐藤入ります。中野入ります」と言ってドアを開け副団長の佐藤陸将補と幕僚長中野一等陸佐が入って来た。「呼び立ててすまない、これだ」と防衛省の命令書を差し出した。
「これは何を考えているのでしょ、あきらかに罠なのに」と佐藤、「本当ですね情報本部でも「謀略の可能性93%」とコメント付けて回っている筈なのですが」と中野が言う。
「これは、多分最大限の支援をするから、撃滅しろと言う事ではないかと思う」と師団長は言う。
「ですが、隊員を危険に晒す事には変わりありません」と中野が食い下がる。
「前の捕虜たちの話では第1師団と第2師団は西海岸に張り付いていると言うから、くるなら第3から第5師団の最低200万人。こちらが最新でも損害ゼロと言う訳には・・・」副団長も後ろを押す。
「この命令を受けるには、こちらも考えなければならないと言う事だと思う。多分政府の望みは立ち直れないほどの打撃と思うが」
「師団長そのとおりではありますが、そんなにうまく行くものでしょうか。隊員の命がかかっていますから」
「そうだな、その為には最大限の防御力と打撃力を持つべきかと思う」
「とは言いましても、陸上自衛隊にできる事は限られています。航空機による爆撃でもできれば変わるのですが」と参謀長は言う。
「いや意外といけるかもしないぞ」と師団長。
「すこしこちらに」と言い平沢陸将は二人に内緒話をする。
「本当にそんな支援が期待できるなら、やれるかもしれません」と副団長。
「一番の問題は時間ですね。バレずに準備出来ると最高なのですが」と幕僚長中野一等陸佐が言う。
「隠蔽しながら防御施設の建設、たやすくはないが第2師団の力を合わせれば実現すると信じている。その為に必要な機材を北部本面と陸上幕僚監部に相談しよう」と平沢陸将は言いながら決めた。
「5日位して「スルホン帝国ガリル3世の使者」に謹んで受けると伝えよう。明日より作戦開始だな」と師団長。「中野一等陸佐、詳細を計画してくれ、建設計画も同時にだ」「はい」と中野一等陸佐は言った。
第2師団全体と第7施設大隊の協力でチロル地方に防御陣地を兼ねた分屯地を作る事になった。
一体どんなものになるのだか、楽しみである。
東の海では、アトラム王国の第2艦隊司令のフルトヘイグ3世は艦橋から未知の海を進む艦隊の陣容を頼もし気に見ている。旗艦は『エコーリア2世』に移し航空兵力と対艦能力が格段に増強された第2艦隊は「無敵」とも思えるようであった。時々ワイバーン空母から直上警戒隊が出るが、航海そのものは聞いていた話と違い海は穏やかで天気は晴れていた。156筋の黒煙をはいて海を黒い艦隊が進んで行く、対スルホン帝国ではこの艦隊が相手を300隻以上も沈め、局地海戦では常に勝利していた。
これが「大海戦となっても負ける事はないだろう」と言う自信の根拠であった。
フルトヘイグ3世は人生最高の瞬間を楽しんでいた。
第2艦隊はアトラム王国の王都がある大陸を南回りで西に出て、未開の海を進んでいた。星座の角度によりどの位置にいるのかは把握している。ほぼ王国の大陸から1万7千km程度は航海してきたはずであった。あと少しでドーザ大陸大森林に到着すると思う。彼らに日本がこの世界に転移した事など知る由もなかった。ましてやその位置などは。
「島が見えるぞー!」と見張りの水夫が報告する。
「島だと」とフルトヘイグ3世は艦橋で声を出す。
かれの元には先達が書いた世界地図があるのだが、古い羊紙に書かれた手書きの地図で大体の位置しか書かれていない、その上島などの形が正確ではない。
「いや島があるとすれば、もっと大きな島の筈だ、あんな小さい物ではない」
「だとすれば、新島を発見した事になるな。どれ上陸でもしてフルトヘイグ島とでも名付けるか」とフルトヘイグ3世は上機嫌であった。
未発見の島は王国地図院に航海日誌と位置を描いた書類を出せば、島の名前を自由に付ける事ができる。
自分の一族の名前が残ると言うチャンスであった。
「よし航海は順調だからあの島に上陸して碑を建てるぞ」と魔道通信で僚艦に連絡して、『エコーリア2世』からカッターボートを下ろして隊員20名と島に向かう。全員が小銃を携帯している。
苦労の末、島に上陸できた。島の一部は舗装されて綺麗な状態ではあるが一人も人間はいない。
「ここはどこだ、距離的には後3千キロ程度で大森林なのだが、先達の地図にも載っていない島なのかな」
と独り言を言いながら隊員と共にその島を探検する。島の真ん中に長い道路の様な立派な道がある。
その横には何の素材か判らないが立派な建物がそびえている。
石造りの墓標らしき物も見える。
また目前の長い道の脇には大きなドームを持つ建物があり、中には小さな羽のついた機械がとまっている。
この島はほぼ平らなのだが、島の端には小高い山があり、島全体になんとも言えない卵の腐った匂いが充満していた。
フルトヘイグ3世は「匂いが酷いな」と言いながらあたりを見ていた。
それを建物の最上階、つまり管制塔から見ていた人物が6人いた。
ここはターミナルレーダー管制業務を行っている。所属は航空自衛隊中部航空方面隊隷下の部隊で硫黄島分屯基地の基地隊本部、空域監視隊、通信電子隊の各2名の計4名に、海上自衛隊の硫黄島航空基地隊の2名である。他の隊員は2階の隊員控室にいる。つまりここは、海上自衛隊の海難救助隊と航空自衛隊の空域管制監視隊が同居した硫黄島航空基地であった。民間人はいない。格納庫には救難救助用のUH-60Jが1機ある。
管制塔から2階隊員控室に電話をいれる。「当基地に不審者が侵入している。管制塔から東方向に旧式軍艦が見える。隊員は各自警戒し、建物内に避難し1階扉の鍵を閉めよ」
続いて管内放送が流れる「各自装備を整えよ」2階に備え付けている武器ロッカーのカギを開けて89式5.56mm小銃を全員に配る。
隊員の何人かが、手りゅう弾と89式5.56mm小銃を持って管制塔に上がる。梯子式階段の上部には蓋つきであるから、登ってこられるとは思わないが念のためである。
無線で本国に連絡する。同時にスマホでも海上自衛隊、航空自衛隊に動画付きで連絡する。
なにかあった場合はスマホの方が状況連絡には有利だ、動画をつないでテレビ電話モードにすると実況中継ができる。なお、海上自衛隊からの返答では、スルホン帝国の軍艦ではないと回答があった。
硫黄島では実証実験の為に、携帯3社の回線が使える。
またこの基地の実質運営は航空自衛隊となっている。航空機訓練や羽田や成田の民間機進入指示をだすからだ。また大切な役目として、太平洋を飛んできた民間機が故障などで緊急着陸する場合は硫黄島航空基地の滑走路に緊急着陸する。最近では2014年と2016年に民間機が緊急着陸している。
突然流れた異国の言葉にフルトヘイグ3世は呆然としたが、「誰かいるのか」と思い水夫に「建物を中心に調べろ」と指示を出す。入り口は施錠されていて開かない。
建物の後ろは王都で自動車と呼ばれる乗物が2台ある。
その時建物の窓から何か見えた気がする。
フルトヘイグ3世は水夫に言う「建物には入れないのか」「はい鍵がかかっている様で開きません」
「ますます怪しいな、だがこの匂いも耐えられない」
そこに、副指令がカッターボートでやってきて。「司令これ以上時間をかけるわけにはいきません」
と言い。フルトヘイグ3世も「判った。この建物は破壊しよう」と言い戻っていった。
硫黄島航空基地司令の堂島一等空佐は無線にて「アトラム王国艦隊と思われる艦隊の調査隊は引き揚げていきます」「なお、アトラム王国艦隊と思われる艦隊は4百メートル級1隻に3百メートル級が40、50はいるかと思われます。他には空母らしきものが5隻、あっ4百メートルから当基地に向かって撃ってきました・・・・・・砲弾は重い流線形で接地信管等はついていないのか爆発はしていません。滑走路に直径40センチ程度の穴が開いています」「この建物を狙っていると思われますが、少しずつ近づいて・・・・・・いま管制塔に当たりました。2階は窓ガラスが割れています。管制塔も窓ガラスが割れました」その後『エコーリア2世』からの砲撃は10発程度で終わり、艦隊は西の方角に進んで行った。
「意外と正確な砲撃だったな、全員点呼」負傷者は窓ガラスで切った程度で、危ないところであったがUH-60Jは無事であった。
航空自衛隊は直ちに百里基地にスクランブル発進を要請し、待機中のF-2が2機とF-4EJ改が2機護衛に上がっていった。
海上自衛隊からも厚木基地からP-3Cが4機上がり母島方面に飛んでいった。
防衛省からは小笠原諸島には警戒警報が出され。母島島民は漁船等で父島に避難していった。
幸いな事に、アトラム王国第2艦隊は島の東から西側を南回りで行き、少し母島や父島から離れていった。
元の地球では南から西を回って北上している事になる。
もし艦隊がこのままの方角で進むならば、愛知県名古屋市に向かう事が予想される。
横須賀から第1護衛隊群の第1護衛隊と第2護衛隊群の第6護衛隊と地方艦隊の第11護衛隊の計11艦が対処の為に伊豆諸島沖に向かっていた。
また、横須賀を母港とする第2潜水隊群にて哨戒任務の第6潜水隊2艦を除く、第2潜水隊、第6潜水隊の6艦が対処の為に向かった。浜松航空基地から第602飛行隊のE767 1機がスクランブル発進していく。
アトラム王国第2艦隊は微妙に方向を南に修正しつつ進行する。このままでは浜松についてしまう。
時間は20時間程度しか残されていない。
E-767は飛びながら索敵を行っている。見つけた。最初は百里基地のF-2攻撃隊2機とF-4EJ改2機であったE-767は誘導を行い会敵ルートに乗せた。F-2は93式空対艦誘導弾を4発に90式空対空誘導弾を2発積み込んでいた。F-4EJ改は93式空対艦誘導弾を2発に90式空対空誘導弾を6発積み込み、F-2の護衛としての位置づけであった。
アトラム王国第2艦隊を父島の南300kmの地点で捕捉した。
もう硫黄島航空基地を攻撃されているので事前の通告は必要ない。ただし御前崎のレーダーサイトで確認できるまではまだ距離がある。御前崎から600kmの地点だ。F-2攻撃隊とF-4EJ改が艦隊上空に進入している。
E767の到着にはまだかかるようであるが制空管制は出来ている。F-2から位置を基地に連絡して統合参謀総監に連絡が入る。
反撃の時間だ、統合参謀総監からの指令では400m級と300m級に対し威力判定を実施しろとの連絡が入った。
F-2隊長機は各機に300m級と空母を目標として割り振りを行った。各機目標に向けて93式空対艦誘導弾を1発ずつ放った。空に誘導弾が放たれた、後ろに光だけが残され海面に吸い込まれていくと同時に空母2隻と300級砲艦2隻の側面が爆発した。
スルホン帝国とは違い1発では沈まないようである。
続いて2射目を行う。
同じ砲艦と空母に当たり再度爆発する。その頃には別の空母と旗艦『エコーリア2世』からワイバーンが飛び立った。飛行ルートを妨害するためだ、ジェット機を攻撃する手段はない。なにしろ飛び立ち相手の砲艦に爆弾を落とす爆撃隊なのだから。
「なんだあれは、対空駆逐艦が追いつかないぞ、かまわん撃ちまくって弾幕を張れ」
空母2隻は沈みかけている。300m級砲艦は誘爆を起こして横倒しになりボイラーに水が入り水蒸気爆発を起こして2つに船体が裂けた。2艦ともである。まるでバラストタンクが無く、傾斜コントロールできていない様に見えた。
前に西南諸島で戦った、スルホン帝国の砲艦も、艦の底部に砲弾を乗せてバランスを均等にしており、底部に穴が開いて海水が侵入してくると、バランスが崩れて一気に横転する構造だったのだ。
どうやらアトラム王国の戦艦も同様のバランスで保っており、バランスが悪い船体であると思う。
対空駆逐艦はその全ての対空能力をフルに使って、艦隊上空に弾幕を張っているが、93式空対艦誘導弾はハープーンと同様にダイブモードで海上5mを飛翔して、艦の手前で少し上がり喫水を目掛けて爆発していく。しかも遅延信管を用いて、敵艦内部で焼夷成分の入った炸薬が爆発する。ここはGPS誘導が可能なので、中間誘導はGPS誘導にして、艦のシルエットから砲艦300m級喫水を攻撃ポイントとして登録した。
F-2は残りの93式空対艦誘導弾4発を2発は400m級旗艦に割り振り、残りの2発を空母に割り振った。
なお、対空駆逐艦の弾幕により、ワイバーンがばたばたと落ちていく。「みじめだな」とF-4EJ改の隊員は思う。
「ばかもの対空砲火を止めさせろ、ワイバーンが落ちる」自分でやれと言ったのにフルトヘイグ3世は我儘である。
フルトヘイグ3世は初めて見たジェット機に目を回していた。「早すぎる。落とすのは無理だ」
あっ言う間にアトラム王国第2艦隊は300m砲艦2隻と200m級空母2隻を失っていた。
つづいてまた火の槍が放たれる。見えない早すぎるのと目立つものが無いからである。
空母が2発を受けて沈み始めた。
旗艦『エコーリア2世』が2発の93式空対艦誘導弾を受けてしまった。
アトラム王国最新の400m級砲空母艦である『エコーリア2世』は区画制御があり、ダメージを受けた場合には他に浸水しないような工夫がされていた。2発を受けて一部誘爆したが沈んでいない。
ただし、エンジンの一部がやられたようで4つのスクリューの内2つが動かない状態であった。
「しかたない、旗艦を変えるぞ」とフルトヘイグ3世は幕僚に言い、連絡艇(手漕ぎ)を用意させた。
元の旗艦である「ドルストイ」に乗り移った。
全弾撃ち尽くしたF-2とF-4EJ改は後発の隊に託して百里基地へと帰投していった。
横須賀基地を出発した打撃艦隊は30ノットの限界に近い速度で急行している。
ありがとうございます。
是非評価をお願いします。