第57話 スルホン帝国の覇権主義
第57話を投稿します。
また大戦がはじまる予感です。
スルホン帝国皇帝ガリル3世は御前会議を招集して、対アトラム王国や新たに脅威となった日本国について意見を聞いていた。
サイネグ宰相から指名された帝国陸軍第5師団長のキマイ将軍は普段は立ち入れない御前会議の場に極度の緊張をしていた。
「キマイ将軍述べよ」とサイネグ宰相が催促する。
「はっ、チロルの森に展開しました第2中隊は日本国との戦闘により捕虜が50名となり中隊長のストロスキー男爵と参謀2名も戦死いたしました。道案内をしていたハイデルバーグ男爵と小隊長2名と臨時参謀2名は戦闘から逃れ、小隊長2名と臨時参謀2名は馬にて要塞都市ドミニク・フーラまで報告にまいりました」
「その後、第3中隊と攻城隊に砲撃隊が向かいましたが、返還された捕虜からの報告では、中隊本部は爆発により中隊長ホン・ドメルロイ男爵と幕僚全員が爆死、第3中隊は捕虜2,322名を残して全滅しました。これによる帝国の損害は兵士合計約43万人となります。大変に強力な力を持った相手です。日本国は……」
「なお日本国より捕虜2,412名が返還されました」
「わかった」と皇帝。「サイネグところで対アトラム王国はどうなっている」
「はっ皇帝陛下、その前に東諸島で第3艦隊が日本艦隊と戦っております。これは提督が死亡していますので私から報告させていただきます」
「まず東諸島に出向いた「旗艦エミリア」を擁する港町ドルステインの地方艦隊が最初に日本海軍と遭遇して、地方艦隊の砲が届かぬ距離から旧式木造船ではありますが、1,000艦中840艦を沈められました。なお、
「旗艦エミリア」と僚艦160艦は沈んだ船の乗員救助の為にわざと沈めなかったらしいと報告があります」
「つづいて第3艦隊のドミニク提督が乗る最新艦の「旗艦セントナムラム」とワイバーン空母など第3艦隊全艦にて日本海軍と戦闘になり、第3艦隊を案内していたドルステイン地方艦隊からの報告では、先の戦闘とは違い相手の姿が見えず、各艦に空や海から火の槍が降り注ぎ沈められたとあります」
「第3艦隊の501隻は大型艦から順に沈められて、最後に残っていたのは150メートル級駆逐砲艦300隻あまりと大破した戦艦との事です。これも乗員救助の為にドルステインの地方艦隊共々残されたとの報告です。
「この戦闘だけで帝国の海軍力は約30%も減少しています。陸軍におきまして損害は第5師団の第2中隊と第3中隊に第5攻城隊及び第5砲撃隊の半分が失われていますが大局的には軽微と言える損害です」
「海軍は痛いな。ところで日本国はアトラム王国と比べて、いか程の戦いぶりであったか報告せよ」
「はい陛下、陸軍におきましては過去に上陸して来たアトラム王国陸軍の比ではありません。何しろ見えない所から砲弾が飛んできて着地と同時に爆発するらしいです。相手の兵隊は全て魔道具を持ち遠距離から光ったと同時に帝国兵は死亡しております。また地面に罠もあり、強力な魔道も含めて相手陣地に近寄る事も出来ないと報告があります」と苦しそうに帝国陸軍第5師団長のキマイ将軍は報告する。
サイネグ宰相から「海軍力については私から報告させていただきます。最初の木造艦では10kmから15kmの距離を1発で沈める力があります。つづいて第3艦隊の鉄戦艦では見えない距離からの火の槍にてこれも1発で沈んだと報告があります」
「では日本国とアトラム王国どちらが脅威なのだ」と皇帝。
サイネグ宰相は言う「現在のところは、日本国です。ですが、日本国の戦闘力ならばアトラム王国とて敵うまいと思います」「皇帝陛下、この際日本国と同盟してアトラム王国との戦争に協力させる考えは如何かと思います」
「その前にキマイ将軍、戦闘地形は如何かな」と皇帝。
「はい、山岳戦でございます。第2中隊は山の麓に向けて、第3中隊は山の上の拠点に向けて進撃しました」
キマイ将軍は口をからからにしながら答える。
「やはりな、お前たちは馬鹿なのか、帝国の山岳戦は50年も前の事だ。しかも当時の相手は5万人の要塞都市で、こちらは要塞都市の前に全軍展開できたのだ、今回の話を聞くと少数しか相手正面に向かっていないではないか、それでは負けるも道理だ。根本的に間違っている」と皇帝が言う。
「お前たちの得意な地形と戦術は何だ、キマイ言ってみよ」
「はい皇帝陛下、広い場所における人波による蹂躙です」とキマイ。
「その通りだ、このドーザ大陸には平原や森林が多い、これらの味方となる地形を使わずなぜ不利な山岳戦を挑んだのだ。情けない」と皇帝は少し怒りながら言う。
「相手が山にいるなら、なぜ平原に引っ張り出さないのだ。自ら負ける状況に持っていっているとしか思えん。情けない中隊長どもだ。死んで当然」もっと怒りながら皇帝は言う。
皇帝のいうとおりスルホン帝国の「人の波による蹂躙」戦術では山岳戦など一度に多くの兵士が戦えない場合は極端に不利になる。例えば時代劇などで3人以上の相手が向かってきても一人一人としか戦っていないケースと同等なのである。テレビなど見て「控えている奴も戦えよ」と突っ込みを入れるが、それでは勝てない。1人の強者に対しては3人が同時に戦わなければ勝てないのは道理である。
皇帝は体験から戦術に必要な条件を導き出していたのである、さすがである。
「サイネグよ、日本軍を平原に誘い出してスルホン帝国伝統の戦術にて殲滅せよ、日本と講和するかはその後の事だ。簡単に打ち取れる相手なら講和はないと思え」と皇帝が言う。
「はっ皇帝陛下、第3師団、第4師団と第5師団を合わせて日本軍を撃滅する所存です。よいなキマイ将軍」
「かしこまりました」とキマイ。
「よいな、騙しても良いから平原に誘い出して撃滅せよ」と皇帝は念押しする。
「その後のアトラム王国の動静は如何なのだ」と皇帝は話を切り替えた。
「はい、アトラム王国の第2艦隊が駐留地から消えた様です。何かする計画でもあるのかと思います」
「サイネグよ間諜を第2艦隊の駐留地に送り込み探れ。その結果次第だ」
「かしこまりました。皇帝陛下」
「サイネグよ第1艦隊のみであるなら好機ではないのか、我が海軍の第1艦隊、第2艦隊を突入させてはどうだ」と皇帝。
「ええそれも考えましたが、第3艦隊を再建する事が先決と思います。アトラム王国第2艦隊の行方が不明では300メートル級や200メートル級が失われた帝国艦隊では防御にも不安がございます。再建が先かと」
「わしはアトラム王国に攻め込む好機と思うがサイネグがそこまで言うなら再建を急がせよ」と認められた。スルホン帝国が第1艦隊と第2艦隊を全滅覚悟で戦闘させていればアトラム王国の一部領地化も夢ではなかったのだが、アトラム王国第2艦隊の行方と言う大切な情報が欠如している帝国では守りに入るしかなかったのだ。歴史の転換点などこんな物なのか。
「サイネグよ日本陸軍をチロルに展開させて帝国が蹂躙せよ。命令である」
「また技術開発局に言って日本国が使った爆発する砲弾の研究開発を進めよ」
「皇帝かしこまりました。チロルの領地を分け与えると餌を与えて蹂躙いたします」とサイネグは策を巡らす。
「失敗は許されないと肝に命じよ」
「ははー」
日本山に3度目の危機が迫る。
一方、アトラム王国大陸の南東駐留地の港を出発した、アトラム王国第2艦隊は冒険者達と同じような航路をたどり大陸の西側に至っていた。
ここからは巡航約18ノットで休まず25日で関東に達する。日本本土にも危機が迫る。
数日後、帝都から日本山国境検問所に使者が皇帝の文を持って来訪していた。
「開門せよ! 我はスルホン帝国ガリル3世の使者である、砦の長を出せ!」と使者がガリル3世の皇帝紋章旗をはためかせ、検問所に来た。
「使者殿ご苦労。我はこの砦を治める日本陸上自衛隊 第2師団 第3普通科連隊長の北山である」
「予備門を開けるので待機をお願いする」と通用口を開け使者を招き入れ、取調室に誘導する。
「粗末な所だな」と使者は文句を言うが取り合わない。
「陛下からの通達文だ心して受け取れ」と羊紙に書かれた文書を渡す。
そこには、チロル地方ハイデルバーグ領を日本に割譲すると書かれている。
理由は「これ以上の戦火をさける為」と書かれている。
北山は「受領したが受ける受けないは日本政府が決める事だ、この場では返答できない」と答える。
使者は「なに、皇帝閣下の通達が受けられないと言うのか!」と強気だ。
「いや使者殿そうではない、我はここを日本政府より預かっている身だ、決定は日本政府が行う、この場で返答は出来ないという事だ」と北山は丁寧に言う。
「日本政府の返答が決まるまでお待ち頂きたい」
「仕方ない、私たちは返事を持ち帰らなければならない、バーグの街に滞在するので返事を持参する様に」とスルホン帝国ガリル3世の使者が言うが、期間を設定できないので北山は適当に誤魔化す。
「よし渡したからには、早く返事をよこせ。判ったな!」とまたまた強気である。
第3普通科連隊長の北山は「陰謀臭いな」と思ったが顔に出さずに使者を見送る。
使者はバーグの街で一番の宿に宿泊して日本国の返事を待つことにした。
領主であるハイデルバーグは引き籠ったままで上のやり取りは知らされていない。チロル地方もバーグの街もいまのところ平穏である。
第3普通科連隊長の北山は第2師団の平沢陸将に向けて無線連絡をして「皇帝陛下からの通達文」を持たせた伝令を第2師団司令本部のある宗谷特別行政区駐屯地に派遣した。
第2師団の司令本部と駐屯地は大三角洲からハイエルフの里近くに移動していた。
日本山からは15kmの距離である。
会議室で「皇帝陛下からの通達文」を見た、陸上自衛隊第2師団師団長の平沢陸将、副師団長の佐藤陸将補と幕僚長中野1等陸佐は、「これは謀略の匂いがします」「私もそう思う」「取りあえず陸上監部に報告だな」と言い陸上幕僚長宛に電文を送った。現物の写真付きで。
陸上幕僚長は統合幕僚監部にて報告する共に防衛省の高野大臣へ報告をコメント付きで入れる。「謀略の可能性あり」と情報本部からのコメントも「謀略の可能性93%」とついた。
防衛大臣執務室で、立川統合幕僚長と高野大臣が話す。
「これはまた、随分と見え見えの手を打ちますな」「子供じみていて哀れに思います」
「そうだな、文官出身の私でもそう思えるほどの浅知恵だ」と高野大臣は酷いことを言う。
「立川統合幕僚長どうする」と笑いながら高野は言う。
「大臣は総理に報告を、我々はもう少し分析を進めます」「結論としては皇帝の顔もあるので受諾でよろしいかと思います」
「だが、相手の策に乗るのは危険ではないかね」
「ええ、危険もありますが、こちらも準備を整えますから大丈夫と思います」
「まったく覇権主義の帝国が割譲など謀略以外なかろうが、馬鹿にされているかな」と高野が言う。
「狭窄症に陥っている敵将が、よくやる手ですね。餌をぶら下げて「さあ食え」と」立川統合幕僚長は酷いことを言う。
「なんとなくわかる。相手の餌を食べるふりをして立ち直れない打撃を与えて欲しい。二度とバカな事を考えない様に」「ええ了解です」と立川統合幕僚長も笑いながら返事をする。
「その方向でよろしく頼む」と高野大臣。「さて総理に報告だな」と支度を始める。
秘書官を呼び、総理の居場所を確認させる。
ありがとうございました。