第55話 神々の洞窟2
第55話を投稿します。
戦闘が起きてしまいました。残念です。
日本の言う「不思議な洞窟」、ミソラが言う「神々の洞窟」に行く日がやって来た。
朝早く、東富士演習場でも見たあの大きな飛ぶ機械がやって来た。
入間基地を飛び立ったCH-47JAチヌークは、高度2000mで東京を迂回して国道16号沿いを東に立川基地や厚木基地周辺を避けて大回りに飛行している。約85kmの距離だ。
転移前の日本なら南下なのだが、この世界では東に進む事になる。やがて横浜港が見えてきて、海上保安庁第三管区海上保安本部のヘリポートにその巨大な機体を着陸させた。第三管区海上保安本部のヘリポートは救難用の20m級のヘリに対応しており、CH-47JAチヌークの30m級の機体には小さいが何とか着陸した。
あらかじめ本部内に待機していた10名の冒険者は、CH-47JAチヌークに乗り込んでいった。
ミソラの仲間冒険者は「おおお空を飛んだ」と大はしゃぎである、乗り物酔いしなければ良いのだが。
しばらく行くと大きな入間基地の飛行場が見えてきた。
轟音の中、「あの飛行機に乗りますよ。」と言われた。
入間航空基地所属の第402飛行隊はC-1がメインの輸送機ではあるのだが最近C-2も配備され始めていた。
第402飛行隊のC-2輸送機に冒険者10名と航空自衛隊隊員が万が一の為に乗り込む。
やがて轟音が一層大きくなり、滑走路を滑り巨体が軽々と飛び立って1200km先の大三角洲に作られた、「宗谷特別行政空港」に到着した。片道1時間半の飛行であった。
まだあまり乗客のいない「宗谷特別行政空港」を慌ただしく出て、外で待機していた第25普通科連隊の高機動車4台の内2台に冒険者を詰め込んで4台は出発した。約100Kmの距離をゆっくり2時間かけて進み、「ドーザ大森林三角州国境検問所」に到着して会議室で説明を受ける。
「洞窟は日本政府も未調査なので、何かに触ったり動かしたりはしない様にお願いします。」と通り一遍の説明を聞いたのちに出発となる。
因みに「隠れ里のエルフ」達は他の魔獣などの脅威が続いていることから、大三角州に日本の保護を求めて移り住んでいた。ここでは同種族もいるので、種族を増やすこともできるのだ。
ミソラ達冒険者は横浜から持って来た装備や帯剣をして装備を整えた。そこへ事前に検問所で待機していた「ナナ」と「レイナ」が合流する。
いよいよ出発である。第25普通科連隊から引き継いだ第2偵察隊は、87式偵察警戒車4台、73式中型トラック4台に第25普通科連隊から借りた高機動車2台にて隊列を組み進む。徒歩でも行ける距離ではあるが荷物が多そうだ。
古代神殿の麓の広場に到着して全員が下車し、冒険者は2列になって第2偵察隊の第1小隊の後ろについて行った。最後尾には「ナナ」と「レイナ」がいる。広場から距離3Kmであり緩やかな上り坂なので、あっと言う間に先頭が古代神殿に到着した。
ミソラは目を輝かせていろいろ内部を見ている。第1小隊は事前の打ち合わせどおり冒険者とハイエルフを残して麓に戻っていった。
神殿には冒険者とハイエルフだけとなり、ミソラは観察しながら少しずつ奥に入って行き、いろいろ感想を洩らす。
「アトラム王国の「神々の洞窟」と同じ文様がある。ここはやはりドーザ大陸の「神々の洞窟」で間違いないと思う。」と仲間に言う。「確かにそのとおりだ。」とミソラの仲間が言う。
軍属らしき3名は無言で、緊張を隠せない。
冒険者達とハイエルフは少しずつ洞窟の中を見ながら奥に進む。
第2偵察隊は第1偵察小隊から第2偵察小隊まで、神殿の麓の広場に集合して、73式中型トラックから器材を下ろしていた。やがて偵察隊長と本部隊員に第3小隊、第4小隊が合流し同様に何か準備を開始した。
73式中型トラックから降ろしているのは大きなケースに入った何かだ。四角いケースと細長いケースで一式らしい。
ケースを開けて組み立てを行っている。01式軽対戦車誘導弾だ、四角いケースに入った照準器と長いケースに入った発射機を組み合わせていく。全ての01式軽対戦車誘導弾はダイレクトモード(直接狙うモード)を選択する様に指示を受けていた。
麓広場では第2小隊から第4小隊が散開を開始し、森の中に身を隠す。
第1小隊のみ87式偵察警戒車とその陰から神殿の様子を伺う。
神殿の中ではミソラ達が周りの壁を丹念に見ているのに対し、軍属いや間諜の3名はまっすぐ奥に向かい、地上から1m程度の石柱らしき物を見つけた。丸に星型の何かをはめ込む窪みがある。
その前に立ち、自分の荷物の中から何かを探していた。大事に包まれたその「神々の紋章」を取り出し、封を開けてその紋章と同じ形の窪みにはめ込む。
すると音もなく壁が透明となり、すぐに水色の波打つ光となった。広さは30mもあるだろうか、高さは5m近い。突然行き止まりの壁だった場所が水色の光となったのだ。
間諜の一人がその光に飛び込み姿が消える。光の向こう側は見えない。
走り出した間諜は、アトラム王国の大陸にある「神々の洞窟」にいて、そこに待機していたアトラム王国陸上軍第1戦車中隊とそれに続く第1歩兵師団の1万人に向けて「道は開かれた、いまこそスルホン帝国を背後から殲滅する時である。」などと言い。戦車隊長に「向こう側は敵が9名しかいません。チャンスです。」とアトラム王国公用語で言い、戦車隊長はエンジン始動の合図を放った。
各戦車は初期型ディーゼル特有の不規則な内燃機の音を発しながら次第に回転を上げて行った。初期のディーゼルエンジンは最初ヒーターによりエンジンを温めてから始動する。しかもチョークと言って燃焼室に多めに軽油を送り気化させて始動する。混合気が濃すぎても点火できなくなる。全ては使用者の勘
「全車進めー」と隊長の合図でアトラム王国最新の戦車中隊12両が進み始めた。
全車水色の波打つ壁に向かって進んで行く。間諜も戦車隊の最後尾を歩いてついて行く、戦車は見るからに遅そうだ。時速5km/h程度でゆっくり進む。
全ての戦車が水色の壁に飲み込まれた。続いて第1歩兵師団の1万人が合図を待っている、歩兵は全て魔石発火式のマスケット銃を所有している。スルホン帝国より手ごわそうだ。
一方、大森林の古代神殿内ではミソラが水色の壁に気付き、「あなた方は何をしているの。」と鋭い声を発した。石柱の前では間諜2名が剣を抜き威嚇している。
すると突然轟音が響き、水色の壁から何かが出てくる。
「戦車だ」とハイエルフの「ナナ」と「レイナ」が叫ぶ。
先ごろ火力演習の後に冒険者が話していた、日本陸軍の九五式軽戦車に似た戦車が水色の壁から現れて進んでいる。神々の洞窟内は幅30mで高さ5mと水色の壁と同じ大きさだ。2列になって戦車がナナ達の前を通り過ぎる。
出て来た戦車に轢かれそうになりハイエルフ達は石柱側に、ミソラ達冒険者は石柱の反対側の壁にへばり付いた。「ナナ」達は戦車を12台数えた後に先ほど走って水色の壁に入った間諜の一人が戻ってくるのを見た。戦車に続いて歩兵が徒歩で壁から出てきた。「レイナ、戦車は12台みたいよ、残りは歩兵ね。」「了解、始めますか。」「そうね、ミソラ達にはかわいそうだと思うけど仕方ないわね。」と言う。なにをするつもりだ。
「ナナ」は思念を最大パワーで放出した。
水色の壁から出てきた歩兵が次々と気を失って倒れている。後続が次々と倒れている兵士に重なっていく。ミソラ達冒険者も気を失う。戦車の半分はコントロールを失い壁に激突したり、前車に追突したりしていた。
戦車は4台が古代神殿の洞窟から出ていた。
洞窟内ではレイナが石柱の前で倒れて気を失っている間諜3名を雑に転がして石柱の前に立ち何かの呪文らしき言葉を発した。「ナニナロフレナムドニサレ」としか聞こえない。
突然水色の壁は元の灰色の壁に戻り、石柱は粉々に砕けてしまった。「お仕事終わり。」と言って出口に向かって歩いて行く。出口では戦車が4台遺跡の前からゆっくり進んで出ていた。残りの戦車8台は2台が追突されて止まっていた。そして2台が追突して無限軌道が外れカラカラと音がしている。エンジンは動いている様だ。
そして後続の4台は神殿洞窟の壁に激突して止まっている。これもエンジンは動いている様だ。
突然何人かの悲鳴が聞こえた。水色の壁を通過中に突然灰色の壁になったので、灰色の壁に切断された歩兵の悲鳴だったのだ。足がない兵士や上半身だけになった兵士など地獄の様相を呈している。壁の向こう側でも同様の事が起きているらしい。洞窟に入って来た兵士は全員「ナナ」の思念により気を失っているが、何人も折り重なっており只では済まない事になっていると思う。しかも最上部に上半身だけの死体が乗っているとか信じられない光景である。
「ナナ」と「レイナ」は再度「ナナ」が思念を発し、「レイナ」がそれを増幅した。
表に出ている戦車も乗員が気を失ったのか1台が前の崖から滑り落ちていき3台は停止している。
「さっ行きましょう。」と言ってナナとレイナは出口から右の崖に向かい滑り降りた、高さは3m位だ。広場から見て左側である。実は第2偵察隊への合図にもなっていたのだ。ナナとレイナの安全が確認できた第2偵察隊は戦闘を開始した。対戦車のダイブモード(トップアタック)に変更して森や麓から01式軽対戦車誘導弾を洞窟から出ていた4台のアトラム王国戦車に向かって8本撃ち込んだ。トップアタックモードで一度上昇して、戦車砲塔部やエンジン上部にヒットしメタルジェットで穴が開いて、エンジンは燃え出し、砲塔内は火薬に引火して爆発し乗務員4名は爆発の熱で焼け死んだ。
続いて87式偵察警戒車4台と森に隠れていた偵察隊員が古代神殿の坂を上り、神殿洞窟前に展開した。87式偵察警戒車2台のエリコンKB25mm機関砲から装弾筒付き徹甲弾(APDS)を1発ずつ追突されて止まっていたアトラム王国戦車砲塔に撃ち込んだ、砲塔前面装甲を貫通すると共に少し時間が空いて砲塔が爆発した。どうも砲塔に火薬を積んでいた様で、砲塔が爆発で少し飛び上がりドスと音がして転がった。アトラム王国戦車は結構危ない。
偵察隊員はバラバラと神殿内部に侵入して、止まっている戦車のハッチを開け、手りゅう弾を放り込んでいく。上部ハッチに鍵の様な物がなく、簡単に手で開けられた。手りゅう弾が爆発した程度で砲塔内の火薬も誘爆して砲塔が少し飛び上がった。全ての戦車に対応が終わった頃に、ミソラ達冒険者が意識を回復した。「なにがあったのですか」良かった脳細胞は破壊されていない。取りあえず冒険者全員を外に出し広場に向かわせた。
ナナとレイナは神殿入り口に偵察隊員と共に戻っており、内部に進む。
間諜が3人まだ倒れている。「あれを捕まえて。」と偵察隊員に指示をする。
偵察隊員はタイラップで両手を後ろに縛りあげ、気を失っている3人を並ばせる。
水色の波打つ光が灰色の壁になる前に抜け出ていたアトラム王国兵士も14名気を失って転がっている。
その横では地獄絵図が繰り広げられていた。兵士が何人も折り重なって呻いている。半身の者は死亡している。足の無い者は呻いている。下敷きになっている兵士も圧迫されて圧死している様で何も反応が無い。
偵察隊員は仕方なく上から死体を転がして落とし、持ち上げ通路側の横に並べて、次に生きている者はタイラップで拘束した。生きている兵士は4列で35名、死んでいる者は上半身死体4体に足が切断されて呻いている者4名、圧死したもの12名となった。拘束者は間諜を含めて52名にもなった。
無線で「ドーザ大森林三角州国境検問所」に駐留している74式戦車4台とけん引ワイヤーを持ってきてもらい、ワイヤーでアトラム王国戦車を神殿下の広場に並べた。陸上自衛隊の74式戦車を見た生き残り兵士はビックリして「アトラム王国戦車より大きいし大砲も太いし早い、何だこれは、我々は何も知らずにこんな国に来たのか。」と後悔していた。だがもう遅い。
アトラム王国スメタナ王は「神々の洞窟」で起きた事を第1歩兵師団長からの報告で聞いていた。「そうか失敗したか。帝国を背後から脅かせる策だったのだがな。」「だが向こうにも紋章を持つものがいたとは驚きだ。」スメタナ王は扉が締められたと思っている。実際には破壊されたのだが。
「ならば再度こじ開けるまでだ、第2艦隊司令はいるか。」と魔道具に呼びかける。
「陛下ここに。」「良いかフルトヘイグ3世、配備されたばかりの『エコーリア2世』を持ってドーザ大陸の西を攻めて再度「神々の洞窟」を開けよ。しかと命じたぞ。」
「はいフルトヘイグ3世、身命にかけまして陛下のご命令を遂行いたします。」
「うむ早急に行ってくれ。」
「はっ」
魔道通信は切れた。
今一度説明しよう、アトラム王国艦隊はスルホン帝国に連勝しているアトラム王国の誇る艦隊である。
第1艦隊、第2艦隊のみであるが、その砲にスルホン帝国は遠く及ばず、帝国艦隊が射程距離に入る3kmも前から魔道誘導で正確に戦艦を沈めることができる。これが300m級砲艦50隻で1艦隊を形成する。他には100m級の対ワイバーン用の対空駆逐艦が100隻、ワイバーン空母200m級が5隻である。帝国艦隊に比べると小さな構成であるが性能は帝国を凌駕している。
ブルードラゴンの300m級空母も作ってはいるのだが、まだ完成していない。
『エコーリア2世』は400m級の砲撃ができる航空母艦である。前方には新型30センチ砲を3門回転砲塔に収めて前から第1砲塔、第2砲塔、第3砲塔とし、副砲は15センチ砲2門、後部は飼いならしたワイバーンに人を乗せて飛び立ち爆弾を投下する為の航空甲板である。
まるで第二次世界大戦時の日本海軍『最上』の様な形であった。「超弩級」と言う言葉があるが比較対象となったイギリス軍艦「ドレッドノート」の砲は30.5センチでありこれを超える事が当時はステータスとなったので、超ドレッドノート級から転じて「超弩級」となった。つまり30.5センチを超える砲を積んでいると「超弩級」と呼ばれる様になった。『エコーリア2世』はさしずめ「弩級」戦艦と呼んでも良いのではないかと思う。
『エコーリア2世』はその最新30センチ砲から射程距離20kmとも言われる距離を最新の重量弾を飛ばし海戦では無敵であると思われていた。
(日本海軍の最上を知らない方は「航空巡洋艦 最上」で検索してみてください。後部が飛行甲板になっている戦艦が見つかるはずです。)
ありがとうございます。