第52話 冒険者ミソラ・ロレンシア3(改)
第52話を投稿します。
日本観光するようですよ。
洞窟を見せることは決定したがもう一つ重要な役目があり、「ナナ」は横浜にいた。
第三管区海上保安本部専用の埠頭に停泊中の黒船5隻を前にミソラと一緒に来ていたのだ。
海上保安庁の隊員も同行している。
「ミソラ、あなたの冒険者仲間を呼んで、そう一番親しい人たちね」とミソラを呼び捨てにした。
「「ナナ」さん何を・・・」ナナは口に指を当て「言われた通りに」と言った。
ミソラが王都でドラゴン討伐した仲間6人が呼ばれた。
「この人たちは大丈夫ね」とナナは言い。次に貿易港南ロータスで仲間になったと言う冒険者を1隻ずつ呼んでもらった。1隻に40人はいる。
「あなた達何か必要なものはある」とナナは聞き。一人ずつ聞き出していく。後ろでは海上保安庁の隊員と職員がメモを取っている。
特に要望の高かったものは海上保安庁が差し入れに使ったプリンだった、「あれをまた食べたい」とほとんどの冒険者が要望した。海上保安庁の職員は頭をかいた、なにしろ3個100円の安物だったからである。
「今度差し入れますよ」と職員は言った。冒険者は喜びを体で表現して飛び上がっていたりした。
そんなにプリンが良いのか。
他には「日本を見たい」と言う希望がでた。冒険者としては当然だなと思う、帰ったら異国の事を話すのだろう、冒険者じゃなくても異国の文化や見た事ない建物など興味はあるはずだ。
「日本の見学は少しお待ちくださいね、手配がありますから」と職員が言う。
パスポートも持たない冒険者達なのだが、対応するのか・・・
続いて2隻、3隻と同様な要望が出されたが、やはりプリンが食べたいらしい、冒険者は甘党なのか。
4隻目も同様であった。
5隻目に少し変化があった。冒険者の中から1人を選んだのだ。
「あなたこちらに来てください」と1人を隊員に引き渡した。
冒険者と船乗り合計300人の名前と出身地は全て海上保安庁が記録している、この人はミソラが貿易港南ロータスで集めた冒険者なのだが、ミソラに聞くと出港間際に行きたいと押し寄せた者らしい。
ミソラの記憶としては間際に来た者は6人いるのだが、ナナは一人を選んだ。
「ナナさん何かおかしな所がありますか」とミソラが聞く。
「いや念のためですよ」とナナが答える。理由になっていない。
選ばれた者は海上保安庁の隊員に連れられて調査室と言う名の取調室に連れていかれた。「後にナナさんが話を聞くのでここでお待ちください」と言われ、一応ペットボトルのお茶が出される。
ナナは次に船乗りを全員集め同様に希望はあるかと聞いた。一部の船乗りからやはり見学をしたいと希望が出される。これを聞きナナはまた一人を選んだ。隊員に渡す。
ミソラが不安そうな顔で見ている。
隊員に連れていかれた船乗りも調査室に入れられた。先の冒険者とは距離のある小部屋だ。
一通りの調査を終えたナナは隊員と共に最初に連れて行った冒険者の部屋に来た。
「さて、いろいろお話を聞かせてくださいね」と冒険者に言い、出身地や最近何をしていたか、両親の事などいろいろ聞き出した。最後に「みんなの中からあなたが冒険者としては、少し変わった方だなと思ってきてもらいました。他意はありません」とナナは言い冒険者を船に戻した。
次の船乗りの部屋に行き同様な質問をしていた。そして船に帰す。
海上保安庁の職員と隊員に別の部屋で待機していた陸上自衛隊員と会議に入った。
ナナが言う「あの冒険者達にアトラム王国の軍属の者が紛れていますね、今回は一人を呼びましたが、全部で冒険者に6人、船乗りに2人います」
「しかもその8人はスメタナ王が隠密と呼んでいるスパイです」ナナは時代劇と007シリーズを好んで見ていたのでこの様な表現になった。
「でしたら隔離した方がよろしいのでは」と陸上自衛隊の隊員が言う。
「ですが、訓練されているのか真の意図が見えないのです。すこし泳がせて様子を見たいと思いまして」
「日本に危険が及ばないなら様子を見ますが、大丈夫ですかね」と職員が言う。
「話は変わりますが外務省からは船で寝泊まりしている冒険者と船乗りの衛生状態が気にかかるみたいです。一度船の中を検査して消毒なりした方がよろしいかと思います」とナナが言う。
「彼らの使用する水は全て横浜の水に交換して、食料は新鮮な材料を全員分支給していますので問題は無いと思いますが、船内の状態は悪いですね」と海上保安庁の隊員は言う。
「特に換気が酷いので匂いがすごいのと、風呂が無いので身体の衛生状態が酷いと思います」
「一隻毎に、冒険者と船乗りを風呂に入れ、その間に船内を消毒しましょう。なに他の船の冒険者と船乗りに手伝ってもらえばすぐに済みます。5隻とも構造は同じようですし。それに燃料の石炭は宗谷特別自治区産の物がありますから大丈夫です」と隊員は言う。
「では海上保安庁が中心となって明日から消毒を始めます」
「では陸上自衛隊は引き揚げます」
「その通りで進める事でよろしいですね」とナナが締める。
海上保安庁は隊員用に風呂を庁舎内に持っているので、冒険者と船乗りを交代で風呂に入れる。
貴族以外風呂になどはいったことが無い無頼の者達だから混乱もあったが、一日3隻分の人を風呂に入れた。
その間、他の冒険者や船乗りに手伝ってもらい船内をトイレや炊事場を中心に消毒していった。
やはり衛生環境と言う概念は無く酷い有様であったが手際よく消毒を行い綺麗になって行った。
寝床の寝具は天日乾しして乾燥させ必要であれば洗濯をさせた。おかげで海上保安庁の職員や隊員が洗濯機を使えるのは深夜になってしまった。
船内にこもった匂いについては強力な送風機で船内に強力な風を入れて乾燥させた。
翌日、外務省では職員とナナが会議をしていた。
「早く洞窟を見せてお引き取り願いたいのですが。同行予定をお願いできますかな」担当官が言う。
「私は何時でも大丈夫ですよ。ですが全員は無理でしょう、どうします」とナナが疑問を投げる。
「ええそれについては洞窟にこだわっているのはミソラさん達だけですから、彼女らを中心とする10名位のグループを行かせます。詳細は自衛隊との打ち合わせが必要ですが」
「ならスメタナ王の手先も加えて何をするのか見てみましょう」とナナが言う。
「危険ですよそんな事は、いくら自衛隊が警護するからと言っても戦闘になればナナさんも巻き込まれますよ」と担当官が慌てて言う。
「なら「レイナ」も連れて行きます、あの子がいれば私の思念を増幅する事が出来ますから戦闘不能にしますよ」と余裕である。
「ですが・・・」と担当官は渋い顔である。
「そうそう明日は海上保安庁が日本を案内する日ですよね、私たちハイエルフも全員で帯同しますよ。そして日本を宣伝してアトラム王国とスメタナ王に日本との国力差を見せつけて戦闘は無駄だと思い知らせましょう」とナナ。
「ええそのつもりで海上保安庁も検討しているようです」
「軍事力を見せるのも良いのではないですか」とナナが恐ろしい事を言う。
「それは防衛省に聞かないと答えられません」もっともである。
「では投げかけましょう」とナナは涼しい顔である。
防衛省に連絡すると前向きに「軍事プレゼンスは必要ですね」という事になった。
具体的には統合幕僚監部が計画を立てて、東富士演習場で行う。
翌日となり冒険者達と船乗りを日本見学に連れて行く予定日となった。
300人にバス7台の大観光だ。
想定ルートは、1日目はスカイツリーに皇居見学、横浜ズーラシア、最後に横浜三渓園の後に横浜中華街での食事をして一旦船に戻り、2日目は横浜鶴見のビール工場見学に静岡の楽器工場、自動車・バイク工場、で船に戻る予定で終了だ。自動車工場では自動車会社のテストコースで体験乗車も行う。
スカイツリーではその高さに足がすくみ、皇居では皇帝のいる住まいが一般人にも見せることができる寛容さにビックリしていた。動物園では様々な動物に最近捕まえた大森林の魔物たちを興味深く見ていた。後日、自分達もあの魔物と戦う事になるからだ。横浜三渓園は生糸貿易により財を成した実業家 原 三溪によって、1906年(明治39年)5月1日に公開され、幾度かの建物を追加され現在に至っている。伝統的な日本家屋と日本建築を堪能してもらう。中華街の中にある老舗ホテルでバイキングディナーを振る舞った。初めて食べる食べ物にみんな満足である。日本料理ではないのだが。
翌日もみんな目を輝かせて見入っていた。ビール工場だ、ビールに近い物はアトラム王国にもあるらしいのだが、日本のビールの方が断然うまいらしい。この日の早めの昼食にはジンギスカンバイキングが振る舞われたが大好評だった。
楽器工場では楽器が弾ける冒険者が興味津々で弾いたりしていた。アトラム王国ではバイオリンや打楽器に近い物が楽器としてあるらしくピアノを不思議そうに見ていた。
「あの楽器があればどんな音でも出せそうだ」だが、次に見た電子楽器にはビックリを通り越していた。
「この楽器はどんな音色も出せるのか、それになんだあのペダルは低い音がでる」
この人が感心したのはエレクトーンだと思う。
自動車会社では精密なロボットが動き回り、始めてみる近未来の光景に全員が信じられない面持ちでいた、これができるから庶民が車を安く買えるのかとミソラは納得していた。
テストコースでは案の定、車酔いする者が続出して、中断しかけたが何とか全員を試乗させることになった。バイクは試乗が難しいのでテストドライバーがデモ走行をした、あまりの速さに声が出ない。
市販車で250km/hは彼らにとって初めて見る速度であった。一応リミッターは外してあったらしい。
そんなこんなで日本見学も脱落者や迷子が出ることなく無事に済んだ。
ハイエルフの『ナナ』『リナ』『ミーナ』『レイナ』『ヒナタ』の5人は冒険者達からスメタナ王の手先8名の顔と名前を憶えて思念により思惑を探っていたが駄目だった。これ以上強い思念を当てると脳が破壊されるらしい。
いざとなったらやるのであろうが、今はその時ではない。
ありがとうございました。
次は軍事プレゼンスです。