第45話 フローダ半島の交渉最終話
第45話を投稿します。
本日は買い出しに行っていたので遅くなりました。
港町ドルステイン郊外にある帝国陸軍第5師団第1中隊の野営地では、中隊長と第1小隊長が何か打ち合わせをしていた。「あいつら許せん。栄光の帝国陸軍を愚弄しおって」
「ほんとです。許せません」と小隊長が相槌を打つ。
「ですがどうするおつもりで?」
「明日港で捕まえよう」
「えっ。あいつらの話からすると無謀と思われますが」「ですが・・・」
「いや捕まえて懲らしめるだけだ」
「領事が黙っていなさそうです」
「領事も港艦隊司令も心では陸軍を馬鹿にしている筈だ。なにも問題はない」
「ですが・・・無駄に兵の命を危険に晒します」
「ふむ、では交渉が終わって港に戻ってきたところを捕まえると言うのはどうだ」
「行く前より危険は少ない気がしますが・・・」
「交渉に行っている間に兵を港に潜ませて、戻ったところを捕まえるという事だ」
「それならば少数の兵で済みますね」
「そうだ、それで行こう。明日は楽しみだ」「あやつら泣いて懇願する姿が見える様だ」
「そうですね。やりましょう」
交渉団は少しやりすぎたのか、はたまた帝国陸軍は馬鹿なのか・・何方にしろ交渉団に危険は迫る。
港町ドルステインは翌日も晴天であった。
椎名主席参謀が艦隊司令の遠山海将補に話しかける。
「昨日の交渉を録音したレコーダーで聞いたのですが、相手を大分挑発しています」
「うん、私も話では報告を受けているが、帝国陸軍は報復に出るかな」
「はい、確実に出ると思われます」「しかも、次回は返還ですから交渉団は本日が最後ですし」
「まぁ大抵の事は大丈夫だろう」「相手も陸軍だけではないだろうし」
「だと良いのですが」
「それで本日の陣容ですが、SH-60Kで迎えに行くのは良いのですが、なにかしない様に監視するべきかと思います」
「具体的には?」
「はい、F-35Bで交代しながら監視を続け、AH-1Sコブラ2機と港地区特別警備班にて交渉団が戻るまで港の警備を行います」
「迎えのSH-60Kに交渉団1名で迎えに行かせます」「その後「いせ」での会議をしてから送り出します」
「帰りは「ひなた」さんに協力して頂き何かあれば思念なる物で怯ませて帰ります」
「如何ですか?」
「何人かが泳いで「いせ」まで来なければ大丈夫だろう」
「ですね」
椎名主席参謀は相手の動きを読んでいるわけではなく、心理学的に相手中隊長のパーソナル(性格)を判断したに過ぎないのである。あの手の「直情」タイプは心に「相手を服従させたい」との野心を持っている事が多い。よって最終日の本日は何か卑怯な手に出ることが予測されていた。
その為の対応策を次々と打っていく。
1時間前となった。
F-35Bで野営地を偵察していく、人員に変化はなかった。
次にAH-1Sコブラ2機が港の警戒をしつつ、SH-60K4機にて港地区特別警備班40名を展開させた。
ただし昨日と違うのは、選ばれた港地区特別警備班40名の半数以上が元特別警備隊経験者で構成されている事だった。特別警備隊はアメリカ海軍の特殊部隊SEALsをモデルに設立された部隊で格闘訓練や降下訓練などを経験し武装解除や不審船停止業務を主としていた。海上自衛隊でも艦隊任務隊員の中から訓練課程に参加を推奨していた。そんな特務警備訓練の経験者が多い港地区特別警備班は、それだけで何かあると緊張を強いられる事となった。
前日同様に40名が港に通じる路地を見張りその両脇にAH-1Sコブラ2機が駐機していた。アイドリングモードである。上空はF-35Bが2機で旋回して警戒している。
迎えのSH-60Kが港についた。担当官が1名降りて交渉メンバーを待っている。
「外務省担当官殿昨日と同じほどの警備ですね」と領事が言う。
「ええ、大切な交渉相手を守る為です。無頼の者もいるようですから」
「実に頼もしい」領事は心からそう言った。
じきに旗艦「エミリア」からトーマス2世が降りてくる。
「本日はよろしくお願いしますね」「こちらこそ。残りのメンバーは「いせ」の船上にてお待ちしています」
「おっ中隊長と小隊長が来たようです」馬2頭で駆けつける。
「いこうか」とだけ言い。挨拶もない。
4人と外交官1名の5名はSH-60Kに乗り込んだ。
飛び上がる。「担当官殿、これはどの様な仕掛けで飛んでいるのですか」とトーマス2世が大きな声で聞く。担当官も「私も専門外ですから良くわかりません。交渉が終わりましたら説明させましょうか」と。
「頼みたいところだ」と領事も返事をする。帝国兵士の中隊長と小隊長は小物と思われたくないのか押し黙ったまま目をつぶっていた。
やがて「いせ」のフライトデッキに到着した。
担当官1名と「ひなた」が迎える。
艦内会議室で遠山海将補が迎えた。「この艦隊司令の遠山です」と大陸語で書かれた名刺を渡す。
「交渉団の方々にはゆっくりとくつろいで頂けたらと思います」
「当艦の糧食班長が特別に作ったチョコレートケーキです。コーヒーと共にどうぞ」
チョコレートケーキとコーヒーが出された。「ひなた」は残ったケーキを食べる勢いで平らげていく。
「ひなた」の様子を見て毒は入っていないと見た領事とトーマス2世はまずコーヒーを飲んだ。
「うっ苦い」「苦手な様なら砂糖とミルクを入れると良いですよ」と担当官。
「さっ砂糖ですか」帝国でも砂糖は貴重品だ、貴族ならともかく、領事の様な位の高い平民にも遠い存在だった。
トーマス2世は男爵ではあるが、伯爵などにならないと砂糖とは無縁である。
「うまい、なんて飲み物だ」、中隊長と小隊長も恐る恐る砂糖とミルクをたっぷり入れて飲んだ。
「!!?なんだ!!!こんなもの初めて飲んだ」と中隊長と小隊長。
「ひなた」がケーキのお代わりを取っていた。
「宜しければケーキもどうぞ」と担当官。
するとドアが開いて糧食班長が、イチゴタルトを持って入って来た。「次のケーキが出来ました」
「ひなた」は急いでお代わりしたチョコレートケーキを口に放り込むと、タルトを取った。
「さっあなた方もどうぞ」と担当官。「ひなた」に向いて「早く食べないと無くなりそうです」と。
領事とトーマス2世はチョコレートケーキを一口食べた。「うまい。うますぎる」と何処かのCMの様に言った。
「当艦の糧食班長は休暇中に有名パテシエと言っても判りませんね、高名なケーキ職人の元に弟子入りして習ったのです。どこに出しても恥ずかしくない物ですよ」と遠山海将補。
「あのあなた方はいつもこんなのを食べているのですか」とトーマス2世。
「我々の艦は旗艦でさえ暗く臭いのに、この艦は明るく清潔。隊員の志気も高い」
「こんな艦を相手にしていたのか」とトーマス2世は海戦を思い出しながらため息と同時に言った。
「確かにうまいし清潔だ」と領事。
その国の民度は庶民の食べ物や清潔感から計る事ができる。
領事とトーマス2世はあまりにも帝国と民度が違う事にただ感心するばかりであった。
「このケーキと言う食べ物は帝都でもないかもしれない」とトーマス2世。
「早速ですが、食べながら飲みながらで結構ですので、あなた方の条件等あればお聞かせ願いたい」
「そうですか、では私たちはこれで退出します」と遠山海将補と糧食班長は退出した。
外務省担当官と帝国の交渉は始まった。
「我々に条件はありません」領事が言った。昨日打ち合わせしていた内容だ。
「では返還はお約束どおりこの港町ドルステインでよろしいですね」
「船は5日後に、この艦隊と共に到着します」
「帝国兵士の方々を乗せた船は大きいので、この「いせ」より少し大きいですから、港に横付けしたいので、その時は・・・」
「分かっています。港の艦隊を沖に停泊させます」とトーマス2世。
突然ケーキを食べていた「ひなた」が「ちょっとすいません」と言って会議室から出た。
遠山海将補を追って艦橋を登っていく。
「遠山さん、椎名さん、ちょっとよろしいですか」
「ひなたさんどうしましたか」
「実は中隊長の考えが読めてしまったので警告を出そうとしています」
「港に戻ったら交渉団を捕らえるつもりです」
「そうかそんな事だろうと思いました」と椎名主席参謀。
「読みどおりだな」と遠山海将補。
「ええ、直情型は先が読みやすくて助かります」と椎名主席参謀。
「ひなた」は頭に「?????」と何が何だかわからなかった。既に読んでいたとは。
「なら大丈夫ですね。戻ります」「あっそうだ交渉がうまく行ったら遠山海将補さん別のタルトも食べたいです」
「食い気か大いに結構」と遠山海将補は大笑いして頷いた。
それから交渉はこちらの筋書き通りに進み。無事終わるのだった。
「なにか質問ありますか。お応えできる範囲で答えます」と担当官。
最初にトーマス2世が言う。「貴国は何隻、艦をお持ちなのです」
「正確には判りませんが、戦闘艦は約50隻程度です」と担当官。もちろん潜水艦は除いている。
続いて中隊長が聞く。「兵士は何人いるのか」
「帝国陸軍に相当する陸上部隊なら16万人位でしょうか」
「たったそれだけなのか」
「ええ、兵器の性能が違いますからそれだけでも充分なのですよ」
「確かにたった6艦に840隻も沈められるはずだ」とトーマス2世。
「帝国艦隊は500隻位ですか沈めたのは、大型艦ばかりでしたが」と担当官。
「あの来るとき乗った変な機械は何ですか」と領事が聞く。
「帰りもお送りしますが、ヘリコプターと言って回転する大きな羽で上昇できます」
「ヘリコプター・・・」噛みしめるように領事は言う。
「いせ」艦橋にF-35Bから連絡が入る。「敵野営地に動き、港に200名程向かっています」
「いよいよ動き出したか」と遠山海将補。
「椎名主席参謀対処を開始せよ」「はっ」
「艦隊司令よりファイアーキラー隊、野営地より兵士がそちらに向かっている。歓迎してくれ」と無線を飛ばす。
「ファイアーキラー1了解」「ファイアーキラー2了解」とAH-1Sコブラ2機に連絡した。
港地区特別警備班にも連絡を入れる。「着剣、対処を開始する」と号令を発する。
「スカイキラー3及びスカイキラー4、コブラ隊を援護せよ」と次々に指令を椎名主席参謀が飛ばす。
F-35BはAH-1Sコブラ2機の目となり、野営地から港に向かう兵士を実況した。
AH-1Sコブラ2機には海上自衛隊の様な画像装置が無いのだ。
AH-1Sコブラは路地の上空に停止して、兵士を待った。
やがて兵士が走って来た。交渉協定違反なので警告はしない。
いきなりハイドラ70発射装置から、M229ミサイルを発射する。着発信管を付けたミサイルは着地と同時に爆発する。たった2kgの炸薬弾頭ではあるが爆発の威力は大きく、兵士が空を飛ぶ。
続いて20mm M197ガトリング砲が連続した音をばら撒き、兵士が倒れる。兵士達はなにも出来ない。
ただ死んでいくだけだ。
海戦で参加できなかった恨みでも解消するかのようにファイアーキラー隊は兵士200名を1分以内で綺麗に片づけた。SH-60Jが野営に飛んでいく。F-35Bはそちらの護衛についた。
「こちらは日本国海上自衛隊である。交渉団を捕らえようとする集団を抹殺した」
「お前達は、彼らの遺体を引き取りなさい。港に立ち入ろうとする者は同じ運命となる事を肝に命じよ」と脅かしが大半の放送がなされ、兵士達は荷車を持って港街に押し寄せた。
その無残な光景を目のあたりにして声も出ない。荷車に遺体を乗せて野営地に戻っていった。
「いせ」艦橋に連絡が入る。椎名主席参謀は「艦隊司令、対処完了です」と遠山海将補に向かって言った。
「何人位犠牲になった」「約200名との事です」「痛ましい物だな。どれ最後の挨拶をしてくるか」
と言って会議室に向かって行った。
「お疲れ様です」と遠山海将補が大陸語で言う。
「会議はいかがでした」担当官は「予定どおりです」と日本語で返す。
「では、艦内を少し案内しましょう」と遠山海将補が言う。
「皆さんヘリコプターが気になるようですよ」と担当官。
「では医療区画と格納庫をご案内しましょう」と言い扉を開けて誘導した。
「こちらが医療室です。簡単な手術なら・・・簡単な傷の縫合や足の切断などここでできます」
綺麗に整頓された医療室で清潔であった。
次に格納庫に案内して、駐機しているSH-60Kを紹介した。「これがヘリコプターです。上の羽が回転して飛び立つことができます」「海の中にいる生物なども発見する事が出来ますよ」
「では飛行甲板にどうぞ、頼む」と言いエレベーターオペレーターに飛行甲板への上昇を命じた。
「おおおお、これは登っていく」と領事。
「どうぞこの機が皆さんをお送りする機体です」「どうぞお乗りください」と遠山海将補。
「「ひなた」さん私も同行しますのでよろしくお願いしますね」
遠山海将補と担当官1名、「ひなた」に領事、トーマス2世、中隊長、小隊長の7名はSH-60Kに乗り込んだ。
飛び立ち、港町ドルステインの港地区に着陸した。
日本の艦隊司令も同行した事で、中隊長はわくわくしていた。
「ではお気をつけてお帰りください。次に来るときもケーキとコーヒーを用意しますね」と遠山海将補が言う。
「んっどうしました中隊長殿、迎えは来ませんよ」と遠山海将補。
中隊長と小隊長は焦っている。
遠山海将補が手を上げた。着剣した89式5.56mm小銃を持つ港地区特別警備班が二人を囲んだ。
「あなた方はこれだけの戦力差をなぜ理解しないのですか、無駄に約200名が死にましたよ」
「全て無能なあなた方の責任です」遠山海将補は二人を睨む。
「そっそんなばかな」と小隊長。
「なにかされたのですかな」とトーマス2世。
「領事殿、道を幾つか壊してしまいました」と遠山海将補。
「なにか言い訳はありますか」とたたみ掛ける。
「後でお土産をお渡ししますけど、死なないでくださいね」完全に脅しである。
「そっそそんな事」と中隊長が言う。
携帯無線機を片手に遠山海将補が言う。「いまお渡ししましょうか。死なれても後が面倒ですから」
「やれ」と一言。遠くで爆発が起きる。それも4回、中隊長の寝室テントに会議室テントが吹き飛ぶ。そしてAH-1Sコブラ2機も野営地の食料保存所に向けてハイドラ70発射装置から、M229ミサイルを全弾発射した。
糧食隊の荷馬車と調理テント、食料保存テントが吹き飛んだ。
「そろそろ学習してください。あなた方が変な事を考えるたびに大切な兵士の命が消えるのですよ」
「それともここで決着を付けますか」と遠山海将補。
「「ひなた」さんお願いします」「はい」
「ひなた」は思念をビーム状にして二人に放射した。
「逆らうな、逆らえば殺す」と念じた。
2人は震えだし、膝から崩れ落ちた。「ハイエルフがいたのか、そんな馬鹿な」と小隊長。
「あなたは伝説のハイエルフ様ですか」と領事が膝まずく。トーマス2世も倣った。
「帝国陸軍軍人にはこの様な者たちが偉い地位にいます」「苦労するとは思いますが我々は約束を守ります」「どうぞ怒りをお納めください」と領事が言う。
交渉は終わり、帝国陸軍人は心に日本の本当の恐ろしさを刻むのであった。
ありがとうございます。
会話の文書は長くなるので好きで気ないです。はは。