第37話 第二次国境検問所攻防戦その3
第37話を投稿します。
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同時多発的に事態は進む。
ドーザ大陸交渉艦隊は「大島」を出港した。約34時間後に1,500km先の港町到着を目指して25ノットで進む。
途中で衛星画像から確認できた、「大島」から約800km南の島を調査してから「港町」と捕虜が言っていた街に向かう。
麓では特科の砲撃により帝国軍野営地のほとんどが失われた。突然轟音が聞こえ次々規則正しく爆発を始めた。F-4EJ改2機による空爆だ。民間人は近くにいないとの連絡を受け、2機でタイミングを合わせ次々と野営地を爆破していく。一番豪華なテントを見つけた。ホン・ドメルロイ男爵と参謀が会議をするテントだ。だが外に出てきたとたんに空爆を受け、男爵以下幹部は全員戦死した。
UH-1Jは9時前から戦場上空に待機して大きく戦況を報告していたが、そろそろ燃料が心配になってきた。
戦場を旋回しながら、ベースとのやり取りで一旦燃料補給に向かう。一旦特科の攻撃を停止してもらうが時間は10分しかない。
麓の戦場から高度を上げて、坂道の右側を通過してベースに向かう。途中、坂道から隣の山に逸れた一団を発見した。山頂ベースに連絡を入れて燃料補給に向かった。
帝国軍は混乱を極めている。
帝国軍第5師団第3中隊第5小隊は最後尾にいた、小隊長は伝令にて小隊に停止を指示する。
前方でつぎつぎ爆発が起きている。「やはり女神の国と言うのは本当だったのか」、第5小隊長は1/5になり残った兵士達約4千名を集め、「このままでは全滅だ、逃れるぞ」小隊生き残りを半分にわけ坂道から左右の山に分け登らせた。伝令に追加として「勝てないと思ったら抵抗するな」と生き残りに伝えていた。
だが腐っても帝国兵である。一矢報いようと険しい道なき山を登っていく。これを第3普通科連隊が一番恐れていたのだ。
UH-1Jが山を登る一団を発見した。「マウントベース1こちらスカイ1」「検問所右側の山岳を2千名程が登っています。対処願います」「マウントベース1了解」「スカイアタッカー1スカイアタッカー2、こちらマウントベース1、12.5.5.8山岳を登る集団を発見、対処願いたい」とコブラに連絡をいれる。
坂道を登る人影はもうない、直ちにコブラ2機は右の山岳へ向かった。
帝国兵士が叫ぶ「見つかった、くるなー」コブラは無慈悲に20mmM197ガトリング砲を山岳にまるで登山でもしているような一団に向けた。連続した軽い発射音が聞こえる。下から煽るように上昇しながら撃ち尽くす。
ハイドラ70ロケット弾は麓で撃ち尽くしていた。BGM-71 TOW対戦車ミサイルは、対人戦には向かないことと高価なため積み込んでいなかった。コブラ1機が戻っていった。弾切れである。
これにより帝国兵士の何人かは助かった。やがてもう1機も戻っていった。
しばらくしたらさっきとは違う機体が飛んできた。UH-1Jだ。左側を山岳に向けて12.7mm重機関銃を構えた。さっきと違う音がして、山岳が次々岩や土塊を飛ばして弾けていた。しだいに兵士達に近づいて行き、兵士たちは山岳の斜面に腹ばいになり剣を投げ捨てた。降伏したようである。UH-1Jはスピーカーで大陸語を流した。「降伏の意思は確認した、直ちに山道に戻り、手を頭の後ろに組んで山頂に向かえ。逃走しようとしたものは容赦なく処分する」と流した。帝国軍第5師団第3中隊第5小隊の生き残り300名程は安堵と共に横に移動して山道に戻った。爆発でできた穴と仲間だったはずの遺体が沢山横たわっている。涙が止まらない兵士もいた。彼らも負けた記憶が無いのだ。こんな一方的な戦闘は初めてだった。
なにしろ相手の顔が、武器が、見えないのだ、彼らにとって一方的な殺戮であった。
帝国軍第5師団第3中隊第5小隊長と生き残りの2千名は山道を左に逸れて山登りをしていた。坂道の向こう側では飛ぶ機械により軽い音、重い音とさまざまな音が混じっていた。
小隊長と生き残りは、険しい山を登り2/3位まで行けた。
途中に洞窟があり、飛ぶ機械がこちらを確認する為に一度高くまで飛び、こちらの山岳に向かってきた。
小隊長は洞窟に一旦入る事を選択した。大きさは判らなかったが何とか約2千名が入れる大きな洞窟であった。奥は判らない。
最初は全員が入れる程の洞窟か考える暇もない、入り口に立って小隊の生き残りを誘導する。「順に奥に行け」と自分は最後に入る。とりあえず入り口付近に生えていた背の高い草を剣で刈り取って、入り口を偽装した。
UH-1Jは降伏した兵士達が、言われたとおり剣を捨て坂道に戻り、手を頭の後ろに回して2列で山道を登り始めた事を確認した後、特科の砲撃に巻き込まれない様に一度高度を3,300m程度まで取り、山道を横断していた。向こう側も探れとの指示であった。コブラは2機ともベースに戻っている。標高1,500m付近であった。
小隊長は近づいてくる飛ぶ機械をやりすごす?為に、相手に聞こえないと思うが音を立てずに息を殺した。
「見つかったら終わりだ、あの戦友達と同じ運命になる」と隊員に言い聞かせ音を立てない様に気を付けた。UH-1Jはヘリコプター映像伝送装置を搭載していたが、赤外線監視装置は積んでいなかった。
本来コブラの方が適任ではと思うが、コブラは兵装の補給中で飛び立つにはまだ時間がかかる。
UH-1Jは洞窟については事前に確認していたが、中を確認できずにいた。
しばらくするとUH-1JはOH-6Dと交代する為に麓に向かった。空爆隊は戻っていったが、特科群の砲撃はまだ続いていた。だが麓ではもう動く者は確認できず、特科群の砲撃目標指示と言うよりは、納め時を連絡する役目であった。
続いて10式や第1中隊が麓まで下りて確認する手筈となっていたが、予想外に崖崩れが多く、坂道も半分程削られた所も確認された。危険という事で、第1中隊と第2中隊は徒歩で麓まで行くこととなった。途中車両が通過できない場所を黄色の塗料で坂道をマーキングしていく。途中崖崩れで細くなった坂道はその幅を測りどの車両なら通れるか確認していた。第3中隊は降伏した兵士300名捕虜をの拘束の為に待っていた。途中で第1中隊と第2中隊が武装解除の確認をしてくれるから、待っているだけで良かった。
やがて1団が坂をゆっくり上ってきた。第3中隊は彼らから見て右側の防護壁に並ばせて人数を確認して座らせた。321名居た。けが人は捨ててきた様で、歩けるものばかりであった。
何人ずつかに分けて聴取を行う。聴取が終わった者はペットボトルの水を与えた。兵士は初めて見る容器に騒然となったが、開け方が判らなかったので、隊員が1つ持ち開けるのを実践して見せた。そして飲んだ。毒では無いと知らせるためであった。
兵士はそれを見た途端に開けて飲み始めた。「うまい、こんなうまい水は初めてだ」と口々に言い。一気に飲み干した。「これが女神様の水なのか」と惜しそうにペットボトルを振ってみた。「まだ飲みたいものは居るか、欲しければ片手をあげろ」との問いに全員が手をあげた。
第3普通科連隊第1第2中隊は徒歩で坂道を歩いていた。途中の遺体は後で回収できるように、崖側に積み重ねた。トラウマになりそうな光景ではあるが、彼らは前回の攻防戦を経験している強者である、平然と作業をこなしていく。
麓まで行くが、生きている者はいないようである。坂の途中よりひどい光景が展開されていた。
チロルの森の付近村人が、兵たちの持ち物を漁っていた。「私たちは食料もこいつらに取り上げられて食べるものもありません。これらを売ってお金を得ないと死んでしまいます」と訴えていた。第3普通科連隊第1第2中隊は見て見ぬふりをすることに決めたが、「あとでおまえ達に薪を渡すから、死体を集めて燃やしなさい」「このまま放置すると疫病が村に発生する」と言い、ベースに連絡した。了承された。
検問所から新73式小型トラック(通称パジェロ)6台が荷台に難民用の薪とガソリンを満載してゆっくり麓めがけて発進した。この普通車であれば通過できると第1中隊から連絡を受けていた。新73式小型トラックは荷物をおろした帰りに数名の隊員を乗せて、途中の遺体回収を行う。一度では終わらないので、何度も往復する。第1中隊第2中隊はふもとの様子を動画と写真に収めて検分していく。ただ、地元の話や残された残骸を調べた限りでは、人数が合わない事が判明した。村人の話では「ふもとが爆発したとたんに逃げ出した者がいる」村で何人か捕まえたとの事。それらの人間5名程度であるが尋問の為に検問所に連れ帰った。
第1中隊第2中隊は村人と協力して近くの枯れた木材を敷いて遺体を高く積み上げた。新73式小型トラックから降ろされた薪を遺体の周りに並べガソリンを撒いた。薪を村人は欲しそうにしていたが、「燃やすためだ、村人に病人を作らない為だ」と言い寡黙に仕事をこなしていった。
だがここは砲撃や空爆の現場だ、まともに防具とか食料とかは残っていない。その現状を見た第1中隊長はベースに連絡して、彼らに「検問所で食料を配給するから後で取りに来るように」と伝えた。
人間は難民指定できないが、ここは戦場である。多少の人道支援はやむを得ないとの判断だ。
マウントベース1の第3普通科連隊長は第2師団司令本部に連絡して、救援用食料と水を北海道から空輸する様に手配していた。マウントベース1では炊き出しで各1,000名分、3食分が精いっぱいである。翌日C-2による救援食料投下を実施する。
その頃、隣の山岳洞窟に逃れた帝国軍第5師団第3中隊第5小隊長と生き残りの2千名は仲間の仇を討つことを考えていた。幸いな事に彼らはまだ発見されていない。夜を待っていた。「夜襲なら仇を討てるだろう」と言う考えだ。ある意味正しい。
夜間になり行動を起こした。遠くにそびえたつ壁が月明りで見える。壁沿いに行って砦の反対側から一気に突入する命をかけた作戦である。時を測る魔道具は中隊長しか持っていない、いま何時かわからないが、日が沈んで大分経ち、やつらも寝ているだろうとの予測である。静かに音をなるべく立てずゆっくり登っていく。
洞窟で金属製の防具は脱いだ。やっと先頭が壁までたどり着いたと思ったら、砦から大きな音がした。
第3普通科連隊は夜間監視を第4中隊に任せていた。朝からの激務だが、翌日は交代する予定であった。
第1中隊と第2中隊は戻ってきて、人道支援の炊き出しと配布を行っていた。第3中隊は難民と捕虜の監視をしていた。
突然、マウントベース駐屯地の後方のセンサーが反応した。侵入者だ。
ありがとうございました。
次回は陸と海で戦闘が発生する様です。