第36話 第二次国境検問所攻防戦その2
第36話を投稿します。
本格戦闘に突入しています。
帝国軍は今回下からの攻撃で不利です。
第2師団第3普通科連隊国境検問所守備隊は事前の口上により戦闘態勢を整えていた。
だが、相手があり自然環境や不確定要素が交差する戦場である。なにが起こるか油断は禁物であった。
運命の開戦1時間半前、UH-1Jは連隊長のリクエストにより、ワーグナー「ワルキューレの騎行」を大音量で流しながら麓に最終警告をすべく飛び立っていった。「やれやれヘリコと言えばこれかよ」搭乗員も少しあきれながら飛び立つ。
麓に展開している帝国陸軍第5師団第3中隊長のホン・ドメルロイ男爵は朝食の最中であった。
「なんだこれは、うるさい」時刻は8時50分である。
見たこともない機械が空を飛んで聞いた事もない音楽を流している。だが、何かが始まりそうな予感がする。震えが出てきた。「これはなんだ、誰か教えろ」誰も知らない。
なぜ帝国軍は相手を知らずに戦いを吹っ掛けられるのか、実にステレオタイプの頭脳である、ある意味陸上自衛隊にとって相手にしやすいのかも知れない。なぜなら自衛隊は事前の戦力予測に戦略と戦術の組み立てが行われている、自衛隊は近代化された兵器による少数精鋭であった。目的と目標を間違えないエリート部隊である。しかし、そんな自衛隊にも幾つかの不確定要素があり、それに対して的確に排除できるかが真髄である。
UH-1Jは予定どおり麓を飛行し敵の主力や兵器について観察を続ける。9時になった。音楽を止め。
「われわれは日本国陸上自衛隊である。抵抗勢力は最大の火力で排除する。抵抗は無駄だ。直ちに引き返しなさい。引き返さない場合は10時より排除を開始する」事前に録音した連隊長の音声を流す。役者である。
「小癪な奴らめ、こちらも10時になったら総攻撃開始だ」ホン・ドメルロイ男爵は周りにパンを吐き飛ばしながら怒鳴った。UH-1J乗務員はひと際豪華なテントから出てきた豪華な衣装の人物が拳をあげてなにか叫んでいるのを確認した。「あっ怒っているかな」呟いた。
ホン・ドメルロイ男爵は参謀2名と小隊長5名を呼び「よいか、計画どおり進めよ。負けるはずがない」
「第5師団支援中隊(砲撃部隊)、第5攻城中隊(攻城兵器部隊)は移動準備を開始しろ」「すこし早いが攻撃位置まで先に移動し、長距離砲50門を一斉に浴びせろ。最新20センチ砲の威力を見せてやる」
最新20センチ砲と言えども撃ち上げるには1,000mが限界であった。つまり2/3の山道を進まなければ城壁内に撃ち込めないのである、だがホン・ドメルロイ男爵は歩兵出身であり、砲撃よりも最終的には人の波による蹂躙を楽しみにしていた。最新の兵器があっても生かせないのであれば無いも同じである。
ホン・ドメルロイ男爵は標高1,000m程度で城壁に弾を当てようと考えていた。砲撃隊長が「当たらない」と提言していたにも関わらずにである。検問所内に撃ち込んだら第3普通科連隊も損害が発生していたのかもしれない。だがそんな事よりメンツを大事にしていた。ステレオタイプの戦術に自信を持っていたのだ。
帝国陸軍第5師団第3中隊も砲撃隊の大砲や、30センチ臼砲を押したり弾を運ぶ馬車を押したり引っ張ったりして坂道を登って行った。
戦術が変わってきた。最初歩兵隊が検問所に押し寄せ、自衛隊を足止めしておき、20センチ砲と30センチ臼砲は時間をかけて登らせて標高2,500mまで行ければそこで砲撃開始の手筈であった。
最初に砲撃など予定にはなかったのだ。
大混乱しながら砲を運ぶ、彼らに有利なのは坂道は広く、なだらかに続いている事であり、なんとか砲をあげることができた。でも標高1,000mだ、30センチ臼砲はまだ届かない。
砲類が位置についた事で、歩兵を先行させた。急いで登っていく。
みんなハアハア言いながら登っていく。戦闘できるのか心配である。
UH-1Jより山頂検問所に無線が入る。「バード1よりマウントベース1、敵移動を開始しました」「大型砲と歴史の教科書で見た臼砲が運ばれて行きます」「マウントベース1了解」「そのまま観察を続けよ。特に付近の山岳に注意しろ」「バード1了解、監視を続ける」
検問所の拡声器が唸る。「OH-6D発進準備、準備しだい直ちに離陸」「各員に告ぐOH-6Dが発進する。十分に注意するように」続けて放送が入る「OH-6D離陸後直ちにAH-1Sの離陸準備に入れ」
無線も飛ぶ。「重迫撃隊用意」「重迫撃隊準備良し。いつでも行けます」「よし待機せよ」
「了解」「スカウター1から重迫撃隊」OH-6Dから連絡が入る。
「こちら重迫撃隊、スカウター1送れ」「敵砲撃隊及び歩兵隊は麓から登坂中である」「開戦時刻直前に座標を連絡する」「スカウター1、こちら重迫撃隊、了解」無線により120mm迫撃砲だけなく、81mm迫撃砲も準備に入る。今朝早く師団より、砲弾と迫撃砲弾頭に発射薬が届いていた。重迫撃砲中隊全員で弾頭と発射薬筒を合わせ一体にする作業をしていた。いつでも発射可能である。弾種は榴弾である。坂道を大きく壊したくなかったのでこれが最適な選択であった。
120mm迫撃砲と81mm迫撃砲を事前に打ち合わせた坂道に大雑把に合わせた。詳細目標はスカウター1からの報告待ちである。
避難民は中広場に退避させた。第4中隊は国境検問所の各要撃ポイントに付き、12.7mm重機関銃を構えている。ここも予備弾薬箱を後ろに積み重ねていて、4名1組になって重機関銃を撃つことになる。
拡声機から再び指示が飛ぶ。「各隊員に告ぐ、間もなく開戦の10時だ、怯むことなく向かってほしい」
「諸君の奮闘を期待する」連隊長であった。
運命の開戦時間である。
本来先手を取るべき帝国陸軍第5師団は各砲が所定位置についていない、坂道で遅れているのだ。
杜撰な計画だ。だがこれで歴戦を切り抜けてきたらしい。自衛隊なら叱責されるはずだ。
とにかく先手は陸上自衛隊となった。
「スカウター1より重迫撃隊、120mmの位置は15.2.3.1から15.2.4.5まで順に連射要請、81mmは12.1.5.1から12.2.6.2まで効力連射要請」「相手は大型砲と臼砲。以上」
無線で連隊長が「開戦時間となった。各員攻撃開始」最初に検問所側部に並んだ12.7mm重機関銃が下方に向けて3連射を何回も繰り返す。12.7mm重機関銃の有効射程は2,000mであるが撃ち下ろしで坂を掃射している。
次々歩兵が倒れていく。砲に対しても容赦なく12.7mm弾が飛んでいく、グアムなどで空の薬莢に弾頭を付けた12.7mm弾がキーホルダーとしてお土産で売っているが、弾頭は実に大きいのである、こんなものが飛んでくると一たまりもない。
勇敢な帝国兵士も抗うすべなく倒れていく。
鎧に大きな穴を開けて、手当ては間に合わない。撃たれた瞬間に体内を衝撃が走り心臓が停止してしまうのだ。とてもじゃないが助ける余裕もない。兵士達は大混乱となった。次に砲や兵士を迫撃砲の榴弾が襲う。
坂道が次々と爆発する。砲弾の破片や岩の欠片や土が襲い掛かる。新型砲は基部が木製なので壊れ砲が転がる。砲用の炸薬が誘爆し、影響で砲弾も周りに飛んでいく。臼砲はその形状から次々と坂道を転がり始め砲撃支援隊を次々になぎ倒していく。1基3トン以上もあるのだ、人間など潰されてしまう。砲と臼砲の全てを潰した。第3普通科連隊長は無線で「スカウター1、こちらマウントベース1、重迫撃砲隊に兵士の掃討を頼む」「スカウター1了解」「重迫撃砲隊、こちらスカウター1、続いて目標を指示する。120mは麓を中心に21.2.5.1から25.5.5.1まで効力射要請、敵のキャンプだ、81mmは登ってくる敵兵を14.1.1.2から14.2.3.2までを要請」「こちら重迫撃砲隊了解。調整後直ちに射撃に入る」次々とチロルの森から山道一帯が爆発しだいする。坂道を登っていた兵士も爆発に飛ばされる。30分経過し砲撃が止む。「AH-1S離陸準備終了後直ちに発進」「飛行後特化隊による砲撃に移る」「なお空爆は15分後である」「跳ね橋下げ、89式装甲戦闘車前へ」「第2中隊、第3中隊は所定の状況開始」
89式装甲戦闘車が検問所前広場の左右に展開し止まる。第2中隊、第3中隊はその陰に入り坂道を狙う。
第4中隊は上部で要撃ポイントに付いている者を除いて、難民たちの整理に当たっている。
ハイエルフの里からマリアがバイクで到着した。魔晶石を使って思念を3街区域(約1,200km)に送る。
「帝国軍が女神の国を攻撃しました。これを捨て置く事はできません。直ちに神の力を持って撃退します」
「奴隷たちは様子を見て女神の国に来なさい」「さもないと帝国と共に命を落とします」
と半ば脅迫である。
だが効果はあった。帝国陸軍第5師団第3中隊長のホン・ドメルロイ男爵に飼われていた通信係のエルフ2名はテントの裏から逃げ出した。これで第3中隊はどこにも連絡できなくなった。
ホン・ドメルロイはヤキモキしていた。もう兵士が城までついて蹂躙している時間である。伝令が来ない。
しばらくして、野営地が爆発を始めた、第2特科大隊の砲撃が始まったのだ。おまけにさっき飛んできた機械の親戚の様な物が軽い音を立てて何かしている。
スカウター1(OH-6D)は大忙しである。第2特科群の目標指示と宗谷特別区から飛び立つF-4EJ改に進入指示と目標位置を示していた。F-4EJ改は1機が無誘導爆弾Mk.82(500ポンド弾:約230kg)を18本も積んで飛び立っており、絨毯爆撃を目指していた。F-4EJ改は本来2022年までに廃棄される予定であったが廃棄作業が遅れていたのとF-35Aが2021年の事故で原因調査を行っていた影響で、調達できないでいたのだ。転移した時にはまだ現役の機体が百里(茨城県)にあり、F-35A調達の目途が立たなくなった現在現役に復帰した機体である。
宗谷特別区から飛び立ったF-4EJ改は岐阜基地で民間会社に解体される寸前を逆に整備して宗谷特別区用に送り込んできた機体であった。制空権を日本が握っている現在、F-4EJでも充分すぎる戦闘力であった。
こうして戦場は帝国軍の思惑から外れて変化していくのであった。
ありがとうございました。