第32話 南西諸島の開発
第32話を投稿いたします。
なんか平和に過ぎているようです。
大三角州の開発も進み、全国各地から集まっていた施設大隊も各駐屯地に戻る事となり、来た時の様に揚陸艦に乗せて各港を回り施設大隊を下ろしていくことになった。
来る時とは違い、完成した接岸埠頭に揚陸艦を2艦同時に横付けして次々とスロープを走り建設機器がその船内に飲み込まれていく。揚陸艦隊が来たときは無数のエアクッション艇が、海岸に建設機器を吐き出していたのだが、今は動き回るエアクッション艇もいない。施設大隊の器材と人員は原隊に戻る為に積み込むとすぐに隊員は上部甲板や作業甲板の通路に出てきて、残って作業を継続する北海道の第2師団や第7師団、第11旅団の各施設大隊と手を振って別れを惜しんだ。3ヵ月前に何もなかった大三角州に、今は港や簡易空港、防護壁や宿泊所に食堂、共同浴場がある。町になるにはまだ足りないが、残った施設大隊がやってくれるだろう。
やがて「ブルーリッジ」を旗艦とした揚陸艦隊は静かに宗谷特別地区の港を離れていった。
1週間の休暇の後海上自衛隊の揚陸艦は民間業者の器材と人員を乗せ南西諸島開発の任務に就く。
入れ替わるように、補給艦「とわだ」「はまな」が補給品と燃料を持って来た。
現地に残る施設大隊に休む暇はなかった。
当壁総理と佐野官房長官は総理執務室でまた何やら相談をしていた。
「総理、「宗谷特別行政地区」は何とか形になってきました」「避難民により労働力もある程度確保できています」「そろそろ、かの地は第二段階に入るべきかと思います」
「そうだな、経済の活性には良い起爆剤となるかもしれないな」「ついでに言うなら在日観光客も保護ではなく働いてもらうか」転移に取り残された外国人観光客の事を言っているのだ。
「ええ半年間保護しましたから、かの地への移住を考えて貰いましょう。もちろん強制はダメですので希望者からですが」
「陸上自衛隊の建設部隊は一部を残して引き上げを行っています。今後は民間会社を中心に回しましょう」
「では開発地区を割り振り、開発会社を公募しましょう」
「ところで、最近テレビで「工業用ヘリウムガス」が足りないと放送していたが、どうなんだ」
「経済産業大臣から早急な課題として要請が来ております」「半導体や光ファイバーを作る為には必要不可欠らしいです」「日本での産出はないので100%輸入ですが、輸入先が無い現在では、備蓄の切り崩しによって使われていますが、もう無い状況です」
「それは困ったな、新大陸や南西諸島には無いのですか」
「現在は南西諸島の海底にあるらしいと報告が来ております」「ヘリウムはガス田の副産物として採取できる事が多いそうです」「ガス田を開発すれば、ヘリウムも入手できる可能性があります」
「そうか、「宗谷特別行政地区」の開発に目途が付いたなら今度は南西諸島だな、早急に開発部隊を送り出してほしい」「なにしろ私のところにも経産大臣から集積回路が作れなくなると嘆願が来ているからね」
「では防衛大臣と相談の上、速やかに開発部隊を送り出しましょう」
「たのむ」当壁総理は自分の机に視線を戻すのであった。
高野防衛大臣は、またまた佐野官房長官の無茶振りに頭を痛めていた。
今回は海上自衛隊のドック型揚陸艦「おおすみ」「しもきた」「くにさき」の3艦と「ましゅう」「おうみ」補給艦2艦、そこに第2護衛隊、第5護衛隊、修理中のDDG-176「ちょうかい」を除く第8護衛隊3艦が参加する。佐世保港から民間の人員と器材を揚陸艦に積み込んでいた。
一方第2護衛隊旗艦のDDH-182「いせ」は海上自衛隊佐世保基地から第4師団の隊員を乗り込ませた。
「くにさき」と「ましゅう」「おうみ」は第4師団の残りの人員と器材を、第5施設団第2施設群の器材と人員を乗せた。大三角州から戻ってきて1週間しか経過していない。
外務省では猿人から猿語を教わり翻訳機に入れてはいたが、細かなニュアンスによって意味が変わるので難航していた。そこで今回出発する開発部隊にはハイエルフの『ミーナ』『ヒナタ』に同行を求めた。どうやら
『リナ』は船酔いする体質らしく、ハイエルフだけで千代田区の千鳥ヶ淵緑道で手漕ぎボートを借りて遊んでいたが、『リナ』だけが船酔いしてしまったとの事。今回の遠征もハイエルフの争奪戦となったが『リナ』だけは参加しなかった。結局前回行った『ナナ』『レイナ』は「ずるい」となり『ミーナ』『ヒナタ』に決まったのであった。『ナナ』から前回の様子を聞き外務省外交官とも打ち合わせをして準備は整った。
旅客機で佐世保空港に飛んだ一行ハイエルフ2名を含む8名は、羽田空港でひと騒ぎ起こし、佐世保空港でも空港始まって以来の約5千名ものファンに出迎えられた。まだまだハイエルフ人気は衰えてはいなかった。
開発部隊は前回と同様に西部方面航空隊 第3対戦車ヘリコプター隊からAH-1Sコブラ2機を「いせ」に積み込み。念のために「おおすみ」に西部方面戦車隊の第2戦車中隊10式戦車20両を乗員と共に乗せた。民間の掘削リグは大きく、ある程度分解して「おおすみ」「しもきた」に分けて搭載、他は国土交通省からの依頼で山頂にGPSと無線中継アンテナを設置するための器材とクレーン替りのCH-47JAを2機積み込んだ。
こうして十分な休養もなく、南西諸島開発部隊は多くの見送りを受けて出港していった。佐世保沖で護衛を担当する護衛艦隊と合流し、後に三次元物理探査船「資源」(海洋資源探査船)と合流して護衛艦と輸送艦の17艦の船団は南西諸島に進むのだった。
海洋掘削リグは専用の輸送船にて運ぶのが常道なのだが、今回は深さ2百mの海底という事もありセミサブマーシブル型を選択した。これは半潜水型で下部にフロートを配置して、海上に半分だけ浮かせて掘削するタイプである。フロートによって浮かべて運ぶことも可能ではあるが、曳航速度は遅く現地組み立ての方が試算的に早かったため今回は分解設置となった。
日本からは開発団がリグを設置したのちに同様なセミサブマーシブル型リグを4基送ることになっている。
掘削後は、パイプラインにより「手前島」「大島」に作られた積み出し埠頭により日本に送られる。
つまり施設大隊はこの埠頭を建設しなければならない。
その為の基礎は積み込んで、民間建設会社から基礎工事用機械を複数借りて積み込んでいた。
今回は現地でのセメント生産はできない為、セメント搬送船によりセメント原材料、外洋航海可能な運搬船により、砂、砂利を供給され現地にてコンクリートを作る。
こうして官民合同の大開発事業はスタートした。
いくつかの事件は起きたが、だいたい平和であった。
最大のニュースは猿族とゴリラ族の和解である。ハイエルフに促されてゴリラ族が謝罪し今後のテリトリーをはっきりさせて、互いに交流していくらしい。
また、「手前島」の森林には果物が多くなっていて、「ハイエルフの里」と同様に果樹園経営を猿人に勧めた。
ある日、海上にイルカが現れた。体長2m位のイルカとはわかるが種類までは詳しくない。
「手前島」の民間作業員が、少し海に入って食べ残しのパンを投げた。イルカのようなものはパンを食べた。
「もっとくれ」とでも言うようにイルカのようなものは陸地に向かって泳ぎ始めた。警備の陸上自衛隊員は「ただちに上がりなさい」と大声で叫んだ。作業員は駆け足で戻ってきた。
イルカのようなものも陸地に上陸してきた。足があるのだ。イルカのような黒い胴体に、短く小さい足が4本生えていた。自衛隊員は小銃を構えていたが、イルカのようなものは作業員の後をついて行き、よちよち歩いている。「きゅーきゅー」と鳴いてパンを貰っていた。
作業員が「もうないよ」と手をあげて振った。それを見た「イルカモドキ」は海に帰っていった。
しばらくして、先ほどの作業員が再び休憩の為に、海岸に顔を出した時、先ほどの「イルカモドキ」は再び現れて、作業員の前に口から「カツオ」を2匹も出した。お返しなのであろうか。体調2mの「イルカモドキ」は体長30cmのカツオを作業員にプレゼントした様だ。パンがおいしかったのだろうか。作業員は1匹を受け取り、1匹は「イルカモドキ」に返した。「ありがとうな、またパンやるからな」と約束していた。
いつしかこの「イルカモドキ」は「きゅー子」と名前を付けられ、作業員たちのマスコットになるのだった。ただしオスかメスなのかは不明である。しかも相当頭が良い。作業員の顔を覚えるから、たまらない。
常に沖にいて顔なじみの作業員がパンを手にもって大きく振り「きゅー子」と呼ぶと、「きゅーきゅー」と鳴いてパンを貰いにきたのだ。触らせてもくれる。作業員は癒された。
ハイエルフ達は猿族との交渉役として活躍した。開発させてもらうお礼に陸上自衛隊は台風でも壊れないような木造住居を作り猿族に住まわせた。南の東南アジアやミクロネシアの一部東方海上で発生した低気圧が発達して台風(Typhoon)と呼ぶのであるが、今でも「台風情報」としてニュースが流される。以前の「地球」より発生件数も威力も弱くなっていた。原因は判らない。大気の流れが違うと思うが、地球規模の気象観測衛星は後回しにされている為に「ひまわり7号8号」のデータしか無く原因は不明である。
以前の「地球」では各国の静止軌道周回型衛星や極軌道周回型衛星とのデータを全地球的に集計分析して独自スーパーコンピュータで分析を行っていたが「ひまわり」しかデータがない現在は分析精度も極端に低下してしまった。
開発を行っている南西諸島に問題は起きていなかった。「大島」「手前島」の2島にまずGPS補完アンテナが設置され、続いて残り2島の2千m級の山頂にも設置された。本来はもう少し東にGPS基地があると正確にはなるのだが島々の開発にはこれでも十分だった。早い衛星打ち上げが望まれた。
ありがとうございました。