第31話 日本山国境検問所
第31話を投稿します。
今回は国境検問所の騒動です。
国境検問所と言う名の城門は刻々と工事が進行していった。
避難してきた獣人やエルフからの聞き取り調査で、ドーザ大陸にはこの山脈以外に大きな山はない事が確認され、南北千4百kmに渡る大山脈を正式に「ドーザ山脈」(和名:同座山脈)と呼ぶことが決まった。
その中で比較的低い国境検問所の山を「日本山」と呼称を付け、さらに「日本山国境検問所」と名付けた。
他にも一番高い北方にある6千5百m級の山を「同座泰山」(どうざたいざん)、「同座泰山」に連なる4千m級から6千m級の山を「泰連山」(たいれんざん)と呼んだ。南側の3千m級から5千m級の山を「同座南連山」(どうざみなみれんざん)と呼び、それぞれ高さの高い順に「D1」からデジタルマップにより「D109」まで名付けていった。因みに「日本山」は「D100」と番号が付けられている。
以前の「地球」にあった、中国からウズベキスタンにまたがるカラコルム山脈をイギリス統治時代のインド測量局が並んでいる順番にカラコルムの「K」にちなんでつけていった。
高さがエベレスト(チョモランマ)に次いで2番目という事で「K2」が有名であるが、意味は「カラコルム山脈測量番号2号」である。カラコルムナンバーは確認できているだけで、K1からK35まであり(他書によるとK32まで)、途中の比較的高くない山も連なる山としてK*bやK*dなど(*は数字)と番号が付いている。当時、現地では「K2」を「チョゴリ」(大きな山)と呼ばれていたが正式名称ではない。つまり高さが2番目だから「K2」ではなく順番に付けた番号がたまたま「K2」で高さが2番目だっただけである。
国境検問所に至る大森林側の山道はコンクリートパイルの打ち込み工事を開始していた。コンクリートパイルを打ち込んだのちに高粘度コンクリート(水分量を減らしたコンクリート)を散布し整えていく。斜面を作るのには通常のコンクリートではレベルが水平になって下方に流れてしまうので、高粘度コンクリートを高圧で散布して、鉄筋の下側にも回り込むように工事をした。ロードローラーも使えるので工事は早い。
一般的にアスファルト舗装が有名ではあるが、耐久が10年と短く、重量物が通る道には適さない。国土交通省からの舗装指示書では重量物が通る道の舗装はコンクリートが推奨されている。コンテナヤードや港湾施設の舗装はほとんどコンクリートである。耐久は20年以上となっている。
国境検問所の工事について、取り巻く防御壁は完成した。中を拡充させていく。
最初に行ったのは、防御壁の上にキャットウォークを作り、要所毎に12.7mm重機関銃をM3対空銃架に乗せて設置した。これは上を向けば対空火器にもなる優れた銃架台で下方にも向けられる。峠を登ってくる敵に向けて発射する事が可能である。(下方の範囲が広くなる様に少し斜度を付けて固定した)
次に防御堀にはね上げ式の鉄橋を国内で鋼材作成し現地にて溶接組み立てを行った。約60tの加重に耐える鋼鉄の橋である。長さ10mを油圧で持ち上げる仕組みとなっており、90式戦車でも通れるように設計された。
検問所内部にはCH-47JAやV-22が駐機できる大型のヘリポートを4つ、ここには帯広駐屯地の第1対戦車ヘリコプター隊からトレーラーでAH-1Sコブラを2機持ってきて組み立てた。他には宿舎に指令所、『ストーンゴーレム』の住居跡5つの穴を利用した、1つは食堂に娯楽室、1つは弾薬貯蔵庫。他の3つの穴は少し広げて将来は戦車車庫として利用する。
これで計5ヶ所の12.7mm重機関銃銃架に守られた砦が完成した。電力は風力発電の風車を隣の山に4基設置した。風切り音がうるさいのである。
元山頂を削った門前広場と防護壁を挟んだ大森林側には重迫撃砲中隊の陣地を作った。山の下り斜面を上方から攻撃しなくてはならないので緻密な測量地図を作り、隊で共通認識していく。チロルの森側山道については元のままである。なにも工事する予定はない。
工事が一段落して何日か過ぎ、下方から人が登ってくるのが確認された。
検問所にサイレンが響く、隊員が次々戦闘準備を終えて検問所内の広場に飛び出して行く。
要撃員はキャットウォークから持ち場の重機関銃に取りついた。一応跳ね橋は上げてあった。
門前に人が集まり始め、警備担当の第3普通科連隊は検問所内の広場に整列していった。
門前の監視カメラには、一様に身なりの貧相な者達が集まっている。その数は2百人と思われた。
検問所担当の第3普通科連隊隊長は第2師団司令本部に無線連絡し、すぐに第2師団幕僚長中野一等陸佐が第2師団第2飛行隊のUH-1Jにて検問所に文字通り飛んできた。
中野幕僚長は門の上から拡声器で「代表者を3名決めろ、その者と話をする」と翻訳機で告げ「30分待つ」と更に告げた。やがて3名が手をあげ、門の横の通用出入口から招き入れた。
門の内側に作られた尋問室で代表者3人と中野幕僚長と連隊長、第一中隊長が対応した。
この時、ハイエルフの里へマリアに来るように頼んでいた。
「あなたがたはこの検問所に何か用事がありますか?」
「私たちはドーザ大陸で隠れ住んでいた者達です、帝国に迫害を受けて逃げ回っていました」
「2ヶ月前エルフからチロル森の山上に女神様の国ができたと魔道通信が全国に向けて発信されました。幾人ものエルフがそれを繋いで大陸内ほぼ全ての獣人やエルフ、ドワーフはここを目指しています」
「どうか我々を女神様の国に逃れさせてはいただけないでしょうか?」
「あなた方はどの様な種族で何人いますか?」
「獣人は虎族、ゴリラ族、猿族、ウサギ族など128人、エルフ族が40人、ドワーフ族が同じく41人です。合計209名です」
「虎族とエルフ族は子供もいます」
「状況は判りました」「先ほどの話ですが、大陸中の獣人等がここを目指しているのですか?」
「ええ、奴隷になった者を含めてここに来る事を狙っています」
「規模は判りますか?」「もう50年も前ですが前の国王は共生主義でしたので約15万人と聞いていますが、今はそんなには生きてはいないでしょう」
「わかりました」「師団・・・いや女神様にお伺いを立てますので、門の外でお待ちいただけますか?」
「飲み物と簡単な食料をお渡しします」「乳児はいませんか? ミルクなら用意があります」
「幼児はいません。」「有難うございます。外で女神様をお待ちします」
「女神様はこの山の反対側にある里に住んでいます。時間がかかります」
「それでも我々は待つしかできません」
中野幕僚長は師団司令に報告すると共に、大三角州に駐在している外務省職員へ連絡して、難民の受け入れについて、外務省見解を聞いた。
外務省は難民の積極的受け入れは望まないが人道上必要であれば処置を講ずると言うお役所的見解であった。第2師団としては前回の難民が非常に良く働いてくれており、問題も起きていない為、難民受け入れについては積極的でないにしろ迫害の危険性があるのなら受け入れるという態度を決めていた。もちろん防衛省のお墨付きである。
やがてハイエルフの里からマリアがきた。「陸上自衛隊って人いやエルフ使いが荒い」と会うなり文句を言ってきた。第5旅団の件は第2師団には連絡が行ってなかった。
中野幕僚長が対応する。
「すいませんマリアさんお忙しいところを、実はまた難民が来ましたので、スパイや犯罪者が入り込んでいないかを確認いただきたくお願いいたしました」
「わかったわ、すぐに始めましょう」
第3普通科連隊は通用出入口から難民に列を作らせて座らせ、一組ずつ呼び中に入れて尋問室で取り調べにかかった。
最初は虎族の族長らしき者と家族であった。
どの人物にも同じ質問をする。「あなたがここに来た理由は?」これだけで思念の揺らぎにより、スパイや犯罪者が解るのである。
調査は流れ作業の様に進んで行った。
合格した者は中に入って、中央広場に作った椅子とテーブルに腰かけて温かい飲み物を出された。
そうして50名程になった時、トラックに乗せ第2師団の難民キャンプに増設した難民用テントに誘導するのだった。
この頃になると「難民の現実」と言うテレビ番組が120分の枠で国営放送から流され、寄付金や余っている服や靴に日用品、化粧品、文房具が大量に送られてきた。第2師団で仕分けもしているが、人手が足りなくなり、ハイエルフや先の難民にも手伝ってもらっていた。
難民キャンプは本来簡易住宅なのだが、建設が間に合っていない。
こうして、80人程度調査が終わった時に夜となっていた。
門前広場に焚火をして、夜のおにぎりと温かいみそ汁を全員にふるまった。まだ120人以上いる。
翌日になると奇妙な物が増えていた。チロル地方から人間が門前広場に屋台を出し始めていた。
大陸の名物なのか、ふかしたジャガイモらしきものにチーズを掛けた食べ物。硬いパンを焼いて渡す屋台、色の悪いソーセージを売っている屋台など、5店が粗末なテーブルに品物を並べて売っていた。
調査を待っている難民の数は徐々に増えている気がする。
中野幕僚長が連隊長に言う。「なんか難民増えてないか」「ええ私も気になって数えたら150名になっていました」「話を聞いたらまだ後続がいるらしいです」「どうしますか」
「仕方ない、調査出来る限りやるさ」
マリアがバイクで来た。
「さっ始めましょう」昨日と同じ光景が繰り返された。
何組目かの色黒エルフの家族の時であった。
「あなたがここに来た理由は?」とマリアが聞いた。
親、娘と答えていき、マリアは隣の中野幕僚長の膝を見えない様につついた。
娘に向かって「本当の事を言いなさい」とマリア。
娘は突然泣き出し、「女神様に嘘はバレルからやりたくないと言ったのですが、無理やりに・・・」
理由はこうだ、女神の国があると聞いた奴隷商人が、この色黒エルフの娘を使って逃れたエルフを奴隷にするべく潜入させたらしい。家族の命と引き換えにつまりここにいる家族以外に妹が1人人質になっているらしい。妹と姉の間の魔道通信でわかり次第、奴隷商人が小隊を引き連れてくるらしい。
あまりにも杜撰な計画にあきれてしまった。連隊長は第3普通科連隊第1中隊長を呼び状況を告げ、奴隷商人を捕らえるように指示した。
色黒エルフの娘に向かって「今から奴隷商人に連絡しなさい。門前広場にエルフがたくさんいますと」
「はいわかりました」「お父さんとお母さんは助けてください。おねがいします」
第3普通科連隊第1中隊は跳ね橋を降ろし門前広場に96式装輪装甲車を4台隅に配置して奴隷商人を待った。
色黒エルフの話ではすぐチロルの麓まで奴隷商人は来ているらしい。登ってくれば早くて2時間程度で現れるはずと言っていた。
やがて、難民に交じって奴隷商人と商隊15人が現れた、服装が違うのでばれている。
奴隷商人は沢山並んでいる難民を値踏みするかの様に見まわしていた。色黒エルフの妹も連れてきていた。商隊のリーダーに「あれとあれとあれ」、と指示を出して「やれ」と一言。
商隊のリーダーが剣を抜き、何かを言おうとした時、89式5.56mm小銃から一斉に銃弾が放たれた。
リーダーらしき男は、腕を撃たれ剣を取り落とし転ぶ。見ていた仲間5人ほどが一斉に剣を抜き向かって来るが、突然96式装輪装甲車から放たれる重い射撃音。上部に取り付けられた12.7mm重機関銃M2が火を噴き、男たちは吹き飛ばされ、体に大穴を開けられて死んだ。
残った男たちは、人質を取り剣で威嚇している。左右に展開している96式装輪装甲車の陰から、頭部を狙って89式5.56mm小銃による狙撃。男たちは奴隷商人を除いて殆どが死に、リーダーは腕を撃たれて蹲っていた。奴隷商人は周りを小銃に囲まれ、仕方なく腹ばいになって降伏の意思を示した。
通用出入口から戻されていた色黒エルフの姉は妹と抱き合っていた。
色黒エルフの姉に向かってマリアは(あなたが犯罪に加担したことは明白です、ですが自衛隊の人たちは奴隷商人を裁判にかけるにはあなたの証言が必要だと言っています)(妹は両親のもとに渡しますが、あなたは裁判まで牢に入れられます)(よろしいですね)
色黒エルフの妹は姉の服を強く握り涙目になっていた。
姉は「はい覚悟しています」とだけ言い手錠を掛けられて検問所内に作られた留置場に一旦入れられた。
奴隷商人も留置所へ、商隊リーダーは救護所で治療を受けている。ライフル弾は腕を貫通していて骨には異常がなかったので止血と消毒と抗生剤を飲み安静にしていた。隊員が2名監視している。
そんな騒ぎもありながら、1時間近くロスして調査は進む。
中野幕僚長は考えていた。もし門前で戦闘になったら大勢の難民が巻き込まれる。
だからと言って中に入れて待機させるわけにもいかない、まだスパイや犯罪者が紛れ込む可能性があるからだ、犯罪者と言っても「殺人」や「重傷害」などの犯罪者が対象で、「政治犯」などは含まない。
ハイエルフの前では嘘は付けないので、その旨門前で放送している。
また屋台も邪魔であった。流れ弾が行く可能性があるからだ。
検討の結果、門前広場にもう一つ簡易壁を作り、難民はその外で待機させ、戦闘になったら内側に入れようということになった。厚さ1m高さ3mの簡易壁でも多少の防御にはなる。ただし防護壁上部に付けた12.7mm重機関銃からは、前に壁があると死角に入られてしまう、それだけが問題だった。いざとなったらAH-1Sコブラを飛ばして掃射するかと考えていた。
こうして大三角州の労働力は思いがけない形で充実していった。
ありがとうございました。
帝国軍の第5師団が到着するにはまだ時間がかかりそうです。
そう言えば「手前島」や「大島」の開発はどうなったのでしょうか。気になります。