第26話 宗谷特別自治区の戦い4
第26話を投稿します。
戦闘シーンは長くなりますね。次に持ち込みたくなかったので、第26話は長くなりました。
なにやらエルフとストンゴーレムの子供がいたようです。しかもハイエルフを女神様と呼んでいます。
稚内臨時航空自衛隊基地から2機の「F-2」が精密誘導爆弾GBU-38/Bを翼下に4本ぶら下げ飛び立っていった。
帝国軍第2歩兵中隊長ストロスキー男爵は第5小隊の後方で、幕僚と共に行動していた。ようやく伝令が伝言を運んできた。第1第3小隊長からだ、「林の中で敵の攻撃を受けている。力押しで乗り切る予定」
続いて第2小隊長からの伝令「第2小隊は予定位置についた、予定行動に移る」犠牲者の事には触れない。
「ほぼ予定通り進んでいるな」ハイデルバーグと第6小隊第7小隊は予備戦力だ、『ストーンゴーレム』の村に残しているが伝令により行動開始する手筈となっている。
ストロスキー男爵は勝利を確信していた。相手は10人に帝国兵士5万人は過剰戦力だ、これで負けるわけがない。筈であった。
いきなり轟音が響き、遠くから早い何かが飛んできた。
『ストーンゴーレム』の村からものすごい音がしている。
その頃、第6第7小隊は『ストーンゴーレム』の村広場で待機していた。
ハイデルバーグと参謀たちと小隊長2人は、『ストーンゴーレム』住処の横穴に護衛と共に入っていた。
暇つぶしであるから奥まで行かない。
その時、控えていた第6小隊が爆発した。2回も、続いて第7小隊が2回爆発した。
爆発と爆風、熱風で何人もの兵士が亡くなった。これは悪魔の所業か、また轟音がしたと思ったら4回爆発した。ほとんど密集して待機していた、第6小隊、第7小隊は壊滅した。約2万人が固まって待機していたのだ。2機の「F-2」が精密誘導爆弾GBU-38/Bを2発ずつ。兵士が密集している所を爆風でなぎ倒すように丁寧に倒していく。無慈悲であった。ハイデルバーグと参謀と小隊長2人は『ストーンゴーレム』住処の横穴から爆発の光景を見ていた。当然ものすごい爆風も横穴に押し寄せてくる。
ハイデルバーグ達4人は穴の奥に飛ばされ、耳が一時的に聞こえなくなっていた。
精密誘導爆弾GBU-38/B爆弾を全て投下した「F-2」は、山側の道に並んだ弓矢隊をJM61A1、20mmバルカン砲で掃射していく。弾が尽きるまで何度も旋回し、次々と倒していく。弓矢隊も逃げられない。ただの的になっていた。
弓矢隊の遺体を崖下に落とし、第5小隊が進んできた。山道を検問所まで走り、肉弾戦を行うために、帝国兵の最大の攻撃は直接戦闘、つまり肉弾戦にあった。一人ひとりの戦闘スキルは高く、1対1ならほぼ勝てる、そんな兵士を帝国は育てていた。だから今回も勝利を確信していた。
帝国第1第3小隊に向けて、監視所から砲撃を要請。第2特科連隊第2特科大隊の第3射撃中隊と合流した第4射撃中隊合わせて10両の99式自走155mmりゅう弾砲が一斉に予定の場所に向けて野戦特科射撃指揮装置からの指示により砲撃を開始した。
阿鼻叫喚の帝国軍第1小隊、第3小隊は地雷原に突入して20分、後ろから次々押されて、いやいや前に行ってしまう。前には吹き飛ばされた人間の様な物の腕や足が地面に転がり、まさに地獄であった。
そこに音を立てて何かが飛んでくる。
いたるところに大きな火花と煙に爆風、近くの者は爆風に飛ばされ、腕や足が取れて人形の様に飛ばされていく。ある者は爆心に近く、音がして閃光が走り、爆風が来たと思ったら、姿が消えていた。
命からがら林を抜けた者に試練はまだ襲い掛かった。
上から下っていた帝国兵に今度は右の丘陵から弾が飛んできた。左に行った奴は、鎧を付けた体に大きな穴が開いて倒れた。そう第3普通科連隊第3中隊だ、崖下から地雷の炸裂音を聞き、予定の場所に移動してきた。
林を抜けてくる兵士達を斜めから射撃し、左側に来る奴は検問所の96式装輪装甲車12.7mm重機関銃が林に向けて射撃を繰り返し行っていた。
前日の深夜、OP-3Cからの情報により、大勢力が山頂に展開していて、その数は3万人以上と報告を受けていた第3普通科連隊長と参謀は、全ての中隊に対し予備の弾薬弾倉を予定地点に埋めておき、いつでも補充できるように体制を整えていた。12.7mm重機関銃M2についても全ての予備弾薬帯を用意させていた。もちろん弾薬帯交換時は撃てなくなるが、検問所についた第3普通科連隊第1中隊と連動して弾幕を切らさない様にしていた。
続いて監視所は山側崖の上を指示していた。ここには帝国軍の第5小隊が突入のタイミングを計っていた。
低姿勢でいつでも飛び出せる様子から、この隊は山道を走って検問所まで走って肉弾戦を予定している隊であると見破った。第2特科大隊の監視員は予定の座標を指示した。
突然、林の山上入り口後方2m地点で先頭が待機している帝国軍の第5小隊は音と共に、上から山が崩れてきた。崖にいるものは土砂と共に崖に押し出され10m下に落ちていった。あるものは飛ばされ林に入ってしまった。
監視所は次々と目標を指示して行く。
その時警戒センサーが光始めた。監視所に近づいてくる集団を検知したのだ、すかさず側方の藪に目を移す。中腰で近づいてくる集団。まだ距離は2km程ある。ただし敵は大勢いる。帝国軍第2小隊と第4小隊はそれぞれ予定コースを進んでいた。山の中腹に展開し、一斉に下に降りて行って、検問所の後方から襲う計画だ。
監視所は監視所2km前方の山腹に砲撃指示。一斉に山肌が爆発する。帝国軍第2小隊と第4小隊の生き残り1万5千人が、ある者は驚き滑落、ある者は完全に姿が消えた、どこかに飛ばされたようだ。必死で藪に入った兵士は、指向性散弾や監視所に設置した12.7mm重機関銃M2からの無慈悲な銃弾により刻まれていく。
たまらず山を下った者が多くなった。なにしろ進めば地獄だ。
命からがら山を下り終えた帝国軍第2小隊と第4小隊の生き残りは約3千人。
息を整え、予定の逆側からの強襲に準備を整えた。だが第2第4小隊長ももういない。
そこは百戦錬磨の兵士たち、あらかじめ決められた行動とルートを聞いていたおかげで、残りの兵士たちでも規律的行動が可能であった。兵士たちはもう少し下り、結果的にはハイエルフの里に近づいているのだが、山の麓を回り込もうと行動を開始した。予定通りと思った瞬間、またあの嫌な音が響き渡った。
検問所の後方を守っていた第2戦車中隊の第4戦車小隊の74式戦車5両がハイエルフの里に近い森林から兵士たちの側方を74式車載7.62mm機関銃と12.7mm重機関銃M2をそれぞれ撃っている。
兵士たちは最後のあがきとして、武器を持ち74式戦車に向かっていく。勝算もないが、帝国兵士の意地なのであろう。どんどん死体となって行く。まだ山の上からは帝国軍第2小隊と第4小隊の生き残りが下りてくる。
そこに隊無線を聞いた第1小隊の90式戦車5両も合流してきた。90式戦車の副武装は74式と同じだ。
90式戦車は帝国軍第2小隊と第4小隊の生き残りや新たに下りてきた兵士達に検問所側から撃っていた。
74式戦車は山側に撃っているので、帝国軍第2小隊と第4小隊の生き残りは正面と右側から挟撃されて逃げるすべがない。下りてきた山を登るしかないのだ。すかさず、山の正面に陣取っている74式戦車から91式105mm多目的対戦車榴弾が山肌に向かって撃ちだされた。もう戻れないのだ。兵士たちは武器を捨てて無抵抗となった。兵士たちは100名となっていた。
帝国軍第1小隊と第3小隊は地獄の林を抜け開けた場所に出たと思ったら、左右から挟撃されてその数を減らしていった。男たちにはもう抵抗する気力が残っていない。小隊長もとっくに死んだ。降伏を妨げる者はいない。帝国軍第1小隊と第3小隊は武器である剣を投げ捨て、地面に腹ばいになっている。
これが帝国の降伏スタイルなのか、第3普通科連隊第3中隊員は慎重に、そして林から降りてくるものがいないか監視させ、残りで帝国軍第1小隊と第3小隊の武装解除を行っていた。手錠など無いので、結束バンド(タイラップ)を用いて後ろ手に拘束していく。生き残りは40名だった。
突然崖が崩れ、崖下に落とされた帝国軍第5小隊は生き残りの約5千名で予定通り突撃をするべく再度予定位置についた。小隊長の掛け声で一斉に駆け出し、広くなったところで8人が横に並び少し速度を落として後続が追いつくのを待ち、一斉に検問所に向かい走り出した。監視所では幅10m長さ2kmの範囲を満遍なく一斉に効力射砲撃を行う様に要請。第2特科大隊は曲芸の様な精密さで、幅10m長さ2kmの範囲を満遍なく砲撃していく。生き残りが検問所1kmに達した時左右の崖が爆発した。仕掛けた爆弾が監視所により起爆されたのだ。
兵士の多くが魔の回廊で砲撃され、生きて出られたものは崖が崩れて生き埋めとなった。
後続の兵士たちは、それでも瓦礫を乗り越えて突撃してくる。検問所を守っていた第3普通科連隊第1中隊は距離500mから96式装輪装甲車の12.7mm重機関銃M2や96式40mm自動てき弾銃で回廊を更に爆発させた。
帝国軍第5小隊の後ろからついていった、ストロスキー男爵と参謀2名は広くなった山道で呆然としていた。
前にいた帝国軍第5小隊が爆発したのだ、そして動けるものは少数であったが、帝国兵としての意地を見せて突撃をしていった。また爆発した今度は小さめだ、「速度を上げて走り、切り抜けあいつらを討ち果たせ」と大声で叫び、参謀と一緒に走り出した。
後続を見とめた第3普通科連隊第1中隊は12.7mm重機関銃M2を向けた、まだ3km程距離がある。
12.7mm重機関銃M2の有効射程は2kmと言われているが、射角を考えれば最大6kmは届く。第1中隊員は96式装輪装甲車の12.7mm重機関銃M2射手は誰とはわからないが、兵士たちと違う服装の男たち3名に重機関銃を向けた、地面がはじけていく、少しずつ射角をあげて行き、3km先から走ってくる豪華な衣装の3名がミンチになった。帝国軍第5小隊は無謀な突撃により全員が死亡し、高揚感で走り出したストロスキー男爵と参謀2名も死亡した。こうしてハイエルフの里に続く山道は両側を帝国兵の死体が散乱している状態となった。
第3普通科連隊は第3中隊の3名が弓矢により重傷。検問所を守った第1中隊も前に出すぎていた隊員2名に矢が刺さり重傷。1名は大腿部の動脈を裂かれて出血多量の重体であった。
第3普通科連隊長は検問所の後方1kmで第2戦車大隊第1中隊第2小隊の90式戦車5両と共に戦場視察を行っており、隊無線で指示を出していた。戦闘が終わり隊長は勝利の実感より虚しさに囚われていた。
なぜにこんな無謀な戦術を繰り返したのか、命を無駄に消耗していた帝国軍、死んでいった帝国兵士を思い心の中で追悼していた。「自分はこんな無謀な戦いは絶対しない。隊員を一人でも多く生き残らせる」と強い決意を秘めた。
第3普通科連隊は第3中隊に弾薬を補充後に山道を登り、『ストーンゴーレム』の村への「F-2」爆撃の効果判定と、生き残りがいれば捕らえる事になった。途中の道も遺体だらけだ。遺体は山道が細いので、仕方なく崖から下に運び、第3普通科連隊第1中隊と第2中隊が回収する手筈となっていた。第4中隊は監視所までの山間を探して、監視所隊員と共に遺体探索している。途中の崩れやすい急な斜面を滑落していった帝国兵に何人かは息があった。救助するにも足場が悪すぎる。師団本部から第1輸送隊の揚陸艦隊に連絡しUH-60J救難ヘリを4機向かわせた。
第3普通科連隊第3中隊山道を黙々と登り、約3時間で『ストーンゴーレム』の村についた。「ゴーレム」の遺体がそこら中に転がり、帝国兵士も腕や足に胴体、頭が転がっている。
ハイデルバーグと参謀と小隊長2人の計5名は爆発が収まってからチロル地方に逃げ帰っていた。
また、キマイ将軍の第5師団、第2歩兵中隊の糧食隊1万人は食料の徴収と通信役のエルフを連れて、『ストーンゴーレム』の村に戻る途中だった。まだ村の手前4kmを進んでいたが、突然村が噴火した。そう、「F-2」による爆撃であったが、下から見上げた糧食隊は噴火したと思った。彼ら糧食隊は兵士ではない、農民や冒険者を集め糧食やテントなどを運ぶための荷車隊であった。
村が噴火したことに驚いた糧食隊は荷車とエルフを捨てて麓に逃げ出した。チロルからの山道は広い。荷台が2台並んで引けるほどだ。逃げ出した糧食隊は後ろをつまり村の方を振り返らず一目散に逃げた。兵士でもないのにやってられない。もし少しでも糧食の荷車を持ち帰っていたらそれなりに金持ちになれたのに、そんな余裕はなかった。訳も分からず奴隷エルフは取り残された。
やがて上からハイデルバーグ計5名も必死で下り坂を走ってきた。
奴隷エルフはお館様が走ってくるのを見て、荷車に隠れた。なぜか本能的に隠れたのだった。
あたりが静まり、もうハイデルバーグの居城に戻れない奴隷エルフは仕方なく『ストーンゴーレム』の村に向かった。糧食隊の男たちが、『ストーンゴーレム』を帝国兵が殺したと言っていた。なら爆発はしていたが、ゴーレムがいないなら逃げられると思ったのだ。
『ストーンゴーレム』の村についたエルフは食料や人の残骸が無残に散らばっているのを見て気持ち悪くなった。そこにあった横穴で休憩をしていた。ようやく気分が落ち着いてきたころ外が騒がしくなっていた。
『ストーンゴーレム』村の様子を見ていた隊員は横穴から除く女を確認した。
「おまえは誰か?名乗れ」とポケット翻訳機で大陸語に翻訳する。
「私はハイデルバーグに飼われていたエルフです。殺さないで」
第3普通科連隊第3中隊長の東山隊長はエルフに尋問していた。
「あなたはハイデルバーグに飼われていたと言ったが、性奴隷としてですか、失礼ですが」
「ええ、あなた様のお考え通りですが、帝国でエルフは魔道通信ができるので、連絡係としても使われます」
「魔道通信ですか。それは思念とは違うのですか?」
「思念はハイエルフ様しか、女神様しか使えません。私たちは魔法で通信できるだけです」
「それはどの程度の距離を繋ぐのですか?」
「魔力にもよりますが、だいたい1町間分、約4百キロ位です」
「あなたは奴隷とお聞きしましたが、逃げてこられたのですか?」
「はい、この村が噴火したのでみんながびっくりして逃げ出しました。途中でハイデルバーグも見ましたが、隠れてここまで来ました」
「あなた方は見かけない服装ですが、アトラム王国の方々ですか?」
「アトラム王国ではありません。日本国の陸上自衛隊です」
そういえば前に捕まえた冒険者なる者がアトラム王国は海の向こうと言っていたなと思いだした。
「私はどうなるのでしょうか」
「あなたの希望は?」
「ハイデルバーグから逃げ出してきたので、戻ればひどい拷問が待っています」「逃げたい」
エルフは泣き出した。
「わかりました。私たちはここで帝国兵の遺体を焼却します。その後私たちと一緒に行きますか?」
「お願いします」
第3普通科連隊第3中隊長の東山隊長は無線で連隊本部に連絡し、遺体を集めるので焼却処分したいと連絡し、師団のヘリでガソリンを送ってもらい。遺体を集めて木組みを行い、盛大に燃やした。
あたりには遺体を燃やす嫌なにおいが充満していた。
この『ストーンゴーレム』村広場は、10km位幅も奥行きもあり、ヘリコプターなら4機位が同時に発着できそうだった。周りを囲んでいる岩も脆く削れそうであった。
広場からチロル地方に向かう山道は、反対側とは比べ様もないほど広く、広いところで幅20m位、狭いところでも15mはある。守るにはここがいいな。しかも横は崖となっていて、下の道の真上だった。ここから手りゅう弾を落とすだけで妨害できる絶好の場所だった。
ただし山の向こう側が狭く車両を持ってこられない。連隊本部に連絡し、今後の対策を協議した。
その時、山頂付近の崖の上から何かが覗いた。すぐに引っ込んだが、確実に何かいる。
第3普通科連隊第3中隊は攻撃準備を終え、命令を待っていた。
現れたのは、『ストーンゴーレム』の子供だった。2体いる。帝国兵との闘い中に逃げた、いや親が逃がした『ストーンゴーレム』だった。高さが5mある。エルフが魔道通信で聞いてみた。
「あなた方はどうしたの」(ままが死んだ、殺された)
「あなたのままを殺した帝国兵はこの人たちが殺しました」
(うん、さっき大きな音がして、人がたくさん死んだ、僕たち様子を見に来た)
「あなたたちはどうしたいの」さっきエルフに聞いた言葉をそっくり繰り返した。
(ままにあいたい)
「でも魔法石は持っていかれたみたいだから、ままは生き返らないよ」
(ままが、わたしが死んだら山の麓のハイエルフに会いに行きなさいと言っていた)
「えっ女神さまが麓にいるのですか?」「わたしも行くから一緒に行こう」
(うんいいよ)
エルフはやり取りを帝国語で第3普通科連隊第3中隊長の東山隊長に伝えた。
「わかりました」「われわれがハイエルフの里に案内します」
東山隊長は道中、エルフが帝国のスパイではないか探りを入れながら歩いた。
純粋に奴隷として飼われていた様だ、むごい物だ。
第3普通科連隊第3中隊はエルフと『ストーンゴーレム』の子供2体を連れて野営地に戻っていった。
ありがとうございました。
次話では偵察衛星が上がります。他にも。