第24話 宗谷特別自治区の戦い2
第24話を投稿します。
さて第3普通科連隊に試練が訪れます。
大三角州沖5kmの「ブルーリッジ」揚陸指揮ブリッジでは海上自衛隊の第1輸送隊司令 早良一等海佐が無数のエアクッション艇(LCAC)が動き回るのを頼もしそうに見ていた。
これだけのエアクッション艇が揃うのも初めての事だ、早良一等海佐は福島県南相馬市の生まれであった。『ともだち作戦』でこの「ブルーリッジ」や「エセックス」「ジャーマンタウン」「トーテュガ」などが駆けつけてくれて、その強大な緊急物資揚陸能力でたちまち被災者救援を行っているのを、当時は『おおすみ』の艦上で感謝と共に見ていた。早良自身も揚陸指揮官として『おおすみ』艦上で指揮を執っており、懐かしい思い出だ。
ここにはそれ以上のエアクッション艇と揚陸艦、補給艦が揃っている。海上自衛隊もドック型揚陸艦「おおすみ」「しもきた」「くにさき」の3艦と「ましゅう」「おうみ」が並んでいる、「ましゅう型」は「おおすみ型」より全長が40m長く幅も広い、補給艦機能のある海上自衛隊の艦艇では「いずも型」についで2番目の大きさだ。それにアメリカ軍第7艦隊所属の第11揚陸隊「ワスプ」「グリーン・ベイ」「ジャーマンタウン」「アシュランド」が揃っている。「壮観だ」一言。
急ピッチで港建設が進んでいた、港湾施設は大型船や自衛艦隊が停泊できる埠頭が3つ。将来コンテナヤードにも使える幅の広い接岸埠頭が1つである、接岸埠頭に停泊は3隻同時の荷下ろし積み込みが可能なほどの広さを誇る計画であった。いずれガントリークレーンが並ぶことだろう。
また資材集積所となっている大三角州には簡易ヘリポートが2つ作られ、揚陸艦や補給艦からの物資や人を運んでいた。この地区の防衛は第2師団担当だった。
一方、自噴油田は、周囲1kmを施設作業車で切り開き、発火しないように注意をしながら、広場を作っていった。そこに第2師団第26普通科連隊に守られた、民間協力会社一行がやってきた。
大学研究室でお墨付きをもらった原油をパイプラインで大三角州洲まで引き、可能なら精製プラントを大三角州洲に建てて船で輸送してしまう計画だった。だが送油ポンプの電力確保もしなければならない。太陽光発電ではいつ獣たちに壊されるかもしれない、風力発電は風車を敵とみなした『ドラゴン』が襲うかもしれないという事で、単純に原油を使った「火力発電」の装置も同時に提案して貰うようにした。
参加者は興味があるようだ。環境破壊には配慮する事が前提となっている。原油は自噴と言ってもちょろちょろ出ているので汲み上げポンプ設置か、油田を深くまで掘り勢いよく自噴させるかで議論となった。各社それぞれの方法で提案してくれるだろう。
ここの警備担当は第5旅団の領域であると決められた。ハイエルフの里の北側から第2偵察小隊が調べた流域までが担当となった。特に流域は川上が広く渡河も可能であり、警備に苦心した。
防衛大綱が承認されるまで、北海道は残された第7師団、第11旅団で守らなければならなかった。
さて、ハイエルフの山道に話を戻そう。
ハイデルバーグを先頭とするキマイ将軍の第5師団、第2歩兵中隊約1千人の偵察隊が第3普通科連隊の検問所手前で引き返してくれた事で、第3普通科連隊長と幕僚は「少し時間が稼げたな」と安心し、すかさず第3普通科連隊の全ての小隊に集合と戦闘準備を命じた。
「あいつら戻ってくるな」と連隊長。「ええ確実に」と参謀が答える。
第3普通科連隊は、監視所に連絡をした。
「あいつらが戻ってきたら、仕掛けた爆薬を爆破してほしい。また、第2師団第2特科大隊の本部管理中隊に位置情報を伝えて、第3射撃中隊に榴弾攻撃させてほしい」
「われわれは誤爆されないよう距離を取って待ち伏せする」
あらかじめの作戦に従って、第3普通科連隊第1中隊は、96式装輪装甲車を検問所まで前進させて、上部に備えた12.7mm重機関銃M2がクロスに睨む。いざとなったら86式40mm自動てき弾銃を使用する。人の波が来たら96式装輪装甲車を徐々に後退しつつ防御する作戦だ。第2師団第2戦車大隊第2戦車中隊第4戦車小隊の74式戦車5両は抜けてきた敵を人間なら74式車載7.62mm機関銃と12.7mm重機関銃M2で迎え撃つ。51口径105mmライフル砲L7A1に使用されるHEAT-MP(91式105mm多目的対戦車榴弾)は爆発時に周囲に飛散し榴弾効果はあるが、非常に狭い範囲であり脅しには使えるが、対人ともなると効果は限られてくる。ただ向かってくる敵に対しては重機関銃で十分である。
ハイデルバーグと第2歩兵中隊約1千人の偵察隊は元来た山道を戻っていった。報告する為に。
ようやく『ストーンゴーレム』の村広場まで戻った偵察隊は、第2歩兵中隊長のストロスキー男爵に報告していた。
「中隊長、ふもとへの道が広げられ、日本国領土だと名乗る者たちが現れました」
「相手は10人程度だったのですが、全員が魔道杖を持ち攻撃しようとしたので、一旦ご報告に戻りました」
都合よく報告をする。検問所の2キロ手前で拡声器に驚いて戻ったのにである。
「日本? 聞いた事がないな。アトラム王国の同盟国だろう、やつらドーザ大陸に上陸しやがったな」
「サイネグ宰相が恐れていた通りだ」
「これからどうするか、我ら7万の兵だ、力押しで蹴散らすか」
ストロスキー男爵は悩んだ、ハイデルバーグが少しでも戦えば相手の実力を知ることができるのに、なにもせずに戻るとは、なさけない。
中隊の負傷兵達も使えるようにはなってきた。普段から鍛えている屈強な男たちだ。
ストロスキー男爵は簡単な地形図を描かせ、どの様に突破するか思案をしていた。
当然伏兵はいるだろう、もしかしたら大砲を持って打ち込んでくるかもしれない。
ならこちらも山道を進む本隊と、両側の山を迂回する遊撃隊に別れて押し切ろうと考えた。
なにしろ、山道は広くても10名が並べる程なのだから。固まっている所に砲撃や魔道杖で撃たれてはひとたまりもない。広い道なら波で押し寄せ打ち勝つのだが、これは無理だな。
基本戦術が決まって、各小隊長とハイデルバーグを呼び作戦を説明した。久しぶりの対人戦闘だった。
いつもは訓練で帝都近くの森で魔獣狩りするか、5年前に西側の海岸に上陸した、アトラム王国上陸部隊を圧倒的人数で排除して、一人も生かさず捕虜にもしなかった経験がある。
第3普通科連隊長と参謀は連隊無線にて、第2師団本部と連絡を取り合っていた。
連隊長と参謀が想定している進撃ルートは5つ。
その前に山道について説明すると、『ストーンゴーレム』の村広場からは、一人分の切り開いた道がなだらかな下りとなり、しばらく行くと2回の「つづら折り」となる。意外と進撃ルートは少ない。
最初の折り返しでは崖と手前に少しの木が生えている。木の間を行こうとすると崖から落ちてしまう。落差は見たところ10mはある。ただし。ここから下方を覗くには良い位置だ。崖の木間に極細ワイヤーを張り、後部の木上方3mに手りゅう弾を仕掛けた。崖から下を覗こうとすると、後ろの手りゅう弾が爆発して、爆風でがけ下に落とされるトラップをいくつか作った。次に少し進むと崖が切れて木が生い茂る林が現れる。ここまで細い道だ。
ここから、検問所横に抜けられるので、幅は3km程下方に3kmを地雷原とした。80式対人地雷を複数設置。起爆は昔ながらの踏み込み式である。山から下りてくる害獣駆除を目的としている。
500m毎に指向性散弾を間隔取って横一列に並べて、防御線とした。第3普通科連隊第3中隊が起爆を担当する。
第3普通科連隊第3中隊は先ほどのがけ下に身を隠せるほどに岩肌を削り、上から見えない工夫をして隠れる算段となった。地雷原の林を抜けてくる人物がいたら側面から第3中隊が攻撃する。
この場所は検問所から山に向かって左側斜面である。林を抜けたら検問所の96式装輪装甲車12.7mm重機関銃と第3中隊で挟む事になる。
次のルートは最初の崖から山側に大きく回り込んで、第2施設大隊が山体を試掘している方面に出るルートである。これは、第2施設大隊を護衛する第26普通科連隊が担当する。ここにも特科、高射に戦車の各1中隊が控えている。
第3のルートは素直に道沿いに下りてくる方法。これは途中の崖に仕掛けたC4爆薬で崖を崩し進行を遅らせる。その為の監視所が検問所右側の山の中腹で「つづら折り」の道が監視できる位置にある。
監視所は山道の爆破と、事前に特化隊と打ち合わせた場所を指示して、10km後方の第2特科大隊本部管理中隊に知らせると、第3射撃中隊から99式自走155mmりゅう弾砲5両が火を吹く。
監視所でマークした場所は、細い山道で片手側が崖の場所、広くなった場所これは幅10m程度長さ2kmである。かなり狭いところに集弾しなければならない。そして検問所を抜けた1km範囲もマークしていた。
第4のルートは1つ目の細い道から右側に回り込むルートである。これは急な坂なので検問所からほぼ狙い撃ちができる。山側に指向性散弾を偽装して設置した。監視所からの無線起爆だ。
第5のルートは検問所のある山の隣山を下るルートである。これは第4のルートを横に移動して、監視所の手前に出る。この為に監視所付近は1km前方から指向性散弾を複数仕掛けている。監視所には12.7mm重機関銃を設置して山側を警戒している。ここまでは相当崩れやすい岩場を横切ることになり、大人数ではいけないと判断していた。
つまり検問所にまっすぐの第3ルートに検問所、左側大回りの第2ルートこれは第26普通科連隊が担当してくれる。 第1ルートは地雷原突破。第4ルートは右側の急坂を滑り降りてくるルート、これは検問所の500m先に落差3mで落ちる事になる。第5ルートは監視所からのルート途中の脆い急坂を横切るので多くは来ないだろうと、ただし監視所では12.7mm重機関銃が待っている。
この5つの想定ルート全てに対応策を行った。
すでに先ほどの警告時に近隣部隊と第2師団本部に報告を行っている。第2特科大隊から第4射撃中隊99式自走155mmりゅう弾砲5両が合流予定。これで第2特科大隊が揃うことになる。
第2戦車中隊は現在の第4小隊に加え第1第2第3の各小隊が応援に駆け付ける。90式戦車10両、74式戦車5両になる。合計20両。これで第2戦車中隊は全て揃う事になった。必要であればまだ応援は頼める。ただし相手の規模が不明なのでなんともしようがない。
なんとしてもハイエルフの里に行かせないと決意を込める。
こうして第3普通科連隊の約250名 対 帝国第5師団第2歩兵中隊7万人の戦いが始まるのだった。
お互いの戦闘能力を知らずに激突することになる。
ありがとうございました。