第241話 元の世界へ その14 転移希望者募集と暗躍
転位について大変そうです。
遠山はホテルでテレビをつける。
3大ネットワークのNBC,ABC,CBSにそれぞれチャンネルを切り替え、無事帰国者募集が流れているのを確認する。勿論広告料は日本政府が支払っている。
イギリスBBCやフランス国営FMM傘下にも流れている筈。
ニュースソースとしてロイターを通じて新聞などにも募集を掲載している。
連絡は全て各国大使館や領事館となっているが、情報は全て、在米大使館に流れてくる。
遠山は、本日折衝はないので、ワシントンにある日本大使館に行こうかと思う。
因みに米国には領事館16か所と大使館の計17か所がある。
各領事館については、転移5日前まで転移手続きを行い、以後は転移場所であるサンディエゴに集合する手筈である。領事たち家族を含め船舶転移をする予定である為だ。
ホノルルやサイパンなどの遠い領事館について荷物は先に送っている筈。
各国大使館や領事館も同様に現地売却を進めている。
心配はアフリカ諸国や共産圏大使館だが・・・
結果として、なにも無くても、日本に戻ると全て揃えられるから心配はいらない。
「よし、大使館に行こうか」遠山は独り言には大きすぎる声で気合をいれる。
ホテルフロントにタクシーを手配して貰い、同じ市内の大使館に向かう。
連絡すれば車を手配して貰えるのだが、全世界の窓口となっている大使を煩わせない為だ。
遠山は大使館に到着する。
特命全権大使として豊田大使が赴任している。
これで会うのは4回目だ。
「ようこそ大使館へ」受付のビルが笑顔で迎えてくれる。日本語も堪能な米国人だ。
彼も日本転移に伴う対応で忙しい筈なのだが・・
早速、大使に連絡をしてもらうが「忙しいなら出直すよ」と付け加えてもらう。
なにしろノーアポなのだ。忙しいに決まっている。
「はい、承知しました」ビルが日本語でやり取りしている。
「大使は30分ほどお待ちくださいとの事です」
「忙しいところすまない。時間潰して30分後に戻ります」
「そうして頂けると助かります」
慌ただしく人が出入りする大使館受付、列に並んでいるのは日本人と思っていたのだが、米国人風の方も並んでいる。
「ビル、聞きたいのだが、あの方たちは?」
「ああ、彼らは米国人や難民達ですよ。日本に行く最後の機会ですからね。実は・・・私も日本移住を希望しています」
「えっビルも転移したいのか」
「はい、世界情勢が不安定ですので米国は戦争に巻き込まれそうで、なら日本語ができる私は日本へと」
「家族は大丈夫なのか」
「はい、両親も米国で徴兵されて軍隊に入るなら、日本に行けと、家族は妻だけですが日本に行くと申しています」
「そんな状況なのか、いや日本も歓迎するよ。なんせ広大な大陸を管理する為に人材が不足しているからね」
「有難うございます。大使からもその様に言われています」
「ははは。それと」遠野は小声で、「大陸には米国が建国される予定だよ。現在は開墾中だがね」
「えっそんな予定が」
「ああ、最初に在日米国大使と約束してしまってね。現在どうなっているのか分からないが、土地を割譲して米国または米国に近い国らしきものを立ち上げる予定だよ」最初は米国の租界として割譲し、現在は場所を移して米国管理地として開墾をしている。ただし米国となるかは不透明だ。
「ますます日本へ行きたくなりました」ビルも目を輝かせる。
「内緒で頼む」「そんな事言えません」とビル。
遠山は笑いながら、どうするか考える。
日本大使館のある地区は、各国大使館が並んでいるだけの地区である。
遠山が悩んでいると、「でしたら窓口建物の後ろにある大使館員専用レストランはどうですか。この時間はカフェになっていますよ」
そうだ、近くにレストランやカフェがないので、大使館員専用のレストランがある。
左隣はインド大使館、右隣は韓国大使館なのだ。その先も・・各国大使館が並ぶ。
「ありがとう。そうするよ」
「でしたらご連絡はレストランにします」
「助かる。ありがとう」遠山は勝手知ったる窓口建物から後ろにある建物に入る。
広いレストランの窓側にコーヒーを持って座る。
カフェと言ってもセルフである。
豊田大使もコーヒー好きであり、セルフの機械は豊田大使の手持ちであり、職員全員が使える。
豊田大使は時間があるとここに来て自分でエスプレッソを淹れ休憩しているとビルから聞いた。
レストランにはテレビが置いてあり、現在はケーブル放送のニュースだけのチャンネルが流れている。
遠山は隣の公園をみていたが・・ニュース番組が諸国の日本対応について流し始めた。
遠山は自然とテレビを見る。
ニュースキャスターが少し早口な米語で続ける。
「各国対応が入っています。
まず中国ですが、各稼働していた工場の責任者達が日本帰国を決め、各工場については共同出資している中国企業が継続をするようです。(中国内工場は日本資金100%は認められていない)
つづいてロシアの状況ですが、日本企業については全てロシア国営化が決定しており、その資産も政府没収が決まっています。(なんてことだ)
続いてEU加盟の各国は日本人帰国について概ね支持しており、スムースな資産売却に応じています。
アフリカ諸国ですが、日本人が畜産、水産に携わっている事が多く、現地法人の売却を進めていますが、従業員に不安が広がっています。
ODA関係ついては日本政府が転移した為に、現在では追加投資が無い状況で破綻しており、各国は日本政府のODAについては諦めている状況にありますが、2年前から中国がその存在感を強めており、米政府の懸念となっています」
「国際情勢は不安定か・・」ビルの言葉が思い出される。
「ODAか、心配していなかった」遠山は計画に穴があった事を思い知る。
ODAは政府投資援助であり、その形態は多様である。
100%日本政府投資は少なく、日本国への借金としてその国のインフラなどが整備されている。
「借金返済か、どうしよう」大使と相談する事を決めた。
レストランの内線電話が鳴る。
レストラン従業員なのか責任者なのか分からないが電話を取り話をしている。
どうやら英語だ。
その内、レストランに向かって「ミスター遠野、大使がお呼びです」と大声で言った。
遠野は立ち上がり手を上げ、心配いらないと態度で示す。
飲んだカップをゴミ箱に捨て、外に歩いて向かう。
レストランのある建物から出て、隣の大使館本館へ向かう。
ここの建物は全て2階建てであり、大使館本館も2階建てであり、入り口直ぐに大使秘書が並んでいる。
その後ろでは電話応対なのか、大勢の職員が電話で対応している。
受付の秘書から「どうぞ、お待ちです」と言われ、その横の階段を2階へと上がっていく。
「ありがとう」と言いながら2階に上がると大使公務室をノックする。
大使公務室は前部屋が秘書や次官などの部屋、その後ろに大使執務室がある。
「どうぞ」と言われる。3回も面談しているから知った中である。
「失礼します」ノックすると「どうぞ」と答えが返る。
ドアを開けると大使が電話中である。
遠山は応接に座ると大使を待つ。
少しして電話を終えた大使が応接にきた。
「ご無沙汰しています」
「いえいえ1週間前に会ったぶりです」
大使の気さくさは変わっていない。全権大使なのに・・・
「お忙しそうで」
「それはお互い様でしょう。それに私は日本に帰国できるので楽しみでしょうがない」
「私もです」
「「はははは」」お互い笑い会う。
「ところで大使、諸外国動向については如何ですか」
「ふむ。中国、ロシアはじめ諸外国の人々が日本に移住したいと押し寄せています」
「先ほど下でも見ましたが米国人も転移希望とか」
「そうなんだよ。困っているのだが身元がはっきりしない者は全て断っている。特に中国ロシアを含む怪しい諸外国は厳重に断りをしている」
「やはりスパイとか工作員なのでしょうか」
「それもいると思うが身元調査が忙しくてできない状況なので困っている」
遠山は思う。(工作員を送り込んで転移し、戻る方法を探す目的なのだろうなと)
「でしたら大使、良い方法が」
「是非とも聞かせて欲しい」
「大使の御心配は簡単に解決できると思います。ハイエルフに協力を得るのです」
「なんと」
「ハイエルフは人の記憶や考えを読む事ができます。大使館や領事館で人選し、それをハイエルフが最終面談すると言うのは如何でしょう」
「そうだな、大統領が過去人殺ししたと見破ったのはハイエルフさん達だな」
「その通りです」
「だったらこちらで推薦のある者を面談させよう」
「はいお手数かけます」
「いえいえこちらこそ助かります」
「でしたらハイエルフさんをこちらに向かうように手配します」
「はいお願いします。明日からで宜しいですか」
「多分大丈夫とおもいます」
「面談場所は会議室を使いましょう」
「内容と場所、時間は大使にお任せします」
「早速手配します」大使は内線で担当者を呼び出すと、短い打ち合わせをここでした。
「本当に助かります」
「それで大使、本日伺った目的なのですが、ODAについてはすっかり忘れていましてね、大使にご意見をと思いました」
「そっか借款分ですな。どうしようもないですが放棄で宜しいでしょう。貸しはがしはできないでしょうから」(日本が転移した現在、返して貰っても追加融資はできないので全て貸しはがしとなる)
「私もそう思います。時間が無さ過ぎて対応不可でした」
「でしたら戻った時に外務省に説明しますよ」
「お忙しいのに申し訳ない」
「いやいやお互い様ですから」
「ところで諸外国に怪しい動きはありませんか」
「先ほどの移民以外にと言う意味ですね」
「はい。転移に伴い強硬手段を取らないか心配でして」
「今の所目立った動きはありません」
「そうですか、私としては転移予定の海域に潜水艦でも忍ばせるかと思っています」
「某国ならやりそうですね」
「ええ、哨戒については強化して貰っていますが」
「それについては遠山さんの方がお詳しいと思います」
「そうですね。米国には協力をお願いしています」
「ところで募集については、うまく行っている様ですよ」
「集計はできていますか」
「まだ時間がありますので・・そうだ昨日までに1万人の日本人から帰国希望が、それと移民が56名」
「移民は紹介のある身元確かな方々ですね」
「そうです」
ビル夫婦も入っているのだろうと思う。
「各大使館撤収については予定通りですか」
「今のところは。遠い地区の大使や領事については、最悪ダラスに間に合うように手配しています」
「多分ですが、ダラスの方が東京に近いので時間的に有利と思います」
「そうですか、船舶転移組だと思っていました」
「大使、その所は臨機応変で宜しいと思います。名簿さえあれば」
「その情報は各大使館に流します」
「では各大使は3週間後にサンディエゴ集合で、間に合わなかった大使や領事はダラスにお願いします」
「心得ました。私もダラスがよいですね」
「それはお任せします」
大使との会談は終わりホテルに戻るとハイエルフの部屋に向かい、在米日本大使館にて不審者を探して欲しいと伝言する。
★★★
在米ロシア大使館・・・
「ロドル大使、移民については在米日本大使館から受け入れを拒否されています」
「本国からは工作員を送り込めと言う難題・・いよいよ、あれを発動するか」
「それしか見込みが無いような気がします」
工作員と言う名の決死隊を送り込まなければならないロシア・・・人の命は安いのだろう。
その夜。在米ロシア大使館から本国に向けて衛星回線を通じ、極秘暗号通信が行われた。
ロシア・・・なにするのでしょう。