第238話 元の世界へ その11 首席補佐官の憂鬱
腹痛収まりました。どうやら胃をやられたようです。
誤字脱字報告本当にありがとうございます。感謝しかありません。
「具合はどうですか」ホワイト・ハウスの医務担当官ハリスが聞く。医者でもある。
「まだ頭が割れる様に痛いよ」とトミー・シュナイダー・ジュニア首席補佐官。
失神から目覚めたようだ。
医務室には大統領とトミー・シュナイダー・ジュニア首席補佐官にハリスの3人だけである。
二人はベッドに横たわり、大統領は悪夢でも見ているのか常に魘されて(うなされて)いる。
先ほど目を覚ましたトミー・シュナイダー・ジュニア首席補佐官は隣の大統領を見る。
「大統領の様子は」
「はい、いろいろ検査したのですが首席補佐官と同様に健康上の問題は無いのですが・・その反応が」
大統領の肉体は健康なのだが意識も戻らず、それに魘され血圧は徐々に低下しているとの事。
「様子を見るしか現在はありません」とハリス。
「では内密に病院に移送して欲しい。絶対に国民や外国に知られては不味い」
トミー・シュナイダー・ジュニア首席補佐官は痛い頭で告げた。
「それと副大統領は」
「それについては、間もなく到着すると連絡がありました」
「そうか、一安心だな」
だが、状況説明が大変そうだなと覚悟する。
その時、ハイエルフ二人が職員に案内されて医務室に入ってくる。
二人が弱っているのを確認すると、弱い思念で『具合は如何ですか首席補佐官殿』
思念はハリスにも伝わり、何とも言えない不思議そうな顔をしている。
『大丈夫ですよ。あと30分もすると頭痛は無くなります』
「こっ・・これは何ですか、突然頭が痛くなり気を失いました」
元族長はにっこり微笑んで、
『私の思念です。周りを無力化するだけで死にはしませんが・・お隣の大統領でしたね。彼は私が呼んだダークエルフによって呪いをかけられました。
3日後に衰弱して死ぬでしょう。自業自得ですね』
「助けては頂けませんか」首席補佐官は弱々しい声で聞く。
『彼は過去に自分で直接行っていませんが3名の命を奪っています。
その他にも自分の資産を増やすために非合法な方たちとの付き合いを行い、あなた方の国民を少なくとも200名以上から不正に資産を没収しています。
神からもそのままで良いとお告げがありました』
「あっあなた方は、相手の記憶を読む事が出来るのですか」
『ご想像にお任せします』ニッコリ笑うハイエルフが悪魔に見えた瞬間である。
「だっ、ダーマエルフとは何者ですか」
『冥界の指導者、我々と同じ神の使徒。我々とは役目が違います』
「じっ、地獄ですか、それは」
『この世界と違う場所にある。各世界で魔や闇に落ちた者を集めでいる場所。あなた方の宗教で言う地獄。
ですが、仏教で言う地獄に近いと思いますよ』
「我々のプロテスタントでは地獄は肉体も持たず苦しみだけがある世界と聞いています」
『そんな方もいますね、でもそれは一部です。実際には・・私も行った事がないですが、救いを求め魂の苦しみを与えられる者と悪魔や魔獣になる者、そして醜い獣や昆虫になる者がいると聞いています』
トミー・シュナイダー・ジュニア首席補佐官の頭痛が酷くなる。
「さっ最後に、大統領は地獄に行くのですか」
『それは判りません。死んだ者が天国か地獄に行くとか決まっていないと思います。
ですがそれは死んだ魂について神が決める事。私たちは従うだけ、救いもできませんし、しません』
首席補佐官は絶望する。本当に地獄があるのだと・・・
辛うじて言葉を絞り出す「本当にあるのですね」
『では我々は失礼します。様子を見に来ただけですので』元族長はニッコリ微笑む。
ハイエルフはドアーから出て行った。
「首席補佐官、いまのは」ハリスが聞く。
「ハイエルフと言う異世界の住人だ、これは国家機密に指定されているから、わかるな」
「はっはい」
それから痛い頭で、内線をかけて大統領の移送を職員に手配し、自分は執務室に戻る。
執務室の椅子に深々と座り、「悪夢だ」と頭を振る。心なしか頭痛が和らいでいる様にも思う。
アレクス・トルーマンJr副大統領はロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港に到着した。
勿論機上で検討会をしていたが、結論は出ていない。
「さて諸君、ここから戦場だ、大統領の容態確認に首席補佐官の聴取、そして結果によって上院下院の根回しと副大統領に執務権限移行と目の前だけでこれだけある」
「ボス、大丈夫ですよ。それより次期大統領選を睨んで根回しと作戦を作りましょう」とリンドが話す。
知られると厄介な話だ。
「ボス、もう対策本部設置しました。ボスは各省の根回し忘れずに」とアレンが説明する。
「うむ、宜しい。二人はそのまま補佐官としてホワイト・ハウスだな」かすかな笑いと共に副大統領の左頬が上がる。
やがて政府専用機駐機スペースに機体がとまり、外から機体前方ドアーが開かれる。
勿論シークレットサービスが手順に従ってドアーを解放し、狙撃者や不審者がいないか見分する。
暫くして「どうぞ副大統領」と促され、アレクス・トルーマンJr副大統領はタラップを静かに降りていく。内心はこの問題をどう解決するのか、すでに政権担当者としての覚悟が決まっている。
副大統領はタラップに横付けされた政府専用車、通称「ビースト」に乗りこむ。
ビーストの後部座席は対面となっているがアレンとリンドも乗りこむ。
ビーストはゆっくり動きだす。
白バイ2台を先導にシークレットサービスの車両4台が同時に動き出し、その真ん中にビーストがいる。
各車両は込み始めた道路を、サイレンを鳴らし凄い速度で走り抜けていく。
ワシントン.DCでは見慣れた光景だ。
しばらくしてホワイト・ハウス玄関に到着して副大統領一行は、出迎えた補佐官達に事情を聞くために会議室に集合する事を伝える。
勿論、アレンとリンドも同席する。
ハイエルフなる人物を招聘し、大統領と首席補佐官が対応、それ以外の補佐官は持ち場に戻ったために詳細は首席補佐官のみが知ると報告を受ける。
続いて副大統領は大統領の様子、容態を確認すべく医務室へ、そこでハリスから症状について説明うけるが、「のろい」だと言われてしまう。副大統領は頭をかかえる。
現代に「のろい」などあるのかと。
これはハイエルフとダークエルフに聞かなければならない。
次に首席補佐官執務室に向かう。
トミー・シュナイダー・ジュニア首席補佐官はまだ頭が痛いようだが、なんとか執務をこなしている最中である。
「トミー具合はどうだ」
「副大統領戻られたのですね。助かります」
「先ほどついた。具合はどうだ」
「まだ頭が痛いですがなんとか・・ひどい目に会いました」
「状況を説明して欲しい」
「はい、日本の代表者が転移して来たところは宜しいですか。何なら最初から」
「機内で過去の状況は聞いた。信じられないが・・・なので、ここで起こった事で良い」
「はい・・我々は転移のトリガーをハイエルフなる異世界の人物が行う事を掴み、独自にハイエルフを招聘しました。彼女には招聘に応じて昨日ホワイト・ハウスに来訪、すぐに大統領と私が合う事になりました。
ですが・・・ハイエルフとの会話は思念と言い、直接脳に言葉が響きます。
ハイエルフは自己紹介してから大統領に向かって、突然に「あなたは邪悪なのですね。一人、二人、三人も殺したのですか」と言い、「大統領とは言え「人殺し」を代表者とするなどこの国は・・なんとも」と言いました」
「私は知らなかったのですが、大統領はハイエルフを捕らえ世界渡りをさせようと考えていたようです。
異世界の資源を独占する為に、それをハイエルフに考えか記憶を読まれ、次の瞬間にはブザーを押し、シークレットサービス6名が部屋に入ってきました。
すると、突然頭が割れる様に痛くなり、我々は床に倒れてしまいました。
私の知っている事は以上です。まだ後遺症で頭が痛いのです」
「それでハイエルフとやらはどうした」
「はい、特別応接にいると思います。倒れた後にダークエルフと言うらしいですが冥界の番人を呼んで、大統領に「のろい」をかけたとか医務室で聞きました。「管理者」からそのままで良いと指示を受けているそうです」
「ダークエルフ?管理者?」副大統領は訳が解らない。突然出て来た名前に驚いている。
大統領執務室と会議室に監視カメラはあるが音声はカットしている。
「あとで映像を見てみよう」と副大統領は呟く。
「トミー・シュナイダー・ジュニア首席補佐官、正式に引き継ぐから懸案事項を全て書き出して欲しい。
それと大統領がなにをしようとしていたか、推測でも構わない。明日提出して欲しい」
「はっ・・はい」
「アレン、リンド、ハイエルフに会いに行こう」
「ボス、危なくないですか、記憶を読むと聞いた直後ですよ」とリンド。
「私は大丈夫だと思うぞ」と副大統領。
遠山は国務省から急いでホワイト・ハウスに向かっている。
「失礼します」副大統領は特別応接に入る。
この世で見た事も無い人物が三人ソファに座ってお茶を飲んでいる。
「初めまして副大統領のアレクス・トルーマンJrです」
『こんにちは副大統領』一人が挨拶する。元族長だ。
「あらためて、ジョン・ヒルトン大統領が失礼な事をしたと聞きました。
心より謝罪します」
『もう良いですのよ。それにこちらのダークエルフによって「のろわれ」ましたから。ふふふ』
『食べ物はないのか』ダークエルフは我がままを言う。
「失礼しました。用意させます」副大統領はアレンに目配せする。
アレンは内線電話で食事三人分頼む。
「早速ですがハイエルフの皆さんは記憶を読めるのですか」
『どうとらえても結構ですよ、私たちの前で嘘はばれます』
「では・・・」
『あなたが思っている事は真実です』
「そうですか」やりにくいと思う副大統領。
『ふふふ。そうですね』肯定されてしまう。
「いくつか聞かせてください。まず思念で人間を倒せるのですか。そして「のろい」とは何ですか」
『思念は私たちの能力、直接相手の脳に言葉を伝えます。これを強くすると脳が耐えられずに失神しますね。思念は強さをコントロールできます。銃などもった方が来れば強い思念で倒しますよ』
「と言う事はシークレットサービスが武器を持って入らなければ起きなかったと」
『過去は変えられません』
「そうでしたか。それで「のろい」と言うのは」
『こちらのお腹をすかせたダークエルフが行う技です』
「ダークエルフさんですか」
『私が説明しましょう。ダークエルフは普段冥界にいます。この世界でも冥界は共通です。ダークエルフは冥界の秩序を司る使徒で、冥界にいる限り魔力が補充できるので、いざと言う時に呼び出します』
元族長は続けて説明する。
「普段は冥界・・」
『勘違いされては困るのですが、世界を渡る力は我々にはありません。行うのは管理者です。
私たちは「管理者」を神と呼んでいます』
「それで使徒なのですね。良く判りました」
その時、ドアーがノックされ、職員がランチプレートを3つ持ってきた。
「どうぞ、そんなに旨い物ではないですが」
『うむ』違う思念が流れる。ダークエルフなのか。
「お食事しながらで結構ですが、我々の神話ではエルフは長寿だとお聞きしています。
女性に年齢を聞くのは恐縮ですが、大体で結構なので」
『興味ありますか。私たちハイエルフはエルフの上位種族、神によって作られた種族。寿命はだいたい800年程ですね。私はその半分程度です。ふふふ』
「有難うございます。建国して235年の我々はまだまだですね」
その時内線電話が鳴る。アレンが取る。
「そのまま通してください」
副大統領に耳打ちする。
「わかった。みなさんもうすぐ遠山代表が参られます」
『そうですか。それとあなたは誠実な方で良かった』と元族長。
アレクス・トルーマンJr副大統領はジョン・ヒルトン大統領の盟友として下院選でも共闘し、大統領選挙ではアレクス・トルーマンJrが支援に回っている。
だから閣僚指名で副大統領に指名されていたが・・・大事な事は教えられていないし教えられないで良かったとアレクス・トルーマンJrは思った。
「最後に、大統領の「呪い」は解くことはできませんか。3日程で死に至ると聞きました」
『そなた、あの様な邪悪な者は必要ないだろう。それと財産略奪の同族殺しは重罪だぞ』
ランチプレートに夢中だと思われたダークエルフの思念の様だ。
「そうは言いましても一国の大統領ですから」
『わらわに関係ない』
取り付く島がない。言い切られてしまった。
ありがとうございました。
次回から転移に向けて動き出します。トホホここまで長かった・・・