第235話 元の世界へ その8
大統領と大使・・なにかトラブルが
長くなりましたので2話に別けます。
日本の立場は大丈夫なのか・・・・
国務省の窓から見える、エドワード J. ケリー・パークに親子や子犬を連れた若い女性を見ると、ここが米国ワシントン.DCであり、暮らしていた世界とは違うと思い知らされる。
国務省の会議室で待機している遠山達、特に在日米国大使と在日米軍海軍司令官はホワイトハウスでの会議がとても気になっている。
「遠山さん気を付けてください。米国は自国の利益を第一に考え動きます。歴史から推測すると、あまり遠山さんの希望は・・・と言うより転移で莫大な利益をと考えるのは推測されます」
米国大使であるジョン・トールマンは日本国政府の心配をしている。
親日家でも有名な在日米国大使も多いに心配している様だ。
「そうですね。我々もご協力出来る事があれば良いのですが」と在日米軍海軍司令官も自国の利益よりも日本を心配している。
「有難うございます。ですが大使も司令官も心配されている事はありがたいのですが、お二人がこの世界に残ると考えれば、過剰な擁護は現大統領の不信を買う事になります。どうぞお気をつけて」
遠山は感謝を表すが、この世界に残るお二人の今後を考えると過剰な日本擁護は立場をなくすと考える。
「十分に理解しています。いや、理解しているつもりです。ですが・・現大統領が就任された時にも悪い噂を聞いていますので心配なのです」と大使が答える。大統領に大使として指名されるほど、近い人間にしかわからない事である。
「本当に感謝します。ですがいざとなればハイエルフやダークエルフに、この時点を監視している管理者もいる事ですし、大事にはならないと思いますよ」
「確かにその通りなのですが、ハイエルフさんやダークエルフさんの恐ろしさを知らない方々です。
まして米国国力が背後にありますので無理を要求してくるのではと思っています。そうならない様に努力はしますが・・・」
その時、会議室のブザーが鳴った。
少しして、「失礼します。呼び出しがありましたのでご案内します」と職員が入って来た。
この部屋に案内してきた職員とは雰囲気が違っている。
「直ぐに出られます」と遠山は言い席を立つ。
「では皆さま地下駐車場にお願いします」と職員は外に出て案内を始める。
このフロアーからエレベーターにアクセスはできない。特殊なカードを読み取り機にかざして呼ぶことが必要なので、このフロアーに通されるとどこにも行けなくなるのだ。
地下駐車場では来た時と同じような車両が待機しているのだが・・雰囲気は違う様だ。
しいて言うなら、ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港から国務省に連れてこられた車列・・つまりシークレットサービスの車両では無いかと推測する。それもVIP用の車両と言う雰囲気である。
やがてニュースや映画で見た事ある「ホワイト・ハウス」が柵越しに見えて来た。
遠山は緊張する。
ホワイトハウスの車寄せに車列は滑り込み、ドアーが開く。
遠山は緊張がピークとなる。
ゲストの3名は車を降りて、案内を待っている。
ホワイトハウスの扉付近に待っていた二人の職員なのか役付きなのかわからないが、一人が、
「始めに、ジョン・トールマン大使、長旅お疲れ様です。在日米軍海軍司令官もご一緒にご同行お願いします。大統領がお待ちしています」
もう一人が、
「遠野日本国全権代表は消えた日本国からの正式訪問者として歓待しますので、応接にご案内します」
と言い、大使と司令官を引き連れてホワイトハウスの奥に行ってしまう。
残された遠山は「ではこちらにどうぞ」と残った一人に案内され、豪華な、そうVIP用と思われる応接に案内されている。
「こちらにてお待ちください」とだけ言い、男は出て行ってしまう。
残された遠山は、見事に飾られた調度品や装飾品に目が自然といってしまう。
アンティークに詳しくない遠山から見ても時代物の素晴らしい品々だとは朧気ながらわかる。
「凄いなこれは、間違いなく名のある品々なのだろう」と思いながら、触れない様に距離を置いて見ているだけである。
その時、遠山がいる応接のドアーがノックされ人の気配がする。
この応接の部屋全体が防弾仕様になっている為なのか、外部音は一切聞こえない。
特にドアーは丈夫そうな木製なのだが、間に防弾用の鉄板が挟み込んでいるかのように重く作られているので、ドアーをノックしても聞こえないのだ。多分だがこのドアーには外扉の様にノッカーがついているので、それを鳴らしたのだと思う。
「失礼いたします。お茶と軽食をお持ちしました。大統領は会議中ですのでお時間は掛かると思います。
こちらでお待ち頂ければと思います。もしお手洗いとかでしたら外で警備している者にお伝えください。
このホワイトハウスの内部は増改築が行われており迷路のようになっていますので」
それだけ言うと典型的なキャリアウーマンの様な女性はお茶とサンドイッチを置いて退出していった。
(さっきからアメリカンドラマの様な展開だな)と遠山は不謹慎にも思ってしまう。
同時刻。
担当職員に案内されていかれた大使と司令官は、ホワイトハウス奥の会議室に入っている。
部屋にはすでに着席している、国務省長官、FBI長官、CIA長官、国防総省長官に首席補佐官が並んでおり、二人は入り口近くの席に案内された。
「少々お待ちください」と言い職員は退席してしまう。
さすがの在日ジョン・トールマン米国大使も知った顔の高官を前に緊張する。
すぐ隣の部屋とのドアーが開き、大統領が入って来た。
「そのままで、すぐに始めよう」
主席補佐官が口を開く。
「大使も司令官も報告は聞いている。だが・・・転移とか、管理者とか信じられない事ばかりでこちらとしても対応と言うか理解に苦慮している。そこで日本の全権代表と会う前に、最終確認を行いたい」
ジョン・トールマン大使は「ついに来た」と心で思う。
「はい何なりと、虚偽は申しません。ただし我々も経験した事なので記憶操作なのかは自信がありませんが、必要ならポリグラフもお願いします」と大使。
主席補佐官が引き取り話を続ける。
「なるほど、あなた方も経験した事を全て信じられないと思っている事は理解しました。ですが・・・
実証できない以上は我々としても未知の事態であると認識を変えられませんな」
「それで実際に転移したとか報告にあるが、経験したのかね」とFBI長官。
ジョン・トールマン大使は必死だ。
「はい、あの日・・・日本国全体に微振動が走ったと思ったら、次の瞬間しらない世界にいました。
それに、在日米国大使館は地震対策の為に振動軽減装置を工事しておりまして、微振動程度では伝わらない筈なのですが、大使公邸も大使館も揺れました。実際に、私が経験しております」
「なぜ知らない世界だと判った」と国防総省長官。
「報告にある通り、当時在日米軍総司令部からレーダーに映る陸地がおかしいと、そして緊急にアメリカインド太平洋軍司令部及び当時磁気嵐の為にグアムに退避していた第7艦隊司令、在韓米軍司令官とも連絡できないとあり、最初は半信半疑でしたが、北海道と謎の大陸が接続されたと民間ニュースに流れた事から、元の世界とは違うと判断しています」
「なるほど」国防総省長官は一言だけ言う。
「諸君。不可思議な事が起きたのは事実だとして、話しを進めよう」とジョン・ヒルトン大統領。
「はい」とトミー・シュナイダー・ジュニア首席補佐官。
「我々が欲しいのは転移の情報だ。これがあれば敵の後方、つまり攻めて来た敵軍の首都を最大戦力で簡単に包囲し降伏させる事が可能だからだ。もし過去や未来に行けるなら敵勢力が成長する前に潰す事が出来る。
その情報が欲しいと同時に転移した世界には資源が多いと聞く。そして文明程度は古代ローマ程度で最新武器も先詰め銃程度とある、ならば我が国が全世界を治め資源をこの世界に運ぶ事が出来れば、我が合衆国としては経済も政治も安泰だと思わんかね」
(ついにきた)とジョン・トールマン大使は思う。当然大使は米国を代表する一人として最初はそう思っていた。だが、管理者やハイエルフと会ってみると全ての考えは読まれ、先回りして釘を、いや大きな楔を打たれていたのだ。大使は(無駄なのだが)と思う。
「はい大統領。私も合衆国の利益を代表する者として理解できます。できますが・・
最初にお断りしますが、転移は「管理者」と名乗る者しか行う事ができません。これは最高の奇跡で誰でも出来る物ではありません。
それと・・(少し言葉を濁しながら)管理者は、転移した世界とこの地球も含め幾つかの世界を管理していると聞きました。
これは管理者から直接脳に伝わったので純粋に事実としてお伝えします。
勿論、宗教的否定をするわけではありません。私もプロテスタント福音派の洗礼を受けた教徒でありますが・・・起きた事実をお話ししています。
報告にもあると思いますが管理者は過去地球に起きた様々な大災害に関与しており、多分ですが旧約聖書にある事はおとぎ話ではなく、事実なのだと思い知りました」
「と言う事は、管理者と名乗る者がこの世界も見ていて、人類がなにか期待を裏切る事があれば大災害を起こし、少しの人間により文明の再構築をすると言う事ですか。大使それはどんな映画ですか」
FBI長官の発言がここにいる高官たちの意見なのだろう。
(あれを経験していない者は理解及ばない事は理解できる)
大統領が言う。
「君たちが言っている事は三人の報告を照らし合わせると同じような事を言っている。
ならば教えて欲しい。その管理者と言うのはどうやって呼び出すのだ。
現れたならアメリカ大統領として交渉をしてみたいのだ」
大使は困った顔で「直接日本国代表に言って見てください。我々ではどうしようもありません、それにその結果世界を巻き込んで大変な事態になる事が予測されます」
「君はアメリカの国益を代表する大使ではないのか、なぜそこまでの根回しをしない」
「大統領。人知を超えた存在を相手にするのです。それに直接会ったのは1回限りでそれも各国代表と一緒でした。個別の話をする場ではありませんので大統領がお話する内容まではしていません」
そう、ジョン・トールマン大使は他国の大使と共に北極基地に行き、そこで管理者と言われる存在を見ているのだが、個別な話をする時間など無かった。
「大統領、管理者と直接お会いするのは勧められません。人間では無いのですから」
「ん?人間ではないのか」
「はい。我々は管理者の全てを知っているわけではありません。それとこの地球ではコアの周りに3つの機械が回っており、これが地殻変動を起こすと聞いています。管理者を怒らすのは得策ではないと思います」
「良く判った。日本国代表と会おう。その前に大使、君を解任する。国務省にて取り調べをする」
大統領は独自裁量により在日米国大使を解任した。
「大統領。国益の為に説明していたのです。解任理由を教えてください」
「勿論背任罪だ。国益を損なう発言の数々が証拠だ」
「私の発言は事実です」
「言い分は聞いた。ジョン・トールマンを国務省に戻して監禁しておいてくれ」
「大統領!!」ジョン・トールマン大使は叫んだが遠山には届かなかった。
大統領が会議テーブルのボタンを押すとドアーから職員が入って来て、ジョン・トールマンを拘束して連れ出す。
「さて在日米軍海軍司令官はペンタゴンに待機して日本に売り込む中古兵器のまとめをお願いする。
よいな。なにか言う事はあるか」
「特にありません」
「理解が早いな、国防総省長官手配頼む」
「早急に」
「諸君、では日本代表に会いに行こう」
メンバーは立ち上がる。「在日米軍海軍司令官はここで待機してくれ」
大統領一行はVIP応接に移動する。
途中、連絡士官に国防総省長官は耳打ちしている。
「失礼遅くなった」大統領はドアーを開けて貰い中に入る。
続いてメンバーも入る。
遠山はソファーから立ち上がり一礼をする。
(いよいよ本番だな)遠山は覚悟を決める。
自国の国益を追求する大統領と遠山・・転移予定はどうなるのでしょう