第23話 宗谷特別自治区の戦い1
第23話を投稿いたします。
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横須賀、呉、佐世保から揚陸艦が出港した。
日本各地に展開する施設大隊の装備と人員を乗せるためである。目的は宗谷特別行政地区に、特に大三角州に近い場所を切り開き、2千5百m級簡易滑走路の工事、同じく大三角州に近い場所の海岸に消波ブロックを入れて、港を建設する為である。その為に大三角洲が物資の集積所になっている。
なお、第7艦隊揚陸部隊の第11揚陸隊は各港から施設大隊を受け入れ、現地で先に待つ「ブルーリッジ」と共に作業に入る。「ブルーリッジ」は第7艦隊揚陸指揮艦であり、人員と資材を乗せられるが、通信系統の邪魔にならないように上部甲板には救難ヘリ以外の荷物などは置けないし、車両の積み込みもできない。
日米の揚陸艦や補給艦が大三角州沖に集合したならば、「ブルーリッジ」はその強力な指揮・通信設備によって、各揚陸艦や補給艦からの陸揚げをコントロールする。
一方、消波ブロックは北海道内の調達。北海道内全ての74式特大型トラックを集め、陸路輸送で現地まで運ぶ。この頃には、宗谷特別行政地区に作られた道に木の根はなく、一部は砂利も敷かれ、ある程度の速度は出せるようになっていた。車線は2車線分と待機所を設け、効率よく輸送できる状態であった。
現地では複数のトラッククレーンが稼働しているが、事前に地表を固めるために、コンクリートパイルを海岸部に次々と打ち込み、トラッククレーンの重量に耐える工事をしていた。
同じように簡易滑走路にも計画に従ってコンクリートパイルを打ち、上に簡易滑走路用の簡易舗装鋼板を敷き詰めていく予定だ。
また大三角州に動物が入らないよう、堀と鉄条柵を作りその内側に高さ4m程度のコンクリート壁を建てた。
港と簡易滑走路が完成したら、大三角州の灌漑工事の予定もある。動物たちの為に、大三角州の頂点、つまり川が2つに分かれるところに大きく浅い人工池を作り、各支流は川底を深くして、土手を作り川幅を狭くする予定となっている。
また、大三角州は良質の川砂が取れる場所でもあり、山側に山体用の砕石所を設け、コンクリートプラントの建設も同時に進めていた。高流動コンクリートを主に使用している。これは生コンに砂、粉砕率の高い砂利と増粘剤と特殊粉体を混ぜたものである。発電設備は高さ40mの水量のある滝をせき止め、パイプによる落差水流発電とした。これは将来電力不足が確実視されているので、早急に本格的な発電所建設が必要と思われる。
一方、第2師団の施設大隊は、山体試掘と山道に検問所と防御基地を兼ねた施設に分かれて建設していた。
前回、不可能と思われた山道から、『ストーンゴーレム』の村を抜けて人間がやってきた事を反省し、検問所を山の方に10km移動させ、山間の道を広くする工事を行っていた。早期に侵入者を発見できるように、比較的低い山の中腹に監視所を設け、山道と山肌を降りてくる侵入者を監視していた。
付近に展開している、第2戦車連隊、第2特科連隊、第2高射特科大隊の各1中隊と連携を取り、第3普通科連隊は検問所に障害物を置き検問所は交代で少人数にて守った。『ストーンゴーレム』は大陸語を少しは理解するようなので、来たらハイエルフの里から急いでハイエルフを連れてきて話をさせる算段となっていた。
第3普通科連隊は付近の山岳を切り開き野営地と司令部を設置しており、交代で第2施設大隊を手伝っていた。
山道には爆発物を仕掛け、監視所から有線にて起爆する様にしていた。もし『ストーンゴーレム』がハイエルフの里に下りてきた場合に余計な争いを避ける為の配慮である。
ハイエルフの山道とは平行に別の偽装した山道を作り相手の背後に回れるようする工夫も忘れない。
そんな事が続き2ヵ月、何台目かの73式大型トラックにサンプル鉱石を満載して東千歳駐屯地に特別に作られた、宗谷特別行政地区鉱石分析所に送り出していた。大三角中州には資材運搬用の簡易ヘリポートも作られ、宗谷特別行政地区は人が多くなってきた。
中腹に作られた監視所から緊急連絡が入った。
「山岳から降りてくる帝国兵らしき隊列を発見」検問所と第3普通科連隊野営地にも緊張が走った。
隊列は、ハイデルバーグを先頭とするキマイ将軍の第5師団、第2歩兵中隊約1千人の偵察隊だった。
キマイ将軍の第5師団、第2歩兵中隊は途中の『ストーンゴーレム』の村で、ストーンゴーレム達を倒し、10万の兵たちが8万になった。死んだ者たちをハイデルバーグ領のチロル地方に埋葬する為に、食料搬送用の台車に乗せ換え、約5千人の糧食隊が列を離れた。また、他の5千人の糧食隊は追加食糧をハイデルバーグ領から徴収する為に、ストーンゴーレムの村に糧食やテントを積み上げ集積所を作り、ふもとに戻っていった。遺体搬送隊に少し遅れての出発だった。
キマイ将軍配下の第2歩兵中隊長は残った7万人とストーンゴーレムの村に司令部を作り、ゴーレムたちの死体から魔法石を取り出させた。ストーンゴーレムは16体あった。
死んだ2万人の補充は無いので、小隊を再編して第1から第9小隊各1万人を第8、第9を廃止して、第1小隊から第7小隊の人数を正規人数に戻していた。
「ハイデルバーグ、意外と強敵だったな」「ストーンゴーレムに2万人も殺された」
「いえいえ、ストロスキー男爵様、流石でございます」「伝説のストーンゴーレムに打ち勝つとは、私共の言い伝えでは10万人でも勝てないと伝えられています」
「そうなのか、意外と引き倒したら簡単だったぞ、縄を掛ける奴らが死んだが」
「引き倒す作戦、その後のウォーハンマーにて砕く作戦。お見事でございます」
「さすが、キマイ将軍配下一番の知恵者、ストロスキー男爵閣下でございます」
ハイデルバーグはそんな事、聞いた事もないが、調子よく言っていた。
「では、休憩したなら第7小隊から負傷していない者を千人位つれて、ハイデルバーグ男爵、そなたが先頭で、大森林に下りる道を確認してくれ、なに、魔物はやっつけたから、小物しかいないだろう」
「そうでございますねストロスキー男爵閣下」「準備できしだい行ってまいります」
ハイデルバーグはなにか忘れている事を必死で思い出そうとしていた。
例の大森林について、行ったことはないが、言い伝えが残っていた。
「うーん、思い出せない」「何だったかな、まっ大丈夫だろう」
ハイデルバーグは歩きながら、懸命に思い出そうとしていた。
こうして偵察隊1千人とハイデルバーグはゆっくりと山道を下って行った。
途中でいろいろな獣が現れたが、ストロスキー男爵の言う通り、強い魔物の類は現れなかった。
『ストーンゴーレム』の村は、6千m級の山に挟まれた3千m級の山、山頂を越えて道なりに少し下ったところに広場があり、岩山に穴があって、そこに『ストーンゴーレム』は住んでいた。『ストーンゴーレム』の村とは麓の人間達が勝手に呼んだ名称で、広場の後ろに穴が5つほどあり、それぞれにストーンゴーレムが住んでいるだけだった。山で言うと9合目に村があった。なお、『ストーンゴーレム』の食べ物は岩であった。長年そこに暮らしていたので、おいしい岩を食べていたら、いつの間にか横穴となっていたらしい。
『ストーンゴーレム』は稀においしい岩から採れる魔法石を、どんな岩かわからないが、言い伝えにある岩肌に押し付けると、やがて子供が生まれていた。成人のストーンゴーレムは身長約15mだが、子供は5m位である。ストーンゴーレムの寿命は約4百年で、死んだら体が崩れて魔法石になるので、また岩に押し付け埋めるとストーンゴーレムが生れ、次々と増えていった。実際『ストーンゴーレム』の村には成体が16体に幼体が2体いた。だが、幼体は帝国軍が来る前に隣の山に逃がした。それは『ストーンゴーレム』しか知らない山道であった。
山を下って5合目まで来た時に、ハイデルバーグは不思議な感覚になった。それはハイデルバーグ家の言い伝えでは、山道は一人が通るのがやっとで、幅広いところは『ストーンゴーレム』の村の広場だけだと聞いていた。なのにこの道は、両側をえぐられたように広く、横に10人は並べる。
何かが変だとハイデルバーグは思っていた。先ほどの思い出せない昔話も踏まえて、しきりに周囲を気にしだした。歩みはゆっくりである。
「ハイデルバーグ殿どうされた」小隊長が言う。
「いやなにね、こんな道が広かったかなと、我が家の言い伝えによると『ストーンゴーレム』の村の広場からは一人通れればよいほどの山道だと聞いていたので、これは広いなと思います」
「現に途中までは一人が通れる程の山道しかなかったですし」相手は平民の小隊長なのだが、争いが嫌いなハイデルバーグは丁寧に話していた。
山道が広くなってしばらく行くと、前方に何か見えた時、突然大きな声で警告された。
「おまえ達は何者だ、ここは日本国の領土だ、直ちに引き返しなさい」これが3回くり返された。
ハイデルバーグと小隊長はびっくりして、どうするか打ち合わせを行い、結果、ハイデルバーグは小心者なので、隊に戻って報告をしようという事にした。
「日本国とか聞いた事がないな、ここは不可侵領域で、私が来ている以上、ハイデルバーグ領だ」と強がりを言ったが、元来た道を素直に戻っていった。
のちにこれがハイデルバーグの命を救うことになるのであった。
ありがとうございました。