第226話 新しい世界 神との事前交渉
事前交渉をしています。
何か疲れている様です。
遠山政務官を特別事務次官に変更しました。
政務官は法律で人数が決められていたためです。
調べが甘くてすいません。
遠山特別事務次官は早朝ホテルから日課であるランニングに宗谷特別行政区の街を走る。
「ここが難民の街だなんて思う者はいないだろうな」
見事に整理された街並みに次々と建てられる高層ビル。そして至る所で高層ビルが工事の最中である。
「見事な街並みだな」
ホテルに戻った遠山はシャワーを浴び朝食を摂ってから部屋で待機する。
地下駐車場から鳥山陸曹長が部屋に電話を入れる。
「お待たせしました。迎えに上がりますのでお支度をお願いします」
「いや時間に正確だな、もう用意はできている」
「了解しました。お迎えに行きます」
しばらくしてドアの呼び鈴が鳴らされた。
鳥山陸曹長が部屋に到着した様だ。
遠山特別事務次官はドアに近寄る。
「鳥山です。お迎えに参りました」
遠山特別事務次官はドアを開ける。
鳥山陸曹長と隊員が12名ほど警戒しながら待っていた。
「ご苦労」
鳥山陸曹長は遠山特別事務次官から荷物を受け取ると一緒に歩き出す。
隊員達は2チームに別れ、前後6名で警備しながらエレベーターに向かう。
そのままエレベーターを操作して地下駐車場に直接向かう。
地下では鳥山陸曹長の部下が6名で警戒しながら待機している。
「ありがとう」遠山特別事務次官は隊員に感謝を述べて、高機動車の助手席に乗りこむ。
鳥山陸曹長は後部から荷物を運び入れ運転席に乗り込む。
隊員達はそれぞれ高機動車や87式偵察警戒車に乗り込み命令を待っている。
「全車前へ」
一斉に走り出す。
ホテルの地下駐車場から出ると路上には82式指揮通信車と96式装輪装甲車が2台待機していた。
「物々しいな」と遠山特別事務次官が言うと、「念のためです」と答えが帰ってきた。
遠山特別事務次官を警護する隊列は街中を突っ切り第2施設団の駐屯地まで止まらずに走る。
「とりあえず第2施設団駐屯地のドーザ東駐屯地です。ここで未開地を通りますので各車に補給と戦闘力補強します」
「了解した。してハイエルフ達は」
「はい、昨日からこちらでお待ちです」
「うむ」
「では出発までお待ち頂けますか」
遠山特別事務次官は高機動車を降り駐屯地を見渡す。
ここは主にドーザ東地区、つまり宗谷特別行政区と未開発地域の開発を実施している第2施設団の駐屯地と聞いたが、高射群や通信設備があり90式戦車などまで揃っている。
「凄いな」と感嘆している。
遠山特別事務次官は司令に挨拶を済ませると駐屯地内を見学させてもらった。
海自出自の遠山には新鮮な光景である。
その時、
「遠山特別事務次官殿~」と呼ぶ声がする。
「こちらでしたか」と陸自隊員が走ってくる。
「見学中すいません、出発準備が1時間ほどかかりますので士官食堂でお食事をお願いします」
「わかりました」
「では士官食堂にご案内いたします」
「うむ」遠山特別事務次官は隊員について行った。
小奇麗な食堂である。
陸自隊員は慣れているのか、手洗いをさせトレーを渡し順番に料理を乗せていく。
もうトレーはいっぱいだ。
「本日の献立は、チキンのカレーステーキにサラダと副菜としてひじきとそら豆の和え物、ジャガイモの煮っころがし、それに牛乳です」
「お嫌いな物はありますか」
「どれも旨そうだ」
「安心いたしました。1時間後にお迎えに上がりますので食後もこちらでお待ちください」
「ありがとう」
士官食堂は椅子に白い布がかけられ、多少高級な雰囲気がある。
一角には談話スペースなのかテレビと書庫があり自由に読んで大丈夫そうだ。
またエスプレッソマシンが設置してあり「ご自由にどうぞ」と書かれていた。
遠山特別事務次官は食事が終わると食器を見よう見まねで片付けて、談話スペースに移動し濃い目のエスプレッソを飲んでいる。コーヒー好きの遠山はストレートのエスプレッソを抽出してブラックで飲んでいる。
「良い豆だな。旨い」
書庫に入っていた「宗谷特別行政区開拓史」を手に取り読み始めた。
おかげでいろいろ解って来た。
約一時間経過して先ほどの隊員が遠山特別事務次官を呼びに来た。
「準備は完了しましたのでお越しください」
「わかった。ありがとう」
遠山は士官食堂を出て隊列を組んでいる車列に向かって歩いている。
「未開の地を通りますので打撃車両を随伴します」
「ものものしいな」
「はい、この世界の野生動物は、元の世界の「クマ」や「イノシシ」など比にならないくらい獰猛で力も強いです。地球なら捕捉して後日解放するのでしょうが、この世界では大変危険で人なら軽く吹き飛んで死んでしまいますので、見つけ次第駆除をする様に指示を受けています」
「そんな危険地域なのだな」
「はい、過去宗谷特別行政区を開発するにあたって5名の隊員が殉職しております」
「痛ましいな」
「はい、ですので野獣が現れたならば車両から出ないでください」
「あちらが特別事務次官殿が乗車される車両です」
指示されたのは兵員輸送車である。
「中にお荷物は入れてあります」
「ご苦労」
96式装輪装甲車が並んでいる。全ての96WAPCは上部に12.7mm重機関銃M2が備えている。
車列の先頭は89式装甲戦闘車であるがドーザプレートを装着している。
「重装備だな」全8両の車両は先頭から96式装輪装甲車が2両、82式指揮通信車、96式装輪装甲車が4両、最後尾に96式装輪装甲車と重打撃部隊である。
遠山特別事務次官は未開地とは獰猛な野獣がいるのだなと理解した。
指定された96式装輪装甲車に後部ハッチから乗りこむとハイエルフ一行が先に乗車していた。
「よろしくお願いします」と挨拶する。
ハイエルフ達はニコッとして顔を向ける。
遠山の荷物は車両内部に置いてあった。
荷物の中から本日のスケジュールと話の流れを出して、頭で復唱した。
ハイエルフ達はクスクスと笑う。
「遠山さん失礼しました。あまりにも思念が強くて読まなくても伝わってきました」
とヒナタが申し訳なさそうに説明した。
ハイエルフは4名である。元族長に、通訳のヒナタ、レイナ、リナである。
「あっ失礼しました。神にお願いする事項を予習しております」
「いえ、気になさらないで、遠山さんがどうしたいのか分かりましたので我々がサポートします」
「助かります。私はお会いした事無いので緊張しています」
「はい、気になさらないでください。隊員さんの話では出発してから1時間程で到着だそうです」
「みなさんお食事はとられたのですか」
「私たちは「神の桃」を食べていますので大丈夫ですよ」
「はぁ」
その時運転席から無線で「全車発進準備エンジン回せ」と入って来た。
「302異常なし」と運転手が報告する。
「全車前へ」と言うと低速で発進した。
側面についている銃窓を開けると光が車内に入ってくる。
やがて駐屯地ゲートを通過すると森の中に敷かれたアスファルト道路を時速30Km程度で進んで行く。
スピードは60km程度に上げて通過していく。
途中村の様なゲートが見えた。
「そこは森に住み隠れていたエルフの村ですね」
「宗谷特別行政区に避難はしなかったのですか」
「エルフも我々ハイエルフも元は森の民です。森が落ち着きます。エルフ達は駐屯地の外に村を作っていましたが、今でも村に住んでいますよ」
「それでハイエルフの皆さんも森に村を」
「そうです。迫害を受けなければ森が住みかとしては安心できます」
「宗谷特別行政区には働いているエルフもいるとか聞きましたが」
「それはドーザ大陸で帝国などに迫害を受けて逃げて来た者達です」
「そうでしたか。森が落ちつきますか」
「ええ」ヒナタはニコリとする。
車列は山道に差し掛かったのか車両が傾斜する。しかも未舗装だ。
「もうすぐですよ」とヒナタは言う。
山道を10分程走ると車両が停止した。
「全車停止、周囲警戒厳とせよ」
「乗客を誘導せよ」と聞こえた。
後部ハッチが開けられ隊員顔をだす。
「現地到着しました」
遠山はアクションカメラを頭部に装着し、台本を持ち下車する。
「行きましょう」とヒナタが案内する。元族長とレイナ、リナが一緒だ。
他に陸自隊員が20名近く、先行して安全確認していた隊員6名も戻って来た。
「我々はこの洞窟自体を警備しますので、ハイエルフさん達と遠山特別事務次官殿はポータルまで行き、予定の行動をお願いします」とこの警備隊の隊長らしき1等陸尉に言われる。
「ありがとう」
ハイエルフ達は制御盤らしき物を点検している。
「問題ないようです」とレイナが答える。
「では「神の回廊」を接続します」
制御盤の横の岩肌が突然白くなったかと思うとうねり始めた。
「回廊の先は北極大陸基地に接続しました」
元族長は無言で回廊に入っていく。
壁が波打つ。それは白いカーテンの様だがスット入れる様だ。
「どうぞ危険はありませんが、三半規管が弱い方は船酔いするかもしれませんが遠山さんは海軍さんだから大丈夫ですよね」とレイナが説明する。
遠山も入ってみる。何も抵抗を感じないまま、洞窟から無機的な作りの建物内部に出た。
「ここが北極大地の基地・・」
ハイエルフはニコと笑う。
「どうぞ上の階になります」
建物内部に作られた大きな階段が扇状に広がっており、ハイエルフ達は歩き始める。
ポータルがつながったのはハイエルフ達の休憩室の様にソファーが沢山あるフロアーである。
階段を登ると窓に景色が映り、外は吹雪いているのが解る。
内部は無機質な装置が並んでおり、外に繋がるハッチの様なドアが見える。
遠山はアクションカメラに撮れる様に全てを記録していく。
「こちらです」
ハイエルフはそのフロアーの扉を開けて、一面白い無機質な部屋に通される。
「ここが神とコンタクトする場所です」とヒナタは言う。
「多分記録できないと思います」とリナが言う。
「神の許可が出ると良いですね」とレイナが言う。
元族長は部屋の中央に立ち、何かを始めている様だ。
「神との念話が始まりました」とヒナタ。
どういう仕組みなのだろうと遠山は思う。
「私にもわかりません」とリナが言う。
「始まります」とレイナが言うと、低い音で「ゴーン」となる。
「ゴーン」「ゴーン」「ゴン」「ゴン」と音は間隔を短くしながら、やがて無音になる。
壁天井床が一面波打つように揺れる。
「降りてきました」とレイナ。
「族長が挨拶と来た理由を伝えています」とヒナタ。
「神が言語化を選択しました」
とたんに声が聞こえた。
低いような荘厳な声が聞こえた。
「人間よ良く来た」
「はい突然伺い申し訳ありません」と遠山。
「この者は日本政府の代表です。本日は後日神との面会に先立ちお伺いしました」
澄んだ声が聞こえる。
「これは元族長の声なのか」と思うが、ヒナタはこくりと頷く。
「して本日の用件を申せ」
「はい、恐縮です。後日日本と共に移転した他国の者達を連れてくる予定ですが、その際に神にお願いがございます」
「つづけなさい」
「はい、他国の者達を元の世界に戻す事を予定していますが、他国の中には地球とこの世界は何度も往復できるはずだと信じている者がおります。この者達に送り返しと連れ戻しは1度きりだと説明したいのです。
ですが我々が説明しただけでは納得せずに、我々やハイエルフさん達を捕らえて自分達が利用しようとするでしょう。神からはっきりと言い聞かせて頂きたいのです。
それともしそんな事をすると何が起きるのかと。それと参加できない国に対し証拠の記録を出したく、撮影の御許可を頂きたく申し上げます」
「ふむ。言い分は理解した」
・・・
「さてどうするか」
・・
「元の地球アースには終末武器が隠されている。それを使うと脅した程度で良いか。過去の映像を見せるのが良いか」
「過去の映像で宜しいと思いますが、記録をさせて頂ければ全員を連れてくる事を避けられます」
「どれが良いかの、アースは過去3回滅ぼしているが・・・」
「大洪水が宜しいと思います」
「ふむ。あれか大地が人間により荒廃したから洪水で全て流し、その後に森や草木に動物を再生したあれだな」
「地球の古代神話に残っています。その時の映像があればと思います」
「うむそうしよう」
「有難うございます」
「しかし人間と言うのは勝手な生き物だな」
「私もその一人です。反論はございません」
「そなた達の考えは理解した。連れて来たならば私の方で映像と疑似体験をさせよう」
「有難うございます。1週間以内には連れてきますのでよろしくお願いします」
「うむ」
「その後2か月程度で送り返しを、そしてその後3か月程度で地球にいる同胞で戻りたい者をつれて帰還を考えています」
「ふむ」
「それで送り返しと帰還のタイミングですが、元族長に同行頂こうと考えていますが宜しいですか」
「お前達も他国の者を戻すために同行するのか」
「はい、そのつもりです」
「媒介はハイエルフでも良いのだが・・・少し考えさせてくれ」1秒後・・
「結論はでた。お前達を送り返す時と戻す時にハイエルフではアースでは思念が弱くなるので冥界のダークエルフを派遣する。それなら自衛も出来るので適任である」
「はいありがとうございます」
「ダークエルフは自分でも転移できるので防衛には最適と思う。ハイエルフは脆弱に作っているので転移に耐えられるのか心配であり、自己防衛も殆どできまい」
「それから記録の件は如何ですか」
「この部屋で起こった事は全て記録されている。それをやろう。お前達の機器ではこの部屋の魔素で飽和を起こして動作不良になるだろう。記録媒体だけ持参すれば良い」
「詳しい事はハイエルフに伝える」
「有難うございます。用件は以上です」
「ふむ。アースではどこに送れば良いのだ」
「それは次回お会いする時にお伝えしますが、アースと呼ばれる地球の海上を予定しています」
「ふむ。宜しい。次回はダークエルフも呼ぶとする」
神との対話は突然終わった。
元の無機質な部屋に戻っている。
「遠山さん大丈夫ですか、人間が神と対話すると神経をやられるので少し休憩してください」
「すいません緊張していまして、疲れました」
「ではこちらに」
対話の部屋を出ると、反対側のドアを開ける。
「ここは終末兵器を操作させるためにハイエルフが休憩する場所です」
部屋は簡易なベッドが作られている。
遠山は横になる。
「神と対話か、威厳に圧倒されていたな」遠山は目をつぶる。
ありがとうございます。
投稿遅くなってすいません。
突然の寒さで肩がしびれて右腕に痛みが走っています。
なんとか薬で誤魔化して書きました。