第216話 日本企業暗躍
日本転移にも関わらず日本企業は動いています。
同時に不穏な動きも・・・
中規模総合商社である丸亀商事の尾崎邦夫は貿易拠点としてのツール要塞港に来ていた。
「さてと、次は労働力確保だな」
尾崎は東京丸の内にある本社から、トライト王国向けの物資貿易ルート開拓の任を受けて、空路で羽田から宗谷特別行政区国際空港経由でドーザ大陸中央空港を経て、トラック便でトロル街経由のツール要塞港、そして船便でトライト王国に至るルート確保に動いていた。
空路は自衛隊基地を併設するドーザ大陸中央空港までは比較的簡単である。
しかし、陸路は今だ盗賊や魔物による被害が多く、陸上自衛隊も手を焼いていた。
だが、自衛隊は各街の冒険者ギルドと交渉して、護衛を付ける事で合意し契約まで行っていた。
持ち込むトラックは民間の車両であるが、燃料補給は自衛隊の基地でしか給油を受けられない状態である。
だが物流については制限も多いが活発に動いており、また冒険者の警備もあり比較的順調である。
しかし、海路については旧帝国が保有していた補給船が全て自衛隊により燃やされ、現在港に物資を運んでいるのは日本の海運会社が運航する貨物船しかない。
そして港積み出しの労働力確保は各街の長に協力をしてもらって宗谷特別行政区方式を取り入れていた。
つまり定期的給料と特別手当の組み合わせである。
各港の港湾労働者は組合組織を作り、そこに所属する労働者が職種によって給料を受け取れる仕組みとなっている。
これも各地から希望者が多数港に押し寄せ。労働力確保も成功していた。
しかし、不安もある。
このドーザ大陸西側地区(北からツール、ドメステイン、フマラ)は皇帝艦隊の本拠地であっために、アトラム王国経由した自衛隊艦隊による攻撃を大きく受けており、港整備の為に最近まで自衛隊により補修を実施していた。
だが、裏では旧皇帝親族による支配があった地で、回顧派が隠れ住んでいると言われている。
表面は日本国の直轄地となっており、各街の長などは比較的日本贔屓となっている。
ドーザ大陸会議の時には、フマラ要塞港領主のハーソンとツール要塞港のハンスが各街の長として随伴していたので、会議内容は把握していた。
「よし今日はここまででホテルに戻る」丸亀商事の尾崎邦夫は呟くと、ツール要塞港にある伝統的ホテルのシーサイドパレスに向かって歩き始める。
丸亀商事の尾崎邦夫は元々中東や南米などの状況不安定な地域を担当しており、殺人・誘拐が多い地区担当であったため、この世情が不安定なツール地方に適任であった。
だが、自衛隊施設部隊も常駐しており、他の商社系日本人も何人か見かける事ができる。
各商社も商材はあるので貿易ルート確保が最優先であった。
「お戻りですか、尾崎様」シーサイドパレスは元々貴族専用ホテルであった。
港を見渡せる小高い丘の上に建っており、丘を裏に降りるとプライベートビーチまである。貴族が保養に使うリゾートホテルであった。
尾崎邦夫は鍵を受け取り、港が見えるラウンジでお茶にしようとしていた。
ホテル全体はヨーロッパ風の重厚な作りであった。木造4階建てであり、客室数は多くないが一部屋は貴族が使う前提でかなり広い。
メイン応接にサブ応接、メインベッドルームは見た事無い程の広さである。
風呂は貴族が使用する猫足バスタブ式で一人が入れる大きさであるが風呂スペースは8帖ほどもあり、落ち着かない。
ベッドはキングサイズのロングタイプで210×200もある。三人で寝ても余裕である。
更にホテル側から専属メイドが2名もつく。
そんなホテルでも貨幣価値が違うので、日本円で1泊5万程度ある。(日本なら1泊20万円から200万円位か)
「尾崎さん仕事は進みましたか?」「企業機密です」尾崎は笑いながら答える。
聞いた相手は中芝商事の中村氏である。尾崎同様に中芝商事に有利な貿易ルートを作ろうとするライバルだ。
「はは、尾崎さんの「おこぼれ」を狙っていましたのに」
「はは。中村さんであれば競合ルートになるでしょうね」
「そんな事はないと思いますよ。ですがね・・」
中芝商事の中村氏は話す。
「安全航路の為に、近くのフマラでは無くてここツールを選んだのですよ。フマラでは良くない噂が多くて」
「ほぅ良くない噂とは。ツールに波及すると嫌ですね」
「それが、帝国回顧派が組織を作っていると聞きましてね。最初に暴動が起きるのならツールかなと思ってましたが、どうやらフマラが最初みたいですね」
「そうでしたか、中村さんの想定ルートは距離も長いし無駄だなと思っていましたが、そんな事情が」
「普通、そう思いますよね。ホルト島、トーマラ島、ロードス島、ミルダ島などの南西諸島に送り出すならフマラの方が絶対有利なのですがね」
「苦労しますね。確かにフマラに拠点を構えると何便も船便つくれますからね」
「ですがフマラには自衛隊基地が無く、燃料補給が難題なのです」
「そうでしたか。ご苦労察します」
「ですがね。本社情報によるとフマラに拠点を作る計画があるとか、危険なのですがね。三ツ矢商事が計画中らしいですよ。我々は安全第一にしていますけどね」
「あの三ツ矢商事ですか。燃料補給基地も同時に作るのでしょうね。莫大だ」
「最短ルートですからね開通したなら効率は良いでしょう」
「中芝さんは乗らないのですか」
「ははは。やはり情勢しだいですね。自衛隊も遠いのに反乱とかされたらたまりません」
「それで安全ルートで通商をですが」
「今のところは」
「お互い苦労しますね」「はははは」
尾崎は優秀な社員である。
本日中村から聞いた情報を現地情報として本社にデータで送る。
本社情報戦略室が最終判断するが、危険情報にはABCのランクがついて戻ってくる。
・・
同時刻・・・
「くそ、やはりここはダメか」
三ツ矢商事の杉浦泰三が唸る。
杉浦は未開拓のルートを作る為に派遣されている。
「フマラが最短なのに、領主は良い顔して何も協力してくれないし、住民も外に出ない。
燃料基地までの計画なのに労働力が集まらないし、なにより港湾工事も進んでいない。
失敗なのか」
フマラのホテルで杉浦は本社に進捗状況について連絡していた。
まだ電話回線も通信回線も民間には解放されていない為に、衛星経由での電話が唯一の通信手段である。
「嘆いていても仕方ない。明日は港のドンに会いに行って協力を求めるか」
杉浦は焦っている。
島を含む新ルート開拓が成しえなければ通商は失敗する。
競合他社はツール港を使用して海路を開拓している。
距離的に有利なフマラで失敗は許されない。
・・
フマラ場末の酒場。
「気づかれるな」
「わかってるテリー」
「仲間が25人になった」
「いやまだまだだ」
「そうだな。蜂起には最低100人は必要だからな」
「人だけではない。武器も必要だぞ、親衛隊が使っていた手筒銃は最低ほしいな」
「それは帝都にしかないぞ。それに日本が管理しているだろう」
「ならばだ、職人を確保して作ると言うのはどうだ」
「それなら可能性はあるな。それと警察が持っている拳銃はどうだ」
「それなら警察をメンバーに入れるしかないだろう。武器の管理は厳重だと聞く」
「蜂起後の計画も重要だぞ、特に日本政府に皇帝の引き渡しをさせないと失敗する」
「皇帝は東京にいるらしいぞ」
「時間がかかるな」
「ならばだ、この街に一人日本人の民間人がいるらしいぞ、それと皇帝を交換と言うのはどうだ」
「ふむ。いけるな」
「その方向で計画を作るとするか」
「了解した。武器調達と日本人誘拐と皇帝奪還、やる事は多いな」
「だがやらなければ、我々の意味はない。帝国復権しないと一生このままだからな」
「わかっている」
「その為にこうやって」
「良いか後を付けられるな、情報を漏らすな」
「帝国復興の為に」
「帝国復興の為に」「帝国復興の為に」「帝国復興の為に」
ありがとうございます。




