第213話 紛糾
遅くなりすいません。過去話との整合性を取る作業が難産でした。
もう噂ではなくなった日本帰還・・・日本政府はどの様に対策するつもりなのでしょうか。
ドーサ大陸会議は旧帝都の旧元老院で開かれた。期間は3日間。参加者は各県の知事と同行者であった。
顔ぶれは、トルステイン県代表のソミリア・ラシアス知事とトルステイン代表のトーマス元提督。
ドミニク・フーラ県は、ドフーラにて一時自衛隊に対抗したアルタ・フーラ元伯爵が住民嘆願の上、県知事として就任した。付き添いとして交易都市ドミニクの代表アーバンが同行している。
ミリム・バロッサ県については、要塞都市バロッサ元領主のハミルトン元侯爵が知事をしている。
ハリタ・ミルド県は首都の交易都市リリコネの代表であるトルマスが知事に就任している。
ドーサ大陸南西諸島は皇帝生誕の地とされるミルダ島から新族長のトルラリスが就任した。
元皇帝とは血縁関係はない。
元皇帝の親戚が多く勤めていたドーサ西県(日本直轄地)は総務省から谷村担当官が来ている。
そしてドーサ中央県は不幸なトーマスとリエラが入り口に立ち並び、各県知事を出迎えている。
なお、ドーサ中央県にはトライト島とリル島が含まれているが、旧マーリック魔法王国に王女マリーシアが戻った事と日本政府、ハイエルフの後押しによってトライト王国が誕生している。
今回はトライト王国の代表としてマリーシア女王が同席している。
「では諸君、忙しい中お集まりいただき心より礼を申し上げます。
さて、皇帝が日本国に自治権を渡し、急いで開催された「ドーサ大陸平和会議」を開催し県境を決め、決められるところは知事を選任して半年以上が経過しました。
この間に不在であった県知事も選任され、各都市間の交易は活発となり、経済も大きく動き出しています。
旧帝国時代とは違い、奴隷に頼らない新たなる制度の基にドーサ大陸に生活する者の生活は安定し、物資も豊かになり、戦争に怯えなくて良い平和な世の中となりました。
これもひとえに日本国のお陰であると確信しております。
本日は各県の知事及び代表補佐の方々にお集まりいただき、ドーサ大陸国や各県で生じている諸問題を検討すべく、第1回ドーサ大陸会議の開催を宣言いたします」
トーマスは一呼吸おいて、
「ではこちらで検討した内容に準じて討議を開始しますのでご協力よろしくお願いします」
トーマスとリエラは小声で・・
「トーマス知事、良かったです」
「リエラの原稿通り読んだだけだ」
「それでも良かったと言えます」
「そうだな、元伯爵や女王に侯爵を前に緊張した」
ここからはリエラが進行する。
「では知事の皆さま、最初は租税の問題でございます。
旧帝国時代は都市単位に課税がありました。ですがドーサ大陸中央政府からの指示によりまして従来の入街税に出街税に入荷物に出荷物税に住民税を含めてドーサ大陸の経済発展を優先して一時撤廃となっておりましたが、各街の治安維持や道路や河川整備の為に課税を復活させようと考えております。
この件についてはドーサ大陸中央政府の首相でもあり日本政府総務省副大臣である島崎氏より説明を行います」
会議は2日間に渡って激烈な議論を含め、概ね日本政府の原案通り可決していった。
3日目の最終日は今までと違った展開となる。
リエラが発言する。
「皆さまのご協力によりましてドーサ大陸の課税に通商に人的交流など過去に類を見ない発展を齎す事が予測されます。皆さま本当にご苦労様です。
では最終日ですので皆さまの県における問題点や困っている事について自由討議とさせて頂きます。
内容は自由ですのでお楽に発言をお願いします」
このリエラの発言が紛糾の引き金となる。
「良いですか」
「はい、トルステイン県トーマス元提督お願いします」
「うむ。日本がドーサ大陸にやってきて平和な世の中になった。それはこの会議でも統一された法律による平等な生活など、過去の政策にはない特徴であると、儂は思っている・・
だが嫌な噂を聞いた。
それは日本が元の世界に戻ってしまうと言う事だが、本当なのだろうか」
「それは・・私も聞きました」とリエラ。恐れていた事が起こってしまった。
「儂も聞いたぞ」ハリタ・ミルド県トルマス知事も同意する。
それにより会場は一気にざわついてきた。
「宜しいですか。説明させて頂きます」ドーサ中央政府首相である日本政府総務省副大臣島崎功が発言する。
一呼吸おいて
「日本政府としてドルツと交戦した事は皆様もご存じだと思います。
日本はドルツに勝利し、その過程で「神」との対話が実現されました。
その対話で分かった事ですが、この世界は「神」が常に監視し、混乱が起こればハイエルフさん達が北極大陸にある神の兵器によって人々を滅し新たなる世界を作ると言う事です。
それは過去に何度も起こっていると言う事でした。
日本の交渉代表はドルツ国の帰還を提案し「神」はそれを承諾し、その4日後ドルツは元の世界に戻った物と推測されます。
推測と言いますのは結果を見られないからです。
次に日本も元の世界に戻す事を「神」と呼ばれる人物は約束されました。
その結果を元に日本は元の世界に戻る準備を開始しています。
内容は秘密にして漏れない様にしてまいりましたが、これだけの内容は漏れる物なのですね」
会場は一気にざわつく。
「本当の事であったか」トーマス知事もため息を漏らす。
「おっお静かに」リエラは騒ぎを治めようと必死だ。
「島崎殿、今言った事は事実であるか」アルタ・フーラ知事が発言の審議を問う。
「残念ながら事実です」諦めた島崎は言う。
「そうか。今の状態で日本が元の世界に戻るなら帝国を再建する動きが必ず出てくる事は想像に容易い。
日本はどうするつもりなのだ。このままでいけば内乱が起きるぞ」
一度日本に抵抗しあっけなく敗れてしまった元ドフーラ領主アルタ・フーラは日本の姿勢を問う。
「えーと、お静かに。皆さんの言いたい事は日本政府としても懸念しております」と島崎は必死に説明する。
「日本政府としては事実を公表しておりません。ですが皆様が知りえると言う事は既にこの情報は出回っていると思いますので政府と検討させてください。内戦など日本政府は望んでおりません」
「それは我々も同じだ。だが島崎殿、どこの世にも理屈ではなく回顧の思いだけで動く輩はおるのだ。
たとえ元皇帝が望んでおられなくても周りは動く、それは大きな波となる可能性がある。
日本政府としても慎重に進めんと直ぐに結束はこのドーサ大陸国は乱れてしまうぞ」
「はい、心得ています」島崎は汗をハンカチで拭いながら説明する。
「みなさん!!」リエラが大きな声を出す。
皆がリエラを見る。
「この会議が始まる前にトーマス知事とも話をしました。やはり内乱は起こると考えます。
特に帝国によって迫害を受けていた獣人や亜人については、それを一番恐れている筈です。
日本政府もそれが解っているから秘密にしておいたのだと思いますが、これだけ噂が広まっていると秘密の意味がありません。
日本は早急にどの様に対処するのか、発表するべきだと思いますが・・・ですがそれによって内乱が収まる可能性は少ないと思っています。
帝国時代に甘い汁を啜っていた人たちは一転して財産を没収され平民として転落しています。
それは・・蜂起しなければ一生非国民として生きて行かなければならないからだと思っています。
日本政府の決断を支持はしますが、そんな人々がいる事も考慮して頂ければと思います」
「判りました。すぐに本国と協議致します。その結果は皆様にお知らせする事をお約束します」
「宜しいですか島崎殿」マリーシア女王が発言する。
「どうぞ」
「私たちは日本のお陰で祖国を取り戻す事が出来ました。それについては感謝しております。
ですがこの混乱した状態で日本が元の世界に戻ってしまうのは、この場に集っている方々にとっては望んでいない事だと思います。
日本が戻ると決めたと言うのであれば私たちにはどうする事もできません。
ですが・・・また戦争になるのであれば私たちは準備をしなければなりません。
女神様は何も仰ってくださいませんが、人々が死んでいくのを見るのは嫌です。
祖国がなくなるのであれば私たちは戦います。例え負けようとも再び属国になる事は望んでいません。
それはここに集る知事殿も同じだと思います。
もしどうしようもないのであれば、我々はアトラム王国に協力をお願いして旧帝国勢力に対抗するつもりです。言わずにその準備を進めれば良いのですが、私たちの覚悟を知ってほしくて言っております」
会場はシーンとした。
女王は続けて「ここにいらっしゃる知事の方々も旧帝国の元領主として、戦争が起こればどの様に対処すべきなのかはお解りの筈。
すぐに領主軍・・・県軍を組織して対抗すると考えます。
日本は私たちに素晴らしい文明を齎しました。ですがそれは一転すると戦争の道具として使える物も多数あります。
剣と弓矢や大砲の時代ではなく、拳銃、小銃の時代となるでしょう。
ですがそんな事を国民は望んでいません。
賢明なる日本国として、事態を収拾できる筈だと信じております」
マリーシア女王の心の叫びが会議場に響き渡る。
ありがとうございました。
次話も頑張ります。