第20話 戦闘国家宣言
第20話を投稿いたします。
なにやら日本列島が騒がしくなってきました。きな臭いですね。
日時は2022年5月5日午後1時、磁気嵐より17日が過ぎた。
首相官邸大会議室。異例ではあるが、首相記者会見が行われ、重大な発表があるらしいと、報道各社300社に加え200のワイドショーやTV番組のカメラが、記者も報道やレポーターなど1,000人を超える規模となった。
各社、日本が陥ってる異常な事態の説明と、今後の方針について説明されるとの事で、各TV局のワイドショーや報道特集での加熱な報道や討論番組を行っていた。一部のマスコミではハイエルフ特集を行っていたが一番視聴率が高かった。
司会が言う。「時間となりましたので、第100代総理大臣 当壁高雄の総理大臣記者発表を行います。大変申し訳ありませんが本日は発表のみであります。ご質問については後日別の会場にて行います」
マスコミは一様にがっかりしたようだ。
「総理大臣の当壁高雄でございます
本日は政府として国民の皆様に重大な連絡がありますので、お時間を取らさせていただきました。
さて、4月18日午後3時からの磁気嵐によるブラックアウトが15分間発生いたしました。
同時に4月18日午後3時から震度2の地震が日本全土を5分間襲い、幸い直接的被害はございませんでしたが」
息を整える。
「時間が過ぎ、磁気嵐が過ぎ去った後は、日本が地理的に回転し謎の大地と接続していました。
ここまでは過去の記者発表で報告した通りです。
これに伴い、見たことのない動物に襲われ、特に海獣と言われる巨大な『うみへび』や神話の世界にあるような『ドラゴン』などに襲われ、自衛官17名の尊い命が亡くなりました。大変に痛ましい事態です」
ひと呼吸置いて
「日本の現状をご説明致しますと、各省庁から個別に発表された通り、産業の為の原料素材は備蓄半年、食料については国内生産率も上がり半年分は確保できています。今後とも農林水産省は農業生産を推進していくと同時に農地回復を行い、遊休地や休農地を活用して自給率の向上を目指しております。
以前の自給率40%から現在は60%となっていることから、推進自体は間違っていないと思います。ついでの話をしますと、水産業ではなじみのある魚の『くろまぐろ』『かつお』については今世紀最大の豊漁であります。また見た事ない魚も多く、食用になるのか現在調査中であります。
話を戻しますと、謎の大陸や怪獣などがいる世界を不思議に思い、研究者フォーラムを緊急に開催し答申を求めたところ、まだ証拠は少ないが、磁気嵐に伴う不正振動、それも日本国全体を揺らすほどの振動によって理解を超える話ではありますが、次元を超えたのではないかと言う意見が主流を占めました。ある数学者が物理現象の試算を行ったところ大きな質量変動が日本全体で発生し、結果次元を超えてしまったのではないかとの検証に至りました。これは複数の数学者や物理学者の皆さんのお陰で2次検証まで確定しております。実に厄介な話ではあります。
現実に話を戻すと、ドーザ大陸と言われる接続大地を調査する事に2週間かかりましたが、かの地には産業の原材料となる各種鉱石が多く発見され、原油田も見つかりました。原油備蓄は3ヶ月分ありますが枯渇を懸念されていましたので明るいニュースであります。しかもほとんど備蓄原油に近い品質とか、すぐにでも採取したいのですが、かの地は日本ではありません。また、所有者所属国も不明です。いや所有者がない状況です。
そこで政府として決断しました。日本が生き延びていくため、工業を衰退させないために、かの地を日本国領土とするべきだと、国際連合やWHOなどの国際機関がない現状、日本に食料や資源を輸出してくれる国もなく、食料援助など助けてくれる国もありません。
日本は完全に国内生産によって国民の生活を、経済、産業を守っていかなければなりません。
ここに宣言いたします。かの地『ドーザ大森林』を含むドーザ大陸東部の山岳までを日本国領土として、民間人や民間企業による開発を行い。日本が生き残る手立てを打ちたいと思います。
もちろん異論があるとは思いますが、国民の生命と財産を守る為です。ご理解をお願いします。
つぎに『ドーザ大森林』の開発と言いましたが、かの地は危険生物が多く、民間人では立ち向かう事は不可能です。特に『ドラゴン』と呼ばれる生物は火をはき人間は一瞬に焼け死んでしまいます。そこで陸上、海上、航空の各自衛隊を派遣して民間人の生命と設備の保護を実施してまいります。
「その為に自衛隊の増強を考えております。本来自衛隊はアメリカ軍との連携によりその役目を果たす約束と戦後に取り決められ、必要最低限、日本列島を守る為の戦力保持に心がけてまいりました。やみくもに広大な新大陸を守るような装備についてはかなり不足しております。これでは大陸の開発もままならないと考えております」
「そこで自衛隊を日本本土防衛から、新大陸の新領地をも防衛するべく、またアメリカ軍が参戦すると言う『日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約』は施行されないものとして、その執行を停止して、新たにアメリカ合衆国代表として在日アメリカ大使館大使と相互協力協定を締結し、日本国がその防衛の中心となり、不足時にはアメリカ軍への協力を求める体制へと転換いたします」
参考までに日本に点在するアメリカ軍基地の航空勢力は、F-35A12機、AV-8BハリアーⅡが8機、F-15Cが18機、F-16Vが12機他には空中給油機3種7機、MV-22Bオスプレイが35機、大型輸送機が8機、用途機は12機、これは電子偵察機や早期警戒管制機に特殊作戦機などです。他に攻撃ヘリコプターや輸送ヘリコプターなどがあります。残念ながらニミッツ級航空母艦「ロナルド・レーガン」を旗艦とする第7艦隊の主力は磁気嵐前にグアムに向けて避難行動し日本にはおりません、残られたのは第7艦隊揚陸部隊/第7遠征打撃群揚陸のみであり、アメリカ海兵隊約1万人、揚陸艦5隻に日本で建造中の揚陸艦1隻これは日本が正当な金額で買い取りを交渉しております。他にF-35Bが30機となります。これは武器兵器の補給源である米国が無い現状では、いずれ攻撃力は失われる物と思います。
長くなりましたが、日本はかかる危機に対し自力でしのぐだけの防御力を持たねばなりません。
ここに日本の政府代表として、日本本土及び『かの地の防衛』を考え、自衛隊の補強と交戦規定の改定を決定しました。交戦規定は他国との交戦を規定したものですが、怪獣等の観察を行い、その後攻撃では、前回と同様に痛ましい殉職者を出す結果となります。そこで怪獣や海獣対応としての害獣対処についてはその戦闘権限を自衛隊に委任すべく改定案を国会にてご審議いただくべく用意をしております。
自衛隊員の人命を第一と考えた結果であります。
そして怪獣を駆除し、国民の生命財産を守る為に自衛隊の国家予算を本年度特別予算として約5兆円の通常予算に加え、10兆円の特別追加予算を組み、かの地の防衛に使用していただこうと思います。
これは『かの地』だけではなく、日本本土に『ドラゴン』や海獣と言われる『ウミヘビ』や未知の歩行巨大生物が現れた場合の経済損失は計り知れないからです。
この為にも、防衛費の追加予算は必要と思わざるを得ません。国民皆様のご理解とご支持をお願いいたします。以上であります」
総理は記者を見渡し
「なお、この政府方針に対して異論があるのは判ります。ですがこの方法が現在での最善と思っています。
よって異論のある方、特に野党の皆様は1週間以内に代案作成をお願いし、1週間後に衆議院を解散させ、国民の審判をお受けしたいと思います。
また同時に憲法9条の国際平和に歌われる国際連合のない現在、特に周辺事情は好戦的他国ばかりの中で、この憲法では国民の生命財産や産業を守れないとの思いがあります。よって国民投票によりまして、憲法9条の執行停止についてご判断いただければと思います。もちろん元の世界に戻れれば、自動的に憲法9条は回復されます。国民の皆様の賢明なご判断をお願いいたします」
大変な会見となった。爆弾発言です。しかも気づかれないように他国の話を織り交ぜた。
マスコミは賛否が分かれ、さまざまな論調を展開していった。
様子を見ると、代替え案の要旨すら決まらない反対派は、賛成派に押されて行っているようで、テレビ討論会が何回も開かれ、じわじわと国民理解が高まっているように見えた。
これも当壁総理と佐野官房長官の陰謀らしいと内閣を形成する各大臣は気づいていたが、反論はできない。
各大臣の知っている限り、新大陸には油田をはじめ、石炭、鉱石特に元の世界でも稀な自然アルミニウム鉱石や純度の高い二酸化ケイ素、ウラン鉱石に金、銀、銅、チタン鉄鉱など、元の世界でも埋蔵量1位になる程の確認がなされており、希少鉱物も見つかっていた。これがあれば日本の産業は衰退しないで逆に活発化するだろうとの予測がなされた。これもあって反論はできないでいた。
この頃には、イプシロンロケットも打ち上げ、またひまわり6号と7号からの半球映像も届くようになり、本格的な『新地球』探査プロジェクトが開始された。
特にイプシロンロケットに搭載された通信中継衛星は公表の1.6GHz帯だけではなく、陸上自衛隊や航空自衛隊、海上自衛隊のリンク16及びリンク22に使用できるデータ中継衛星(中身は通信中継衛星)を搭載できた。これにより『ドーザ大森林』の戦術的作戦や戦略的作戦がリアルタイムで参加部隊に伝えられるようになった。
また資源探査を目的とした、合成開口レーダー衛星1機、赤外線カメラ衛星2機、紫外線カメラ1機に地域観察カメラ衛星2機が飛び、『京3』スーパーコンピューターにより、資源探査合成と秘密裏に統合幕僚監部の指揮通信システム部内にある衛星情報分析班にも情報がもたされて『新地球』の情報分析を行っていった。
まだ『新地球』の全容が把握できるまでは時間がかかるのであった。
それから1週間、なかなか代替え案を出せないでいた野党連合は、一部離脱によりその勢力を急速に弱めていった。残った野党により代案を公表できたのは、衆議院解散の当日であり、あまりのお粗末な内容により、国民は野党を見放した。
当壁総理は解散1日前に国民投票法と『日本国憲法の改正手続に関する法律の一部改正案』を臨時国会に提出し、1日で可決させてしまった。これにより国民投票の告知期間は最低60日から24日に変更され衆議院選挙と同時に国民投票も行われることとなった。憲法審査会も1時間で終わらせた。
予定通り衆議院は解散し、12日後には公示、解散から24日後に投票日・開票日を迎えた。
結果は465議席に対して与党240席、与党と共闘している党が120席、野党連合を離れ与党支持に回った革新党が55席と与党と与党連合により415席、無所属与党派が15席、野党は145席から35席と大敗となった。
特に極左翼の党は議席を全て失う結果となった。35席もの議席が全て無くなったのだ。
臨時国会を召集した総理大臣 当壁高雄は、直ちに首班指名選挙を行い、第101代総理大臣に指名された。異例ではあるが、当壁総理は臨時国会休憩時間を4時間設け、組閣を素早く(以前から決めていたのだが)発表した。あまりの速度にテレビ局や新聞各マスコミも唖然とした。
再開後、領土拡大法案、自衛隊交戦規定の改定案、憲法9条の国民投票結果賛成68%を受けて、憲法9条停止法案を、防衛費特別予算等必要な法案予算を与党多数により、審議の時間は最短で強硬採決に踏み切った。
こうして、日本の戦闘力は強化する事となった。「戦闘国家日本」の誕生である。
日時は2022年6月5日午後1時、前回の記者会見から1か月後の本日、当壁総理は緊急記者会見を開き、国民への報告と宣言を行った。
「総理大臣の当壁でございます。本日は日本の将来にかかわるご報告をしたいと思います」
重い空気が会場を支配していた。
「先の臨時国会中継でみなさんもご存じの通り、公約に掲げた自衛隊の強化、憲法9条の執行停止、かの地の領土化、そして自衛隊の特別予算等々可決されました。ひとえに国民皆様のご理解とご支援の賜物と思います。
関係各所との調整及びアメリカ大使館大使を代表とする各国大使を集めた協力条約の締結及び日本国自衛隊に関する法制度と領土拡張に関する法律の批准を頂き現在に至っております」
テレビ中継の瞬間視聴率は60%を超えた。
「ここにかの地を『宗谷大地』と呼び、その一帯を宗谷特別行政地区と呼び、日本国領土とする事を宣言いたします。
宗谷大地については調査の終わっている山岳中央までの幅6百km南北1千kmが新たな領土として、日本国領土に組み入れるものとします。
なお皆さんご存じのハイエルフの里につきましては現在の1百平方メートルから将来を見越しまして、30万平方メートルの広大な土地をエルフの里として特別自治権の基に管理運営をお願いし、将来的には本土に対して作物の輸入が出来るほどの農地経営をお願いしております。もちろん特別自治区とは言え、日本領土ですから、全力で防衛いたしますし、将来的には民間人との交流も考えていきます。
新領土についても近い将来安定的に防衛できる見込みが立ちましたら、希望する各国大使に割譲し新国家建設を認めるものであります。詳細についてはその時期に検討することとします。
またそれらの前提となる宗谷特別行政地区の開発ですが、民間の会社から希望を聞き、最終的には公開入札にて決めたいと思いますが、これは早くしないと日本の資源が枯渇する問題をはらんでいますので、早急に進めたいと思います。
産業が安定するまでの間、地元住民の皆様にはご不安ご不便をおかけいたしますが、国内の原子力発電所を順次稼働させたいと思います。これをしないと半年もかからず、日本の燃料は無くなってしまいます。 どうぞご理解の程、よろしくお願いいたします」
と真実に嘘と欺瞞をちりばめた会見は終わった。平均視聴率は最終的に52%となった。
ただ裏ではハイエルフ特集が放送され、その視聴率も地方キー局では異例の12%を記録した。まったく流石である。テレビ〇〇」
この様に日本は武装化していくのであった。
ありがとうございます。
戦闘国家誕生らしいです。どうなるのでしょうか。