第204話 ハイエルフ北極会合 その3
大変遅くなりました。
1話だと長くなりましたので2話に分割しています。
吉田は新大島のホテルから、南国特有の湿度の高い空気の中を歩いて新大島に作られた統合司令部に向かっていた。
綺麗な海と青い空が広がって、昔行った事のあるグアムを思い出ださずにはいられない。
「異世界と思えない、現実なのだな」と呟く。
新大島は異世界に転移した日本が産業維持に必要な、レアメタルや海底油田の原油に、日本に不足している農産物を送り出している為に、日本にとっては戦略的に重要拠点となっている。
新大島周辺では、旧帝国艦隊の残党による海賊が現れて漁業関係者に対し武力により、積荷を奪われる事件が相次いだために、それを守るために、陸自、海自、空自の3部隊と統合司令部が設置され、新大島周辺海域について旧式護衛艦3艦を中心とした警備艦隊を配置して警備している。
勿論、警察や海上保安庁も常駐しているのだが、海賊はそのスルホン帝国時代の武器を行使して、武力による略奪を主としている為に、巡視船だけでは逮捕に至らない事案が多数発生した為に、海上警備行動を海自が中心になって実施していた。
そんな新大島統合司令本部に向けて、整備された道路を吉田は歩いていた。
すでに南司令は司令部に入って新大島統合司令の藤田一等海佐と歓談している。
「ええ、大臣が到着次第、新大島駐屯地から第43普通科連隊第3普通科中隊が同行します」
「助かります」
「それにしても、北極大陸での会合にここ新大島から一瞬で向かう事が出来るとは異世界らしいですね」
「我々も不思議なのですが、すでに経験している身としてはそれが現実だとしか言えません」
「私も経験してみたいですね。それにしてもどこでも設置できるなら部隊配備も一瞬ですね」
「ははは。軍事的には魅力的ですがね。それに兵站も一瞬ででき、ロジステックを練る必要もないですし、魅力的ではありますが未知の技術ですので理解不能ではあります」
「そうですね。そんな技術があれば戦略上の優位となりますが、そんな甘くはないと言う事ですね」
「「神」やハイエルフ達を含めて、我々の常識では計れない事が多すぎて、受け入れる事しかできません」
「そうですね。不思議な事ばかりですね」
「ええ、そのとおりですね。不思議な経験ばかりで自然と受け入れている本官がいます」
「ご苦労察します」
・・
「遅くなりました」吉田が司令部に到着した。
「吉田幕僚、いま歓談が終わった所だ、ちょうど良い所に来てくれた」
「吉田海将補殿、司令を拝命しております藤田です。よろしくお願いします」
「これは丁寧に藤田司令殿、よろしくお願いします」
「メンバーが揃いましたので、特別に栽培した新大島コーヒーをどうぞ。新大島富士の中腹で栽培したコーヒーですよ」
「おおこれは、コーヒー好きとしては魅力ですな」と南が唸る。
「どうぞ味見をお願いします」
「これは・・」吉田は驚いた。
「凄いですな。コーヒー特有の香りの中にフルーツが混ざった様な風味が感じられます」と南。
「旨いですな」
「はは。ありがとうございます。栽培している獣人達も喜ぶと思います。如何ですか最初の収穫で約500gありますので、南海将にプレゼントします」
「これはありがたい」
「その代わり、味の感想やアドバイスがあれば助かります」
「任せてください」
「南司令、お役目重要ですね」と笑いながら吉田は重ねる。
「では大臣との会談をしますか」と藤田司令が切り出す。
「お願いします」
「では通信室にご案内します」
新大島統合司令部の通信指令室に案内された。
最新のミリ波による通信装置で、高野防衛大臣が乗る航空機との通信を可能とした秘匿回線であった。
「新大島統合指令室より高野防衛大臣宛通信開始します」オペレーターからの合図で南は緊張した。
「南より高野大臣、応答願います」
「こちら高野、メリット5」
「こちら南メリット5です」
「久しぶりだ南司令官、元気であるか」
「お気遣いありがとうございます。元気であります」
「そうか、作戦通りの南大陸攻略ご苦労様です。さて始めましょう」
「はい、早速ですが北極大陸における会談についてですが、事前にお伝えしたように念話中心となりますので、最初に頭痛に気を付けて頂きたいと思います」
「判った。頭痛薬を事前に用意しておこう。他に注意点はありますか」
「はい、念話での会話も議事録を作成しますので、会話はゆっくりはっきりとお願いします」
「了解した」
その後、高野大臣と南はハイエルフ族に依頼する方針と詳細について意見交換を終えた。
「いや、緊張した」と南。
「お疲れ様です」と吉田。
「みな、ここでの会話は機密扱いであるから心して欲しい」と藤田司令。
「了解」各オペレーターは了解した。
「南司令。大臣にお伝えする内容はほぼ完ぺきです」と吉田。
「そうかよかった。足りない部分は直接会ってお伝えするとしよう」
「では、大臣は後1時間ほどで空港に到着しますので用意をお願いします」と藤田。
「そうか、ホテルに寄ってハイエルフをピックアップして空港に向かいましょう」
「では少し早いが行くとしますか」と南。
三人は、新大島駐屯地から来た第43普通科連隊1個中隊が整列している所まで歩いて行った。
「では藤田司令ありがとうございました」
「新大島富士までの道は整備されていませんので特別に用意させました」
「ありがとう」
南と吉田は藤田司令が用意してくれた民間レンタカーであるランドクルーザー3台の内1台に乗りこむ。
確認した第43普通科連隊中隊隊長は「全車前へ」と号令を発する。
1個中隊規模の車両が動き出す。中央にランドクルーザーをはさむ。
「いよいよですな」
「ははは。吉田君緊張させるな」
「失礼しました」吉田は笑いながら返答する。
隊列は空港ホテルに寄り、ハイエルフを残り2台のランドクルーザーに乗せて、待機する。
ハイエルフ族長は南のランドクルーザーに乗せた。
大臣と秘書官も乗る予定である。
「族長殿、今日はよろしくお願いします」と南。
『どの様な話になるか予測はできませんが、前の神とした対話は全ハイエルフ族に伝わっています』
「いやそれだけでもありがたい」
しばらく隊列は空港外で待機して、大臣が乗る民間機が到着すると空港VIPゲート直結された車寄せにランドクルーザーと護衛の2台を止めた。
空港職員の案内でVIP通路を高野大臣と秘書官が歩いて車寄せまで進んできた。
「長旅お疲れ様です」南だけが外に出て迎えた。
「南司令、無線で話がそれより元気そうで何よりだ」と高野大臣。
「お気遣いありがとうございます」
高野大臣と南、そして秘書官も乗りこむ。
「中隊規模の警備がつきます」と南。
「大げさだな」と大臣。
「それだけ重要な人物だと言う事です」
「そうか」
「では出発します。運転手前へ」「了解」
運転している隊員はクラクションを短く3回鳴らすと護衛車両から出発する。
やがて空港外で待っていた中隊と合流すると隊列はゆっくり新大島富士に向かって走り出す。
車内では、高野大臣と南が再度打合せしていた。
やがて山道に入っていく。
『時間は早いですが、北極大陸に向かいますか』
「ええ、みておきたいと思います」と南が答える。
「そうだな。この世を世紀末にする兵器を含めて見たいな」と高野大臣。
『私も記憶はありますが実物を見るのは初めてです。なにしろ神が許可しないと北極には行けませんから』
「別の緊張がありますな」と吉田。
しばらく山道に揺られ走ると、洞窟が見えて来た。
『あれが神の回廊です』と族長が説明する。
一見普通の洞窟であるが、不審者が侵入しない様に入り口は塞がれ鉄扉が1つだけある。
「先に洞窟に侵入者や動物がいないか点検しますので車内で待機してください」と運転担当の隊員が外にでる。
15分程度経過し、鉄扉の内外に隊員が警備して内部調査が完了した。
「お待たせしました。内部に異常ありません」と中隊長が報告と案内に訪れた。
「では行きましょう」南を先頭に洞窟に向かう。
「足元お気をつけてください」中隊長は気遣う。
洞窟内部はバッテリー式の作業灯が照らされ明るい。
「侵入調査終わりました。どうぞ」
「いよいよだな。覚悟決めとするか」高野大臣が一言言うと全員下車し、洞窟入り口前に集まる。
『先に行って回廊の設定をします』
族長が先に入るとハイエルフ達はぞろぞろと入っていく。
「我々も行きましょう」南が大臣を案内する。吉田と警備担当の隊員が15名入っていく。
しばらく歩いて行くと、人工的な装置と壁が現れ、ハイエルフ族長が装置に何か操作している。
「大臣、ハイエルフは共通記憶で触った事無くても調整や起動が出来るそうです」
「うむ。聞いてはいたが凄いな」
族長は装置についた、いろいろな図形を触って光らせたり消したりして設定していく。
『用意はできました』
「はいお願いします」
聞くと族長は、手形に手を合わせる。突然横の人工的な壁がふわっと揺れ出した。
無機質である壁に脈動が現れ揺れている。
しばらくして、脈動していた壁の色が黒くなり北極と繋がった。
『行きましょう』と族長が言うと壁に入っていく。
ハイエルフ族が続く、ミーナが残り「皆さん行きましょう」
南は第43普通科連隊の中隊長に言う。
「我々は行きますが、装置と洞窟の警備よろしくお願いします」
「了解。ご無事なご帰還お待ちしております」
「たのみます」
「大臣、行きましょう」「うむ」高野大臣は聞いてはいたが初めての体験であった。
転移は一瞬であった。
壁に入り、抜けた先は無機質な壁が一面連なる部屋であった。
部屋は大きな円形であり、所々に円形の大きな窓が見える。
ここは北極大陸のハイエルフ基地内部の5階である。
壁にある大きな円形の窓には外の景色が映っているが、そこは猛吹雪であった。
南国の新大島から一気に極寒の北極に転送されたんだなと実感できる瞬間である。
「凄いな」と大臣。
「本当に一瞬で北極ですね」と南。
「ここにヘルゲヘナがあるのですね」吉田はどれがヘルゲヘナなのか探している。
『ヘルゲヘナの操作卓は6階です。搭乗口は7階です。窓から見えると思いますが外に見える円盤状の最上階がヘルゲヘナです』
そこには通路で繋がった塔の様な建物の上に大きな円形の物が乗った物が吹雪の合間に見えている。
銀色のUFOである。
「あれが飛ぶのですな」世紀末兵器を見て南が感嘆する。
『具体的にどの様になるのかは秘密です』と族長に笑われる。
「はっはあ」
「族長、どこに集合するのですか」吉田が尋ねる。
『1階に大きな広間があります。そこに集まりましょう』
「極寒の北極なのに温度が調整されて快適ですな」
円形の大きな部屋に腰高柵で囲まれた場所がある。
転移した全員が乗れる程の大きさである。
『シューターに乗りましょう』
「えっ」
『大丈夫です。あなた方が言うエレベーターです。落ちる訳ではありません』
「安心しました」
一同はシューターに乗りこみ1階に向かう。
『1階』と族長が思念で指示すると、シューターは一瞬で1階になる。
そこは5階より大きな円形の部屋で淡い青色であった。窓はないが、大きな扉がある。
『そこの扉は外に繋がる扉です。外にはこの基地を守る物がいます』
「ところで族長殿、ハイエルフ族は支族があると聞いていますが、何人で支族はどの位ですか。なかなか想像できないので抽象的質問ですが」と南が質問する。
『私たちは私の支族を含めて5支族です。その支族から別れ別の所に住み始めた者もいますので正確な人数は判りませんが、今回集まる支族は4支族のみです』
「具体的には支族とは何ですか、質問していてなんですが」
『支族は神から作られ、その定住の地を指定された者達。この世界に5支族があると記憶しています。
私たちの支族はドーサ大陸支族、私たちから別れてドーサ中央に住むものもいます
他には、トライト島、ドラゴン島、アトラス大陸にあるサービエル島、ウスエル島の4支族です』
「サービエル島は例の神殿がある所ですね。確か呪われていたとか」
『そうですね。人間が勝手に神殿を作って女神を寄付の対象とした事に怒った支族長が人間を排除する為に範囲結界を設置したと聞いています』
「はい我々もアトラス大陸派遣隊より聞いています。それとドラゴン島とウスエル島が初耳なのですが」
『ドラゴン島は、この世界で唯一ドラゴンが生まれる島がドーサ大陸の北にあります。そこでドラゴン達を管理する支族で、その支族が北極に旅立った後はダークエルフが管理していました。
支族は4支族ですが、別れたハイエルフ族がいろいろ所にいる事が確認されています』
「例えばドーサ大陸中央にいるハイエルフ族は、あなた方から別れたハイエルフと言う事なのですか」
『そうなります。私たちも全員で移動すると全滅の可能性があるので、一部の者達を切り離して生存戦略を取っていました』
「なるほど・・それでアトラス大陸王都近くの山脈にハイエルフ族が存在確認されていますが、それも同様な理由ですか」
『詳細は知りません』
「そうですか、それとトライト島と言うのはスルホン帝国に滅ぼされたマーベリック魔法国の事ですか」
『その様です。彼らは先にこの基地に避難していました』
「とすれば、マーベリック魔法国は復興を目指すのでは」
『人間としてはそう思うでしょうね、ですがハイエルフ族としてどの考え方をするのか不明です』
「一旦元の地に戻っているなら、その様な希望が伝えられる事も考えられますね。ついでに聞きますがウスエル島と言うのは聞いた事がないのですが」
『それは直接支族長にお聞きになる事を勧めます』
『質問はもう宜しいですか?そろそろ会場の準備をさせてください』
「あっすみません」南はバツが悪そうである。
1階壁面の装置を族長が操作する。
最後に手形に手を入れると、なにも無い広い空間に突然椅子が多数現れ、テーブルも現れた。
突然何もない空間が、会議室に変貌した。
更に・・奥には簡単なキッチンとテーブルが現れ、お茶の準備ができるスペースができた。
何人かのハイエルフが準備の為に簡易キッチンに向かう。
突然シューターが動いて、ハイエルフ族が現れた。
「いよいよ始まります」と吉田。
ありがとうございました。