第201話 南大陸撤収 その2
投稿しました。遅くてすいません。
「族長殿、準備は宜しいですか」吉田海将補が確認する。
『はい全員おります』
「では最初に東海岸航空基地に向かい、次はフルート陸軍航空基地に向かいます。
説得をお願いします」
『了解した』
こうして吉田海将補と族長を含むハイエルフ10名は「いずも」に用意されたオスプレイに乗りこむ。
吉田は乗りこむと大きな声で伝えた。
「今日は東海岸簡易収容所とフルート航空基地の収容所に向かい、協力的でないドルツ将校と兵士を説得します。戻りは遅くなりますのでハイエルフの皆さんは交代でお休みください」
『内容は判りましたが、私どもの思念で誘導は簡単ですよ』
「はい期待しております」
こうしてオスプレイは南大陸をほぼ縦断して、最初の上陸地点である東海岸港と隣接する防衛航空基地に到着する。
東海岸基地では日本からの荷揚げは殆ど南側ボン港に移されており、基地だけが機能を停止して静かに佇んでいる。
「ずいぶん静かですね」
『向こうの兵舎に人の気配があります』
東海岸防衛基地の格納庫を利用して捕虜施設としている様だ。
「吉田海将補とハイエルフ族10名だ。これからドルツ捕虜に対して説明を行う。手配を頼む」
「はい、自分は東基地ドルツ捕虜施設の管理と監視を任されている、第1空挺団第3普通科第7中隊中隊長の富永です。
本日の内容は本部より連絡が入っていますので、格納庫1番に捕虜全員を集めております」
「宜しい富永二佐。ハイエルフ族が中心となって説明をする。あなた達の頭にも響く筈なので気分が悪くなったら無理しないで欲しい」
「前回の尋問時に心得ています」
「それが、言いにくいのだが、ダークエルフの塔に行って「神」なる存在と対峙した結果、どうもハイエルフ達の思念力と言うのか、強くなっている気がするのだよ」
「そんな事があったのですね。了解しました。我々もレンジャー持ちですから耐えて見せます」
「宜しい。始めよう」
吉田とハイエルフ達は座っているドルツ兵士達に向かって現状を説明し始める。
『ドルツ兵の皆さん。ドルツ対日本の戦いはドルツ側が敗戦処理を受け入れて終結しました
そこで我々はハイリンにあるダークエルフ塔に行き、「神」との対話をした結果、皆さんは元の世界に戻れることになりました。
どの時代にどの様に戻すのかは「神」御意思ですが、南大陸に散らばっているドルツ国民をハイリンとドルトムントに集め、そこで送り返す事にします。
ただし、私たちはハイリンとドルトムントの現状を視察してきました。
病気や怪我を負った者は日本が収容して治療を行っています。
また、食料支援に生活支援を行っており、ハイリンとドルトムントに暮らすドルツ国民には笑顔も戻っています。
皆さんは捕虜ではありますが、元の世界にお仲間たちと一緒に戻るために、本日よりドルトムントに向けて移送をされます。ここまでで質問はありますか』
「はい」若いドルツ兵士が手を上げる。
「この戦争の犠牲になった者は戻らないのですか」
『それは「神」でも難しい事だと思います。ご冥福をお祈りします』
「はい、何時もとの世界に戻れるのでしょうか」
『それは「神」と話して決めました。ドルツ国民の皆さんの準備ができた時、そして日本と米国が撤退完了した時に、私が「神」に移転をお願いします』
「おおお」ドルツ兵士にどよめきが起こる。
『宜しいですかみなさん。元の世界に戻る事は「神」が決定なされた事、変更はありません』
若いドルツ兵が遠慮がちに手を上げる。
「はい」『どうぞ』「あのー、ドルツが転移されて6000年以上も時が経過しています。我々は今のドルツにとってお荷物ではないですか」
『「神」がどの様な戻し方をするのかは、私には分かりません。ですが元々同じ国民。手を取り合って国を発展させられるはずだと信じています』
「そうですか・・・」若いドルツ兵士は不安なようだ。
「そうは言いましても、6000年も凍結されて今から戻っても親戚や親もいない世界です。不安です」
『あなたは残りたいのですか』
「いえ、不安が大きいだけです」
『この大陸にいるドルツ国民全員が戻るのです。日本から支援を受けた畑もあります。暫くは生活するだけ食料や物資はあります』
「そうですか・・・」
「日本国自衛隊の吉田です」吉田海将補はドルツ語で話し始めた。
「皆さんは移動の準備が出来ましたら、早速ドルトムントまでお送りします。そしてドルトムントに到着次第解放されます」
富永中隊長は合図すると、格納庫前に(新)73式大型トラックが20台程度やってきて、「これに乗りこんで頂きます」
「各自荷物は最小限にお願いします」とドルツ語で叫んでいる。
格納庫に集合させられた時に、すでに荷物を持ってくるように指示されていた。
ドルツ捕虜はトラック一台に20名が乗りこみ、2名の隊員が監視として同行する。
これで397名もの大移動となる。
「族長殿ありがとうございました」
『たいしたことではありません。次のフルート基地に向かいましょう』
「はい、その前に東基地撤収の指示をだします」
吉田は遠征艦隊司令より受けた命令書を渡す。
「富永二佐、2日で東海岸港及び付属航空基地から撤収しボン港集結、そして乗船する予定で願いたい」
「了解であります」
「蛇足だが、東海岸の哨戒についている艦船は全て本日中にボン港に向けて出港する」
「はっ」
「ではよろしく頼む」
「族長出発宜しいですか」
『もうすでに乗りこんでいます。いきましょう』
吉田とハイエルフはフルート基地に収容されているドルツ将校へ説明する為にオスプレイに乗りこむ。
・・
フルート陸軍航空基地、ここは海兵隊が管理する捕虜収容所であり、将校クラスの捕虜が中心である。
ドルツ国首相兼ドルツ最高副司令のハインリッヒ・ベトーラゼも、ここフルート基地にて捕虜生活を送っている。
ただし、敗戦交渉に参加したハインリッヒ・ベトーラゼについては、自害の意思があると見なされ、厳重な監視がされている。
ここでもドルツの各将校と拘束されていたハインリッヒ・ベトーラゼが並んでいる。
『私はハイエルフ。そなた達の最高司令官でもあるダークエルフと「神」の言葉を伝える為に来ました』
「おおおお」ドルツ将校達から漏れる。
『「神」はそなた達の活躍に満足しておられます。そして私たちハイエルフとダークエルフを交えた話し合いが行われ、結果としてあなた達ドルツ国民を元の世界に戻す事を決定しました』
「おおお」再び将校たちから漏れる。ハインリッヒ・ベトーラゼは口枷されているので何も聞こえない。
『よって日本とも協議をした結果、ドルツ将校の皆さんをドルトムントに送り届けます。特にハインリッヒ・ベトーラゼ、あなたはドルツ首相として転移するまでの期間、ドルトムントにてドルツ国民をまとめ、全員が戻れるように準備を進めてください。
また、病気や怪我を負った者は日本が収容して治療を行っています。目途が付き次第ドルトムントに送られます。
ハイリンを含む国作地帯については日本の技術により畑は回復され、食料も順調に生育されていますし、日本からの支援により生活支援を含めた生活改善も実りつつあります。現に、ハイリンとドルトムントに暮らすドルツ国民には笑顔も戻っています。皆さんはドルトムントに行き、元の世界に戻るその日まで平和かつ公平な政治を心がけてください。特に首相のハインリッヒ・ベトーラゼさんは宜しいですね』
ハインリッヒ・ベトーラゼはコクコクと首を縦に振る。
「拘束を解いて欲しい」吉田は英語で海兵隊に伝える。
両手足と口枷を外されたハインリッヒ・ベトーラゼは吉田にドルツ語で感謝を述べる。
「ハインリッヒ・ベトーラゼさん、大変なのはこれからです。ボン港からトラックが向かっていますので、それに乗り、ドルトムントに向けて出発して頂きます。他の皆さんも宜しいですね」とドルツ語で吉田は説明する。「1300(ひとさんまるまる)にトラックが到着予定です。乗りこんで頂いて本日夜にはドルトムントに到着予定です」と説明する。
一人の将校が手を上げる。
「どうぞ」「お聞きしたいのですが、ドルトムントまでの道は悪路であり、一部通れない場所もあると聞いています。夜までに到着出来るのでしょうか」
「はい、実は我々が街道整備を行い、通行不可な地区は橋を通してあります。大丈夫ですよ」
「あのー元の世界にいつ戻れるのでしょうか」と質問が来た。
「はい、転移するにも準備があります。特に病気や怪我人の様子を見てドルトムントに移送しなければなりません。それらが全て完了した時点で転移をお願いする予定です。1か月後程度でしょぅか」
「人だけ転移するのでしょうか」と質問が飛んできた。族長が答える。
『心配なのは分かります、ですが「神」がされる事、私やダークエルフでは答えられません。
ですが、「神」が約束した以上戻れるのは確実です』
「おおおお」将校達も声が出る。
「ここでの説明は以上です。2日後にドルトムントに向かいますので、そこで詳細を打合せしましょう。
ハインリッヒ・ベトーラゼさん宜しいですね」とドルツ語で吉田は説明する。
「判りました。2日後にドルトムントでお話ししましょう」
説明を終えた吉田とハイエルフは通訳にレイナとミーナを残して「いずも」に引き上げていった。
「族長殿ありがとうございます。おかげさまでスムースに進みました。私は急ぎ戻って報告をしますので、一緒に戻りましょう」
『一安心ですね。戻りましょう』
ありがとうございます。