第197話 ダークエルフの塔へ その1
北極大陸の状況とダークエルフの塔調査が始まります。
誤字脱字報告ありがとうございます。
そこは見渡す限り、動くものがない氷の世界。
凍てつく強風が常に流れ、全てを氷で覆いつくす極寒の地。
ハイエルフ達が集められた北極大陸である。
ハイエルフの為に「神」が作った大地、そのハイエルフを守るために熱遮断のスキルを持った強力な魔獣がハイエルフに危機が迫るまで眠っている。
神の仕業によるものか、巨大洞窟自体は山の中にあり、高さ100mの位置にある横穴から延びる透明な回廊の先には、巨大な塔がそびえている。
その直径は100mもあり、高さは200m程度、その上に巨大な円盤状の窓の無い建物がある。
いや、円盤状の建造物と言うより、特殊な金属によって作られた様な巨大な金属ドームである。
神の怒り「ヘルゲヘナ」の本体であった。
洞窟内は何百人ものハイエルフが生活できる様に外部から遮熱され、外の冷気は一切入り込まない、また洞窟には出入口もない為に外に出る必要もない。この中だけで生活できる様に、広大な洞窟内には光が溢れ、作物も自給自足できる。
洞窟の奥は居住スペースとなっており、岩に掘った部屋の様な住居が沢山並んでいる。
これは6000年前からの遺跡でもある。
この世界は「ブルーガイア」と呼ばれ、「アース」と呼ばれていた元の世界に対しての並行世界である。
その「ブルーガイア」では監視者と呼ばれるハイエルフが各地に散らばり普通に生活を営んでいるのだが、ハイエルフは、ドーサ大陸、アトラス大陸、トライト島(元マーベリック魔法国)、ウスエル島(アトラス大陸北西の島)そしてドラゴン島と呼ばれるドーサ大陸北部の島に別れ支族として生活をしていた。
その時代によって地名は変化している。
その中でドーザ大陸を除く4支族が神の啓示によって北極大陸に集められて、神から次の啓示があるまで普通に生活していた。ハイエルフ達は世界の終末が近い事を悟っており、その時を待っているのだった。
この北極大陸にある、神の怒り「ヘルゲヘナ」は過去に何回も使われ、その怒りを収める為に人々によって作られた古代神殿遺跡が、北極大陸に今でも残っている。
人間が暮らす事すらできない極寒の大地での神殿工事は、何万人もの犠牲を出し苦難の末に完成していたが、その神殿には主はいない。
ハイエルフ以外は「神」の姿を見た事が無く、その為に「神」の偶像も作られてはいない。そこで古代人は崇拝の対象として、ハイエルフを「女神」と呼び、崇める対象としていた。
神の啓示を受けられるハイエルフを崇拝して、それが現在に受け継がれている「女神教」の元であった。
『神の啓示だ、最終戦争は回避された。だが戻らずそのままここで暮らせとの命令だ』
洞窟内の一番広い場所でハイエルフ支族長の一人が発表する。
他の支族長も同様に啓示を受けている。
ここに集っているハイエルフ4支族の約60人は表情には出ないが、内心はほっとしている様に見える。
北極大地で暮らすハイエルフ達の会話は全て念話で行われている。
ここ北極大地に来るには、各地にある「神々の通路」にある操作盤にハイエルフが手を置き、その特殊なDNAを操作盤が読み取り北極大陸に繋がる回廊を開くことになるが、回廊自体もハイエルフのDNAを感知して、それ以外の人間や魔物などが入り込むと強力な光線によって排除されてしまう。
また、北極大陸に転移するには「神」のトリガーが必要である為に、勝手に行き来する事は出来ない。
本当の意味での世界終末時におけるハイエルフ専用の通路であった。
その先にあるのは「ヘルゲヘナ」を操作して「神」意思を実現する為のハイエルフ専用の施設であった。
そんな北極大陸に集められた4支族のハイエルフ達は今現れた「神」の啓示よって「ヘルゲヘナ」起動をしなくても良い事に、心より安堵していた。
過去に使用した時の惨状は、神の記憶として支族長だけに伝わっている。その状況は、それは酷く、全ての人間、異種族人種、魔物全てが壊滅させらていたのだ。
その後に「神」は「発芽」と称する作業をしていき、そこから新しい人類などが生まれ、また文明を作り始める。ある意味この「ブルーガイア」は「神」の実験装置であり、失敗した場合は無慈悲に全ての生物を「ヘルゲヘナ」によりリセットさせてしまうのだった。
しかし、結果から言うと、失敗した生物を排除して新しい発芽を促しても、同じことの繰り返しだった。
この事実を受け入れるまでに6000年の年月が経過したが、「神」はある日、他の平行世界から召喚した場合は、正しく文明を導くことが出来るのではないかと考え、最初の実験としてドルツを召喚したのだが、結果としてダークエルフが暴走して「神」の意図する世界には程遠い結果となってしまった。
だが2回目の召喚によって、「神」は意図する世界を見て大きく満足するのであった。
それでもドーザ大陸のハイエルフ族を生体トリガーとして、そのハイエルフ族が絶滅した場合に、残った4支族により「ヘルゲヘナ」を起動すると言う奥の手を用意してあった。
その為に今回はダークエルフに介入させる事無く、日本国のみで世界平定を成し遂げる事を期待して。
・・
「南海将、お時間です」と吉田元1等海佐が執務室に入って来た。
主席幕僚であった吉田1等海佐はドルツ国を被害最小で敗北させた功績により昇格し、「海将補」を拝命していた。
「よし行こうか」南海将は通路を渡り外に出て、飛行甲板に待機しているオスプレイに乗りこむ。
見慣れたハイエルフ12名に吉田海将補も同行する。
周りに聞こえない様に南海将は「いよいよ覚悟の時だな」と呟く。
南海将は内閣の承認によってダークエルフの塔攻略責任者兼交渉人としての任を受けていた。
つまり、南海将の交渉によって日本の運命が決まる訳である。
オスプレイは南海将達とハイエルフを乗せて、ドルトムントとハイリンの間にあるダークエルフの塔を目指して「いずも」飛行甲板から飛び立っている。
護衛に「いずも」シャーク隊隊長井上2等空佐以下4機が護衛についている。
時間にして45分位だろうか、ダークエルフの塔周辺はオスプレイが離発着できる様に簡易ヘリポートが作られ、米国海兵隊フォースリーコン15名と空挺団からレンジャー資格を有する50名が警備していた。
「お待ちしていました」アルフォート隊長と第1空挺団長の橋本陸将補が迎えてくれた。
「第1空挺団は精鋭を揃えましたよ」と橋本陸将補。
「なにが起きるかわからないので助かります」と南海将。
南海将は街道途中にある違和感のある塔を見上げている。
「本当にこの塔は違和感だらけだな」
「ええ、一番の問題は扉が無い事ですね」と吉田海将補は付け加える。
ダークエルフの塔は直径30mで高さも30m位のずんぐりした塔である。
なにより塔に扉はない。
それらしく階段はあるのだが、その先にあろうはずの扉がないのだ。
どうやって内部に入るのだろう。
しかも首都「ハイデルバーグ」のダークエルフ宮殿地下からドルツ民を転移門により、この塔に転移させて避難させていた事は複数のドルツ兵士によって証言されている。
と言う事は内部に転移用の操作盤があり、扉もある筈だった。
「族長殿、この塔は扉が無いように見えます」と南海将。
『そうですね。一見するとないですね。ですが・・少し調べても良いですか』
「是非お願いします」
ハイエルフ達は塔の周辺を調査して回る。
『族長』一人のハイエルフが族長を呼ぶ。
それは塔の後ろ側に操作盤と同様に手をあてるレリーフが付いていた。
「それは」南海将が聞く。
「多分ですが、これが扉を開くためのカギではないかと思います」とレイナが答える。
『下がってください。試します』
族長は手をレリーフに手をあてると、低い音がして振動が伝わって来た。
正面を警備していた空挺団が手を上げ、「突然、扉が現れました」と叫んでいる。
一行は急いで正面の階段を登り、現れた扉を眺めた。
それは塔と同じ素材の石造りで、そこだけなにも無かった様に開いている。
「先に我々が行きます」と空挺団調査班の10名が武器を持ち中にゆっくり入っていく。
3分程度経過すると、一人が扉に戻ってきて「内部に危険はありません」と呼び込む。
中に入ると正面に操作盤があり、それを使い扉を内部から開ける仕掛けに見えた。
中はほんのり明るく、上には天井がある様に見えたが階段はない。内部は広い広場になっており、天井までは8m位ある様に見えた。
「上に行く階段とかないのですかね」と吉田海将補。
「これは判らないな」
「報告、階段らしき物や部屋もありません」空挺団調査班が報告する。
「どうしますか」と南海将は族長に尋ねる。
『あの操作盤を調べます』と族長。
先入観からか、それは扉を開けたり、ダークエルフ宮殿に抜ける通路を操作する為の物だと思っていたが、階段すらないのでは、この操作盤で操作をするのではないかと族長は思っていた。
操作盤には何か読めない文字が書かれている。
族長は神の記憶を呼び出すと、それに似た文字が無いか調べ始めた。
『少し時間かかります』とだけ答える。
族長が1つの文字を触るとそこだけが光り出す。
そしてレリーフに手を当てると、低い音がして、円形の塔内部に石板が次々と壁から出てそれは階段を作っていた。
『上に登れる様です』
「了解、先行します」待機していた空挺団調査班は音もなく階段を慎重に登り始める。
やがて上から降りて来た隊員は「異常ありません」と言うと下がって族長と南陸将に道を開けた。
「行きましょう」と南は言うと階段を登り始める。
その階段は壁から生えた様な石の板だけの武骨な作りで手すりも無い。
だが人が登った程度では揺れもしない頑丈な作りであった。
「これどうやって生えたのでしょうか」と吉田海将補は板の付け根の部分を観察している。
外を警備している隊員達から、塔の外壁が凹んだとか報告はない。
移動したなら元の方が凹になっていないと理屈が合わないのだが、この板は「生えている」と言う表現が正しいのだ。
「不思議な事ばかりだ」と南海将も同意する。
やがて2階に登った一同は、普通の寝室の様なベッドと応接セットにドレッサーをそこに見た。
隊員が調べた様で、引き出し全てが少し開いている状態となっている。
「ダークエルフの寝室でしょうか」吉田海将補は自問自答する。
「ふむ。宮殿にも同様な部屋があったと聞くが、ここも寝室なのかも知れないな」と南海将。
「宮殿を放棄して逃げた場合の予備寝室と言う事ですね」
「いや解らんが、そうであるかもしれない」
「それより上に登る階段か梯子がないようですが」
吉田海将補は塔の高さに比べて天井が1階と同様に高さ8mである事から、もう一階層あると読んでいた。
「ボタンかレリーフは無かったか」と南海将は空挺団調査班の隊員に確認する。
「いえ、発見しておりません」と返事があった。
「不思議ですね、塔の高さから言ってもう1階層は有る筈なんですが」と吉田。
『もう一度調べてきます』族長は階段を降りると最初の操作盤を調べ始めた。
操作盤の後ろにもう一文字読めない文字が描いてあった。
族長は指で触ると前に回ってレリーフに手を当てる。
再び低い音が響き、なにかが現れたようだ。
『族長、2階に階段が現れました』2階に残ったレイナが報告する。
『行きます』
族長が2階に上がると、そこには階段の反対側に同じような階段が現れていた。
『南海将、多分ですが、この上が神との対話が出来る部屋』
上るとそこには、1階と同じ様な操作盤と大きな鏡の様な物があった。
その鏡の様な物は、中に光が動き回っている。
『やはり、これは冥界への通路を開ける装置です。それと直接天啓を受ける事もできる筈』
「うむ。記録して欲しい」南は空挺団調査班に動画と写真で記録する様に指示する。
「いよいよですか」吉田も緊張する。
「族長殿一旦休憩しませんか」と南は提案する。
『そうですね。私も疲れました』
一行は空挺団調査班に装置に触るなとだけ伝えると1階から外に出て、外で待っていたアルフォート隊長と第1空挺団長の橋本陸将補を交えて中の様子を伝え、休憩する。
一行が到着してから1時間が経過していた。
続けて調査が行われるようです。