第196話 神の怒り「ヘルゲヘナ」
連続投稿です。
ドルツ救済については、ルートの確保と生活支援物資が大量に日本から送りだされ、ボン港から陸路でドルトムントに送り出されていた。
ドルトムントに向かう街道は、自衛隊の大型トラック(主に7tトラック)が沢山走っている。
ドルツ国民はトラックが来るたびに生活に必要な石鹸や歯ブラシなどの新しい物が手に入り生活が豊かになって行った、
また、施設団はハイリンに入り、災害にあった農場を耕し、周囲に洪水用の堤防などを整備して、大量の雨でも川が氾濫しない様に工夫した。
農場の面積も当初の40ヘクタール(東京ドーム4.5個分)を大きく超える80ヘクタールを確保して、それぞれに小麦や大豆、トウモロコシなどを植え、手入れをしやすいように規則正しく植えていった。
小型のトラック(軽トラック)が走れる程の幅は確保している。
軽トラックもドルツの農業に日本から中古を10台輸入していた。
ドルツ農民は、感謝を伝え、農場の整備に念が無い。
現地視察していた南海将と幕僚達は、写真や動画でドルツの現状を日本に伝えている。
「ようやくここまで出来ましたな」と南海将。
「全くです。一時は日本も自給自足にほど遠い状況でしたからね、感慨深いです」と主席幕僚の吉田1等海佐。
「そろそろアトラム王国のインフラも完了した頃だろう」
「ええ、予定では昨日終わっている筈です」
「遠くて見に行けないが、そう言えば空港が出来る予定だったな」
「はい。日本から西周りで、ドーサ東空港、ドーサ中央空港、そしてドーサ西空港を経由してアトラム王国中央空港と繋がっています。これで時間はかかりますが日本からアトラム王国まで航空機で行ける事になります。直接行くと海路を5400海里もありますから、船旅で1週間以上です。航空機なら1日ですね」
「そうか、近代化早いな。いつかは発展したアトラム王国も見て見たいな」
「そうですね。黎明期の王国しか知りませんものね」
「その通りだ。我々がアトラム王国に上陸した時は馬車が走り、冒険者と呼ばれる者達が魔物退治している最中であった。それがアトラム王国の印象として強いな」
「そうです。私も剣を渡され冒険者と勝負挑まれました。懐かしい思い出です」
南海将と吉田1等海佐は「旗艦いずも」からオスプレイでハイリンまで飛び、農場を徒歩で視察していた。
「この農場は小麦の生産だったか」
「はい、元はそうです。今は大豆とトウモロコシ、ジャガイモなど災害に強い作物を作っている筈です」
「うむ。日本の農業が役に立つと良いのだが」
「必ず、自給自足までに至らしめます」
「そうであってほしい物だ」
「南海将、次は救援体制が完了したドルトムントです」
「そうか、では行くとしよう」
二人はドルツ農夫を引き連れ、徒歩でオスプレイまで戻って来た。
「農民の方々に必要な農機具や肥料、種子を確認頼む」
「畏まりました」主席幕僚の吉田1等海佐はドルツ語でいろいろ質問する。
それをメモにしてオスプレイ上で報告書にまとめていく。
これが後に「吉田報告書」と言われ、ドルツ生産の基礎を作る大事な書類となるのだった。
・・
ハイエルフは全員ボン港のホテルから旗艦「いずも」に乗船して待機を続けていた。
「相変わらず暇ですね」とミーナ。
「でも、ボンのホテルより知り合いが沢山いる「いずも」の方が心が休まります。とリナ。
「それに食べ物美味しいし、ケーキバイキングはあるし」とレイナは月に一回開かれるケーキバイキングの事を思っていた。
「あれ楽しいよね。何食べても文句言われないし」とリナ。数名のハイエルフもうなずく。
『私も楽しいですよ。なにしろ動物性でないクリームとか使って、私でも食べられますから』
族長も楽しんでいる様だ。
「族長、そう言えば吉田幕僚が言っていましたが、そろそろダークエルフの塔を調査するそうです」
『そうですか、そろそろですね』
「はい、族長無理はなさらずお願いします」
『何か嫌な予感が・・・まっ良いです』
「予知ですか」
『そんな物です。それに・・・神がまだ何か企んでいます』
「神はそんな存在でしたか、もっと高貴かと思っていました」
『神は子供っぽいです。我々も予想もつかない事が多いです。日本転移の件とか』
「あれは突然でしたね」
『神には神の思いがあると感じますが、あれは思ってもいませんでした。私たちも絶滅の危機でしたね』
「はい間違った対応していたら、今頃は・・・」と族長とレイナの会話にリナが入っていく。
「族長、前から不思議だったのですが、ダークエルフはある程度頑丈にと言うか再生能力があります。
なぜ、我々はこんなに脆弱に作られたのでしょう」
『ダークエルフは冥界の管理者としての役目、その為に必要な能力だと思います。私たちはそれに対して脆弱ではありますが、こんなに仲間がいます。この力を合わせた結果はダークエルフも凌駕します。
私たちはこの大地の監視者』
「そうですが・・・」
『それが神の意思、私たちはある程度考え、行動する事が許されています。
ダークエルフの様に神に近い存在となって全ての命令を聞きますか?、その違いだと思います』
「それは嫌ですね」リナははっきり言う。
『なら、この短い命大事にして見知らぬ世界を見てみましょう』
「族長、他の種族と言うかハイエルフは何処に行かれたのでしょう」
『私にもわかりません。ですが大島で見た洞窟では回廊は北に通じていたと思います。
アトラム王国の洞窟も調査すると判明するのでしょうけど、どうも北にある大陸に避難している様に思います』
「北の大陸ですか・・・あの北極大陸ですよね。人は生きる事さえできないと言われる」
『何らかの方法で、かれらは生きていると思います』
「族長、神の武器の場所は判りますか」
『断片的に思い出しました。多分北極大陸・・』
「えっハイエルフは神の武器の場所に集まっていると言う事ですか」
『わかりません、ですが・・・その気配があります。どうやら多族のハイエルフに集合する事を神は命令しています』
「私たちには命令が無かったと」
『結果的にそうなります。いろいろ条件があったのではないですか』
「もし、日本が転移せず、我々が人間によって滅ぼされたら・・・」
『神は躊躇わず残ったハイエルフに「ヘルゲヘナ」を起動させ世界を焼き尽くしたでしょうね』
「私たちがその試金石に」
『可能性の問題です』
「それで北極大陸にハイエルフを集めた・・・と言う訳ですね」
『可能性としては大きいですね』
「もしわれわれが帝国によって滅ぼされていたら、一人残らず奴隷になっていたら・・・この世界は終わったと」
『たぶんその通りです』
「恐ろしい話です」
「本当です。少なくとも良い人間を知ってしまった私たちは「神」の命令だと言っても「ヘルゲヘナ」を起動できるでしょうか。私は無理だと思います」とレイナも入ってくる。
『だから神は日本との接触に私たちを使ったとは思いませんか』
「「あー」」リナとレイナは思う。
『神はある程度見て決めたと思いますが、神託をしないで日本は「神」の望むままにスルホン帝国を壊し、その上平和な手法で立て直し、このドルツについても現在は救済しています。結果については「神」は満足していると思います』
「ある意味神に祝福された日本ですね」
『1000年先を見る事が出来る神でも、この国の事は予想外なのではと思います』
「そんな国私も聞いた事がありません。それに日本は過去大きな大戦を経験し敗戦しています。それが今の日本を作っているのではと思います」
リナは東京の大学で学んだ歴史を思い出す。
『真の文明国とは日本の事かも知れませんね』
「うーん。族長の断片的な思いや記憶によって、この状況は「神」が意図した通りだとしたら・・・次に神は何を求めるのでしょう」とリナは不安になる。
『それには神との対話をしなければなりませんね』
「はい、それに備えて体力を温存します」
『それが良いでしょう・・・日本との別れが来るかも知れません』
「「そうですか。予感はあります」」リナとレイナはため息とともに言う。
ヘルゲヘナにそんな意味が・・・神はやはり恐るべき存在です。