第190話 ドルツ救済の開始 その1
第190話を投稿します。
遅くなってすいません。サブストーリーを作るのに手間取りまして(過去話との整合性を含む)何度も書き直ししていました。
接続詞がおかしかったら書き直しの影響だと思います。
誤字脱字報告ありがとうございます。
この話はハインリッヒ・ベトーラゼの尋問で終わっています。
2話続けて会話だけで申し訳ないです。
ドルツ国救済の為、首相ハインリッヒ・ベトーラゼから話を聞くために陸戦本部とした、元ドルツ陸軍司令部の一室を取調室として、首相、ハイエルフのミーナに陸戦本部から参謀が3名の計5名で話を聞いている。
「それで、救済計画を策定するのにあたって、ドルツ国民の総数を教え願いたい」と参謀。
「はい、よろしくお願いします。我々の国については、その前世界の状況を踏まえて説明します。
ただ・・・途中凍結されていた期間については誰もカウントしていませんので約千年と聞いていますが、それはダークエルフ様が仰っている期間となりますので根拠はありません。
我々が覚えているのは、「エールス」と呼んでいた世界の275年、この年は世界連盟が発足して年号を発足時に平和元年として経過した年です。われわれの世界では連盟に所属する国は全て同一年号を使用すると取り決めていました。
話は長くなりますが、連盟の発足前は各大陸の各国間で戦争が行われており、エールスの5大陸、ヨーデル大陸、アシン大陸、アフメ大陸、西大陸、南大陸に所属する国が近接した国との戦争が全大陸に蔓延していました。
その大陸大戦は「全世界大戦」と後世は呼ばれていました。
戦争による消耗に悩んだ南大陸、西大陸の各国が最初に停戦合意し、連盟の前身である「西南大陸和平同盟」が発足して、その波は次第に全ての大陸に広がり、最終的に一番混沌としていたヨーデル大陸のみが戦争継続していた状態です。
ヨーデル大陸は他の大陸と違って、狭い大陸にドルツを含めた5ヶ国とその属国4ヶ国の9ヶ国が終戦のきっかけも無く戦っていたのです。
停戦合意した「西南大陸和平同盟」は各大陸を飲み込みヨーデル大陸を除く「大陸和平同盟」と名乗り、戦争中のヨーデル大陸に対してアシン大陸プロト国、シン国を始めとし、西大陸カリン国、アメリア国、南大陸ブラジ・リマ国などが主となった大陸和平同盟軍がヨーデル大陸に一斉に上陸し、強力な軍隊により停戦勧告をして、ヨーデル大陸のイス国、アム国、イタ国、スペラ国、ヨーデル大陸でも優勢であったドルツ国を含めた停戦提案を、ヨーデル大陸のイス国、スペラ国、ドルツの3ヶ国が批准して世界規模の戦争は終結しました。
そこで再度の戦争を回避する為に終戦合意した8国が中心となって「全世界連盟」を発足させて、参加各国は同じ立場での話し合いを開始し、様々な取り決めをしました。
この「全世界連盟」は発足8ヶ国に加え、最終的には世界68ヶ国による連盟を構成していました。
幸いなことに全世界大戦中には一方的に負けた国や占領された国はなかった為に、「全世界連盟」は話し合いを通じて国間の問題を解決していきました。
この頃には、なぜ戦争していたのか見直してみると、その戦略目的を見失っており、和平協力については意外とスムースに進んだ様に思います。私もドルツ総司令として連盟に参加しておりましたので、この辺は克明に覚えておるのです。
この連盟では各国の国境を明確にして、各国が境界を越えて他国に無断で入った場合は、連盟に報告し、越境理由の採決が否決された場合は連盟加入の各国軍を連盟軍として組織して、その違反国に対し制裁を実施すると言う基本条項が決まりました。
この「全世界連盟」は比較的うまく行き、我々が知っている275年間に戦争が起きる事はなかったのです。
そして世界が平和に交流していた275年後に、ドルツは突然軍事施設や関連施設がこの世界に召喚されて現在に至ります。
元々ドルツ国の人口は当時4千万人いたのですが、召喚事件によって街や工場などの重要施設周辺だけが召喚されて、それに従事している民間人約10万人、陸軍120万人の内10万人、海軍30万人の内5万人と基地官舎に入っていた家族達5万人だけが召喚されたのです。
なぜこんな中途半端な人数を召喚したのかはわかりません。
ただ言える事は、当時総司令官であった私が国をまとめ、政治も行わなければならない状態に突然なりました。そして・・・その最高司令官は神よりダークエルフ様が任命されていました。
私たちがダークエルフ様より命令されたのは、「お前達の武器兵器をもってこの世界を統一せよ」と言う簡単な命令でした。そんな高位の存在に指示された事を、なにも考えないで実行に移しました。
私たちは海軍を当時で言うアーモン大陸や他の大陸を観察する為に、今の大陸名はなんと言うのか知りませんが、それを沖合から航空偵察を含んで約半年間行い、一緒に召喚された軍事工場のクルップに上陸用船舶の製造を発注しました。
クルップは内陸に召喚されましたので、造船及び補修用ドックをボンと名付けた港町に作りました。
また、東海岸は元の世界にあった、ヴィルヘルムスハーフェン港(主力艦艇の基地)が召喚されたので、それを補給用基地として整備しました。
ボンの整備と東海岸軍港の整備に10ヶ月かかっております。
幸いなことに、南大陸には我々が必要とする鉱物資源が豊富にあり、また鉄鋼作成に必要な電気はダークエルフ様が供給してくれました。それにより製鉄業が復活し鋼鉄と造船が可能になったのです。
それらを使い、召喚されてから1年後には揚陸艦を伴ってアーモン大陸に上陸し、当時の王政帝国であるレイモンド王国を倒し、この世界最大の大陸を支配下に置きました。
また、レイモンド王国と戦争していた小国も含めて傘下に収め、4つの大陸と3つの巨大島を配下としましたが、ドルツは神の言いつけ通り、今度は北大陸占領を目的として軍を増強し攻め込もうとした矢先に、ダークエルフ様からのお告げで、我々は軍を南大陸に戻され、その上で凍結され南大陸に閉じ込められたと言う訳です」
「と言う事はその北大陸は攻め込んではならない大陸だったと言う事ですか」
「それは解りません。作戦立案にダークエルフ様が入る事は無く、我々が立てた計画を承認するだけの関係となっていました」
「それは変ですね。ダメなら最初に言うでしょ。それとも「神」の方針が変わったのかもしれませんね」
「それだけではないのかも知れません。我々がアーモン大陸を治める時に、現地人は中世の武器で稚拙な戦闘隊形であった為に、一部軍人が行き過ぎた事をしたのかも知れません。
例えば奴隷を買い取り従者として(夜伽を含めて)使ったとか、酷い拷問があったとかは後から聞きました」とハインリッヒ・ベトーラゼは苦悩を顔に出す。
「人道的にですか」
「そうだと思います。下級人類だと思って、扱っていた軍人は少なからずいたと聞いています」
「昔、我々の世界でも未開の地を開拓するのに、現地人を奴隷相当に扱い、それは酷い物だったと歴史書にあります。それを繰り返したと言う事ですね」
「そこは解りませんが、人間のする事は同じような事だと言う事なのでしょうか」
「なるほど、それで将校用の官舎にあるベッドはダブルベッドだったのですね」
「そうか、そうだったのですね。設計から余裕を持って部屋を設計したと説明を受け、それを認めていました。そう言う理由なら認めなかったのに残念です」
因みにハインリッヒ・ベトーラゼの私室は総司令部の4階にあるシングルの簡素な部屋であった。
「ハインリッヒ・ベトーラゼさん、ドルツ国民が少ない理由が解りました。また、ある程度ですがドルツの経緯も理解できました。ここからドルツ国民を救うための手法を考えていきます」
「よろしくお願いします。強制的に戦闘に入ったとは言え国民はその事実も知らされないままにいます。
ましてや軍事費だけを捻出する為の国策など、国民にとっては迷惑な話だと思います。
ですが・・・どうぞお願いです。一人でも多くの国民を飢餓や病気怪我などから救ってください。
その為でしたら、この命捨てても惜しくはありません。ダークエルフ様が現れたら日本のやっている事を妨害しようとするかもしれません。その時はどうにかなるとは思いませんが、私の命で止められる物なら惜しくはありません」
「そこまでは日本も求めてはおりません。それにダークエルフが来ても、ここにいるハイエルフの皆さんが必ず止めて下さると信じています」
「どうぞよろしくお願いします」
こうして首相であるハインリッヒ・ベトーラゼの尋問は取りあえず終わる。
それにしても、なんと「神」なる存在の理不尽な事か、ドルツ国民を不幸にするだけの召喚など、考えただけでも身が震える。
尋問の結果は日本を始め南大陸侵攻艦隊司令と陸戦司令にも伝わる。
「いずも」艦橋の南司令は思う。
「どちらにしても近い内にハイエルフを介して「神」とか言う存在と対話しなければならない」と。
その目的は日本を元の世界に戻す、そしてドルツも戻す事が最善だと思われた。
「ある意味、どこかで覚悟を決めないとだめだな」と独り言を漏らす。
陸戦司令部は、遠征艦隊司令から齎された「ドルツ難民救済計画」について、その準備に忙しく動いている。それに救済計画思案時に日本から出港した第5次補給艦隊を受け入れる為の準備、そしてそれらの物資を現地に運び、住民の健康状態を一定に保つ為の方法など、やる事が多く、車両をドルツから徴収したり、捕虜に物資仕分けなどで協力して貰う等、ボン港街は久しぶりに活気があふれていた。
ありがとうございます。
第2章も終盤となってきました。
ドルツ国民救済計画の全容については次話で説明します。