第188話 「ハイリン」と「ドルトムント」の現状
第188話投稿します。
ハイリンとドルトムントの現状は悲惨な物でした。
自衛隊の救済計画は始まるのでしょうか。そして塔の攻略はいつ
ID2139155様、大量の誤字脱字報告ありがとうございます。
機種依存文字は反映させていませんが、ありがたいです。
町長と呼ばれた老人は急いで家から出てくると、ハイエルフの思念を受けてひれ伏している。
『町長とやら、この町の現状について語ってくれますか』とリナ。
相変わらず町長はひれ伏し、心なしか少し震えている。
『私はダークエルフではありません。私はハイエルフ』
町長は顔を上げてハイエルフを見ている。まだ畏敬の念で少しの猜疑心を含んだような、複雑な表情である。
「あなた様は、ハイエルフ様・・・ハイエルフ様とは初めてお会いいたします」
『ハイエルフです。ダークエルフにはあった事があるのでしょうか』
「はい、ダークエルフ様は首都に住んでいた民間人を連れて来てくださいました」
橋本は町長が話している言葉を翻訳機で聞いている。
「リナさんレイナさん。その首都から避難して来た民間人は何処に行ったか聞いてくれますか」
『町長聞きます。首都から来た民間人は何処に行きましたか』
「はい、この町と「ドルトムント」に別れて住んでいます。
ダークエルフ様が保護する様にとおっしゃいまして、この町では農業を手伝ってもらっています」
『ではここにも住んでいるのですね』
「はい、その通りでございます。我が家に6家族、空いていた家35軒に55家族と環境は決して良い物ではありせんが、新しい家を建てる余裕もなく、なんとか生活をしています」
「町人の総数を確認願います」と橋本。
『町長、わかりました。この町の人数はいくらぐらいですか。』
「はい、ハイエルフ様。元々農民の町でしたハイリンは人口約5千人程度でしたが、避難して来た人々は約千人となります」
『んっ住んでいる家族の数が合いませんけど』
「はい、村の反対側、小川のそばに軍用テントで寝泊まりしています。あそこです」
町長の指さす方には、灰色の大型テントが幾つも見える。
『町人全員の健康状態はどうなっています』
「はい、町人から医療経験者は全て軍に従事しておりまして、その町には病気や怪我を治せるものがいません。その様な町人は我が家で看病しております。それと軍用テント1つに病人と怪我人を集めております」
『家をみせて貰えますか』
「はい構いませんが、なにしろ我が家に6家族と病人で決して良い環境とは言えません。それで宜しければ見ていってください」
『それだけの民間人に対する食料はどうなっています』
「はい、「ドルトムント」から兵士達が偶にきて食料を置いて行ってくださいます。
この町で収穫できる物は小麦とジャガイモだけですので」
『そうですか』
「あの、ハイエルフ様・・・こんな事を聞いてよいものなのか・・・ドルツは負けたのですか?」
『ラジオ放送のとおりです。こちら日本の軍人さんです』
「ひっ」町長は驚く。
『大丈夫です。今日はハイリンの食料事情と健康状態を確認しに来たのです
必要なら、この日本の軍隊が協力してくれるでしょう』
「それはそれはありがとうございます。医療については諦めていました」
『医療に関するドルツ国の支援は無かったのですか』
「申し上げにくいのですが、そのドルツは国を挙げて戦っていると言われまして、簡単な病気や怪我は自分達で直せと」
『医療品も与えられずにですか』
「なんと申しますか・・・、その通りです」
『では町長、病人怪我人をみせてください』
「はっはい、こちらに」
町長の家は大広間があり、そこに6家族が肩を寄せて住んでいた。
若い男は全て徴兵されたのであろう、老人と孫と思われる1~5歳程度の幼児が粗末な毛布にくるまっている。
次に見せくれた部屋は、その奥には病気の町人が並んで横になっており、なにも手当てがされていないようだった。殆ど老人と女であった。
「これは酷い」橋本もその悲惨な現状を見て唸る。
医療崩壊だけではない、食料もまともに支給されていない事がやせた老人と年齢に対して成長が遅い幼児をみればわかる。
そこには12帖程の部屋に14人が横になっている。幼児もいる。
どこか痛くて唸っている者や足に血が滲んでいる包帯を不器用に巻いた者。
「なんとかしなければ」と橋本はメモする。
「次に軍用テントを見せて貰えますか。
橋本とハイエルフは歩いて軍用テント村に入っていく。
1つの大きなテントを開けると、中は地面に毛布を引いただけの粗末な環境に病人と怪我人が一緒に横たわっていた。その数約50名・・・
『町長、病人や怪我人はここにいる方が全てですか』
「・・・はい。もっとひどい者達はドルツ兵にお願いしてドルトムントに連れて行ってくれています。
あそこなら簡単な怪我治療は軍人がしてくれますので」
『そうですか・・・簡単な治療ですか』
「そうは言いましても戦争中ですので我々も出来る範囲で協力をとダークエルフ様が・・・」
『わかりました。町長、この日本の軍人さん達が病気や怪我人を運んで治療します。日本の飛行機を見ても驚かない様にお願いしますね』
「はっはい。治療してくださいますのか。ありがたい」
『この場では簡単な治療しか無理ですが、ボン港町には病院があります。そこに連れて行きます』
「おっお前達、日本の方とハイエルフ様が直してくださるそうだ」
町長は震える声で寝ている病人や怪我人に伝える。聞いている者はいない様だ。
橋本は護衛の小隊長に何かを伝えると、小隊長は走ってオスプレイに走って行く。
「リナさんレイナさん、ドルトムントに向かいましょう」と橋本。
「ですが、この病人怪我人を」
「それは手配しました。迎えのヘリコが来ると思います」
「そうですか、よかった」
『町長、日本の飛行機が病人と怪我人を連れに来ます。協力してください』
「ハイエルフ様、あっありがとうございます」町長は土下座に近い姿でハイエルフを見送る。
「この広場に着陸させると、家が吹っ飛ぶから移送用の車両が必要だな」と橋本。
橋本達は高機動車でオスプレイまで戻り、乗りこんだ。
「次は塔を経由してドルトムントに向かいます」と橋本。
ハイエルフは無言で何かを考えている。
やがてオスプレイは高度を上げて、水平飛行に入る。
例のダークエルフの塔が見えて来た。ハイリンからの距離は2kmといった所か。
「あれが塔ですね。ダークエルフが戻ってこなければ良いのですか」と橋本。
「そうですね、来たら厄介ですね」とリナ。
「まったくです」とレイナ。
来た時と同様に、泥だらけの道が向こうの街に繋がっている。
ハイリンと違って立派な建物が建っている。
街中は道路が舗装されている様だ。
「ドルトムントの方が街らしくなっていますね」
「ええ、広いし大きいし、それに中央に広場があります」とリナ。
下ではドルツ兵士(守備隊)が上空を見て、何かを叫んでいる。
「橋本陸将補とハイエルフの皆さん。先に我々小隊が降りて牽制します」と小隊長は伝える。
「よろしく頼む」と橋本。
ドルトムント校外に着陸したオスプレイ目掛けて、3名のドルツ兵が走ってくる。
空挺小隊は先にオスプレイを降りると、展開を始める。
走ってくるドルツ兵は小銃を抱えている。
「止まれ!」
翻訳機で拡声すると、ドルツ兵達は少し止まる。
「武器を捨てなさい。我々は日本の軍隊だ」
ドルツ兵は顔を見合わせると伏せて射撃の態勢に入る。
「全員警戒。応射用意」と号令がかかる。
オスプレイからハイエルフ達は思念を伝える。
『お前達、武器を捨てなさい。ドルツは降伏しました。抵抗は無駄です』
ドルツ兵はキョロキョロしているが、リーダーらしき兵士が何かを発した。
一斉に小銃を放り投げて腹ばいのドルツ軍降伏姿勢を見せる。
橋本とハイエルフはゆっくり歩いてドルツ兵に近付く。
翻訳機で「我々は日本の軍隊である。武装解除し、住民の元に案内してもらう」と橋本は伝える。
「失礼しました。首都からのラジオでは降伏を伝えていましたが欺瞞放送だと言う声が優勢で、対応をと思いました」とリーダーらしき兵士が伝える。橋本は翻訳機で聞いて「そうかもな」と思う。
首都から離れれば現状を確認する手段がない、それに欺瞞放送は常套手段だ。
信じない事も現地の選択の一つ。だが終戦を迎えた現状では意味のない犠牲者だけが増えるのは避けたかった。
「宜しい。ドルツ敗北は欺瞞でもなく事実である。直ちに武装解除する」
と橋本は宣言すると、空挺小隊はドルツ兵を立たせ、武器などを地面に並べ武装解除を開始する。
ここにいるドルツ兵は全員が若い。
まるで徴兵されて直ぐの様に感じる。
「一応腕だけ拘束させて貰う。その後本部に案内してほしい」と橋本は伝える。
「解りました」とだけリーダーは言う。
空挺小隊12名を先頭に橋本とハイエルフは街に向けて歩き出した。
車両を使うと狙われる危険性がある為、安全確認を優先させた。
街に入ると、商店の扉は閉まり人は誰も歩いていない。
「廃墟みたいですね」と橋本が言うと、「人はいます」とレイナが返す。
やがて歩哨が2名立っている建物が見えた。
無理に近付かず、ハイエルフにお願いします。
『責任者をつれてきてください』と思念で指示する。
歩哨は急いで建物に入っていく。
それから5分位経過したであろうか
3人の将校らしき者が歩いてきた。
「私たちはドルトムント警備中隊、隊長のフリードリッヒである」
『フリードリッヒさん、こちらは日本の軍隊である自衛隊の方々です。武装解除をしてください。ドルツは敗北したのです』とレイナが伝える。
「それは本当か、突然無線が使用可能になり、首都からは「ドルツが敗北した」としか流れてこない、しかも送信しても返事はない。我々も困っていたのだ」
『それは、敗北した事に関連して総司令部の武官たちを敗戦処理させていたからです。彼らはダークエルフ宮殿にいます』
「そうなのですね。敗北しましたか。なんとも」
『私たちは民間人が避難させられた街を調査しています。ここの前はハイリンを調査しました。
病人や怪我人は日本が責任を持ってボンの病院に送ります。
あなた方も病人や怪我人、そして食料事情を聞かせてください』
「はい。私はドルトムント警備隊隊長を任されているフリードリッヒ中尉です。どうぞなにでもお聞きください」
『了解しました。その前にもう戦争は終わりました。武装解除させて貰います』
「はい、ではこちらに。これが守備隊本部です」とフリードリッヒ中尉は案内を開始する。
空挺小隊から2名がオスプレイに走ってく。
やがてオスプレイは飛び立ち、街の広場に再度着陸し、高機動車を2台だした。
高機動車1台は武装のないタイプであるが、もう1台はターレットに12.7mmを装備した車両である。
本部建物に入っていった空挺小隊10名は、武器を回収してドルツ軍使用の金属箱に武器を入れ、鍵をかけた。
本部建物は5階建てで、最上階は通信室であった。
1階は打合せや会議の部屋があり、2階は隊舎、3階は将校用、4階は食堂である。
その建物も、1階の全ての部屋には病人や怪我人を収容しており、簡単な治療を施されている。
『ドルトムントの怪我人病人はここにいるだけですか』
「いえハイエルフ様。ここと、別の建物に集めております」
『人数は』
「はい、ここには昨日は56名でした。現在は55名です。裏に埋葬しました。
そして専用建物では221名が収容されています」
『そうですか、亡くなった方もいらしたのですか』
「はい・・・街では怪我治療しかできません。病気は無理なのです」
『この街に人は何人いますか』
「はいこのドルトムントは元々5万人の商業都市でした。そこに首都や各都市から民間人を送られまして、
総数は15万人程度だと思います」
『避難して来た人々は何処ですか』
「この建物の後ろに簡易アパートを10棟建ててそこに住んで貰っています」
『予想より大きい街ですね。食料はどうなっています』
「はい・・・小麦をハイリンから運び黒パンを焼いています。それ以外は警備中隊が森で狩して解体した肉を配給しています。どちらにしても不足しています。特に乳幼児のミルクなどが」
『わかりました、日本が何とかします』
「15万人ですか・・・ハイリンとは大違いだな」と橋本。
「ええ、食料と医療品の緊急輸送が必要ですね」とリナ。
「んー。これだけの病人怪我人、ましてや食料など・・・ここに拠点を作りましょう」
「そうですね。それが効率よいですね」
「はい早速連絡します」橋本は本部と連絡を取り始める。
「予想以上に怪我人と病人が多い、こまったな」橋本の本音である。
ありがとうございました。
塔攻略とドルツ国民救済計画・・・いつからでしょうか