第181話 ドルツ首都決戦 その3
第181話を投稿します。
第1水陸機動連隊が格闘戦を挑みます。
殲滅戦をしたくない陸上自衛隊は強いと思います。
誤字脱字報告ありがとうございます。
ドルツ首都南基地の生き残りは既に10人程度となる。
「小隊長、弾が尽きました・・・」
「おれも」
ドルツ隊は補充されたKar98kの7.92mm弾も底をついていた。
戦場に銃声が止む。
小隊長は覚悟をきめた。「着剣!!」
つづいて「突撃!!」
生き残り10名はいそいで着剣してから飛び出していく。
双眼鏡で確認した佐々木一等陸佐は、
「お前達、根性見せろ」とスピーカーで伝える。
第1水陸機動連隊から20名程度が飛び出す。
各自素手で飛び出した。
決して相手の技量を下に見ていたわけでは無い。
結果として銃剣徒手格闘になってしまった。
第1中隊第3小隊長の中島三等陸尉は、飛び出すと同時に一人のドルツ兵に目を付ける。
「こっちだ、かかってこい」大声で怒鳴る。
命令が発せられたので何か解らないが、ハンス二等兵は銃剣を真直ぐ構えて敵に向かって走っている。
意味は解らないが声の主を見つけたハンスは、その相手に向かい突撃を続ける。
中島は剣先が触れるわずかな時間に、半歩横に移動すると、相手の小銃を掴み引っ張り同時に腹に膝蹴りを行い、相手が態勢を崩したところで小銃を引き、奪うと同時に相手を引き倒し、銃床で相手の喉元の下を軽くたたく。
一連の動作は1秒もない。
ハンスは訳が解らず腹を膝蹴りされたと同時に、気づいたら地面に倒され、しかも自分の小銃をとられ、急所を外した場所に激痛を感じると意識が遠のいた。
中島は見渡すと至る所でドルツ兵を一方的に制圧している隊員を見て満足する。
中島はあらためて、「制圧!!武装解除、連行」と叫ぶ。
自分もタイラップで、若いドルツ兵の腕を後ろに拘束してポケットから武器を全て地面に並べると吟味をする。
「トラップはないな」と言い。部下を呼びドルツ兵を預ける。
中島が懸念していたのは、ベルトと手りゅう弾のピンを繋いで出すと爆発させる自殺トラップである。
ドルツ南基地守備隊第2中隊第1小隊のヨルデル小隊長は突撃命令を発し、部下を目の前で死亡させてしまう後悔で気分は沈んでいる。
ふと見ると、真っ先に飛び出して行ったハンスが地面に転がり、しかも小銃を取り上げられ気絶している。
「日本軍の練度はたいしたものだな」と思うが、自分はそうしてもいられない。
ヨルデルは飛び出してきた日本兵士を見ると、体格は良いが優しそうな風貌である。
なぜ銃撃でなく格闘戦を挑んできたか、今は理解ができないが、ドルツとして最後のチャンスだと思っている。
「申しわけない」と心で思い、死んでいく相手の冥福を祈る。
ヨルデルは日ごろから射撃術や格闘術を小隊に教え込んでおり、銃剣術についても自信を持っていた。
刃先が相手に届き、ヨルデルが「とった」と思った瞬間、着剣したKar98kは跳ね上げられ、ヨルデルの正面は無防備となった。
「しまった」と思うが遅い。
右足の腿を蹴られ、片膝をつくと同時に自分の小銃は取り上げられ、銃床で頭を思いっきり殴られ意識を失う。
ヨルデルは意識を失った自分が満足そうな表情をしている事に気付いてはいない。
「制圧!!」ヨルデルに対峙した畠山曹長が最後に報告する。
「全員よくやった」佐々木一等陸佐は指揮車両として輸入したAAVC7A1(RAM/RS)上部からスピーカーで労う。
AAVC7A1は指揮車両として第二次改修(RAM/RS)を実施した車両である。砲塔は搭載していない。
こうして首都「ハイデルバーグ」南側の死闘は終わりを告げた。
第1水陸機動連隊の損害は、重傷5名、軽傷55名、AAV7中破3両、軽破15両となる。
Ⅱ号戦車搭載の20mm機関砲による損害が一番大きい。
しかし幸いだったのは、南拠点を守るドルツ兵に迫撃砲は無く、小銃のみであった事だ。
ドルツ側損害は、Ⅱ号戦車10両大破、乗員30名死亡、歩兵90名死亡、捕虜10名となる。
第1水陸機動連隊の重傷者は後方に移送、東海岸から飛んできたオスプレイで、陸戦司令室がある「かが」内の医務室に運ばれている。軽傷はその場で対応できる程度であった。
それでも連隊の戦闘可能人数は200名中193名である。
なお中破したAAV7は前面装甲が損傷し、一部操縦士が被弾し重傷となったが車両は応急補修後、交代要員により稼働可能となる。
・・
陸戦司令本部の橋本陸将補陸戦司令および佐々木陸戦副司令は損害が軽微な事に安堵する。
「海兵隊は市街戦に突入しています。引き続き第1水陸機動連隊も加えます。
なお、第1水陸機動連隊から捕虜10名移送手配の依頼が来ました」と幕僚が報告する。
「うむ。対応してくれ、それから市街戦はゲリラ対処となる。気を引き締めろと連絡」
「了解。直ちに第1水陸機動連隊を投入します」
「よろしく頼む。佐々木陸戦副司令、第1水陸機動連隊の補給を厚くしてくれ」
「承りました。それと第1空挺団が到着する時間です」
「ボン攻略だな。A艦隊との連携を密にして欲しい」
「はい、南司令からはいつでもバックアップできると来ています」
「よし、進めて欲しい」
「了解」
・・
ボン上空を飛ぶ6機のオスプレイ。白いランプがつく。
「総員立て、最終点検」「異常なし」「了解整列」
オスプレイの後部カーゴドアが開く。
赤いランプと同時にブザーが鳴り響く。
「用意用意用意」「降下降下降下」「おぅ」
最終点検を行うと、「いってまいります」と敬礼し飛び降りていく。
6機のオスプレイから144名の隊員が飛び降りた。
ボン上空には至る所に落下傘が咲いて壮大である。
「いずも」艦橋から双眼鏡で観察していた南司令は「何度見ても壮大だな。第1空挺団は」と感想を漏らす。
この頃になるとボン港を調査していたUH-60Jから報告が上がる。
「ボン港内に磁気反応は有りません。つまり機雷は確認できません」
ボン港沖にいくつかの機雷を確認したが全て爆破処理を実施した。
「よし総員ボン港に突入する」
警戒ブザーが鳴り響き戦時警戒に入る。
A艦隊の22隻はボン港に突入した。
港を無傷接収する為に、ボンに停泊しているドルツ貨物船全ての動きを止めて、Uボートや艦艇などの修理待ちなども抑え、全て鹵獲する計画である。
海、陸の共同作戦が開始される。
・・
第1水陸機動連隊は重傷者及び捕虜の移送を行い、次の指令に移行する。
「市街戦を実施する。海兵隊の報告では建物からの狙撃があるようだ。AAV7で移動展開を行う。準備完了次第乗車」
各隊は補給を済ませ、逐次車両に乗り込む。
「各車前へ」
一斉に第1水陸機動連隊は動き出す。
最初の建物はドルツ兵士の隊舎として使用しているホテル風の建物である。
「第1中隊はこの建物、次の建物は第2中隊、第3中隊は反対側建物を制圧」
「よし下車、展開」第1中隊第3小隊長の中島三等陸尉は指示をだす。
入り口前にAAV7が転回し、反対側及び隣ビルからの狙撃を監視する。
第1小隊から第4小隊まで速やかに建物入り口に入ると、内部から撃ってくる。
「2時10時2名、撃て」
隙を見て第3小隊が2階に上がる。
やがて火力に押され2階吹き抜けからの射撃は終わる。
第3小隊は遺体を2つ確認すると各ドアの探索に移る「クリア」「クリア」「クリア」
第1小隊と第2小隊が北階段と南階段を使用して3階フロアーに登る。
その間、第4小隊が出入口を確保する。
第2小隊は2階の各部屋探索を終え無線で中隊長に報告する「2階オールクリア」
「ラジャー4階に向かえ」「ラジャー」
3階を探索している第1小隊は途中待ち伏せを受け、負傷1名を出すが確実に不在確認を進めていく。
第2小隊も会議室の様な部屋にて、ドルツ兵2名による銃撃を受けたが、閃光発音筒によって抵抗を無力化し拘束した。
1階に引きずって第4小隊に引き渡す。
1階フロアーにはドルツ捕虜が集められていく。拘束されたドルツ兵に対し中隊本部要員が武装解除を進める。
第3小隊は4階に登るとそこはビジネスホテルの様にドアが並んでいる。
4階はロの字状に廊下があり、沢山の部屋が配置されてドアがある。
「これは果てしないな」中島はため息を漏らすと手前の部屋からドア内部に鏡を入れ観察し不在と解ればドアを破り内部を探索する。これを全てのドアに行わなければならない。
4階の部屋はドア内部に2段ベッドが2つ配置され4人部屋となっていた。
廊下の左右に部屋が配置され多くの兵士が寝泊まりしていた痕跡がある。
共同の洗面所と便所そしてシャワールームは別に2ヶ所作られていた。
結果、時間はかかったが4階にドルツ兵はいない。途中第1小隊が合流して両側から探索を実施していた。
第2小隊は5階に行く。
5階はドアの間隔が少し広くなり、将校用ではと思われる作りであった。
ここでは階段が北側1つでロの字の廊下は一緒ではあるが廊下には絨毯が敷かれ壁の装飾や明かりも高級感に溢れていた。
第2小隊は負傷者1名を出していたので9名のチームで探索を実施した。
ドアの隙間から鏡を入れ内部を確認する。2名で豪華な木製のドアを蹴破り、内部を3名で探索する。
部屋の作りは現代で言うヨーロッパ調であり、応接にソファー、寝室になぜかダブルベッド、寝室隣は浴槽とトイレである。
「豪華すぎないか」「無駄口をたたくな」
一部屋ずつ確認作業をしていく。
途中で第1小隊と第3小隊が合流し共同で探索を進めていた。
「ドルツ将校は一人一部屋なのか」愚痴がでる。
結果5階にもドルツ兵は潜んでいなかった。
「5階オールクリア」
「屋上に向かう階段を発見し探索せよ。狙撃には最適だ」
「了解発見しています」
階段のすぐ隣のドア内部に階段があった。
探索が後回しになっていたが、全てのドアを探索したので階段も発見していた。
「不味いな一人分の幅しかないぞ」
「了解。第3小隊が先行する」
「気を付けて行け、待ち伏せは確実だろう」
「了解」
第3小隊は士長を先頭に4名で登っていく。
やがてドアがある。
士長はドアの隙間から鏡を入れ、ハンドサインで伝える。
「ドア先4名、武器携行」ドアは木製に鉄を打ち付けてあるが、7.92mm弾は貫通すると判断した。
小隊長が5階に戻り無線で報告する。
「建物屋上4名確認」
「本部了解、コブラを回す」
「第3小隊了解」
指示を出す。「航空攻撃あるまで待機」
5分後コブラの発する音が響き、小さく銃撃が混ざる。
やがてコブラの20mm機銃が断続音を立ててドルツ兵に襲い掛かるのを聞いた。
士長はドアを開け、逃げるドルツ兵に射撃を行う。
日本の屋上の様に避難具やエアコン室外機などは無く平面である。
4名のドルツ兵は上空と建物階段から狙われ逃げ場を失い、全て倒されてしまう。
様子を確認した士長は「いくぞ」と言い、ドルツ兵の死体を確認する。
第3小隊長の中島三等陸尉も死体を4つ確認すると発煙筒を出し、白色でコブラに制圧を伝え手を振る。
陸自のコブラAH-1Sは次の獲物を探しに飛び去って行く。
ドルツ兵の荷物を確認していた中島三等陸尉はパンツァーファウストを発見すると「映画で見た事あるな、これが市街を通過する時、撃たれた物か」と言って鹵獲する。
ありがとうございます。
残るは各司令部と司令本部、そしてダークエルフ居城となります。