第177話 トーマス日本に行く その2
閑話が終わります。
トーマスとリエラは仲良しですね。トーマスが要望していた「クラブ」にも行けたようですね。
誤字脱字報告ありがとうございます。感謝しかありません。
次回よりドルツ首都攻防となります。
おとぎ話「神の軍団ドルツ」のお話。
◇◇◇◇
むかしむかしのそのむかし、大陸にはプロテウスと言う小さな王国がありました。
その王様、プロメテウス7世は国民に慕われる、それはそれは良い王様でした。
ある日王様は寿命で死に、その息子が王を継いでプロメス一世と名乗りました。
プロメス一世は近隣の蛮族の国を滅ぼし、大陸を5年で統一しました。
繁栄していたプロテウスは島々の人々も含める大きな国となりました。
そんなある日、プロメス一世は突然皇帝を名乗り、帝政王国プロテウスを宣言したのです。
民衆はそれでも喜び7日間のお祭りを催しました。
それから10年がたち、プロメス一世が30歳となった日に、大陸には飢饉がおきて、税金を納められない者は奴隷に落とされたり、その場で殺されたりしました。奴隷は貴族が買い腐敗した世の中となりました。
下界を見ていたゼノン神はたいそう怒り、暗闇の女神に大陸を滅ぼしなさいと命令しました。
いつもは光の女神に言って大陸を光で包み込み人々を一瞬で消し去っていたのですが、闇の女神はゼノン神の力を借り、大陸に神の軍団「ドルツ」を遣わしました。
大陸はそれからの14日間、神の軍団「ドルツ」による破壊と殺戮が行われ、平民、農民、貴族、皇帝問わず殺されてしまいました。
最後はドルツが自分達の国家を大陸に作る為に、少ない人々は捕らわれ強制労働させられていました。
神ゼノンはドルツに対し「もう良い、お前達の出番は終わりだ」と言い、一瞬で全ての軍団を遠い南大陸に移しそこで凍らせました。
それからの大陸は少ない人数で村を作り、人々は平和に暮らしましたとさ。
◇◇◇◇
「リエラ、もう疲れた」
「駄々こねてないで仕事してください」
「もういやだ。リエラ酒をくれ」
「ダメです。この条約に目を通してください」
「リエラ適当に・・・」
「ダメです。代表」
「そんな・・ムリグナに居る時より仕事しているぞ。外出もできないし・・・」
「トーマス代表。仕事しに来たのでしょ。仕事してください」
「だがな。接待付酒場が呼んでいる」
「呼んでいません」
「リエラは相変わらず・・・」
「冷たくて結構です。条約締結できれば大陸の開発も進みますし、日本からのODA(政府開発援助)が始まります。我慢してください」
「ODAか、栄えるのかな旧帝国は」
「その為のODAです。鉄道も道路も作られると聞いています。大陸は日本にとっても大きな市場だそうですからいろいろ考えてくれるのでしょう」
「なぁリエラ。戦勝国は敗戦国に対して酷い仕打ちが相場だ。日本国は戦勝国なのに開発に協力して、資金迄・・・過去そんな国なかったぞ」
「そうですね。代表の言う通り敗戦国から搾取するのが戦勝国の特権ですから、こんな平等条約締結なんて夢にも思っていませんでしたよ。もっと無理を言ってくるものだと」
「確かにな。そんな国聞いた事もない。資金提供に大規模インフラ整備に衛生指導に治安。これは民主主義国ならではなのか」
リエラは少し考えて
「代表。大きな声では言えませんが、他国での敗戦国の扱いはそれは酷いらしいです。
敗戦した相手が日本だからこの厚遇らしいですよ」
「リエラ。我々は日本に負けて良かったと言う事なのか?」
「ええ、さっき言った様に大きな声では言えませんが、怪我の功名らしいです」
「そっか。神が他の国を呼び出していたなら、もっとひどい事になっていたのか?」
「そうらしいです。特に覇権主義の国では、スルホン帝国が支配した国以上の事があると聞いています」
「そんな話・・・」
「どこからですか。自衛隊の幹部から聞きました」
「なにあの軍隊の幹部と言う事は・・・」
「いろいろな研究をしている部署があるらしいです。そこの話によると覇権主義では、結局征服した国がどうなろとも自分達の権益が守られれば良いと考えるらしく、そんな国を反面教師にして日本の現状はあるらしいです」
「そっか。それはスルホン帝国並みだな。いや文明が発達しているからもっと悪い結果が・・・」
「そうですね。敗れた相手が日本で良かったと言う事でしょうか。
そうそう、その幹部が言ってましたが、ドーサ大陸には石炭、石油、それに鉄アルミ金銀など重要な鉱物が手つかずで残っているから、充分にそれらが戦後補償として代替えとなるらしいです。
それに我々の通貨、帝国金貨ですが、それの評価価格は日本では高いらしいですよ。
なので旧スルホン帝国の資産だけでも大きな財源となるらしいです」
「そんなにか、日本にくれてやれ」
「日本はそれを日本国内の適正価格で買い取ると言う事らしいです。なんと言っていたか・・・
・・・トレード・・・フェアトレードとか言ってました」
「日本は鉱物を無償で盗み取るのではなく、公正な価格で買い取ると言う事で良いのか」
「そうみたいです」
「ますます日本が解らん。我らにとっては良い事だと思うが」
「そうですね」
「戦争になって相手国の保有する財産や鉱山に技術までも盗るのが戦勝国の権利だからな。
公平価格で買い取るとか、聞いた事も無い」
「ですね。とにかく日本相手で良かったと言う事でしょうか」
「ふむ。では仕事して寝るか」
「代表、明日は外務省で相互開発協定の下打ち合わせです」
「それで、上下水道とか道路が作られるのか」
「はい。その予定です。それにドーサ大陸を開発するにも道路や鉄道などは必要ですから、お願いしますね」
「うむ。明日考える」
「まったく。この人は」
次の日、トーマスとリエラを含む交渉団はバスに乗って外務省を訪れていた。
いよいよ本格的にドーサ大陸を開発する為の協議である。
交渉団の一人が発言する。
「はい。では開発については日本国が主導して技術援助を行うと言う事ですか?」
「ええ。そういう事です。開発企業は日本の民間会社が入札により請け負います。
ついでと言えばあれですが、その技術を磨いて頂いて、ドーサ大陸平和協議会にて以後の開発をお願いします。
我々の方では鉱脈や水脈などを探して地図に落とし込みますので、我々がいなくなっても開発は継続できるかと思います。いやむしろ我々の後はドーサ大陸平和協議会主導で開発を進めて頂きたいのです」
「それはこちらとしてもありがたい話ですが、技術は宝です。そんなに・・・」
「いえ、我々としても奥地まで行き開発を行いますので、全て最新と言う訳でもありません。
今、日本には海底以外に目ぼしい資源は無いのです。ある意味失われた技術とでも言いますか、そんな技術を提供するので問題ないです」
「ですが、旧スルホン帝国で行われていたのは、殆ど手掘りに鉱夫による運び出しです。効率は悪く、鉱夫も怪我したり、肺に病気を抱えたりで問題多発でした」
「ええ、知っています。我々も今から60年以前は同様に問題多発でした。そこからの技術です」
「ありがたく思います」
「そうですか。我々も古い技術で貢献できるなら尚更結構です」
トーマスは日本の器の大きさに驚くばかりである。
「では基本方針についてのご理解は宜しいですね。この内容は各省庁とも共同して作られた物です。
日本政府はドーサ大陸平和協議会を貿易対象国として重要視しています。
国内景気もドーサ大陸を開発する事で、ある程度物価が下がり国民生活も少しは以前水準までに戻せるのではないかと思っています」
「それが日本の本音なのですね。そんな事は・・・聞かなかった事に」
「いや大丈夫ですよ。日本の新聞やネットニュースでもいろいろ推測が流れています。
そしてその殆どがこの交渉次第なのです」
「そうですか」旧帝国にとって交渉相手に対し本音を漏らす事はしない。
日本は困っているのだなと思う。
外務省職員が言う。
「トーマス代表が目を通して頂いて、訂正や要望が無ければこれを原案として内閣案として提出します。
そこで問題なければ国会に開発条約案として提出して採択を仰ぎたいと思っています。
通常最低でも1週間はかかりますので、その間は他の条約もありますが、せっかく日本にお越しいただいたので、いろいろ見て頂きたいと思っています」
日本のドーサ大陸開発については最優先事項である。
なにしろ、国内で消費される食品類に燃料、鉱物、レアメタルに至るまですべてがドーサ大陸で手に入るからだ。
一部燃料やレアメタルなどは南西諸島の海底から採取されているのだが、採取コストが高く、それも国内価格を押し上げている原因となっていた。
職員は続ける。
「これがうまく行けば、現在の航路に代わる地下高速鉄道を日本、ドーサ大陸間に繋げたいと思っています。
そうすれば、例えばムリグナ中央都市と日本の東京が1日で繋がる事が出来ます。
航空機では輸送に限界がありますので、最強最大の輸送手段は鉄道だと思っています。
ただし、鉄道は建設に時間がかかります。
それまでは空路と海路による輸送を行います」
「えっ一日で」
「はい。後日乗って頂く高速鉄道では平均時速300km/hの実績があります。
現在予定しているリニアであれば、その2倍近くの速度が出ます。それは夢でもありますが将来そんな事も考えられます」
「なんだか、歩くのが馬鹿らしくなってきます」
「ははは。まだ遠い先の話ですが、そんな計画も将来できると言うだけの話です」
「ですが、日本国内では実現しているのですよね。夢ではなく現実だと思います」
「先ほども言いましたように、地下を掘るのは大変な時間と資金が掛かります。ですので夢の話だと言う事にしてください」
職員も食いついてくるとは思っても見なかった。
現状で言えば、海路での食物輸送は成功しているのだ。
トーマス一行は次の条約検討に入るのだった。
それから3日が経過した夜。
「リエラ、もういいだろう」
「しつこいですよ。代表。まだ検討中の条約が、それと付帯する契約や入札の方法などいろいろ検討すべき内容があります。まだ休憩の時間ではありません」
「うっぅぅぅぅ」
「まったくいい年した大人が泣かないください」
「ぅぅぅぅぅ」
「解りました。あと4日待ってください。開発条約が締結されてしまえば、付帯する契約は我々交渉団で何とかしますから」
「リエラは出来る奴だと思っていたぞ」
「なっゲンキンな」
「わはははは」
「さっき泣いていたのは誰ですか」
「そんな昔の事は忘れた」
「本当に都合の良い記憶力ですね。感心します」
「そうだ。リエラ。ドルツについてはあれから何か解ったか。我々も順調に行っている開発計画がとん挫するのは避けたいからな」
「あまり進展は有りませんが、ドルツ首都前の基地を接収して、大攻勢に入る準備を続けているとかです。
あっそれから闇の女神と言われるダークエルフは日本にも現れたみたいですよ」
「なに!!闇の女神が」
「はい。皇帝ガリル3世が瘴気に当てられて、ハイエルフの皆さんに助けて頂いたとか」
「えっ皇帝が・・・ハイエルフに助けられた??ハイエルフ駆除をしていた皇帝が???なんと言う事だ」
「皇帝は女神教排除していましたからね。「ハイエルフもろとも消し去れ」とか言って」
「だな。光の女神が皇帝を助けるか・・・ドーサ大陸の神話も変わってしまう」
「そうですね」
それから4日が慌ただしく過ぎて、ドーサ大陸開発に関する協定とODA開発協定の締結となった。
「リエラ。もう良いだろう」
「少しだけお待ちください」
「なんでだよ」
「そんな大人げない。
本日条約締結を祝して外務省主導で祝いの会が開催されます。
「日本の古き良き宴会」をと伝えていますので、そんな宴がされるようですよ」
「でかした。リエラ。勲章だな」
「やっすい勲章ですね」
それから迎えのバスにて、外務省が手配した料亭にトーマス達交渉団は招待されいた。
そこは人目につかない神楽坂と言う所の料亭である。
佐藤外務大臣が乾杯の音頭を取る。
「皆さまお疲れさまでした。本来なら迎賓館でのお食事でしたが、どうても日本の古き伝統の宴と言うリクエストにお答えして、この料亭を本日は貸きりで手配させて頂きました。
どうぞ楽しんでください」
「かんぱーーーい」
「リエラ、料理少なくないか」
「トーマス代表。趣向に合わせて料理は出て来るらしいです。
帝国式に料理が全て並んでいると言うのはないそうです」
「そうなのか、それが日本式なのだな」
「ええ、それでも最終的には多くの料理が出て来るらしいので加減してくださいね」
「儂は酒が飲めれば良いのだ」
「まったくこの人は」
料理が次々と出てくる。
日本料理の神髄である。
「ふぐに、すき焼きに、寿司。食べきれません」
「沢山出てくると言ったのはリエラだぞ」
「不覚にも美味しすぎてその・・腹いっぱいです」
「情けない奴だ。騎馬隊の時はいっぱい食べておったではないか」
「年ですね」
「そうかリエラも年か、ははは」
「酒びたしのトーマス代表も今日は良く食べてますね」
「旨いからだろう。このすき焼きは絶品だぞ。それに目の前であげている天ぷらと言うのも、油で揚げただけなのに芸術の様な旨さだ」
「佐藤外務大臣殿全て旨いです」
「そうですか、トーマス代表殿。
洋食ではなく日本料理を指名頂いて光栄ですよ」
「ええ。酒もうまい。全てにおいて日本は良い国です。
ここだけの話ですが、日本に負けて良かった」
「ええ、聞かなかった事にします。
そうだ、日本独自の宴と言えば芸者です。旧帝国にも踊り子の宴があったと聞いていますが、日本は日本独自の文化があります。
芸者も日本独自の文化ですよ。おーい。頼むぞ」
いきなり奥のふすまが開いて白塗りした舞子2人と芸者が4人も並んで挨拶する。
「何が始まるのですか」
「見ていてください」
芸者の奏でる三味線と太鼓で舞子が踊りだす。
「伝統の日本舞踊です」
「おお、なんと優雅な」
一同は目を見張る。
舞子は踊り終わると、トーマスの元に来て日本酒を注いでくれる。
「これは旨い」
「トーマス殿、彼女は16歳ですので酒は飲めません」
「旧帝国では成人ですが」
「ははは。日本では飲酒は20歳からですよ」
佐藤外務大臣と舞子が笑う。
でもトーマスは楽しくなっている。
「日本にはこんな酒の飲み方があるのですね。勉強になります」
「楽しんで頂けて幸いです」佐藤外務大臣も楽しそうだ。
「そうだ。代表この後お時間ありますか。私の行きつけのクラブが銀座にありますので私がご招待しますよ」
「えっ噂に聞くクラブですか」
「ええ、そのクラブです」
「行きます行きます」
「ははは。楽しみにされていたのですね」
「はい。日本に来る前から聞いております」
「そうですか。ではこの後行きましょう」
「是非お願いします」
この宴会の後、一行はホテルへと引上げ、リエラとトーマスは佐藤外務大臣と一緒に銀座に行くのであった。
因みにリエラはトーマスの目付け役と言う立場である。
「わはは。楽しいぞ。女将。ムリグナ中央都市にも店を出さんか」
「はい。そうですね。検討しますわよ」大陸語を理解する女将が答える。
「わはは。リエラ。毎日クラブに行けるぞ」
「なけなしの給料、破産しますよ」
「それでも良い」
トーマス達の交渉団は、見学する武官や文官を残して、大阪に新幹線で移動して、関西国際空港から大三角州空港へと旅立った。
トーマスは日本でクラブに行けたのが嬉しかったようだ。
「リエラ日本は良い所だな。引退したなら日本に住みたいな」
「はいはい。まだ先ですけどね」
「お前は・・・」
「冷たくて結構です。そんな事より戻ってやることが山の様にあります」
「ふぅ。現実に戻すな」
「はは」リエラは乾いた笑いしかでなかった。
まだまだムリグナ中央都市の皇帝城(ムリグナ城と改名)ではトーマスとリエラのやり取りが続くのであった。
ありがとうございます。
次回更新はミソラとさせて頂きます。
本作を続けて投稿しましたので、ミソラを次回投稿します。