第174話 フルート基地陥落 その1
第174話を投稿します。
基地警備の中隊は押されている様です。
新型戦車中隊・・・
トリアーノ少佐率いる新型戦車中隊は、フルート基地を出発していた。
新型戦車隊は、フルート基地を出ると東に進み、南大陸の海岸(崖)に沿って北上する予定だ。
目的は不明。ただし新型戦車については装甲も攻撃力もⅡ号戦車より大きく進化しており、トリアーノ少佐は絶対の自信を持っていた。
フルート基地には基地警備第3中隊が全滅した事は知らされていない、命令通り左翼の基地警備第1中隊との合流の為に移動中と思われている。
基地警備戦車中隊(Ⅱ号戦車隊)は、同行する基地警備第2中隊に対して、「急ぎ基地警備第1中隊との合流を果たして欲しい」と伝令を送り、現れた変な車両に対する対処を戦車中隊だけで出来ると考えていた。
伝令を送り出した途端に、信じられない攻撃が軽戦車12両で構成される戦車中隊に襲いかかかる。
それは、空から戦車砲塔に何かが当たったが、戦車その物は爆発もしていない。
「なんだあの攻撃は、こちらは無傷ではないか」と戦車中隊長が言った途端に戦車の燃料に引火して、盛大に燃え上がる。
「なっっ、直ちに後退して態勢を整えろ」
賢明な判断である。
12両で構成される戦車中隊の前衛3両に対し、第1水陸機動連隊は軽MAT(01式軽対戦車誘導弾)を3発使用する。
ダイブモードで飛び出した01式軽対戦車誘導弾は直ぐに上昇してドルツ側の視界から消えた。
高速の対戦車ミサイルは上空からロックした目標に対し降下を始め、砲塔に接触すると、モンロー・ノイマン効果を持つタンデム弾頭(成型炸薬を二段構えにした弾頭)が薄い2号戦車の砲塔上部を焼き、中に高温のメタルジェットをまき散らす。
メタルジェットは戦車内部に吹きだし、燃料に引火した。
ドルツ国戦車は揮発性の高いガソリン燃料を使用していた為に熱攻撃には弱い。
突然の戦車3両炎上に驚いた戦車中隊長は直ぐに後退を指示した事でその場は助かる。
「なにが起こった。なぜ燃え上がる」
考えても結論は出ない。
だが、日本が発射した見た事もない物が、一度空に上がり砲塔目掛けて降りて来た・・・らしい。
目で追う事も出来ない程の高速でそれは襲い掛かって、あっと言う間に3両炎上させた。
「次の攻撃があるぞ、前3両が炎上しているから前進できん、後退して距離を取れ」
戦車中隊長は命令をだす。
・・
第1水陸機動連隊第1中隊。
「よし84mm無反動砲(カール君)を持ち、敵後続に攻撃」
「聞いたな、すぐに動け、下車」
AAV7から隊員が84mm無反動砲と予備弾を持ち飛び出していく。
「右翼は敵歩兵がいる。左翼から回り込め」下士官の声が響く。
第1水陸機動連隊第1中隊は即座に行動に移る。
隊員は左翼の森に入り、後続の戦車が狙える位置に移動していく。
その動きは訓練され、一言で意味を理解し、最善の位置を探す。
カールグスタフ (84mm無反動砲)は平成24年度から調達が開始され、今交戦中の水陸機動団が一番早く支給された。
今回使用する弾頭はHEAT551対戦車榴弾である。これもモンロー・ノイマン効果を持つ成形炸薬弾である。
隊員は慎重に森を進み、後続の戦車が狙える位置を取る。
小さく「退避、後方確認、てっ」一斉に割り振りした戦車に向けて撃ち出す。
「移動、急げ」敵に発見される前に移動を行う。
突然右翼の森から一瞬土煙があがったと思うと何かが飛んでいく。
戦車中隊右翼に展開していた3両に命中する。
生き残りの戦車も狭い街道で機関砲を撃つ事も出来ない。仲間の戦車が邪魔で狙えないのだ。
すでに6両になった戦車中隊は急いで後退する。
大急ぎで後退し、やっと炎上している戦車を過ぎ、森を狙えるようになった時に、今度は前方から大きな弾が飛んでくる。
前2両が被弾する。
「あれは我が軍が開発中のパンツァーファウストみたいな物だな。戦車迎撃に特化した砲だ」
戦車中隊長は思ったが、後退して逃げるのが先であった。
「基地まで急速後退」だけ命令して戦況を見つめる。
・・
隊員に対し戦車中隊が逃げ出したのを見ると、「深追いは禁止、次弾装填の上待機」と指示を出す。
だが、逆に戦車を街道上で攻撃した為に自分達も先に進めなくなる。
「各員。ワイヤーかけて複数車両で引き、街道上から敵戦車を排除」
第1中隊長は、右翼森に消えた歩兵の事を報告する。
「本部、右翼森に歩兵1個中隊が入って行った。空挺団に警告」
「本部了解」
街道上の戦車排除には、まだ時間がかかりそうである。
・・
その頃、右翼の空挺団は、敵1個中隊と激しい戦闘を行っていた。
「押せ。各員左街道から敵1個歩兵中隊が応援に入った。警戒せよ」
「了解」
森中の戦闘である為、先に敵を発見した方が有利である。
しかし日中である為、暗視スコープは使用できない。
だが、空挺団も高度に訓練された部隊である。
各隊は役割を把握し、敵中隊を半数まで減らしていた。
空挺団も負傷者10名を出していたが、戦死者はいない。
・・
基地警備第1中隊。
「くそ押せない。援護はまだか」
基地警備第1中隊は過半数がやられ、戦闘力は大きく削がれている。
それでも降伏や基地に逃げ帰ると言う選択肢はない。
戻っても命令違反で軍事裁判が開かれ、そして判決は有罪と決まっているからだ。
なら降伏も一瞬考えたが、それはドルツ国将校として不名誉な事である。
結局全滅を目の前にしても、戦い続けるしか方法はなかった。
「点呼だ。何人いる」基地警備第1中隊は軍曹に指示する。
「隊長。動ける者は15名程度。ただし弾薬が尽きます」
「そうか。戦う手段が無くなると言う事か」隊長は街道に逃れる事も考えたが、相手は訓練された部隊で、なにしろこちらの倍以上の兵員を揃えていた。
銃撃音を聞き慎重に近づいてくる部隊があった。
顔なじみのある基地警備第2中隊である。
「遅くなりました。敵は正面ですね」
「ああ、頼めるか。こちらは弾薬が尽きる」
「了解。基地警備第2中隊は北側の敵に対し攻撃をかける。散開し個別迎撃」
一斉に部下が散る。
「第1中隊長、街道は敵装甲車が南下してきている。補給するなら今のうちに基地に戻る事を進める」
「ありがたい。総員基地に戻り補給をする。歩ける者は行け。重傷者は残念だが置いて行く」
基地警備第1中隊は警戒しながら基地へと後退する。
・・
フルート基地を出発した新型戦車中隊は海岸(崖上)まで出ていた。
そのまま北上する予定で、最終的には東海岸陸軍基地を航空機が離発着できない様に破壊し、運が良ければ東海岸海軍基地を敵がこれ以上使用しない様に破壊を任されていた。
ドルツ軍は、まだ無線が使えない。
隊長車の上から取り決めたハンドサインで隊列を組み、北上を続ける。
だがそこは、戦車1両分の幅しかない崖の上である。
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基地警備第1中隊と交代した基地警備第2中隊は攻撃を開始していた。
「押せ、撃ち負けるな」指示は飛ぶ。
フルート基地所属の警備中隊は森でも演習を行っている。
その為、敵に対する攻撃も洗練されている。
ただし、補給がないのがネックで、Kar98k小銃のマガジンは5発装填、携行している弾薬は口径が7.92mmと言う事もあり、一人マガジン6個程度しか持てない。
他にも迫撃砲や手りゅう弾は携行しているが、森の中では効果が怪しい。
・・
「二色隊長、先ほど敵が後退し、警告にあった隊と交代している模様」
「中隊程度に足止められるとは、なんとか押せないか」
「敵中隊は先ほどの隊と違い最初から散開し個別に戦闘しています。なかなか押し切れません」
「了解した。なら側面から強襲をかけて相手を殲滅させる、田中第3中隊長を呼んで欲しい」
「二色大隊長。田中です」
「戦況は少ない敵を相手に膠着している。そこで第3中隊は右翼から敵側面に対し圧力をかけて、街道まで追い出して欲しい。街道には第1水陸機動連隊がいる」
「了解」
中隊長は意図を理解し隊に戻ると、「今から移動。気づかれるな」
各小隊は一斉に行動に移る。
・・
新型戦車中隊は細い崖上の道とは言えない場所を縦列移動していた。
森で木々を倒して進むにはⅢ号戦車と言えども不安がある。
ドルツ国でも新型戦車の性能評価の為に森にて木を倒しながら進めるか実験を行ったが、Ⅱ号戦車の倍以上重量があるⅢ号戦車でも難しく、直径30センチ以上の木1本ならどうにか踏破できるが、2本だと無理であった。その為に迂回しながら木々の薄い所に道を作る訓練もされていない。
90式戦車の様に50t以上もある重戦車なら可能であるが、中戦車でも軽量のⅢ号戦車(20.7t)では難しいのである。(中戦車として有名なT-34は30t、M4シャーマンも同じく30tである)
トリアーノ少佐は気軽に移動していたが、前方600m先に見た事ない車両が見えた。
手信号で「警戒。対処用意」を指示する。
10両が縦に並び先頭はトリアーノ少佐の隊長車である。
「砲手、先頭を狙え」と指示する。
装填手が急いで装弾すると砲手のヘルメットを叩き、装弾完了の合図を出す。
装填された砲弾は37mm対戦車榴弾である。
対戦車榴弾砲では500mで29mmの鉄を貫通する事が実験で証明されている。
「相手は兵員輸送用の車両だ撃て」
砲手が「命中」と言うが相手に損害は見えない。
「同じところを狙え」
装填手が大急ぎで装弾する。合図を送る。
「撃て」
37mm対戦車榴弾が再度発射される。
・・
第31海兵遠征隊所属のAAV7は本隊より呼び出しがあるまで崖上にて待機していた。
突然、前方から敵車両が現れるが、先頭AAV7車長が双眼鏡で周囲監視をしていた為に、相手より早く発見していた。
「本部。敵戦車発見。応援願う」
同時に訓練された第31海兵遠征隊の1個小隊は即行動した。
本隊と離れ崖上へと戻って行く。
無言でサインを送ると2名が離れていく、手にはMk13Mod7が、スポッターは高性能8倍50mm単眼鏡を抱えて。
他の者は他の小隊から預かった84mm無反動砲を3門抱え、散っていく。
(Mk13Mod7は7.62×67mm弾を使用するボルトアクションのスナイパーライフル。有効射程800m)
小隊長は無線のクリック音だけで指示を出す。
1番は2両目、2番は6両目、3番は最後部の車両。
返事がクリックで流れる。「配置完了。装填完了」と
「撃て」の代わりにクリックを3回鳴らす。
割り振られた目標に対し、同時にカールグスタフM3からHEAT751対戦車榴弾(タンデム弾頭)が飛び出していく。HEAT751の貫通力は500mmである。
Ⅲ号戦車の側面装甲は砲塔車体共に30mmしかない。だがドルツ国が開発した超鋼板で作られている。
HEAT751対戦車榴弾(タンデム弾頭)は、まるで「紙」の様にⅢ号戦車の装甲を貫き、戦車内部にメタルジェットを振りまき、砲塔内部の弾薬に引火して爆発を引き起こす。
なお、Ⅲ号戦車の燃料もガソリンである。
これでドルツ国が誇る新型戦車中隊は移動する事が出来なくなった。
生き残りの車両は、急いで左の森に砲塔を向け、砲撃する。
同時に重い発射音がした。
スナイパーが放った弾が、隊長車の砲塔から双眼鏡で観察していた、トリアーノ少佐の頭を貫く。
トリアーノ少佐は一瞬で絶命する。
カールグスタフM3を持った3チームは発射後、急いで移動し次の目標を狙う位置に移る。
次は1両目、5両目、9両目である。
次々と新型戦車を破壊していく海兵隊。
砲塔から車長が頭を出せばスナイパーライフルの餌食となる。
海兵隊上陸本部より端末に指令が入る。
「1両鹵獲しろ」と言う指令。
「無理だ。新型戦車は良く燃える」と返信する小隊長。
・・
新型戦車中隊はパニックに陥る。
「とこだ、見つけろ」と車長が言うが、容易に見つけられない。
「なら自分が見つける」と言って砲塔ハッチから頭を出した瞬間に射抜かれる。
命令を発する者がいなくなった戦車内部では逃げ出す者まで現れた。
そんな1両を見つけた小隊長はM4A1carbineで戦車乗員の排除を命令する。
「良い土産ができた」と海兵隊上陸本部に端末から連絡する。
日本が海兵隊上陸本部の要請により、日本から持ってきた施設作業車1両を海兵隊車両の道を作る為に投入し、崖上に東海岸陸軍基地より車両1台分の道を作り始める。
同時に新型戦車4両目・・乗員が全員逃げ出した車両の回収を予定する。
・・
新型戦車中隊は想定外の敵により、大半の戦車は破壊され、しかも1両は車長が狙撃され絶命した事で、乗員全員が逃げ出し、海兵隊により全て排除されてしまった。
何も成果が残せないままに、トリアーノ少佐以下戦車中隊の戦車兵は全員死んでしまった。
しかも、海兵隊に1両鹵獲されると言うおまけつきだ。
・・
基地に補給で戻った基地警備第1中隊の生き残り10名は食事をする。
途中で5名がやられた。
基地警備第1中隊長は報告の為にドリア・シュナイザー司令に面会を求める。
「それでどうした」司令は聞く。
「敵勢力と遭遇。戦闘に入り、弾薬補給の為に戻りました」と報告する。
「それで戦況は」
「はっ基地警備第1中隊は私を含め生き残りが10名。現在基地警備第2中隊と交代しております」
「そうか。基地警備第2中隊は合流したか。基地警備第3中隊も合流する様に指示したが」
「はっまだ見ておりません」
「なら遅れているのだな、後で尋問だな」とドリア・シュナイザー司令は言い放つ。
「補給が終わり次第いけ。敵を一人でも多く殺せ」と命令するとドリア・シュナイザー司令はため息をつく。
この時点でも司令は楽観的であった。
副官が提言する。
「司令。私も左翼に合流します」
「好きにしろ」と投げやりである。
・・
基地警備第2中隊は苦戦している。
突然左から攻撃され2面を相手にしなくてはならない状況に陥ってしまった。
もう中隊の半数はやられている。
「くそ、側面からの攻撃か・・しかも森だと言うのに木々の間を這ってこちらを攻撃する。対処しきれん」
その時、正面の森を抜けて敵の小隊が中隊長に襲い掛かる。
側面に気を付けていたため発見が遅れる。
「対処しろ」
森の中で白兵戦となる。
相手は12名もいるが、基地警備第2中隊本部はたった3名である。
しかもドルツ兵士はKar98k小銃を受領して以来、集団による射撃練習はしていたが、格闘はしていない。
銃剣も一緒に配給されていたのだが、格闘戦は基地では行われていなかった。
次々と応援に来た兵士も倒されていく。
唖然として見るだけの中隊長に隊員が迫る。
小銃を叩き落し、中隊長の腰に下げたホルスタからピストルを抜くと、一斉に小銃を構える。
中隊長は不意打ちに動揺し、ピストルを撃つ間もなく包囲されてしまう。
反撃も考えたが、鬼神の様な白兵戦を見る限り、相当訓練されている様に思う。
中隊長では足元にも及ばない事を瞬時に判断して、地面に腹ばいとなる。
こうして街道右翼に展開した空挺団は敵戦力を制圧し、注意深く基地に向かって前進していく。
・・
基地に逃げ帰った基地警備戦車中隊は4両だけとなり、司令に報告する。
「なに、戦車で逃げ帰っただと」
「はっ12両の戦車中隊は敵の新兵器により、最初3両が、次に3両、そして2両があっと言う間に破壊され、4両となった為、基地に戻りました」
「貴様、何を言っているのか解っておるのか、敵前逃亡だぞ」
「いえ、戦闘能力差がありますので、戦略的撤退です」
「物は言いようだな。ゆるさん。軍事法廷に引きずり出してやる。覚悟しておけ。
それにお前は解任の上、逮捕する。
だれか、こいつを監禁部屋に入れて置け」
基地警備戦車中隊長は解っていた。こうなる事を、それでも生き残った部下を基地に戻したのだ。
しかし結果は予測通り、「解任されるなら気が楽だ」と一言呟く。
基地警備戦車中隊は・・ドルツ国も長くないなと思っていた。
なにしろあの暴力的とも言える兵器を見てしまっては、そう思うしかないのだ。
「残った戦車隊は直ぐに補給して、敵を撃ちにいけ」
ドリア・シュナイザー司令は窓から叫ぶ。
中隊長車両は車長である中隊長が不在なので、次席の砲手が車長兼任である。
基地警備戦車中隊は燃料補給を開始した。
弾薬は補給する必要はないのだが、時間稼ぎに補給する。
戦闘が長くなり申し訳ありません。
ですが・・・まだ続きます。
誤字脱字報告ありがとうございます。本当に助かります。